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#27 走馬の明「いけすかねぇ兄弟」

全知(ぜんち)剣界(けんかい)走馬(そうま)(あかり)』――」


 ――ジャンヴォルンと同じ型で、リナが構える。



   * * *



 リナの指導方針が変化して、数か月。


 俺たちの鍛錬は進行し、ついに一級相当の森羅万世流フォレスティアン・アーツの実力が身に着いた。


 状況を問わず基本の型を取れるのが「三級」。

 象形剣を実現するため、周囲の物事への観察力が身について「二級」。

 当流派の基盤「万世流(イモータル・アーツ)」の打ち込みや足捌きを修めた時点で「一級」となる。


 そして、実戦に運用可能な段階からは「初段」の段位が与えられ、型から繰り出す具体的な「技」の鍛錬が始まる。

 俺の育成計画は「有段者」になる所までで、以降は実戦を通しての自己申告で段位を認定するという。

 流派が象形剣である性質もあって基礎から上は「教えるより自分で解釈すること」を大事にしていて、「正しい型」より「自分なりの正解」が出せているかを重視しているようだ。

 師からその鍛錬の方向性を指導する特別授業を行うことはあるが、そこで師が弟子の着眼を元に、型を改めたりすることもあるらしい。


 ……本当に、俺の技量で大丈夫なのか、不安なところはあったが「正しく段位までの学習が進み、『走馬(そうま)(あかり)』を経験したのなら、以降自分の実力や方向性を見誤ることはないだろう」とのこと。自己鍛錬で上に行けるというお墨付きだ。


 初めて、この世界で「努力」が実を結んだ感覚があって、やっぱり感動はひとしおである。




 そして、今この場で行われる『走馬(そうま)(あかり)』の立ち合い。


 ……これはリナから提案されたものではあるが、ジャンヴォルンの心境にも配慮し「いたずらに心を傷つけることは剣の道にも影を落とす、無理をすることはない」とも付け足されていた。


 だが、あいつは自ら進んで「やる」選択をした。


 その時の会話の流れは、こうだ。




「……コイツは師匠と打ち合って、既に一本取ってるんスよね?」


「いや……俺は英雄技能(チートスキル)ありきで闘ったわけで、前提が違うからなぁ……」


「打ち合いの能力を互角に落として、『(しん)』で決着つくまで打ちあうのが『走馬(そうま)(あかり)』だろ。そんなら実力差を詰めようが、関係ねェだろうが」


「まあ、そうだけど……」


「……はっ、オレに追い越されんのが怖ぇか?」


「…………」




 ……正直、虚勢も交じっているとは思う。

 なまじ、俺という「比較対象」がいることで、競争心を煽られているのかもしれないが、それに囚われるのはあまり健全とは言えないだろう。


 ……何より、ジャンヴォルンの向き合う「過去」は、きっと現代日本でのほほんと暮らしてきたボンクラの俺よりも、遥かに重いものであることは想像に難くない。


 アイツにとって、四天王や俺は親や親族の仇。いくら関係が良好ではなかったとしても、アイツはその事実を飲み込めたのだろうか。

 何度もそうした現実を突きつけられるたびに、アイツの心は暗い感情に飲まれて行かないだろうか。


 ……だが、そうした俺の心配を「伝える」べきか、「止める」べきかは、正直悩ましい。

 アキラとの関係を思い出すが、年長者だからと変に利口ぶって「つらい思いをするから止めてやろう」なんて気を回すのは、かえって当人のためにならないし、俺の安い同情はかえってアイツに対する侮辱になるかもしれない。


 ……なにより、本人が「やる」と言ってるんだ。なら、それを尊重し見守るのもまた、年長者のするべき振る舞いだろう。

 ましてや「失敗」するかどうかだって、俺にはわかりゃしないんだ。変な老婆心で足を引っ張って成長機会を奪うだけなんてのは、みっともない話でしかないだろう。




「……じゃあ止めねぇよ。せいぜいがんばれよ、ジャン」


「へっ」


 ……そうだな。

 がんばれよ、ジャンヴォルン。



   * * *



 ――打ち合いが始まった。


 ジャンヴォルンとリナは「互角」の打ち合いを続ける。

 前に見た時と違い、ジャンヴォルンの剣は森羅万世流フォレスティアン・アーツの構えを守り、もとのアイツの荒々しい太刀筋を残しつつも、その全ての所作は滑らかに繋がっていて、無駄のない物になっていた。


