#1 「テンプレ勇者」になろう!
はじめまして。俺の名前は伊勢海人。漢字で書くと伊勢海老みたいな名前をした、キラキラネームを回避したにも拘らずシーフードに片足を突っ込んでしまった、憐れな男子大学生だ。
でもまあ、小学生の頃にからかわれたシーフードの方が、俺的にはまだマシだったんだ。
ターニングポイントは中学生。俺のあだ名は斜め上の方向にアクセルを踏み込んでしまった。
――イセカイ人……「異世界人」だ。
* * *
読者の皆様におかれては、この物語に「チート勇者が鼻持ちならない異世界人をボコして女にモテまくるお話」を期待されていることだろう。
申し訳ないが、俺はこの「イセカイ人」みたいな本名に反し、異世界無双モノはまったくもって趣味ではない。
俺の好きなものはハードボイルドな主人公の活躍する作品。男の美学って言えばいいのかな。かっこいい男ってのはさ、納得いくだけの甲斐性ってのが求められると、俺は思ってるわけよ。
些末な事には心動かされることもなく、愛した者のために……あるいは愛した者を失ってでも、闘いの場に臨み、自分のやるべき役目を粛々と果たす。
悲しみを表に出すこともなく、ただ一人、誰に知られることもなく夜の闇へと消えていく……そういう男の中の男が、俺の憧れだ。
なので、何のバックボーンもない、その辺のボンクラが、不釣り合いにモテたり、最強パワーを行使するのって、正直言って最悪だと思ってる。
第一、そんな強い力もってるのに無自覚気取ってるのも癪だ。カマトトぶりやがって。男のぶりっ子なんて、こっちは求めちゃいねぇんだよ。天下の覇権少年誌の主人公達だって、もっと頑張って困難に立ち向かってるだろうが。
そりゃ俺だって、ボンクラ大学生だよ。親の金で大学通っておいて、出席でとれる単位は、代返ローテで平然とサボってる、ダメ学生だ。
でも、フィクションの中ぐらいさ、ハードボイルドでカッコいい男になりたいって思うもんだろ。
白々しいチートカマトト野郎ってのは、等身大の俺として当事者意識は高まるかもしれないがさ、等身大の俺がズルして強くなる話とか、気持ち悪くて読んでられねぇ。
自己投影ってのはさ、共感できる動機があるなら、別に等身大じゃなくていいわけ。世紀末救世主や、不良のレッテルを張られてる高校生、戦闘民族宇宙人たちが、みんな等身大か?
……んなワケねぇよな。成長中のキッズは「子供らしい純粋さ」を魅力なんて思わねぇ。カッコいい大人に「憧れたい」んだよ。童心は取り違えちゃなんねぇ。
……というあたりが、俺のフィクションに対する持論だ。主人公は「投影」より「憧れ」が基本スタンスってこと。「かっけー!」って思える主人公と自己同一化できた方が気持ちいいって、絶対。
当事者になりたいんじゃない。かっけぇヒーローや仕事人になる夢が見たいんだよ、俺は。
だから、俺はWEB小説の主人公みたいな「憧れ」と程遠い主人公は、大嫌いなわけ。何が異世界転生だよ、まったく。
* * *
「あー、英雄技能破棄は認められませんねぇ……呼び出し側からの要望なので……」
俺の前の女神はそう答えた。ひらひらの布でボディラインちらつかせやがって。挿絵やコミカライズで読者をエロ釣りしようとしてやがんのか?軟派女神がよ。
「……つーか、なんで当事者である俺の希望無視なんだよ」
「英雄召喚のための魔法儀式ですからねぇ。使用者側の都合ですよ」
……さて、ここに至る経緯を話したいが、マジで話すこともない。
明日の講義をサボり、バイト代でネカフェに泊まり込んで名作スナイパー漫画を読破する算段を立てていた俺だが、その道中で信号無視のトラックが突っ込んできた。
人生終了だな。異世界転生とか勘弁してくれよ、と思ってたら……なんか、こう、いきなり、周囲が光った。
そして、気付けばなんかこの超然とした転生待ち空間みたいなスペースに来た。トラックにはねられて転生かと思ったが、話を聞くにそうではなく、なんかこの女神の魔法で拉致られたらしい。
