#24 臥狼一元流《ウルフィアン・アーツ》
臥狼一元流。
アルフィード王国に限らず、西方の人間領域において用いられる、王道的な剣術流派。その技術体系は「護り」を主体としたもので。膂力に優れる魔族の攻撃に対し、堅牢な防御の型で対峙し、魔術師による後方支援によって活路を見出すのを基本戦法とする、多人数のパーティー及び、軍隊での運用を想定した型。
弱者の連携……「蟻」vs「象」とでも言うべき不利な戦況を、僅かにでも有利に進めるために発達した、「数」と「持久力」を有効活用する、人間領域を象徴する泥臭い剣術流派である。
……「忍耐と絆の流派」の方が響きはいいかな。
「剣術道場」は退役軍人の就職先というか、開業をする上での鉄板分野であり、王都には分派も含めて多数の道場が存在する。潜在的な徴兵対象を増やしたい国の意向もあり、この国において中流以上の家庭の子供たちは、往々にしてここに入門し、籍を置いて一通りの型を習った時点で「初級」として認定される。「F等級」と同等のランクだな。
……俺も御多分に洩れず、手頃な道場に入門しこれを獲得したんだが……貴族の子息と違って俺は成人だ。大の男が子供に混ざって訓練は物笑いの種だった。
それで、成人男性かあるいは俺より若い中高生ぐらいの先輩方に、晒され、揉まれ、嘲笑され……、割とクソみたいな気分で初級ランクを獲得し、用を済ませた俺は足早に道場を後にした。回復魔法で傷は治るし、気にするだけ時間の浪費だ。
チートの【ランク反転】でやり返して「ざまぁ展開」?
王家公認の「勇者の紋所」で土下座強要?
……そんな恥ずかしいもん振りかざすぐらいなら、馬鹿にされた方がマシだね。
つーか、チート使うための入門で後ろ暗いのは事実だし、イヤミな先輩方も努力の成果なのは事実だ。シゴキぐらい受けてやらねぇと、逆に気の毒だ。
……というか、名声高めたら【無自覚最強】が機能不全になるんだ。一時のしょうもない自尊感情のために、戦死リスクを負えるかよ。
まあそんなわけで、気分のいい思い出ではないが、臥狼一元流はモノにさせてもらった。
似たような流れで色々と手を出したが、今回の守護者の戦闘においても、この力を活用して、俺は戦いを進めている。
* * *
――ジーンに迫る守護者の大剣を、俺の剣が流し、浮遊する腕を弾く。
返す刀を流す。重心をずらし、押さえ込む。
緩急をつけて放し、足元をふらつかせる。
バランスを崩したところに大剣を叩きつけ崩す。
流す。崩す。弾く。
流す。崩す。弾く。
もはや単純作業の繰り返しである。
敵も自律思考はしているが、流石に生物と違い、一定のモーションパターンが見えてくる。
……気がする。
いや、戦闘経験多くねぇし、過信もできないが。
まあ、怒り狂ってイレギュラーなパターンが混ざらない分、付け込む隙もないけど、時間稼ぎは容易かもしれない。
「うっげぇ……気持ち悪いぐらい滑らかな太刀筋だな……」
隣で連携する、ジーンの辛辣な所感が耳に飛び込む。悪意ある賞賛だ。
うっせぇな。
褒めるなら、もっとまともな言葉で褒めて……
……いや、褒めなくていいや。ズルだし。
後ろめたさで手元狂わせたくないので、どうかお黙りくださいませ。
気まずさと不機嫌の鍔迫り合いを続ける中、俺はエリスから連絡魔法を受信した。
――『……詠唱、完了しましたっ!』
……よし、俺とジーンの時間稼ぎは終了だ。
あとはタイミングを見計らって…………
………………………………
………………
……今っ!
