#22 最深部をめざそう!
「ジーン!しゃがめっ!」
俺の合図に合わせ、ガーゴイルの爪をロングソードで受けていたジーンは、身体を右斜めにかがめる。それと同時に、俺は踏み込んだ足首を捻り、ガーゴイルに向けていた背中をさらに半回転させ、遠心力を込めた大剣を振り下ろした。
ガーゴイルは、手首から全身を石化させてこれを防ごうとしたが、ロングソードの比ではない重量を持った幅広の大剣は、ガーゴイルの細い手首を粉砕し、力任せにその半身を、斬り砕いた。
* * *
ガーゴイルは魔獣の一種。
この世界特有の動物種であり、猛禽のようなくちばしと蝙蝠のような翼を備えた人型の怪物。そして、自身の身体を石化させる術を持つ。
ガーゴイルは知性を持つ「魔族」ではないが、どうやら古代人は彼らを飼いならす術を持っていたようで、こうした古代遺跡においては「門番」として安置されている。
……個体による容貌のばらつきも多く、普通の石像と混ぜて配置されているので、気を抜くと石像の中から奇襲されたり、あるいはただの石像相手に気を張ることになったりする。……ダンジョン設計者の性格の悪さが伺い知れる。
今回の探索にあたり俺の用意した大剣は、こうしたガーゴイルや、無機系ゴーレムに対処するための装備だ。
普段の攻防については脇に挿したショートソードを使っているが、大型や硬度の高い敵に一撃を与えるために、幅広の重量剣を新調した。この辺りは、エミリア戦のハルバードで武器を砕かれそうになったことからの学びであり、「武器破壊にも耐える、攻撃力の高い獲物」を一本持っておきたかった、という所だ。
おかげで、ジーンの攻撃でも決定力に欠ける敵にも有効打を与えることが可能になった。加えて、副産物的に俺自身にも自然と筋力がついているようで、ステータスを確認したら「攻撃力」が12ほど増えていた。
……この調子で行けば、結構マッチョになれたりして。
剣の刃こぼれを確認するジーン、肉片と化したガーゴイルの残骸を竈火魔法で焼き払うエリスを横目に、メルとカトレアはマッピングされた地図を確認していた。
……カトレアも、魔獣相手だと、死体を焼き払おうが文句言わないんだな。
「……ガーゴイルの出現頻度も大分増えて来たし、そろそろ最深部ね」
「そうなのか?」
「ガーゴイルも繁殖や調教に手間がかかってたみたいだからね。奥になるほど集中して配備されるものなのよ」
「あー、そこにコストかかるなら、そりゃ重要地点の近くに集中して置くよなぁ」
「石像になってる間は寿命も飢餓もないみたいだけど、それでも無限に湧いて出るわけでも無いしね」
……となると、いよいよ宝物殿が近いってわけか。
しかし、思い返すとこのダンジョン、結構奇妙な所が多いんだよな。ここまで現れた「宝箱」……遺跡の側でセキュリティをかけられた宝物について……その半分は既に取得が完了してたんだよな。
……そうなると、俺たちの前に、誰かがこのダンジョンに挑んでたってことなのか?直近の第五階層の宝箱も取得済みだったし、結構奥まで潜ってたことになるぞ?
