#20 「ダンジョン」にもぐろう!
読者の皆様は、「ダンジョン」をご存じだろうか。
この物語を読み始めたくせに「何それ?わからないなぁ……」なんて白々しいことを言える人は…………
……まあ、これは隣接ジャンルだから知らない場合もあるかな。JRPG好きな人が、みんなローグライク好きってわけでもないだろうし。
……うん、それで、「ダンジョン」。
諸説あるらしいけど、この世界においては「比較的新しい年代に作られた、魔物の巣窟と化した構造物」と「先史時代の古代文明の残した数々のトラップやゴーレムの守る遺跡」の二種類があるらしい。
西側諸国……って言うと、現世在住の読者には語弊がありそうだな。大陸西部の人間領域の国々においては、ほぼ後者のダンジョンしか存在しない。前者のダンジョンは、国境沿いの僻地にあるのみで、基本的には古代文明の地下宝物殿や陵墓が大半らしい。
……まあ、考えてみればわかるけど、「魔王」の配下や領民ってのは、知性を持つ魔族であり、組織だった行動をする。それが、容貌からして魔族と露見するにも関わらず、わざわざ越境して、怪しい根城を建てるかという話だ。そんなもの、国軍に取り囲まれて一網打尽にされるのがオチだろう。
いくら前近代の国とはいえ、アルフィード王国も隣国も、既に領域国家として成立している。魔族の越境は命がけだし、多人数での潜伏も容易ではない。危険な魔獣や山賊の類が越境して根城を築くことは無きにしもあらずだが、それでも内陸にまで進行することは稀だ。JRPGのように「町の外を出歩けば魔物に襲われて……」なんてほど、領土は魔物だらけってわけでも無い。
ゆえに、魔族の拠点としての「ダンジョン」は、国境沿いに作られた前哨基地の塔や、崖をくり抜いた横穴と言ったものが主になる。
反面で「古代文明の遺跡」は、多くの場合は王権の成立時点で「既にそこにあったもの」だ。それは侵入者対策であったり、挑戦者を「試す」意図であったりなどで、トラップやゴーレムが内部を護る。人間世界の破壊を目論む手合いの存在ではないが、それでも内部は危険が溢れている。
……加えて、先の話にも関わるが、これらの古代系ダンジョンには、不法越境した魔族が潜んでいることも少なくない。国軍や冒険者も侵入を躊躇する危険な構造を逆手に取り、人間領域を探るための拠点に使われている、ということだ。
なんでも、ダンジョン設計やゴーレム技術のノウハウは、魔族側では失伝していないらしく、人間側と比べて一日の長があるらしい。その結果、「古代遺跡」は「魔物の拠点」にもなってしまい、ふたつの危険性の融合した、超危険アトラクション施設と化している場合も少なくないわけだ。十分な準備もなく挑めば、命の保証はないだろう。
だが、相応の見返りというべきか、古代遺跡のダンジョンは、最奥部に武具やマジックアイテムなど、冒険者にとっての「お宝」が安置されていたりという、「美味しい」おまけも考えられる。
というわけで、俺たちはアルフィードの東端「ガンミトラス大遺跡」の攻略を開始した。この遺跡は、かつてアルフィードの建国にも関わった、古代の「勇者」の陵墓であり、彼の用いた武具が安置されているとされる地だ。王命を受けた俺たちは、国難を排すためということで、その「武器」を回収すべく、探索に向かった。
……墓だからな。動画配信とか不謹慎なことは、期待しないでくれよ?