「『火刃之型(フォーム・イグニス)』か」


 俺の横で、見物に来ていたアンナが、ジャンヴォルンの闘いを見て口を開いた。


「ああ……やっぱり向き不向きってのはあるみたいでさ。荒々しい攻撃フォームの方が性に合ってるみたいだ」


「なるほどな。私も我流剣術に森羅万世流フォレスティアン・アーツの美味しいとこ取りって感じだから、気持ちはわかるよ」


「……でも、アイツ自体はちゃんと流派に沿った鍛錬を続けようとしてるみたいでさ。他の型も――あっ、ほら」


 俺たちの視線の先で、リナの再現した荒々しい「火」の象形剣を防ぐべく「水刃之型(フォーム・アクア)」に切り替え、その刃を包み込むように、内に招き入れた。


 ――しかし、相手もリナ。

 すぐさま「水刃之型(フォーム・アクア)」の姿勢を取り、荒々しい「動」の一撃に切り替わったジャンヴォルンの剣を包み、受け流す。




「なるほど、自分に合わせたフォームを攻撃に活かして、並行して鍛えた他の型を防御に回す……強みを伸ばしつつ、弱みを補う、か」


「ああ。アイツ結構、頭回るんだよ。自分なりの闘い方や、成長の方向性ってのを考えながら、鍛錬続けてたんだなぁ……本当、がんばってるよアイツは」


「…………」


「どうにも、アイツ見てると俺の成長って、グレタやリナ……師匠にお膳立てされた部分は大きくてさぁ……。自分で考えて鍛えて、我が道を切り開いていくってのはさ、やっぱ素直に憧れるよ」


 ……俺は、弟のアキラを思い出していた。

 小手先の老婆心で「勉強しろ」なんて、お小言とかを言ってしまった過去。

 その実、アイツは漫画の執筆という、アイツの本当にやりたいことを見つけ、未来のために、真っすぐに努力していたという事実。


 ……俺が気を回さなくても、アイツは自分で考えて頑張ってるのに、何を勝手な心配で偉そうなこと言ってたんだろ、ってなったアレ。


 その気恥ずかしさを、座りの悪さを、俺は異世界で、再び感じていた。







「まあ、それもカイトが居たからじゃないか?」


「……へ?」


「いや、リナの指南の中でもさ、『走馬(そうま)(あかり)』って本当心折れて挫折する子が多くてな……そんな中で、折れずに続いたのは、隣で修行してる兄弟弟子が居たから、ライバル心燃やせた結果なんじゃないか?」


「いや……そこは、リナ師匠の指導方針が改善されたのも、大きいじゃん。別に俺が何かしたわけじゃ……」


「そのきっかけも、カイトがリナの姿勢に食って掛かって、手合わせで一矢報いたからだろ?」


「…………」


「あの子だってさ、心の底では嬉しいんだと思うよ。自分のために怒ったり、構ってくれたりする、兄弟弟子が出来たこと。……あんまり自分を卑下し過ぎるなよ」




 ……そうか。

 確かに、俺の憧れた「兄弟」って、そういう存在なんだよな。


 普段はいがみ合ってたり、「鬱陶しいなぁ」みたいなことを感じても、不器用ながらに助けてあげたり、助けて貰えたりする存在。

 流石に「俺のおかげ」みたいに恩を着せるつもりはないけど、それでもアイツが前に進めたなら、やっぱり悪くない気分ではあるよな。


「……ま、最後はアイツのがんばりだよ」


「……そうだな」



   * * *



 ジャンヴォルンとリナの打ち合いは、ジャンヴォルンのスタミナが切れるまで続いた。

 アイツは結局、リナに最後まで一本取れなかったことを悔しがっていたが、それでもアイツの表情は、悔しさの裏に、どこか満足感を感じさせるものだった。


 ――森羅万世流フォレスティアン・アーツの極意「全知剣界」。

 剣を交えた相手の(すべ)てを読み解く、見切りの奥義。


 彼がそこで、リナに何を語ったのかは分からない。

 彼が自分から語らない以上、その全てを俺が知る必要もないのだろう。


 リナは、ジャンヴォルンの表情を見て、俺たちに微笑みを投げかけた。

 きっと、アイツの直面していた「壁」は、乗り越えられたのだろう。




 ジャンヴォルンの性格は決して良くないし、いがみ合うだけの因縁もある。

 大好きな奴でも、これと言って仲良しというわけでもない。


 ……だが、嫌いなわけでもない。

 俺にはない、異世界の過酷な境遇に、自分の意思と力で立ち向かい、それを越えてみせた。同期としては、やはり「羨望」や「嫉妬」を感じ、競争心を煽られる相手だ。


 そして、そんなアイツの成長に、俺の心の中には、自然とどこか「誇らしい気持ち」も芽生えていた。




 ――ああ、がんばったな。

 本当さ、すごいヤツだよ。お前(ジャンヴォルン)は。




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