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#7 四天王、魔王城に集う

 ――大陸東部、魔の統治する領域。険しく暗い山岳地帯に聳え立つ王城。

 城よりせり出た着陸用の構造物に、東西南北より来たる、四匹の巨大な翼騎龍(ウィング・ドラグーン)が降り立った。


「四天王閣下、ご到着ーッ!!」


 王城の近衛兵は、整然とした動きで玉座の間へ向かう回廊に整列し、その手に持った槍を真上に立てた。

 魔王によって封地を認められた四地方において「王」とも称される権威と力を持ち、人間の侵攻より王城を護る盾。四天王は魔族領域の守護者たる最強の戦士である。


 四天王は片膝をつき、近衛兵に各々の持つ武器を預ける。

 無論、近衛兵達も彼らへの不信や、魔王の力への疑いを持っているわけではない。四天王の力がいくら絶大とは言え、魔王に及ぶものだなどとも、露ほどにも思っていない。

 ……しかしながら、その儀礼的な振る舞いは、魔王によって領地を封じられる形で結ばれた「御恩と奉公フィーダル・コントラクト」という契約の象徴。決して主に刃を向けぬという絶対の誓いを、近衛兵の前で宣誓する所作でもあった。




 ――獣の民(ビースト)を統べる、変幻自在の肉体を持つ奇謀家たる猫獣人(ワーキャット)

 【獣王】ノア=タンジェリン


 ――魔の民(アスラ)を統べる、幾千の魔の術を司る大賢者たる青魔族(ブルーデーモン)

 【鬼王】エミリア=ターコイズ


 ――龍の民(ドラゴン)を統べる、海原の覇者にして当千千騎の将たる大海龍(シーサーペント)

 【龍王】アンナ=バイオレット


 ――森の民(エルフ)を統べる、天賦の技巧を持つ神速の剣聖たる影森人(ダークエルフ)

 【森王】リナ=ブラウン


 


「遠路よりの参集、誠に大義であった」


 比類なき才を誇る四人の「王」。彼女たちが、ただひとり(かしず)く「王の中の王」。


「……表を上げよ、我が忠実なる臣下『金環の四天王(テトラクラウン)』よ」


 東の大地に(あまね)く存在する「魔なる者」たちを統べる、その者の名こそ――


「余が貴殿らの主。黒蝕の魔王ロード・オブ・イクリプス『グレタ=イーヴリット』である」




   * * *




 謁見の間での儀礼的なあいさつを終え、四天王は会議室に通された。

 各々、入口で靴を脱ぎ、裸足でカーペットの上へと歩みを進める。

「私」は、部屋の一番奥のクッションに腰掛けた。


「じゃ、お疲れ様~。みんな楽にしてね」

「へへ、じゃ遠慮なく」

 そう言うや否や、「獣王」ノアは小さな猫へと姿を変え、私の膝の上で丸くなった。


「ちょっ、ちょっと!無礼ですよ!ノアさん!」


 健康的な褐色肌をしたエルフのリナが、大慌てでノアを止めようとする。


「いいのいいの、私猫好きだしね。みんなも、堅苦しいの疲れちゃうからさ、その辺で楽にしてよ。あっ、冷蔵チェストで飲み物冷やしてるから、各々好きに飲んでね」

「し、しかし……王の威厳というものがですね……」


 困惑するリナに、青肌美人のエミリアと、逞しく鍛えたドラゴンの戦士であるアンナが、苦笑いの表情で話しかけた。


「あんまり考えても仕方ないわよ、リナ」

「そうだよ、新入りのあんたは知らないと思うけど、謁見が終わったら大体いつもこんななの。はい、果実水」


 アンナから瓶の果実水を受け取ったリナは、なんとも困惑した表情だ。


 無理もない。リナは四天王の席を世襲した数少ない者である。

 無論、彼女も正規の四天王ではある。その実力は確かなもので、決して無能というわけではない。彼女もまた、自身が先代の剣技を受け継いでいることを、他の部族長の前で証明し、四天王の席を勝ち取った、真の実力者だ。


 だが、本来魔王と四天王はひとつのセットのようなものだ。新参者である彼女はまだ、魔王である私がどう擁立されたかの流れはわかっていない。


 先代魔王と四天王の暴政に立ち向かうべく軍を指揮し、革命に多大な貢献を成した五名の戦士の中で、最も力を持つ者を、盟主である「魔王」として戴き、残る四名をその側近である「四天王」とした。それが、私の代の魔王就任の流れだ。

