#3 議題「勇者の第一印象、どう?」
「……ともあれ、さ。勇者の確保には成功して、一応『敵』ではない立場として彼と相対したわけだけど、みんなは彼をどう思った?」
私は四人に目を配る。
この作戦の目的は「勇者の自陣営への取り込み」。そうである以上、今後は四天王が勇者と親睦を深めていくのが第一だ。だから、ちゃんとみんなの感じた所は吸い上げて行かないとね。
「……自己破滅魔法の件を抜きにして、ではありますが」
……おっ、先陣を切るのはリナかぁ。いいよ、いいよ。
どんどん意見出していこうね。
「……心象は、最悪の部類ですね」
……あー、うん。
まあ、仕方ないかぁ……。
「……『勇者』という前提を抜きにしても、初めて謁見する国の王に対してあの物言いは無礼でしょう?礼節や教養に欠けていると思います」
異世界で高等教育受けてたみたいだから『教養』は足りてるんじゃないかなぁ……。
「うーん、まあ確かに、謁見の一言目としては大分攻撃的だったよなぁ……」
「……魔族という存在を馬鹿にしているんですよ、ヤツは」
うーん、バイアスはあると思うけど、確かにピリついてる所に火に油を注いだわけだし、こうもなるのも道理かも。
「私は、逆に見えたわね」
エミリアが口を開き、リナは視線を送る。
「敬意に欠けていたというのは私もそう思うけど、『馬鹿にしている』というより『脅威と認識している』から、刺々しい振る舞いをしていた印象ね」
「うん。私に案内されてる時は態度も大分軟化してたし、丸腰の中で魔王様の魔力にビビッて虚勢を張ってたってところじゃないかなぁ?」
ノアの言う通り、【禁環封呪】で魔力ゼロの状態で、私の魔力と対峙したわけだしねぇ……。
臆病な者なら気絶や失禁しててもおかしくないし、酌量してもいいと思うよ……。
「起き抜けから魔王様にへつらい、おべっかを使われるよりは、勇者としての活動に矜持を持っていたことが感じられたから、軽薄さは無いというあたりで、私としてはマイナスではないかしらね」
おー、うんうん。良いよ。
その調子で仲良くしていけそうな所見つけていこうか。
「私としてもさ、魔王様に噛み付くのは見てて気分良くはなかったが、それでもみっともなくペコペコするの見るよりは大分マシだな」
アンナも、エミリアたちに同調するように頷いた。
決闘でライバルと認めた相手が、宿命の敵におべっか使いだしたら、ガッカリだよね。
「……というか、猪妖魔の侵攻の件で有耶無耶になっちゃったけど、本来私たちが計画してたのって、彼の『切り崩し』と『誘拐』だし。憎まれ口ぐらいは叩かれて当然っていうか?」
それはそう。
好機……というのはいささか不謹慎ではあるけど、結果的に彼らの軍事行動は、勇者側の憎悪を一手に引き受けて、私たちに歩み寄りの余地を与えたわけで……皮肉なもんだよね。
「……それにしたってですよ、自身だけでなく、連れているメイド……勇者としての立場で言えば人間領域の者の命がかかっているとも言える『人類代表としての謁見』に、挑発的な態度で臨むのは、向こう見ずが過ぎるのでは?」
うーん、確かにそこは軽率かなぁ……。
そこは「統治者」ではない勇者の、私たちとの立場の差とも言えるけど。
「……まあ、満点の行動はとってないと思うけどさぁ。それでも最後は、跪いて礼を言うことはできたし、体裁を取り繕うって点でも、私としては及第点かな〜」
……うんうん、軌道修正能力だね。
私も『これから仲良くしよう』って姿勢が感じられて、悪い気はしなかったね。
「まあ、良い点もあり、悪い点もあるって感じで、私としてはフラットだな。今後のヤツの態度次第といったとこで」
「同じく。こちらが心を閉ざす以上、向こうも刺々しい態度を取らざるを得ないでしょうし。懐柔という目的を考えれば、こちらからも歩み寄る必要はあるかと」
「以下同文~っ♪」
リナは、ぐっと口を歪め、もどかしげな表情を見せた。
「……いささか、勇者の肩を持ち過ぎな気はしますがね」
本当、孤立しがちな立場にしてしまってるのは申し訳なさを感じるけど、この子の立ち位置もどうにか軟化させていかなきゃダメだよなぁ……。
勇者のご機嫌伺いをしなきゃいけないとは言わないけど、リナと勇者の関係悪化で向こうの態度の硬化を招くのは十分あり得るし。
「……うん、みんなの所感は解かったよ。これからの勇者懐柔に向けた人員配置の参考にさせてもらうね」
私は、手元でぬるくなったお茶を飲み干した。
* * *
茶菓子も無くなったタイミングで議題は移り、「勇者の活用方法」。
ある程度事前に話してはいたけど、皮算用じゃなくなったから具体的な所も詰めていきたいね。
「……とまあ、勇者の活用方針については、手始めに魔都の魔導技師の補助をやらせるのがいいと思うんだよね」
「なるほど、インフラの整備に際して、作業員に【戦乙女の祝福】を適用できれば、作業効率は大幅に上がりますね。研究所でも使える場面は多そうです」
