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#21 【龍王】アンナ=バイオレット

 私の名は「アンナ=バイオレット」。

 魔族領域の守護者、『金環の四天王(テトラクラウン)』の一角にして、魔族最強の膂力を持った種族……龍の民(ドラゴン)を統べる【龍王】。

 「真の姿」を見せずとも、当千の武威を示すことのできる、魔界の大将軍だ。


 真紅の瞳、大きな角と硬い鱗を持った、私たち龍魔族(マグナ・ドラゴン)は、「ドラゴンの獣人」とも呼ぶべき種族であり、ノア達がそうであるように、私達もまた人型と龍の姿を自由に変化させることができる。

 正に産まれながらの戦闘部族……って言うと語弊はあるけど、その類稀な膂力を活かした生き方を選ぶと、自然と軍属になることが多い。暴が性に合わない民に関しては、建築や運輸などといった肉体労働に就く者も多い。……知識階級が全くいないわけではないけれど、ね。


 私は、まあ、典型的な龍魔族の一人であり、部族の力比べで並み居る戦士たちを地に伏せて、その長の立場を手に入れた女だ。

 元来、私達の部族は「ドラゴンとしての誇りを〜」みたいな感じで、群れることを好まず中立を貫いていた部族だったんだけど、私の代にはそうも行かない理由ができた。

 ……先代魔王の暴政だ。


 当然私達は反抗したが、流石に相手も魔王。絶大なる魔力と配下の軍勢は、龍城を包囲し、私達の命運は尽きたかに思われた。そこに現れ、私達を救援したものこそが、当時の革命軍を指揮していた、我が主「グレタ=イーヴリット」だ。


 革命の成立後も、龍都の復興に尽力した新たな魔王様は、龍の民(ドラゴン)の戦士長たちにも、領民たちにも、深く敬愛されている。

 「龍の王」を名乗っていた私だが、結局私は「戦士」……せいぜい「将軍」という枠の外に出ることはなかった。統治者としては、明らかにグレタ様の手腕の方が卓越しており、私の役割は彼女の提示する領地運営を実行するといった所に終始した。その結果、魔都に近い立地と、我々の持つマンパワーから、魔都近郊の開発や防衛に優秀な人材を輩出し、その結果、龍都はかつてない発展を遂げ、安寧を享受している。




 ――だからこそ、私はグレタ様の剣となる道を望んだ。


 我が領民、そしてこの東の大地に住まうすべての魔族が、幸福に生きられる道を拓こうという、「魔なる者の王」に相応しい信念。私の持ち得なかった大義。

 それは、私の人生に明確な目標を示してくれる、光のような存在だった。


 ……知恵の回らぬ私は、その武をもってのみ四天王の席に座っている。だからこそ、私は、彼女の、魔王様の障害になるすべての存在を、武力のもとに平定する。それでしか、その存在意義を示すことは叶わない。


 たとえ、相手が勇者であったとしても、私は、魔王様以外の如何なる者にも、武の面では敗北するわけにはいかないのだ――

 




   * * *



「とはいっても、なぁ……」


 現在、私は国境付近にてリナの部隊と待機中。いつでも出動できる体制を整えつつも、特に大きな動きもなく、部下とともに走り込みや素振り、そしてリナの軍団との研鑽を続ける毎日だ。

 リナは、祖母のリザからその剣技を受け継いだ四天王の一角であり、魔王軍に剣術を指南する役目を負っている。そのため、彼女は現在待機中の龍王軍に稽古をつけている。我が兵も、滅多にないリナ直属のエルフのエリート達との親善仕合や、リナ直々の剣術指南を受け、高い士気を維持し、訓練に邁進している。

 

 ……決して悪いことではない。私は職業軍人だが、別に殺しや弱い者いじめが好きなわけではないし、戦争が起こって欲しいなどと考えているわけでもない。平和を享受できること、衝突が起こらないことは、間違いなく好ましい状況ではある。

 反面で、武人としての立場で四天王の席を得た私は、参謀のエミリア、諜報のノア、指南役のリナとは違い、自分の存在意義を、魔王様への忠誠を、戦いの中でしか示すことは叶わない。


