#4 議題「四天王・婚活大作戦!」
「な、何を言い出すんですか魔王様……っ!」
「お戯れを通り越して、乱心でしょそれっ!」
大慌てをするエミリアとノア。
「はは、慌てちゃって……案外、気持ちの上でも満更じゃない感じかな?」
「いや、だからさぁ……」
「私たちをからかって、楽しんでませんか?」
そういう面は無きにしも非ずではあるけど……おっと、顔を引き締めなきゃ。
「……まあ、戯れ半分でもあるけど、真面目な話も半分ってところかな」
「……?」
私は、果実水をグラスに注ぎ、彼女たちの手元に置いて、話をつづけた。
「ひとつは、君たちが勇者カイトに対して、割と露骨に異性的な関心を示していること。人間性への好意と言うかもだけど、初期から本作戦に関わってたキミらが割とお熱なのは伝わって来たからねぇ……」
おやおや、照れちゃって……かわいいね♡
……謀略を任せっきりにしてるから、こんな純情な一面を見れるのは、ちょっとほっこりする。
「……魔王様、顔がゲスい」
「……井戸端で噂話してる主婦たちもこんな顔してるわね」
ひどい。
「……まあ、そう言う気持ちがあるなら、本作戦の責任者である私が、融通きかせて取り持ってあげてもいいよ、ってこと」
二人は、頭をかきながら、呆れたような口ぶりで話す。
「あのねぇ、魔王様さぁ……私たちの年齢忘れてない?あの子と私らって、親子ほど歳離れてるんだよ?」
「私だってイヤですよ。領民から『少年愛嗜好の四天王』とか言われるなんて……」
「種族にもよるけど、大半の魔族の加齢速度は人間より遅いんだから、自分から言わなければ、年の差なんて誰も気にしないでしょ。ノアに至っては、歳姿だって自在に変えられるんだし」
「それにしたって、ねぇ……?」
「それに勇者カイトは向こうの世界でも成人扱い。誰と結婚しようが、本人が好き同士なら文句を言われる筋合いはないでしょうよ」
「……『好き同士』なら、そうでしょうけどねぇ」
「……まあ、ね。これが私の下種の勘繰りで、二人とも『そういう気』が無いなら、それでもいいの。私だって、政治的目的のため『だけ』に、無理やり部下を結婚させるつもりなんてないから」
「…………」
「……うん、まあ、ふたつめは『政治的目的』だよね。勇者と婚姻関係になって、その関係が良好であるならば、勇者が魔族領域に危害を加える可能性は極めて低くなるし、定住にも前向きになる。加えて、彼と行動を共にする君たちの【戦乙女の祝福】の効果も跳ね上がる。やれることの幅は大きく広がるね」
「……まあ、それはそうですね」
「その点だと、私より魔導技師のトップであるエミリアが適任かもね」
……おや、ノアが委縮しちゃったよ。
別にいいんじゃない?夫婦で特殊工作員とかやっても。密偵一家って感じで。
「そして、みっつめ。君たちはさっき年齢の話を出したけどさ……」
私は、ため息をついた。
「……私はさ、革命の頃からキミらと駆け抜けてきたわけだけど、婚期を逃したってなると、それほとんど私のせいじゃん。四天王ってなると、見合う相手も少ないだろうし、相手も委縮したり、地位に下心をもって近づいて来たりする相手ばかりでしょ……?」
「…………」
「だからね、私としては、キミらが自分から異性に興味を持つ機会があるなら、物にして欲しいの。……これは、魔王としてではなく、友人として」
「婚期の話をするなら……魔王様もじゃん」
うっ……手痛い所を……
………………
「……はは、見ての通り私の容姿容貌は子供みたいなもんだよ?……正直、私の顔や、ちんちくりんな体に興味を持つ殿方は……引くなぁ」
「…………」
気まずそうに黙ってしまった。
自分で言っててなんだけど、ちょっとへこむかも……。
「……それに、ね?キミらは、私の『真の姿』を知ってるでしょ?私は臆病だからね、好きな人が出来ても、それで失望されたくないからね。私はいいの」
「…………」
「……ってわけで。私はキミらが『勇者と結婚したい!』って言うなら、いつでも味方になるから、すぐに相談しなさい。恋愛に『よーいスタート』は無いから早い者勝ちね?」
「……相談してどうするって言うんですか?」
「えっとね……まずはメイドのエリス嬢を魔城で雇用して、勇者に任務を与えて引き離す。それで、キミらとの共同任務を増やして、二人で話す機会を増やしてあげよう。それで適当に同じ部屋で宿泊でもして、既成事実作っちゃいなさい」
「う、うわぁ……」
「魔王様……」
「……ああ、護送中の彼らの話についての報告はちゃんと聞いてたよ?彼女と勇者カイトは、転移以来、お互いに心を通じ合わせた、『ほぼ』両思いみたいな関係ってことでしょ?……でもさ、『憧れの勇者様』『勇者様のメイド』なんて立ち位置で安住してるようじゃ駄目だよ。欲しいモノは自分から手に入れに行かないと」