「調査結果だと膂力やスタミナも増幅されるってことだし、土木現場に配置しても良さそうだな」
アンナも、勇者の活用には興味があるみたい。
……仲間の能力の増幅って、戦闘に限らずなんにでも役に立つからなぁ。
「う~ん、でも強化前提は相互信頼ってことだし、色んな現場に派遣ってのはかえって効率悪いんじゃないかな?」
うん、ノアの言う通り、便利だからってそこら中に派遣してたら、そもそも「作業員との信頼関係」が作れず、発動に支障もありそうなんだよね。そう考えると、リソースは集中させた方が良さそう。
「……現場で居座ってるだけとかになると、作業員からも怪訝な目で見られるでしょうしね。強化対象も女性だけなので、大分外聞は悪いでしょうね」
そうだなぁ……、となると彼自身の資質的に一番適性のありそうな分野……
「うーむ、そうなるとやっぱり、エミリアの現場が最適かなって思うね。彼はもともとの世界で高等教育を受けてた学生なんでしょ?そのあたりの見識でも活きるものがあるかもだし」
私の言葉を聞いて、アンナは妙案が浮かんだようで、表情を明るくする。
「じゃあ、【逆吊巧者】で魔族領域の魔導技師資格与えて、上級作業とかに従事させるとかってのはどうですか?それなら、当人も作業に……」
エミリアは首を横に振った。
「……それは、勇者の再武装に繋がるから迂闊には賛成できないわね。そもそも、人間領域で積んだ能力も解放される危険性があるわ」
「……【無銘の王笏】も同様の理由で危険性が高いですね。【逆吊巧者】と組み合わさらなければさほど脅威ではないでしょうが、魔力を用いた民間施設へのテロ行為は可能です」
「……うーん。安全策を取ると【戦乙女の祝福】以外は活用は難しいってことかぁ。じゃあ、厳しいな」
アンナはちょっとばかりしょんぼりした表情を浮かべた。
「うんうん、いいんだよ。アイディアはどんどん出してもらって。思い付きも含めて、沢山でた中から選んでいく方が視野も広がるんだから。問題の有無も検証するまでは解からないからね」
ここで話すのは、ひとまず「今の」活用法って話だ。
私は、机に置かれたエミリアの報告書を見て、勇者の英雄技能を確認した。
「……まあ、ある程度の信頼関係が築けたら【禁環封呪】の条件を緩めて、部分的に行使可能にする、って路線も取れる。それまでは、重要性の低い公共施設の整備や、魔道具職人ギルドで研究開発を手伝ってもらったり……ってところかな」
「では、私の方でも女の部下に事前通達しておきましょう。ただ……」
「そうだね。人間の姿で、人間街の外での活動、どうしても目立つよねぇ……」
……魔族にはさまざまな人種が存在し、人間に近い容姿の物もいるが、それでもやはり純粋な人間は目立つし、トラブルや差別の種にもなる。彼の身元を隠す手段も必要だろう。
「魔族への擬態魔法も……時間切れで露見リスクは高いですし……仮面や包帯、化粧やつけ角、つけ耳で対応しますか?」
「……うーん、それなら人間に近い形態のとれる猫獣人が適切かな。つけ耳外してる時に会っても、『人間の姿を取ってる』って言い訳できるし」
その話を受けて、ノアが元気に手をあげる。
「じゃあ、私の方で可動式のつけ耳とつけ尻尾用意します!魔力を通すと、自然としっぽがふわふわ動いたり、耳がビクンってなる奴!」
「……なんでそんなものあるのよ」
「領内の猫魔人の動向を探るにも、顔見知りのリスクがあるじゃん。そういう時は、人狼衆の別種の子に『人間』に変身させて、これつけて潜入させたりするの。案外バレないもんだよ?」
おー、いいねいいね。
最悪、つけ耳やつけ尻尾がバレても「実は犬魔人だったんだ…」って誤魔化せるし。二重の対策になる。
「おあつらえ向きだねぇ、じゃあノア、発注よろしく」
「了解しました~っ♪」
* * *
「さて、目下の方針は決まったね。じゃあ、そろそろ解散かな……みんな、お疲れ様」
皆が、一礼して席を立つ。
「よーし、じゃあ早速うちの職人ギルドに耳としっぽ発注するかぁ……!」
「じゃあ私は、王立魔導研究所の方に話を通しに行きますね。勇者ということはぼかして話を通してきます」
「あっ、ノアとエミリアはちょっと残って。あとひとつ話があるから」
「?」
二人は、不思議そうな顔をして、その場で振り向いた。
私たちは、アンナとリナを見送って、扉が閉まったのを確認する。
「なんでしょうか、魔王様」
「私たちを残したってことは……また何か謀略ですか?」
……少しばかり話しにくい内容なので口ごもってしまう。
でもまあ、早めに言っておいた方が、後回しにするより準備もしやすいし、今の段階で提案だけはしておいた方がいいよね。
「うーんとね、なんというか……まあ、なんだ」
――君たちさ、勇者と政略結婚しない?