* * *
「竈火魔法――」
エリスの手元に結ばれた火種は、通路に付着していた粘性魔獣に接触すると、激しい炎を燃え上がらせ、この水分を蒸発させた。
「おー、すげぇ火力……」
「……家政用の簡易詠唱の魔法でここまで威力出るなんて、相変わらず女神の加護はえぐいわねぇ」
「流石は、偉大なる主の授け給うた御力という所でしょう」
この世界のスライムはゼリー状のかわいい雑魚ではなく、ねばねばドロドロの粘性生物だ。付着した対象を溶解して、体内に取り込み栄養にする。意志を持った硫酸みたいな奴だ。
剣による斬撃も、コアに当てなければ有効打にはなりにくい。こいつらへの対処は、魔法や、たいまつで火炙りにするのが順当だ。そして、その王道に則り、俺たちの目の前のスライムも、気付けば水分を失いパリパリのせんべいみたいになっていた。
俺たちは、半透明の憐れなせんべいを踏み砕き、粉々にしてとどめを刺した。
ダンジョン攻略に際して、エリスは非戦闘要員として、基本的に煮炊き、アイテム管理、荷運び、マッピングなどのサポートを行い、後方支援に徹している。……本来なら、街で待っていてもらうべきなのだが、そうした庶務への信頼と、パーティーメンバーの成長、女神の加護の強化で、効率的な探索のために同行してもらう形になった。今やっているのは、そのための「実験」の一環でもある。
「出力は私と大差ないし、スライムみたいに動かない敵なら、エリスの魔法も有効打になりそうね」
「それでも、探索中に魔力を無駄遣いしてしまうなら、温存した方が良いのでは?」
「……たしかに、水源魔法を使う魔力まで枯渇したら、ダンジョン探索では厳しそうだな」
つまるところ、エリスの家政魔法も、探索の中で攻撃に使えないかというのが、今回の実験の趣旨だ。彼女の魔法は基本的に、家事や野営に役立つものであり、本来的には攻撃に使用するものではない。
しかし、俺の女神の加護……「ハーレムバフ」の影響で魔力出力の上がった彼女の場合、その制御を意図的に放棄し全力で力を出せば、モンスターへの有効打にもなり得るというわけだ。ただ、俺としては彼女を戦闘要員に据えるというより、護身術として身を守るのに使ってもらえれば、という趣旨が大きい。
「えっと……魔力についてなんですが、多分、時間経過で回復する印象で……」
「まあ、魔力ってそういうもんよね。大体、一日休めば完全な枯渇状態でも、また全快になるわ」
「それが、私、多分、二時間ぐらいで魔力も満杯になってる感覚で……」
「……はぁっ!?」
メルとカトレアは声を荒げ、エリスはびくりと肩を震わせた。
……これはアレだ。ハーレムバフによるチートの作用だな。
詰め寄る二人、なだめるジーンを脇目に、俺はステータスウィンドウを開く。
◆メル=ハリントン
MP:210/256(+32)
◆カトレア=チャッペル
MP:227/248(+24)
◆エリス=ブライト
MP:301/325(+260)
……うん。
チート加護は相変わらずバグってんな。元のMPは「65」……ってことは、五倍だ。
加えて、二人に詰め寄られてる今、ウィンドウのMPが302に増えた。……これ、多分回復効率にもバフかかってんな。バカスカ打ちすぎることは避けるべきだが、威力をセーブした家政魔法については、あまり枯渇は意識しなくてもいいかもしれない。
……いや、「俺が死んだ場合」のことも考えるべきか。
そこまで行かずとも、ダンジョン内で何かやらかして、エリスからの好感度がダダ落ちした場合、ハーレムバフの効果は大幅に失われる。エリスだけではなく、パーティーメンバー全員にも言えるだろうが、それでも彼女が最も危険な状況に置かれることは自明だ。
そうなると、パーティーが非常に大きな危機に際しておらず、安全な撤退が可能な状況下に限定して運用する、ってのが最適だろうな。それこそ、致命的な緊急時に彼女の出力を頼る場面はあるかもしれないが、それも最終手段だ。
……っていうか、好感度なんて目に見えない、いくらでも変動するパラメータをバフの条件にすんなよ、クソ女神め。こっちは喫緊の命懸けの問題のために必死こいてるってのに、人間の命を肴にして楽しんでやがんのか?
敬虔な信徒やってるカトレアの手前、表には出せないが、マジでろくでもねぇ女神だよ。……っていうか、カトレアの上昇率低いの、間違いなくてめぇのせいだからな。
……そんなにチート活劇楽しみたいなら、WEB小説でも漁って読んでろや。