「離れろ、ジーンっ!」
「了解!」
俺たちは振り下ろされる大剣をバックステップで避ける。
ガーディアンは、俺とジーンを叩き潰すべく、両手の大剣を同時に振り下ろし、両手を伸ばして石畳にめり込ませた。
……人間で考えると間抜けな絵面だが、そこはゴーレム。同時攻撃可能ならなりふり構わないわけだ。
そして、その両手を広げた姿は、まさに俺達の作戦に好都合な姿勢だった。
ヤツの右腕に向けて、カトレアの杖から一直線の光の筋が伸び、ガーディアンの左前腕に命中。そこから巻き付くように、ガーディアンの肩までを雁字搦めにした。
「――神鎖抱擁魔法」
カトレアが杖を振るうと、輝く光線は鎖の形をなし、床に固定された。
大母聖教会の誇る戦闘補助魔法、巨体の動きを封じる束縛魔法だ。これで、ヤツの右腕は身動きが取れなくなった。
ガーディアンは単眼を後衛に向ける。それと同時に、エリスの手元に、バフによって強化された膨大な魔力が結ばれた。
「――水源魔法っ!」
魔力は澄んだ湧き水となり、怒涛のように奴の左腕に押し寄せる。
それを確認したメルも、水流と敵の衝突点に杖を向け、詠唱を済ませて待機状態にあった魔法を放った。
「――氷霜魔法」
ガーディアンに飛来した青白い光弾は、エリスの形成した膨大な水を瞬時に凍結させる。二人の連携で生まれた巨大な氷塊は、大地に根を張るように動かず、その関節を固定した。
広げた両腕は完全に固定された。
だが、奴が両手に力を込めれば、少なくとも氷解の方は砕けてしまう懸念がある。だから、俺は迷わず、行動を起こした。
「衝撃魔法っ!」
奴の背後から胴体に当てられた掌に、魔力が集中する。
魔力出力がものを言う、極めて単純な原理の初等攻撃魔法。
……衝撃波で味方に影響を与えない加減。数ヶ月の実戦で身についた出力範囲を意識しながら、俺は掌から魔力を放出した。
魔力は純粋な衝撃となり、ガーディアンの巨躯を前のめりに押し飛ばす。奴の胴体は接地していない。浮遊するその身体は、摩擦による減衰もなく、等速で滑っていく。
ヤツの本体が、「両腕」の制御を可能とする範囲。
その外へ――!
「今だ!ジーン!」
「応っ!」
ジーンは鎖で囚われた右腕へ、俺は氷解に覆われた左腕へ走る!
サブウェポンのショートソードの柄尻。ジーンはこれを制御用の魔石に打ち付け、叩き割った。
俺は、魔石ごと氷結した左腕の魔石に「火焔魔法」を押し当て、魔石の露出を確認し、ジーンと同じようにサブウェポンで叩き割った。
……取り出せたら高値で売れそうだったが、言ってる場合じゃねぇ。
「よし、叩き割った!」
「!」
――周囲の一帯を、青白い光が照らす。
俺たちに背を向けたガーディアン。ヤツは今、後衛に……メルに、カトレアに、エリスに向けて、先のレーザーを放とうとしている。
……撃たせねぇ。
俺は、ジーンに視線を送り、大剣を放り投げた。
彼女はニヤリと笑って重たい大剣を軽々とキャッチし、ガーディアンに向かって走り、迫る。
強大な貫通力を持つ、守護者の破壊光線。
その脅威が、今、正に、後衛に向かって放たれる――
――刹那。
さながら咆哮のような掛け声と共に、振り下ろされたジーンの大剣が、守護者の頭頂部をへしゃげさせた。
「ははっ!チマチマやるより、やっぱこっちのがスカッとするよなぁっ⁉︎」
テンションがぶち上がり高笑いするジーンを追って、ガーディアンの方に飛び乗った俺は、彼女の鎧の首筋を掴み、ガーディアンの背中を蹴って引き剥がした。
「なっ……お前、何を……」
「バカっ、爆発に巻き込まれんぞっ!」
「!」
……そう、レーザーはすでに発射準備が整いつつあり、それを叩き潰したのだ。
ジーンに叩き潰された頭部は、発射先の行き場を失い、轟音と共にその場で爆散。
巨大な金属の鎧の破片を、周囲一帯に散らした。
俺は、ジーンを後方に放り投げ、飛来する金属塊をショートソードで順次叩き落とし、後方への飛来物を防ぎ切った。
前方に視線を移すと、メルの障壁魔法で被害はないことが確認できた。
無惨な守護者の残骸。
人間で言うところの鎖骨から上を溶解させ、力無くその場に浮遊する、戦闘能力を失ったそれは、なおも内部の魔石の魔力で浮遊し、水平を取り戻そうとする。
俺は、再び奴に接近し、その溶解した胴の上に飛び乗った。
剥き出しの巨大な魔石…… 核。
俺は、そこに向けて最後の一撃を叩き込んだ。
「衝撃魔法っ!」
魔力の結晶が、細かな破片として宙に舞う。
動作のための魔力を込められたその石は、単眼から絶えず放っていたそれと同じ、青白い輝きを失い、その胴の水平を維持していた浮力を失い、完全に沈黙した。
――勝った。
その実感を得た俺は、ぶち上がったテンションに任せるままに、天を仰ぎ、勝鬨をあげた。
「……はは、お前。案外アツいとこあんだな」
「終始テンション低いから、冷笑が趣味だと思ってたわよ」
……うっせぇなぁ。
要らん茶々入れずに余韻に浸らせてくれよ……。




