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#13 魔王城、重要機密戦略会議室へ

「……ごめんな、エリス」


 魔王とエミリア、ノアに先導されながら、隣で廊下を歩くエリスに、俺は話しかけた。


「……どうして、謝るんですか?」


「いや、その……さ。俺のやりたいことのために、エリスは人間領域に帰りにくくなるだろうし、それに……いずれまた、俺が死地に向かうことになるかもしれないから、これからもエリスに心配かけることになっちゃうな、って……」


「…………」


「正直なところ、さ……。俺も、こっちの魔導研究所に協力する形で、平和に暮らしていきたいなぁって思いも無いわけでは無かったし、その方が、エリスにも心配をかけずにやっていけるなぁ、って思う所はあって……だから、その……」


 ……なんか、自分でも考えがまとまらず、歯切れの悪い感じになっちゃってるな。


 ここに来てからのエリスを見ていると、闘いから距離を置いてのんびり暮らしている俺に向ける視線は、人間領域で旅をしていた頃と比べて切迫感が薄まったというか、穏やかというか、安心みたいなものを感じる部分はあって……。

 そんな彼女を見てると、俺にも「使命から離れて、彼女と一緒に穏やかに暮らしていけたらなぁ」と思う気持ちはやっぱり強かった。


 それなのにまた、自分から進んで戦いに向かっていくのは、あの緩衝地帯での死闘みたいに、彼女を心配させて、苦しめてしまわないかって不安があるわけで……。俺のやりたいことのために、彼女をつらい気持ちにさせるのは、やっぱり、どうしても、なぁ……。


 決意表明した直後にこれってのは、やっぱり俺は軟弱だよなぁ……。ハードボイルドとはほど遠い……。


「心配無用です、勇者様」


 一人悶々とする俺に、エリスは即答する。決して不安が無いわけではないが、それでも、はっきりとした決意を感じる表情。


「私……わかっていました。あなたは、力無き人々が理不尽に苦しむことを放っておけない人で、その為に戦いに向かってしまう、そんな人だから……」


 彼女は、スカートのすそをぎゅっと握りながら、俺に向けて笑顔を見せた。


「あなたは……カイトさんは、どこまで行っても『勇者様』で、私はそんなあなたの味方(メイド)ですから。どこまでも、お供します」


「ごめ……あっ、じゃなくて、その……」


 口ごもりながら、俺は謝罪の言葉を飲み込んだ。

 彼女は、俺の最初の仲間で、いつだって頼りにしてる女性(ひと)だ。

 ……いつまでもウジウジと罪悪感に振り回されるのは、彼女の覚悟に対して失礼だろう。


「……ありがとう、エリス。これからも頼りにしてるよ」


「……はい」



   * * *



「……魔王様ぁ」


 後ろの会話に聞き耳を立てていたノアが魔王様に歩み寄り、小声で話しかけた。


「…………」


 魔王様は、心なしか頬を染めているような気まずげな表情で沈黙している。


「あれに……横入りしてこいって言うんですかぁ?」


「……ゔっ」


 ……まあ、護送中の会話の報告もかいつまんだ物だったしね。面と向かって惚気を聞かされては、魔王様も流石に座りが悪そうだ。


「ひ……卑劣でなければ王は務まらないから……」


「それは、人の心と言うか、乙女心への理解に欠けてると思うなぁ~。魔王様のお勉強用に、城下でロマンス小説でも買って来ましょうかぁ~?」


 ますます頬を染めてうつむく魔王様。


「……こら、あんまり魔王様をいじめないの」


 いくら戦友とは言え、あんまりやり過ぎたら不敬よ。

 ……普段見られない珍しい顔が見られて可愛らしいけど、ね。


「……覚えてなよ、二人とも。絶対あの二人の間にねじ込んでやるからね」


 魔王様は、頬を染めながら私たち二人を睨み付けた。

 そこは、変に意固地にならないで欲しいわ……。



   * * *



 俺たちを先導する魔王の足が止まる。廊下の一番奥、突き当りの両開きの扉。


「ここが、余と四天王の戦略会議室。近衛兵の接近も禁じている部屋だ。人間がこの部屋の前にやって来るのは、これが初めてだよ」


「…………」


 ……魔族領域における、最重要機密事項を取り扱う会議室か。


「これまでは、信の置ける侍女にこの部屋の管理を任せていたけれど……先の盗聴の件で彼女は島流しにした。今では利用に際して傍受の探知も兼ねてエミリアに結界を張らせ、非使用時は私が封印を施している。……身内にまで間者を疑うのは心苦しいがね」


