#6 「パーティーリーダー」になろう!
……んー、どこまで話したっけ?だいぶん酒回ってきたな。
ああ、そうそう。俺が国に何を期待されて、「勇者様」なんてことをやってるのかって話。
そもそもとして、だ。
俺は王に「魔王討伐」を命じられたわけだけど、各所で話を聞いていくと、これは喫緊の課題ではないらしい。
……いや、もちろん魔族は脅威だ。俺たちの住むオメガルド大陸。その西半分は人間の領域だが、陸続きの東半分は魔族領域……「魔界」とも呼ばれる。アルフィードは魔族領域と国境を接する大陸中央南部の国家であり、常に魔族の侵攻による潜在的リスクを抱えている。
だが、現時点では武力衝突の可能性はそこまで高くないとされる。
というのも、俺が召喚される数十年前、大陸北部で別の勇者が存在し、魔族領域をガンガンに攻め大戦が起こった。その混乱で先代魔王は先代勇者とともに死亡。
現在の魔王は比較的穏健路線であり、大陸中央に緩衝地帯を設け、その越境を禁ずる形で休戦協定を結んだ。比較的損耗の少なかったアルフィードは、農業や工業を奨励し国力を強めている。いい事だな。
だが、そうは言っても東に存在するのは潜在的な侵略リスク。加えて、直近は猪妖魔という極めて攻撃的な性格の部族の治める領域。おまけに、オーク領には豊富な地下資源(魔石と呼ばれる魔力を含有した結晶体)が存在するときたもんだ。
潜在的な恐怖と豊かな資源は、対外的な強硬姿勢を後押しする。それを支持する貴族や市民は、現状の安寧に必ずしも納得はしない。当時の戦乱で苦汁をなめた生き証人は鬼籍に入っていくし、被害の少なかったこの国では、武器や穀物の輸出で成り上がった貴族や、その恩恵に与り栄えた者も少なくない。
平和は失われるまでその有難みもわからないもんだ。異世界じゃあ、ビデオとか見せて平和教育とかもできないしな。
戦史についてだって、学校教育も未発達で、図書館にアクセスできる市民もそう多くないから、口頭伝承が主だ。
そんなんじゃ、当事者としての損得の大きく割れる、先の戦争に対する思いなんて、千差万別だ。
……というわけで、現在のアルフィードでは、比較的イケイケな主戦派が拡大している。ジーンなんかも「魔王ぶっ殺してオーク領分捕ろうぜ」ぐらいのノリだ。力による現状変更に積極的過ぎる。
そんな主戦派が鼻息を荒くする中、俺……女神の加護を受けた「勇者カイト」が、この世界に召喚されたわけだ。
魔王討伐がその使命だが、目下は実戦経験の蓄積と見分を広げる目的も兼ねて、国のバックアップを受けつつも、在野で冒険者として過ごすよう命じられている。のんきな話のようにも感じるだろうが、まあその通りだ。
……つまるところ、俺の存在は「ガス抜き」である。
貴族から庶民を問わず、国内に遍く存在する保守的な人々にとって「悪しき魔族を懲らしめる勇者」というストーリーは非常に魅力的なものである。エリスを見ればわかる通り、別に思想的に極端でなくとも、この物語はアルフィードの国民感情に深く根ざしており、現状に不満を持つ者にとっては慰めにもなる。
だから、究極的には魔王討伐などやらなくてもいい。国境周辺に現れる魔族領域からの侵入者の討伐程度でも、人々はそれに熱狂できるわけだ。
実際として、勇ましいことを言いながらも「戦争を起こす」ことまでは避けたいというのが、官僚の本音だ。しかし、「勇者の召喚に成功した」こと自体は、魔族領域への牽制はもとより、人間領域の他国に対しても威信を示すことに繋がり、外交的にイニシアチブを取りやすくなるんだとか。
そうしたところで、「勇者」という手駒で王位継承を有利に進めたい王弟殿下のお二人さんは、多数の宮廷魔術師を抱えて古文書を漁り、競って勇者召喚の儀を執り行っていたそうだ。
つまり俺の立場は、ガチで魔王を殺すためではなく、権力闘争のための建前に利用された、と見るべきだろう。
……派閥で考えるなら、俺は召喚に成功した第一王弟派ってことになるのかな?第二王弟の手先に暗殺されないか心配だけど、強さの底の知れないチート勇者にちょっかいかけるほど無鉄砲ではない……と信じたい。
……しかし、俺が厭戦感情強めの日本人だから大事にならないけど、やる気バリバリで魔族を殺しに行くレイシストとかだったら、それこそ魔族との大戦の引き金になったのかもしれないよな。……が、そこは女神側の融通か。
当初は、こんな平和ボケした学生を異世界に呼ぶなよって思ってたけど、案外采配としては間違いでもなかったのかもしれん。
……当事者の俺にとっては、人柱にされたとしか思わんけどな。
以上が、メルやカトレア、市民の話を総合してイメージした、この国の、そして俺たちの置かれた状況だ。