「人さらいの上にチート改造とか、やってること悪の組織じゃねぇか」
「と、ともかく……若くして亡くなるところだったあなたにも、ワンチャンあるんですよ!来世では英雄になれるんです!がんばりましょうよ!?」
サボり大学生の俺が英雄と来たか。安い英雄譚もあったもんだ。
つーか、チート野郎に何をがんばれってんだよ。全ては上位存在のレールの上じゃねぇか。
「じゃ、さっそく持たせる英雄技能を決めていきましょうね。表計算のマクロ組んでるんで、ワンボタンで抽出できるんですよ。すごいでしょ?」
「すげぇ、しょうもない自慢」
「それ、ぽちっと」
女神は、手元のマウスを操作し、ノートPCの表計算ソフトのボタンを押した。
「あっ、出ました!じゃあ、あなたに与えられるのはこの三技能です!」
【ランク反転】
ギルド協会の認定ランクが低いほど、対象の能力が強化される!
Fランク冒険者もSSSクラスの能力が使えるぞ!
影の実力者を目指す人にはもってこい!
【無自覚最強】
好きな魔法がいくらでも打てるほどの、膨大な魔力を得る!
あなたを知る者に「強さ」を知られていなければ、その度合いは跳ね上がる!
全力でしらばっくれろ!
【ハーレムバフ】
対象に好意を持つ女性と行動することで、強力なバフがかかる!
愛と絆の力で、強力なパーティーを築こう!
(※)あくまで自由恋愛で女神は一切の責任を負いません。
「あれ?どうされました?頭を抱えて……」
「……あのさぁ、俺に何か恨みでもあるの?」
「いやいや!男の夢でしょ?最強マウントと、ハーレム」
「主語デカすぎ。サンプルが明らかに偏ってるんだよ。東京の街頭でアンケでも取って出直しやがれ」
俺の悪態はどこ吹く風で、女神は3Dソフトを起動した。
……そこに映っていたのは……俺の顔?
「今回は転生じゃなく転移なので、肉体は基本そのままですけど……」
女神が画面上の鼻をドラッグすると、俺の鼻もにょきにょきと伸びる。
「うん。顔については、今の顔つきをベースに、少しアイドル風にレタッチしておきますね」
「……おい、暗に俺の顔が悪いって言ってんだろそれ」
「いや、別にそこまででもないですが……ハーレム構築となると、少しは手心も必要じゃないですか」
「……ぜってぇ、ハーレムなんて作らねぇ」
「役目を果たすつもりもないってなったら……多分、現世送還になります。元の場所でトラックでミンチ、即人生終了ですね」
「最悪」
……かくして、バッタ人間もびっくりな魔改造を受けた俺は、女神に背中を押されて魔法陣の上に誘導される。
「じゃ、頑張って世界を平和にしてくださいね~」
「ここまで尊厳破壊されて、モチベ高く維持できる人なんている?」
「まあまあ、せっかくなんで楽しく過ごしてくださいよ。きっといい旅になりますって」
「帰りの切符ねぇだろうが……」
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【第一部】テンプレ勇者パーティー冒険記
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「というわけでして……どうかこの国を、人間世界を、魔族の脅威から救っては頂けないでしょうか……」
腰の低い王様が、俺に懇願していた。
……正直、全然気が進まないが、他に出来ることもないし、ここで断って送還されて、現世でミンチになりたくもない。
しゃあない……やるしかないな。
「無自覚チート勇者」ってヤツをさ。
うわっ、言ってて気分悪くなってきた。
やっぱり、ミンチの方がマシかも……。
(※)本作は異世界転生モノの逆張り作品です。
チートもあり多数ヒロインも出ますが、終始こんなノリの主人公が冒険する、王道勇者召喚ものです。
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