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#23 勇者パーティー vs 守護者《ガーディアン》

 ――守護者(ガーディアン)の単眼が、眩く、青白く、輝いた。


 異変を察した俺はメルに視線を送り、詠唱を始める。

 その冒頭を聞いたメルは意図を悟り、俺と同じ魔法の詠唱を開始した。


障壁魔法(シールド)っ!」


 俺の張った半球状の魔力の障壁。

 少し時間をおいて、メルの形成した少し半径の狭い半球の障壁が重なり、二重の障壁がその場に形成された。



 甲高い放出音とともに、青白く輝く極太の光線が、俺たちに迫る。


 俺の張った障壁により、その光線の威力は減衰し、メルの張った内の障壁によりその威力は完全に遮断される。


 ……だが、長くは持たない。

 あと二秒以上、レーザーの放射が続いたら、当初の手筈に従い、ジーンはメルを、俺はエリスとカトレアを抱えて退避だ。



 その懸念は杞憂か、守護者(ガーディアン)の単眼からの光線の放出が止まった。さながら放熱をするように、単眼を取り囲む装甲が、ガシャガシャと音を立てて、隙間を開く。

 ……アクションゲームとかだったら、この隙に攻撃当てろって事だろうけど、このダンジョンの設計者の性格の悪さ思うと、近づいたら別パターンの攻撃かましてきてもおかしくねぇな。



 ……なんて懸念が的中したように、守護者(ガーディアン)の手の甲から、鋭い金属音とともに、男の身の丈ほどもある剣が伸びる。

 近づいて近接攻撃したら首刎ねられてたかも。ダウン中は攻撃しないように難易度調整しろよ。クリアできねぇだろ。


「……どうする?」

「後衛と一塊になってると、巻き添え喰らってかえって危険かもしれないな。俺たちは接近して戦いつつ、後衛は魔法攻撃で援護って感じで」

「はいよ」


 俺は、視線を後衛に移す。


「……エリスは、原則メルから離れないように。練習してた一人用の障壁魔法(シールド)は使えそう?」

「……は、はい。ダンジョン出立前に使えるようになりました」

「じゃあ、後衛にレーザー撃たれたらエリスは障壁を展開。カトレアはエリスの魔法に倍加魔法(マルチプライヤー)をかけて、展開距離と硬度を強化して」

「了解、三人入れるぐらいまでなら何とか拡張できると思います」

「……基本、撃たせないように俺とジーンで止めるけど、止められなかったら頼むよ」



 俺は大剣を抜く。

 ……あのクロムみたいな硬そうなゴーレムに斬撃が通るかわからないけど、手をこまねいて見ているだけじゃ、何も進まない。突破口を見つけ出す。


「……行くぞ、ジーン」

「オッケー、ぶった斬ってやるぜ」


 ……頼もしい限りで。

 

 俺とジーンは剣を構え、守護者(ガーディアン)と呼ばれたゴーレムに突撃を敢行した。



   * * *



 ガーディアンは、俺たちの剣閃を両腕の剣で受け止めた。鋭い金属音が響く。


 ガーディアンの身のこなしは決して褒められたものではない。

 動き出しは重く、剣を振るには予備動作も必要。そのモッタリとした動きは、俺たちと同じ身長なら「素人くさい」「剣に振られている」と形容するべきものだ。

 魔法のメカと言えども慣性をまるっきり無視できるわけではないようだ。


 ……だが、素人とは根本的な違いがある。「巨大(デカ)い」のだ。

 その大質量の剣は、軌道を読んで受けることは容易だが、その体積や質量は甚大。


 動きの遅さを補うリーチの広さに、まともに受ければ武器ごと両断されかねない重量。

 まかり間違っても、正面から打ち合いなどすべきではない。


「なら……っ!」


 俺は、斬りかかった大剣を押す力を緩め、重心をずらして剣の腹で敵の太刀筋を滑らせる。

 側面を回りこんだ俺は、再び大剣に力を籠めて一歩を踏み込み、遠心力を込めた大剣で背中を斬りつけた。




 ――くそっ、()ってぇな!


 ごうん、ごうんと、鈍い音を響かせたものの、肝心のガーディアンの胴は、少しへこんだだけで無傷。自動車の板金修理で簡単に直せちまいそうだ。


 ジーンの方に視線を移すと、敵の巨大な剣を振らせないようにインファイトを繰り広げているが、腕も同じ材質のようで、攻撃は通っていない。


「くそっ……ああ、まどろっこしい……っ!」


 ジーンは断続的に剣を当てるが、やはり通らない。やがてガーディアンは逆の腕を引き絞り。ジーンに回転切りを仕掛ける――


衝撃魔法(インパクト)っ!」


 直前、しゃがんだ俺が当てた左手から魔力の衝撃が放たれ、その図体は横滑り。回転斬撃は、俺の頭上を、ジーンの眼前をすり抜けて、空振りした。


火球魔法(ファイヤボール)!」


 俺たちと間合いの開いたガーディアンに、巨大な火球が迫り、爆発した。メルの援護攻撃だ。もうもうと立ち上る砂煙で、その姿がどうなったのか、伺い知れない……。




「……やったか?」


 ……あっ。

 それダメな奴だよ。絶対砂煙の中から無傷で出てくる奴。




 もうもうと立ち上る砂煙の中から、ガーディアンのシルエットが現れ、青い眼光が俺たちを睨み付ける。


「くそっ、ダメか!」

「……まあ、そんな気はしてたよ」


 フラグってリアルにもあるもんなんだなぁ……。

 ……なんて、ジーンに言っても伝わるわけねぇよな。アニメ脳や漫画脳も、いい加減卒業しねぇとな。



 ……でも、なんか違和感あるな。あのゴーレム、さっきまであんな細かったか?


