#3 「ハーレム主人公」になろう!
読者の皆様は、「ハーレム」をご存じだろうか。
この物語を読み始めたくせに「何それ?わからないなぁ……」なんて白々しいことを言える人は、カマトト主人公の才能アリだ。今すぐ俺の立場と変わってくれ。
……うん、それで、「ハーレム」。
まあ一言で言うと、男の煩悩の極致だよね。
あらゆる容姿容貌の美女を侍らせてさ、くんずほずれつしようっていう。
……まあ、俺も男だしね。気持ちはわからんでもないよ?気持ちだけはさ。
でもまあ、現代日本の倫理で生きてきた俺にとっては、やっぱりどうしても「いや、ダメだろ!」って思いが前面に来るのよ。
俺の好きなハードボイルドものの主人公もさ、女を抱くシーンはあるし、関係にもだらしない所は感じるよ?昭和に書かれてた作品だと特にね。
でも、これもあくまで行きずりの関係って描写でさ。常時女性の人生を束縛しようってわけじゃないじゃん。お互い成熟した男女の関係ってことだし、何より同時に複数人を抱いたりはしないわけ。その辺は最低限の節度もあるよね。
でも、異世界転生はさにあらず。……というか、俺も「モテ男が美女を引き連れ大冒険!」ってラブコメ程度のノリだと思ってたんだけどさ、詳しかった知り合いに聞くと、ガチに複数人と恋愛関係になったり、やることやってしまったり、子供まで妊娠させてしまう話もあるらしくてさ。
……興奮よりドン引きだよ。そこまで行くならもう、エッチな漫画読めばいいじゃん!
……それに、だ。俺の憧れの作品の主人公達だってハーレムなんてうらやま……不誠実なことしないのに、なよなよモヤシチート野郎が好き放題ってのも許せん。
いや、ハーレムを作るような欲に流されない硬派さあってこその、ハードボイルドと言えるのか。
……よし、憧れのハードボイルド主人公たちに誓って、俺はハーレムなんて惰弱なものは作らないぞ!
* * *
「……じょ、女性のみのパーティーですか?」
「うん……その、付与スキルの関係で……」
市街の噴水広場で待ち合わせをしていた、世話係の女の女性から、これより編成するパーティーメンバーの要求を聞かれた俺は、目を逸らしながら答えた。
……正直、クソほど気まずい。唯一と言っていい俺の異世界での交友関係に、ヒビが入る感覚だ。最悪。
滞在中の俺の身の回りの世話や、王宮との連絡役をしている女性「エリス」。
オレンジがかった柔らかい発色のブロンド髪。ウェーブのかかったショートヘアの彼女は、王宮から支給されたであろう飾り気の少ないシックなメイド服を制服として着込んだ、あどけなさの残る女の子だ。
王宮仕えの雑用として奉公に出ていた彼女だが、俺の異世界転移に合わせて、世話係及び案内役として抜擢されたらしい。
現在、冒険への出立に際して前準備として、俺に必要物資やパーティーメンバーの聞き取りをしているわけだ。
彼女は知的好奇心が強い。識字率の低いこの世界でも、独学で文字の読み書きを習得した努力家だ。
最近は仕事の垣根を超えて、俺の現世での暮らしや学業について話したり、テキストで学んだ初等魔法学を噛み砕いて説明したりもした。素直で飲み込みも早い子だが、異世界における「生まれの差」は現世より大きい。
学業に意欲的で、十分な素養も持つ彼女だが、地方農家の出身であった彼女は真っ当な教育を受ける機会にも恵まれず、王宮に奉公に出る形で王都に来た今もなお、出世のためのキャリアは開かれていないらしい。
……現世でも、家庭の事情で高卒で働いてた友人に「立派だなぁ…」と感嘆する所があったが、それをよりハードにしたようなもんだ。思うに、大卒カードを難なく手に入れ、ホワイトカラーが約束されていたに等しい俺の家庭環境も、今思えば十分「チート」だったんだなと、再確認させられる。
それで、だ。そんな健気な努力家のエリスを前に、チート野郎の俺は「じゃあ、早速ハーレムパーティーを作るぞぉ~っ!」なんて姿を見せているわけだ。軽薄極まれりだな。殺してくれ。
「……女神の加護の関係で、女性にだけ戦力を増加する加護を付与するって、転移時に説明を受けてね」
「………………」
「女ひいきなのか、女好きなのか……、とんでもない神様だよ」
……まあ、とんでもない神なのは事実だ。
俺に降りかかる不名誉についても、多少は肩代わりさせておかないと、やってられない。
「確認してみる?」
「えっ」
俺の問いかけに、エリスは意外そうに声を漏らした。
「……いや、お願いしたい。俺も、女神の加護でどうなるか、見たことないんだ。手伝ってくれると助かる」
「でも、私……魔法なんて……」
「この間、手から湧水を出す【水源魔法】が、少し使えたって話してただろう?」
上流階級のメイド向けの生活補助魔法のひとつだ。主人の緊急時に水分を調達する魔法らしい。