「んー、でも開けられてない宝箱って、結構ホコリ積もってたわよ?」
「確かに、これまでにも挑戦者は居たんだとは思いますけど、手付かずの宝箱があったのは奇妙ですね」
「……余裕が無くて撤退したか、全範囲のマッピングは辞めて奥に進むことを優先したとか?」
「そうなると、最深部の宝物は、既に持ち去られてる可能性もありますね……」
……おいおい、ここまで進んで「無駄骨でした~!」なんて、本当勘弁だぜ。
「えっと……国王陛下より伺った話では、最深部の宝物に関しては、その取得の有無については、王宮魔術師団が監視しているとも伺っていますので、流石に持ち去られていることはないかと……」
……良かった。無駄足にはならなさそうだ。
「……っていうか、王宮魔術師としての籍のある、メルもそのへんは知らなかったんだな」
「……どうせ私は、機密に関わることもない下っ端よ。文句ある?」
「そうは言ってねぇって……。他意は無いんだから、悪意的に取らないでくれよ……」
「……ふん」
……また、バフが下方修正されてそうだ。
学生の頃の男友達なら、ちょっとしたトゲがある物言いも多少の軽口の範囲だったが、今のパーティーだと下手に調子に乗ったボケを振ると地雷になりかねないからな。……全部、あの女神の無神経チート選出が悪い。
「……もしかすると、その探索者って、宝物殿でしゃれこうべになってるんじゃねぇの?」
「あー、あり得るわね……」
その場合は、宝物殿でミイラか白骨遺体と御対面かぁ……。
下手すりゃ数世紀前の冒険者だし、そんなにグロいことにはなってないと思うけど……、考えたくねぇなぁ。
「……石造りのダンジョンじゃ埋めて埋葬も出来ませんし、今回は放置してくださいよ?」
……だそうだ。
万一遭遇しても、合掌して冥福を祈るぐらいで勘弁してくれよ。
* * *
――ダンジョンの最奥部の開けた大広間。
石畳の床に、壁面に並ぶ巨大な石像。荘厳な大石柱。
部屋の中心、段々となった祭壇へと続く魔力の篝火は、俺たちの入場とともに、ひとつ、またひとつと、ぼんやりと発光を始める。
「……祭壇まで来い、ってことだよな」
「これで、祭壇まで行って矢の雨だったりしたら、設計者の性根ひん曲がってるだろ」
……万一、矢が飛来すればカトレアの障壁魔法で、槍が生えたら俺とジーンでみんなを抱えて跳んで、メルの火球魔法で焼き払う形で対応できそうだ。
トラップには最大限警戒しながら、俺たちは、祭壇へと歩みを進めた。
「……水晶球?半分埋まってんな」
「魔力伝達用のものね。手を振れたら、多分、古代遺物が現れるんじゃない?」
……なるほど。これで、ダンジョン攻略完遂か。
だが、警戒はまだ解けない。最後の最期で罠を喰らって全滅なんて、冗談じゃないからな。
俺はエリスとカトレアを、ジーンはメルを抱えてすぐさま跳躍できるように位置を調整し、そっと、水晶球に手を伸ばした。
………………
――――魔力信号を検知しました。
「!」
宝物殿全体に、大きな声が反響する。
さながら警告を出すように、魔法の照明を明滅させながら、その無機質な声は、読み上げを続けた。
――――種族……人間
――――職能……推定勇者
――――熟練度……推定20前後
――――当該古代遺物の保有資格を確認。
――――継承に際し『試練』フェーズに移行。
俺たちから二十メートルほど先の床面に、青く輝く魔法陣が展開される。
やがて、「それ」は魔法陣から生えてくるように、光の粒子によって徐々に、頭の先端から足元まで、その巨大な体躯を形成する。
錐のような頭。青く輝く単眼。この世界にあるのかはわからないが……クロムのような鈍い金属光沢を放つ胴体。
その両脇に浮遊するのは、青い魔石の埋め込まれた、さながら戦籠手のような巨大な腕。
その全高は五メートルほどだろうか……この世界においては、下手な建造物より、はるかに巨大な体躯だ。
――――宝物殿最終防衛機構 守護者 LV.5、起動。
――――これより、古代遺物継承候補者への、試練を開始します。
……ああ、これは、アレか。
コイツを倒さなきゃ、俺たちの目指す「宝」は手に入らない……ってことか。
まあ、罠ではないみたいだが……実質、罠みたいなもんだな。
この遺跡が英雄の陵墓ってんならさぁ、王様の側でセキュリティ外せるようにシステム作っておいてくれよ……。