 ………………




 あっ、腕落ちてる。

 今の攻撃で部位破壊できたのか?何でもやってみるもんだな。



 ……なんて、ゲーム脳的に浮かんだ俺の楽天的思考。その認識は甘々だった。


「!」


 地に落ちていた二本の腕。

 ガーディアンの胴体がそこに向けて近寄った瞬間、両の腕に埋め込まれた魔石が輝き、それは磁石のように本体に吸い寄せられ、もとの通りに動き始めた。



 ……そうか。

 そういや最初から、あのゴーレムの腕、本体とつながってなかったな。

 ヤツに、肩やひじに関節のような構造はない。磁力みたいな力場でも働いているのか、相互のパーツをつかず離れずで浮遊させて、腕として運用しているようだ。


 そのため、ロボットを相手にするように「ギミックで強度の落ちた関節を破壊して、身動きできなくしてやるぜ!」という攻略法は通用しない。

 その関節構造自体が存在しないんだから、いくら剣でぶった切ってやろうにも、むなしく空振りするだけだ。


 本体は固い。関節の強度みたいな弱点もない。……難しいな。


 動力となる魔石を破壊するってのも考えたけど、頭部はレーザーを警戒する必要もあるし、他は関節構造の凹凸構造で隠れる場所に埋め込まれてて、大剣で器用に斬るのは難しいんだよな。

 ショートソードの柄尻で垂直にぶん殴るにも、その助走距離が足りないし、割れなさそう。うーん……。


「クソが……、せっかく落としたのに意味ねぇとか、どうしろってんだ」


 ……横のジーンが悪態をつく。

 まったく同感だ。メルの火球魔法(ファイヤボール)だってそう何度も打てるもんじゃないんだぞ。

 ……倍加魔法(マルチプライヤー)で威力を上げるとか?……いや、仲間ごと高温と酸欠で全滅しそうだな。




 ……いや、待て。


 個別に考えれば、このガーディアンに攻撃を通す方法はある。


 ヤツの動きは早くない。俺とジーンの脚力でも十分翻弄できる。

 奥の手のレーザーは、俺たちが一塊になってる時の掃討用だ。


 大きな衝撃を加えれば、奴の腕は落ちる。これは恐らく磁石と同じだ。

 力の届く圏内でのみ、互いに引き寄せ、自由に扱うことが出来る。

 その圏外に出れば、操作不能になり動かなくなり、近づけば再度動き始める。


 そして、奴の関節部はすり鉢型で、その中央に魔石が埋め込まれている。

 大剣の斬撃で斬り落とすことは不可能だし、短い鈍器で関節に手を突っ込んで割るのも現実的ではない。


 だが、両腕を一度地面に落としてしまえば、なんてことはない。

 ショートソードの柄尻で魔石をぶち割れば、おそらく腕のコントロール機能は失われる。


 またしてもゲーム脳だが、やっぱり「部位破壊系ボス」の考え方で、順序良く組み立てれば倒せないことはないかもしれない。


 ……よし、方針は決まった。

 けど、口頭でメルやカトレアに伝えるのは厳しいか。近づいたらレーザー攻撃を撃ってくる可能性もある。


 なら……







 ――『もしもし、エリス?』


 ――『……っ!?』



 俺は、エリスの脳に直接語り掛けた。連絡魔法(テレパス)だ。

 彼女は王宮との連絡のためにこの魔法を習得しているのだが、実は俺もこの魔法をダンジョン探索前に習得済みだ。


 この間、べートリーの街に滞在した時だったかな。

 銀行や商人の情報伝達が、中世と思えないほど発達してるって件について、気になった俺は情報収集していたんだけど、商人は麦相場の高速伝達のために「伝信魔術師」という魔術師を雇用することが多いらしい。

 そして、アルフィードにおける同業者組合は、国の指示により例外なく「等級制」が敷かれているため、俺はここでも簡単な勉強で即日資格取得が可能な「F等級」の免許を取得した。


 ……そう、「ランク反転」だ。

 好む好まざるとに関わらず、与えられた能力は活用しなきゃだろう。


 かくして、今の俺は言語ベースでの高速伝達の手段を習得した。

 エリスもこの連絡魔法(テレパス)が使用できる今、遠隔地でも双方向の情報伝達が可能になった。無言での内密な疎通も可能であり、応用の幅もありそうだ。

 ……スマホがありゃ不要な技術と思ったが、こういう急ぎの場面での伝令にもお役立ちってわけだ。パーティー全員に覚えさせたいぐらいだな。




 ――『これから攻勢を仕掛ける。メルとカトレアに作戦を伝えてくれるか?』


 ――『……はいっ、お任せくださいっ!』



 脳裏にエリスの元気の良い返事が響く。

 俺は、対ガーディアンの作戦を彼女に伝えた。


 ……俺は、非戦闘員のエリスを危険な戦いには巻き込みたくなかったし、その気持ちは今も変わらない。

 けれど、それでもこの子は、このパーティーで一緒に冒険をする仲間だ。そうである以上、危機に際しては持てる力を最大限行使して、共に勝利を目指して協力するチームの一員であるべきだろう。


 ……頼りにしてるよ、エリス。




 ――『……は、はいっ!がんばりますっ!』




 ……あっ、やべ。切り忘れてた。




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