……まあ「お飾り」感は感じられたと思うが、それでもジーンやメル、カトレア、エリス……それぞれにとって、俺との旅は「勇者パーティーで魔族や山賊を懲らしめて回った」という箔をつけることにも繋がる。
決して左遷ではないし、それぞれ期待されてる若手だからこそ、この任務に割り当てられたんじゃないかと思う。……思いたい。
仕事が無いなら無いで、それも平和でいいと思うが、旅の終わりに「時間無駄にしたぜ…」とか言われるのは、ちょっとしんどいので想像したくないな。
* * *
「……お待たせぇ、しまぁ~~っ、お料理れぇ~~す」
……視線を上げると、ジーンに肩を支えられながら、カウンターから肉料理の盆を運ぶエリスが、ふらふらとテーブルに近づいてくる。
エリスは盆の料理をテーブルに置こうと前のめりになったかと思うと、脚を捩じり、バランスを崩した。
「あっ……危なっ!」
俺は慌てて立ち上がり、転んだ彼女の頭がテーブルにぶつからないように、腹を抱きかかえ、彼女の下敷きになる形で床に倒れ伏せた。テーブルを見上げると、メルとカトレアが料理をキャッチしていた。……先にエリスの心配しろや。
「……おい、酒飲ませたのか?」
「いや?エールを三杯程度だぜ?酒の内に入んねぇよ」
「……入るっての。何でも自分の基準で考えんなよ、アルハラ女が」
「アル……なんて?」
俺はジーンの疑問を無視し、彼女の捻った足首に手を当て、回復魔法をかける。骨折はしてないと思うが、捻挫していたら旅も大変だろう。
「ご、ごめんなさいぃ……」
「……これからは、相手に気を遣わず断りなよ。酒も飲み過ぎたら毒になるんだから」
「……はいぃ」
「あと、謝るべきは、そっちの酒飲み脳筋女の方だ」
「……うっ」
……俺はジーンを睨む。
相手の許容量も考えず、酒に任せてバカをやるヤツには、現代人として釘を刺さんと駄目だ。
新歓コンパで救急搬送なんてのは、きょうび恥でしかないんだぞ。
「……ごめんなエリス、ちょっと調子に乗ったわ」
「い、いえ」
へべれけになった彼女は、視線を移して顔を赤くし、俺に頭を預ける。
……緊張感のない緩み切った表情だった。
「……ジーン。エリスを部屋まで連れてくから、手伝えよ」
「……それ、私必要か?」
「酔い潰れた女の子を、男と二人にする気か?」
「…………」
……正直、シチュエーション的には、大分ドキドキしているのが本音だ。
だが、俺はボンクラ学生ではあっても、犯罪サークルの主宰じゃない。見くびるなよ。
「……じゃ、そろそろ飲みもお開きかしらね」
「そうですね、部屋には私たちで連れて行きますよ。カイトさんじゃ肩を支えるにも背丈が合わないでしょう」
「ジーンも、飲み足りないならまだ飲んでていいわよ」
「ああ、そうか。……じゃ、任せたわ」
二人は、両脇からエリスの肩を支え、上階の女性客室に戻って行く。メルも足取りはフラついてないし、カトレアはシラフだ。任せて大丈夫そうだな。
三人を見送り、俺は残った料理をつまみ、ジョッキを空にした。
そして、テーブルに手をつき立ち上がる。俺もそろそろ自室に戻ろう。ジーンは一人にしても、まあ大丈夫だろ。
「……つーかさ」
「ん?」
「私も女なのに、エリスみたいに気を使ったりしねぇのかよ。『遅くまで飲むなよ』とか『女の子が一人で飲んじゃ駄目』とか」
「気を使って欲しいわけ?」
「……いや、ダルいから要らねぇよ。『勇者様』に憧れも持ってねぇしな」
「そうかよ」
……まあ、エリスに慕ってもらえる気持ちは嬉しいけど、ジーン達までそんなタイプだったら、胃もたれしそうだ。
…………
俺は、ため息をつきながら、再び椅子に腰を下ろし、陶器のワインを樽のジョッキに注ぎ、口をつけた。
ジーンは鼻で笑いながら、俺からワインの瓶を分捕り、自分のジョッキに注ぐ。
……女神の望みは「ハーレム」らしいけど、俺はそんなことやるつもりもない。人並みに働いて、人並みに嫁さんを貰い、人並みに幸せな家庭を築いて、子供たちと平和に暮らす。現代日本人の望みなんてそんなもんだろう。
女すべてに惚れられたいなんて、それこそ息苦しい。気安く酒飲めるだけの奴だって、人間関係には必要なんだよ。
「つーかさぁ、さっきの状況、エリス送って行けば抱けるチャンスだったろうに、お前ヘタレだなぁ……」
「……発想が強姦魔のそれじゃん。こっわ」
「いや、別にエリスはイヤがんねぇと思うぜ」
「酒で判断能力なくした相手がイヤがれるワケねぇだろ……相手の身になって考えろよ」
「身体動かなくなるほど、酔ったことねぇからわかんねぇな」
ジーンは全く悪びれる様子がない。本当、反省してないなコイツ。
やっぱり、コンプラ意識壊滅した奴は、酒飲み友達にはなれんかな。
……本当、上手くやっていけるのかね、このパーティー。