「…………」


「だが、基本的には構造上、中での会話が外に漏れることはない。以後、卿らにもこの会議室での作戦会議に加わってもらう」


 魔王は、両開きの扉に手をかけた。

 俺とエリスの間にも、緊張が走る。







 入り口には靴箱。中に敷き詰められたもこもことしたカーペット。

 柔らかそうなクッション付きのソファ。目に優しい薄緑色の壁紙。

 間接照明に観葉植物。白いティーテーブルと大きな黒板。

 天井は低めで、石造りの彫刻は鳴りを潜め、木の温かみを感じる。

 部屋の奥には冷蔵チェスト、魔導薬缶(ケトル)、食器の置かれた戸棚。


 目に優しい色合いの、ゆったりした時間が流れているような、そんな空間。




「えっ」




 なにこれ?

 荘厳な魔城に似つかわしくない空間というか、変な既視感を感じる……。


 ――ああ、あれだ。

 就活のために企業研究でオフィス調べてた中にあった、意識高い系のIT系企業が採用してるタイプの休憩室を、もうちょい西洋風に寄せたみたいな、そんな空間だ。




 ……なんで?


 呆然とする俺とエリスを尻目に、エミリアとノアは入口で靴を脱ぎ、裸足でカーペットの上へと歩みを進める。そして魔王は、部屋の一番奥のクッションに腰掛けた。

 ……流石に、現世で人気だった『人をダメにする極小ビーズのアレ』でこそないようだが、一度「IT系のオフィスのアレ」としてみると、そうにしか見えないな。


「……陛下、もしかしてITベンチャーからの転職組っすか?」


「……あいてぃー?」


 ……では無いっぽいな。

 くつろぎ空間をデザインすると収斂進化を起こすのだろうか。




 俺が後ろ手でドアを閉めるのを見て、魔王はゆるい声を出す。


「じゃ、お疲れ様~。みんな楽にしてね」


「では、遠慮なく♪」


 猫の姿に変わったノアが、魔王の膝に乗る。

 エミリアは冷蔵チェストから果実水を取り、戸棚からグラスを取り出し、テーブルの上で注ぐ。


 えっ……この会議室、そう言うノリなの?

 これまでとの温度差で、頭がくらくらする。


 いやさ、もっとこう、パイプオルガンの音が似合いそうな荘厳な広間にでも通されて、シリアスな顔で円卓を囲むみたいな、そういうのを想像してたんだけど……。

 なんか、ゲーム機でも取り出して、パーティーゲームでもおっ始めそうなゆるさだなぁ……。




 ……まあ、郷に入っては郷に従え、か。

 同じく困惑するエリスを横目に、俺は脱いだ靴を揃え、カーペットの上に歩みを進めた。

 ……正直、常時靴を履きっぱなしの文化圏ってのは、半年たった今でも慣れない所も大きかったので、靴が脱げるのはありがたい。


 俺は、エリスと共に三人と円を囲うような位置にクッションを動かし、座る。


 ……あっ、このじょりじょりした感触、中身は「もみ殻」だな。婆ちゃんちの枕と同じ感触だ。

 変な現代感とノスタルジーと異国情緒がごった煮になって、何を感じればいいのかわからん……。




「じゃあ、新たに会議メンバーとして『勇者カイト』と『メイドのエリス』を加えた所で、まずは現状共有からかな。ふたりはまだ、『敵』が何者かも知らないだろうしね」


 これが、魔王の素かぁ……。


 さっきまでの威厳が嘘のような、子供みたいにふわふわとした声。

 見た目も子供みたいだし、普段は舐められないように威厳を演出してるのか。

 ……最初の謁見からこのノリだったら、俺の警戒も大分薄かっただろうな。


「じゃ、始めようか。二人を加えた最初の会議を」


 ……と、いくら砕けてるとはいえ、秘密の会議であるのは事実なんだから、真面目に聞かなきゃだな。


「では、最初の議題は……」






 ――魔族領域を起源とする、オメガルド大陸に跋扈する超国家犯罪シンジケート「貴種選民独立自治同盟(M.A.F.I.A)」について。




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