 ……「勇者」の能力。特に、我々が【聞一知全(オール・ラーニング)】と仮称する力。

 これは、「人間社会における、全ての技術体系を洗練、融合させる能力」であり、言うなれば人間の「武の頂点」を、現世に体現する能力だ。


 魔王様に釘を刺された通り、私は、この男と、戦いたくて仕方がない。

 人間という種の研鑽の歴史。それに劣らぬ武が、我々魔族に……ひいては魔族の武の極致たる私に宿っていると、身をもって、証明したいのだ。


 ……私は、櫓の上で手すりに肘をつき、走り込みをする兵たちを眺める。魔王様からの下知のなき今、私も勝手に動くわけにもいくまい。

 ……ああ。なんとももどかしく、退屈だ。




「申し上げます、龍王様」

「ん……何かあった?」


 伝令兵が私のもとにやって来た。おそらく、リナからの伝達だろう。だが、彼女の軍にも大きな動きがみられない以上、緊急の要件ではないはずだ。……私の出番は、まだ先だろう。


「勇者一行は、アルフィード東部の『ガンミトラス大遺跡』に入り、この遺跡に安置された遺物を回収に向かったようです」


 はぁー、あそこかぁ……昔、私も腕試しで潜ったことあったなぁ。


「……ご存じなのですか?龍王様」

「うむ、あのあたりは昔から、結構国境線が動きやすくてなぁ。しばらくは魔族領域だったんだけれど、前勇者が暴れたあたりでアルフィード王国が進出して奪還されて、今も実効支配されてるんだよ。向こうでは、かつての王の陵墓ってことになってるけど、そのあたりの歴史認識は魔族側(うちら)とは相違があるかな」

「ははぁ……なるほど」

「ただ、最奥部の古代遺物(アーティファクト)は『人間用の武器』らしくてね。遺跡のシステムにブロックされて、攻略報酬は回収できなかったんだ。その意味だと、あの遺跡について人間側が建てた物ってのは一理ある見解だし、私たちも敵に有利を与えうる武器を……一つの火種を放置してる感じなんだよ」

「なるほど……」


 ………………


 ……ん?


 そうだ、私がまだ血気盛んな悪ガキだった、あの頃。


 舎弟を連れ、腕試しとしてダンジョン攻略をしてた私は、結局は最深部で古代遺物(アーティファクト)を回収できずに撤退した。でも、魔族向けの装備がまだ何かあるんじゃないかと期待し、隅々までのマッピングを行った。

 その結果、特に新たな装備を見つけることは叶わなかったが、『ガンミトラス大遺跡』以外の場所から地上に繋がる、別のルートを見つけ、そこから龍魔族の領地に帰還した。結局、伝説の剣とかを期待してた私にとって、ガッカリしながらの帰路だったものだ。


 ……で、その出入口は?どこに通じていた?


 そう、それは、現在の魔族領域内。

 我々の幕舎から徒歩二十分程度の距離にある、誰にも顧みられないであろう、寂れた小さな祠の跡だ。




 ――これは、天の配剤か。

 今私が考えていることは、間違いなく魔王様に対する不義に当たる。


 だが、しかし、だ。


 あの遺跡の最奥部に「人類の力を更に増大させる古代遺物(アーティファクト)」が安置されていること。

 そのもうひとつの出入口が――おそらく最深部の所在さえも――魔族領域に突出していること。

 その遺跡に、勇者たちが既に挑み始めていること。


 すべての状況がかみ合っていた。


 奴らの力の増大を止められる者は、今、魔族領域において私しかいない。

 古代遺物(アーティファクト)を回収するには、最深部の勇者との接触は必須であり、アイテムを巡り衝突も起こるだろう。


「……ちょっと、森王リナに伝達を頼めるかな」

「は、はい……なんと?」




「『近郊の魔族領域内の施設に、勇者の戦力を大幅に増大させかねない、危険な武具が存在しているのを思い出した。私の手勢とリナの監視兵を連れて、その回収に向かう』……だ」




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