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#16 地獄のシゴキ in 魔族領域

「おらーっ、休むなーっ、全身の筋繊維がズタボロになるまで走り込めーっ」


 龍王から投げかけられる、何とも締まらない感じの掛け声。

 それとは裏腹に、「俺たち」の全身の筋肉は、絶叫に近い悲鳴を上げていた。


 蝕の魔城キャッスル・イクリプスに至る山の中腹までを、全力で駆けあがり、駆け下りを、朝一から昼下がりまで繰り返し、もう何十キロ走ったかわからない。「足が棒のよう」なんて、とうに通り越した。


 この世界においては、身体の外に出さない魔力は「内功」となり、身体能力の強化に回るため、魔力を持つ者は現世よりはるかに身体能力や持久力を発揮できる。

 だが、当然ながら負荷をかけ続けると、肉離れだって起こる。筋肉痛なんてかわいいものだ。


 ――そして、そこに「治癒魔法(ヒーリング)」だ。


 人間街(ヒューマンタウン)の人間の多くが信仰する「極東大母教会」に通う、数少ない魔族信徒。龍王アンナ直轄の衛生兵は、それをスカウトした者たちなのだが、実態として彼らは「戦場での治癒」より、この「地獄の筋トレ補助」がメイン業務になってしまっている。


 ……断裂した筋繊維を、魔法を使って早回しで「超回復」させることで、筋肉を肥大化させるのだ。

 多少……いや、かなり無茶な鍛錬をしたとしても「かえって筋肉がつくので好都合」という、おそらく脳味噌まで筋肉が詰まっている者が考えたのであろう、圧倒的効率のゴリ押しトレーニング。日本じゃ絶対真似できない。


 そんなわけで。


 山を登っては降り、回復、筋トレを十セット、回復、素振り、回復。

 山を登っては降り、回復、筋トレを十セット、回復、素振り、回復。

 山を登っては降り、回復、筋トレを十セット、回復、素振り、回復。


 ……拷問かな?


 現世では「筋肉を鍛えればうつ病にならない」という俗説を聞いたが、正直ちょっと病みそうになってる。人間領域で喰らったイジメめいたシゴキが、もはやチンケなごっこ遊びにしか感じられなくなったほどだ。


 ……エリスを同行させない魔王の判断は英断だったな。

 あの子がこの場に居たら「見てられない!」って止めに入ってたと思うよ、絶対。



 ……といった具合に、「俺たち」は、森王から剣技を習う前の基礎体力作りに、このメニューをこなし続けている。

 既に俺の横でぐったりしてる「コイツ」も、俺より膂力や体力に優れる力自慢だが、流石に龍王のシゴキには耐えかねているらしい。

 俺の方は、極東大母教会で洗礼を受けて回復魔法は習得済みなので、一足先に全快になるだろう。ざまみろ、悪童(ワルガキ)が。


 ……そうだな、下りを終えたことだし、回復休憩(げんじつとうひ)がてら、入門したばかりの頃のことでも語ろうか。


 コイツと……グルドンド候の息子「ジャンヴォルン」と兄弟弟子になった、あの日のことでも。



   * * *



 魔王との育成計画に関するすり合わせが終わり、俺はエリスを王城に残して、一時的に城下の離宮に移り住んだ。

 魔王の話によると、俺の鍛錬と合わせて、彼女にも王城のメイドの使用する家政魔法や、非神聖系の治癒を習得させるということらしい。

 ……彼女の今後のキャリアを考えると、俺にばかりついて回るより、やれること増やした方が絶対いいしな。寂しいが、俺も応援したい。


 そんなわけで、俺は龍王と森王に、離宮内の鍛錬場に呼び出されたのだが、道着に着替えた俺が入室した時には、既にもう一人の男がいた。

 俺が、逆徒を「島」に送った帰りの船に乗っていた男。体毛が薄く幼げな顔つきでありながらも、がっしりとした体つきの、猪妖魔(オーク)の血を引く青年。


 険しい表情の森王が、俺を一瞥した後に彼に視線を送った。


「……紹介します。彼の名は『ジャンヴォルン』殿。『プロシューダ=グルドンド侯爵』の遺児であり、あなたと同期入門となる者です」


「あ、よろしくお願いします」


「…………」


 ……無言だ。

 これから俺の師となる森王リナといい、自分からコミュニケーション取る気ないのかってなるほど不愛想だ。別に仲良しになる必要はないだろうが、たびたび気まずい空気になりそうで、先が思いやられるな……。


「辛気くさいなぁ……リナも、ジャン坊も。空元気でもさ、入門初日なんだから、もう少し明るく振舞ったらどうだ?」


「…………」


 ……まあ、無理も無いだろ。


 森王リナにとって、勇者は祖父の仇。

 ジャンヴォルンにとって、勇者も四天王も父の仇。

 俺にとっては、森王もグルドンド侯も、仲間を殺しかけた仇敵だ。


 ……いや、龍王アンナだって猪妖魔(オーク)の兵士を巨体で潰しまわったんだから、憎しみ三角関係の外に居るわけじゃないだろ。他人事みたいに言うなよ……。


「……私個人の感情としては、あなた方に森羅万世流フォレスティアン・アーツを習わせることは、陛下に剣を向ける可能性が捨てきれないので、承服しかねる部分はあります。ですが、陛下の懐刀として、私は王命は必ず遂行します。あなた方が根を上げて、脱落しない限りは」


 ……喧嘩腰すぎだろ。

 いや、確かにさ、勇者なり、反逆者の息子なり、本来危なっかしくて育成には前向きになれないってのは正しい思考だと思うけど……納得してるってんなら、その辺は言わなくていいことだろ。門下生のやる気削ぐなよ。


「……どの道、あなた方がいくら剣技を修めようと、魔王様の御力には及ばないでしょうしね」


 ……そういうとこだぞ。

 龍王も、なだめるの諦めて呆れ顔してるじゃねぇか。ちょっとは空気読めよ。


「……で、今日はどうする?まずは、体力作りからか?」


「いえ、まず彼らの現時点での剣技の腕を確認したいので、簡単に打ち合い稽古をしてもらいます。その後、アンナさんと私で鍛錬方法を相談しましょう」


 ……指導に私情を交えないというのは本当のようだ。その点は陰湿なアルフィードの道場主よりさっぱりしていて、悪くないかもしれない。

 かくして、俺とジャンヴォルンは、促されるままに、鍛錬場の壁にかけられた木剣を手に取り、互いに向き合った。

 



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