元来、こうした魔法は名家出身の者が専門の教育を受けて、初めて使えるものとされているらしい。エリスもまた、独学で挑戦していたのだが、うまくいかずに悩んでいたということで、俺からの初等魔導学のかいつまんだ講義の結果、理解が体系化され、先日ついに使えるようになった、ということだ。
……本当に、頑張り屋だ。及ばずながら、成果が実を結ぶ助けになれて、本当によかったと思うよ。
「一緒に同行してるエリスなら仲間扱いだと思うし、初等魔法がどれだけ強化されるか、確認させて欲しいんだ」
「……でも、私の魔法なんて、お遊戯や手品みたいなものですよ?」
「むしろ、初学者だからだよ。女神の祝福による伸び幅を確認したいし、それに……エリスにしかお願い出来る人もいないんだ」
「……私、だけ?」
「ああ、この世界に来てから間もない俺にとって、信頼できる人なんて、エリスぐらいしかいないんだ。……頼まれて欲しい」
「…………」
そう、相互信頼がバフの条件ということを考えると、条件を満たす女性なんてエリスぐらいしかいない。
それでもイヤというなら、流石に無理強いはしたくないが……
「……わかりました」
「……あ、ありがとう!じゃあ、勢いついて水鉄砲になるかもしれないし、下に向けて、こう」
「で、では……」
彼女は、人差し指を石畳の上に向けて伸ばし、詠唱を唱えた。
「――水源魔法」
――瞬間。彼女の指から高圧洗浄機のような勢いで水が噴出した。
石畳に染みついた黒い汚れは、レーザーのように一直線に伸びた高圧水流にこそぎ取られ、その箇所だけ新品の石材のような白さを取り戻す。
驚いた彼女はバランスを崩し、辺りに水をまき散らしながら後ろに転倒する。俺は慌てて彼女の肩を支えた。
彼女の指先から放出され、上空に打ち上がった水しぶきが大粒の雨のように広場に落ち、周囲の市民はぎょっとしていた。
……幸い俺たちの仕業とは気付かれていないようだったので、俺たちも「なんだなんだ?」と、白々しく上空を見上げ、誤魔化した。きっと、噴水に何か詰まったとでも思われて終わりだろう。
「とんでもない威力の水流だったな……」
「……城の石垣を掃除するのに役立ちそうかもです」
「壁面の高圧洗浄かぁ……平和になったら転職考えようかな。手伝ってくれる?」
「ふふ、勇者様ったら……」
エリスは、俺の冗談で少しだけ笑ってくれた。
俺も……この世界に来て初めてだろうか?笑いが漏れた。
まあ、お互い、少しは打ち解けられたってことで……結果オーライかな。
広場に戻る雑踏。踏み慣らされていく水の跡。濡れ鼠になったまま、その場で談笑する俺たちふたり。
水気を帯びたエリスの髪は、日の光を黄金色に反射して、艶々とした輝きを一層強めていた。
* * *
かくして、エリスを通じて王宮に依頼を出し、国の力自慢とされるパーティーメンバーは集った。
優秀なエリートの卵だが、今回の魔王軍討伐に際して下野し、冒険者ギルドに登録して活動していたらしい。
みんな、特別任務ということで志は高い。そんな勇者パーティーの構成は以下の通りだ。
◆カイト=イセ……職能:勇者
俺。魔王討伐のために召喚された異世界人の、元ボンクラ大学生。
【ランク反転】【無自覚最強】【ハーレムバフ】のスキルを持つ。
ギルドに最低ランク職能で登録、力量を誤魔化し、女性パーティーを構築する。
……なんか、体調悪くなってきた。
◆ジーン=ヘンドリクソン……職能:戦士
国王軍直属の女性部隊の新兵。肉体派ですげぇ力持ち。
国軍での成り上がりを目指して鍛錬しているらしい。
俺のことは軟弱なモヤシと見ているらしい。……間違ってないのがつらい。
◆メル=ハリントン……職能:魔術師
王宮魔術師の見習い。後衛を務める攻撃・補助魔法の使い手。
エリート志向が最も強く、知識や魔力の少ない相手にマウントを取りがち。
学歴とか出生マウントはコンプラ的に良くないと思う。
◆カトレア=チャッペル……職能:僧侶
大母聖教会の僧侶。回復や神聖魔法の使い手。
女神への信仰が極めて厚い。規律意識が強く、言行もお堅い。
異教徒の俺を改宗しようとしているが、あのロクでなし女神は崇めたくない。
◆エリス=ブライト……職能:庶務
本来連れて行くつもりはなかったが、本人の意向により随伴。
荷運び、物資調達、野営準備、現地民との折衝など、非戦闘範囲を担当。
急ぎで習得した【連絡魔法】により、王命の伝達を行う見分・監査報告を行う。
俺にも優しくしてくれる、すごい良い子。頑張り屋でまぶしい。
クセが強いというか、ベクトルの違うエリートの集まりって感じで、放っておけば軋轢を起こしそうだ。
……俺、この子らの好感を得ながらパーティー運営しなきゃいけないのか。
ハーレムパーティーとかハードボイルドのやることじゃないと見下してたが、あいつらも存外に苦労人なのかもしれないなぁ……。