「いやいや、恋する女の子から略奪はダメでしょ……良識として」
「ノアにまで良識を説かせるなんて、よっぽどですよ?」
この子たち、「魔王」に何を期待してるのやら……。
「……私の言いたいのは、彼はまだ『彼女のモノ』じゃないって話。それなのに、勝負の土俵にも上がらず見てるだけとか、連邦の力の象徴が色恋に対しては臆病なんて……格好つかないでしょ?」
「それとこれとは……」
「……まあ、エリス嬢と争ったり、想い人を横取りしたくないっていうなら、一夫多妻でも公妾制でも、領邦の法に則って好きになさい。その場合、彼女との領地や相続がらみの問題は、君らの方で上手く解決してね」
「…………」
黙ってしまった。
……うーん、ガッツが足りないな。
仕事ばかり任せ過ぎて、色恋に触れる機会を奪っちゃったからなぁ……。
やっぱり、この子たち……アンナやリナも含めて、四天王の結婚相手は、私が見つけなきゃかなぁ……。
「……まあ、そんなわけでね。キミらも『年下のかわいい男の子』なんて指をくわえて眺めてたら、こっちで居場所を作ったエリス嬢の、幸せウエディングを見せつけられることも覚悟しろってこと」
「ゔっ……」
……刺さってる。
やっぱり、気にはしてるんだよな。
「……『よーいスタート』は無くても、巻き返せるかもしれない距離にいるのは事実なんだから。負けて悔しい思いをするのがイヤなら、キミらも真面目に競争して、勝ちを狙いに行きなさい。以上、解散」
私は、掌をパンパンと鳴らし、解散の合図をした。
……ま、結局のところは二人のやる気次第だからね。
* * *
「…………」
「…………」
私たちは、沈黙しながら会議室を出た。
「……エミリア」
「……なによ」
「いや……さ、どうする?」
「……どうするもこうするも、魔王様が勝手に盛り上がってるだけだしねぇ」
「まあ、そうだよねぇ」
………………
……そりゃあ、私だって、ね?
婚期については考える所もあるわよ?
あの子についてだって、まあ、年相応に生意気だったり、時には素直で純情だったり、いざとなったら責任感見せて頑張ったりで……、感情豊かで可愛い子ねぇ、ぐらいは感じたりもしてたわよ……?
でも、それって多分、歳の離れた子への擬似的な親心とかそっち系じゃない?
……というか、それで恋愛感情持ってたなら、私達の任務って彼につきまとって私生活暴いてたことになるし、ただのヘンタイ行為に成り下がるじゃない……。
第一、あんな若い子たちの……少しずつ近づいていく甘酸っぱいロマンス小説みたいな惚気話を聞かされておきながら、自分の欲で引っぺがして夫にしようとか、悪趣味過ぎるわよ……。
それに、人間の夫って、寿命的に私の方が未亡人になるし、政略結婚の意図があるにしても、やっぱりしんどいわよ……。
まったく……
………………
………………
………………
「ノア」
「うん」
――ノアは、その全身を黒い毛皮で包み、大地に手をつく。
それと同時に、流線形の黒い暴風と化した彼女は、鋭い爪を立てた巨大な掌で、勢いよく壁に手をついた。
――否。
壁の前の「虚空に」手をついてみせた。
「がっ……!?」
虚空が揺らぎ、少しずつ、その姿が露わになる。
魔城の施設管理に携わる上級メイドの一人だ。
「……ふむ、不可視魔法ね。おおかた、設置していた固定式の『悪魔の鼓膜』を回収に来たんでしょうね」
「ふふ……、恋愛談義を盗み聞きなんて、メイド失格だよ?」
ノアの掌で壁に固定された彼女は、苦悶の表情を漏らす。
そして、観念したように舌を出し、それを自身の歯で――
「させないわよ」
私は、手元で編んだ影を猿轡にして、彼女の自害を止めた。死んでしまっては自動審問魔法も使えない。
彼女には余罪がある可能性も高い。
グルドンド候の反乱も、我々の勇者確保とタイミングが合い過ぎていた。
我々が動くことを見越して、瀕死の勇者を確保させて油断を誘い、魔王様をその自爆で暗殺する策謀が動いていた……そんな可能性もある。
私の前では、偽証も黙秘も不可能だ。
彼女から得られる情報は全て吸い出して、その沙汰は魔王様に任せよう。
……引き渡しも、大事を取って近衛兵ではなく、魔王様に直接行おうか。
「……案外、内通者をあぶりだすのが、魔王様の居残りの真の目的だったのかも?」
「いや、あの方の下世話な一面は、素だと思うわ……」
「おっとぉ!不遜~っ!」
……あんな話をしたばかりなのに、また魔王様の前に戻ることになるなんて。
まったく、憂鬱だわ……。