 これは王立図書館でエミリアとともに魔族史の史料を調べて取り決めた、歴史的な裏付けのある形式でもある。


 ……もっとも、本来ならば、各部族の推挙で選ばれた五名の首長から、合議や決闘などで魔王を選出する形式が本来の儀礼であり、復興を急ぐために臨時的に行われた会盟やら戴冠やらで、なし崩し的に進められたものではあるのだけれど。

 ……この辺りは、諸部族の諍いの火種として燻ることにも繋がってしまっている。


 ともあれ私は、反乱軍を率いていた戦士であるノア、エミリア、アンナ……そして、リナの先代である彼女の祖母のリザ婆に擁立される形で、王位を勝ち取った魔王だ。

 その経緯から、私と四天王は、制度の上で上下の関係でありながらも、対等に近い「戦友」という意識の方が大きい。


 魔族領域における盟主「魔王」の即位は、必ずしも世襲ではない。個の武力に任せた下剋上の横行する魔族領域では、権力の世襲は逆に骨肉の争いを招くと忌避される面もある。

 愛しい我が子と言えども「相応の実力を示せなければ、権力は相続させない」という思考が根付いている。


 そのため、リナのように先代を凌駕する圧倒的実力があって、はじめて世襲は平和的になされるのである。

 事実として彼女の母は四天王の座を継承することは叶わず、一台を跨いでリナが就任した形になった。不満を持った者もいないわけではなかったようだが、彼女はそれを実力で黙らせた。


 そして、私のように背景を持たず「革命」で王位についたものは、各部族に甘い顔を見せるわけにはいかない。それは反乱の種を蒔くことにも等しいためだ。


 そのため、表面的には四天王に対しても厳然たる態度をもって接しなければならない……のだが、まあ、それもいささか、疲れる。

 なので、勝手知ったる四天王は、兵の目の届かぬ場では戦友として対等に接し続けてきた。歯に衣を着せていたら取りこぼすニュアンスもあるし。

 きっと、これからもそれは変わらないだろう。



「……兵士たちへの示しもあるし、表立ってはそうも言えないけどね。謁見の間までしっかりしてくれれば、ここではもうちょっと砕けた感じでいいんだよ」

「いや、しかし……」


 エミリアとノアが反笑いで横槍を入れる。


「……無理もないですよ、魔王様。先代のエルフの長はお歳も召されてましたし」

「親世代の友達にタメグチは聞けないよね」


「あ、ああー……それもそうか。まあ、先代のリザおばあちゃんに関しては、私も友達っていうか、お世話になったおばあちゃん感覚だったし……あの人が魔王になった方が良かったと思うんだけど」

「それは、魔王様が桁違いで強いんですから、仕方ないですよ……」

「リナも反乱なんか考えるなよ?秒で潰されるだけだから」

「……かっ、考えませんよっ!」


 うーん、腕っぷしの強さで魔王決めるのが、そもそも「前時代的」じゃないかなぁ……。安請負で損な役回りについちゃったよ。


 ……そもそも、四天王みんなの領地も実質的には共和制じゃん。王がそんな気軽に集まるなんて無理でしょ。政務と切り離されてなきゃ、こうして招集かけても集まれないだろうし。


 四大領の統治方針は、領内の各部族の首長が会議で決めてたり、エミリアのところなんかは国民から選出した代表者による議会の設置を促してて、徐々に彼女たちへの依存度は減ってきているとか。民主政体(デモクラシー)ってやつだね。

 形式上王位として残してるけど、実際のところ四天王は「王」というより特務の「戦士長」とかだよね。


 まあ、現時点で魔族領域の社会体制を維持するには、力を持った君主は必要だと思うし、魔族領域の代表として人間勢力とやり合うためには「魔王」には誰かが就かないと仕方ないところではあるんだけど。

 統合の象徴としての「王」は、まだまだ必要なんだろうなと思う。それでも、いつかは王制は時代に合わなくなってくるのかもね。


 ……というか、私もいい加減に役目を降りたいよ。



「……まあ、いきなり楽にしろっていうのが難しいしね、少しずつ慣れていけばいいよ。議題自体はちゃんと真面目に進めるから、ね」

「は、はぁ……」


「じゃ、まず最初の議題は……」




 ――オメガルド大陸西方の「アルフィード王国」にて観測された、異界勇者召喚魔法の痕跡とその調査について。




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