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#14 チート勇者 vs 気高き魔族

「エリスっ!下がって……その子のそばにっ!」


 私は影を編み、手持ち武器として三叉槍(トライデント)を生成する。

 それと同時に、奴が剣を構えるのを待つことなく、その体を三本の先端で貫くべく、即座に突きを放つ――!


「……うおっ!!」


 勇者は、私の突きを紙一重で回避する。だが、それこそが思うつぼだ。

 私は、「影」の三叉槍の形状を変形させる。


 草を刈り取るように、背骨もろともに胴を両断する、「大鎌」――

 私は……その持ち手を握り締め、勢いよく、引いた――!



 ――勇者は、その場で跳躍した。

 背筋を逸らし、足を持ち上げ、鎌の斬撃を背中越しに飛び越えた。

 そして、そのまま後ろに飛び退き、身体のバネの勢いに任せ、後転し、その場で立ち上がった。


 なぜ、今の攻撃を避けられる……?

 視野の外……背面からのノータイムの攻撃だぞ?気流の変化?手元の動作からの推察?


 ……どちらにしても、判断は一瞬。

 こんな断片情報から、最適な回避行動に移れるなんて……っ!


 私は、続けざまに鎌を振るう。斬り下ろすように。突き刺すように。

 だが、私の斬撃は、奴の、勇者の目の前をかすめるばかり。

 私の手から投射される、影のナイフも、その全ては剣に弾かれ、奴の服にすら、かすりもしない。


 ……なんなんだ、この動きは。

 当たらない。当てられる気が、まるでしない。


 剣士、槍兵、武闘家(モンク)舞踏家(ダンサー)盗賊(シーフ)忍者(ニンジャ)……どれとも似ているようで、どれとも違う。

 剛と柔が矛盾なく同居するその動きは、どの職業(ジョブ)の技術体系にも沿っていないようで、全ての技巧を融合させた達人のそれにも思える。


 ……明らかにおかしい。

 この男は、この世界に来て、まだ数か月しか経っていないはずだ。

 こんな、あらゆる戦闘体系を混合し逸脱させたような、不気味な身のこなしを、どう鍛錬すれば身につけられる?


 ………………


 ……小賢しい論理で推し量れる力ではない、か。

 あらゆる「文脈」を踏み砕く、女神の祝福を受けた、無法の力。

 魔王様の命にも届き得る、この世の(ことわり)を越えた、暴なる力の極み。



 ――これが、「勇者(ゆうしゃ)」か。



 私は、自身の武器を槍斧(ハルバード)に変形させ、遠心力を込めた回転斬撃を放つ。

 奴は、初撃を剣で受けるも、武器破壊の懸念を悟ると、それを脇に流し、剣の破損を避けながら回避行動をとる。奴は私の薙ぎ払いと突きを避けながら、距離を開けた。


 私も、深追いはせずに構えを立て直した。改めて、影の武器を手頃な大きさに編み直し、頬を伝う冷や汗を、手の甲で拭った。



 ――無理だ。


 このままでは、どうやっても奴を殺すことはできない。

 この「勇者」の実力は、埒外だ。少なくとも、あの子供を傷つけないように、この男だけを、この場で殺すのは、不可能だ。


 ……ならば、あのメイドを、人質に取るか?

 二人がどういう関係なのかは知らないが……あの男は、この女に、強い信頼を置いているのも、見て取れる。

 その弱みに付け込んで、奴の動揺を誘えば……、あるいは女を盾に武装を解かせることだって……


 ………………


 ……ははっ。

 誉れ高き真の魔王、グレタ陛下の認める「王」に、あるまじき考え方だ。

 誰が、そんな卑劣な真似を……するものか……!


 この私がっ!

金環の四天王(テトラクラウン)』が!

【鬼王】エミリア=ターコイズが!


 卑劣にも、市井の非戦闘員に刃を向けて、無様に敗北を請うだと?

 そのような、惰弱な真似をしてたまるものかよ!!




「エミリア……さま……」


 私を呼ぶ声が耳に入り、声の方向を振り向く。

 私と同じ青い肌の子供は、私の方を向き、か細く、震えながら、声をあげた。

 

「負けないで……っ!」


 ああ、心配をかけてしまったか。

 ……情けないな。この子の前で、王として情けない姿など、見せたくなかったのに。


「大丈夫」


 心配はいらない。

 坊やは、必ず私が、元居た場所に送り届ける。

 だから――




「……知り合いなのか?」


 勇者が、剣を構えたまま口を開いた。

 私か、あるいはこの子供への問いかけか。


「……違うわよ」


 私は、槍の穂先を勇者に向け、構えを立て直す。


「……それでも、私は青魔族(ブルーデーモン)の部族を統べる【鬼王】。そんな私が、同胞を見捨て、悪しき人間にその身柄を明け渡すなんて……するはずもないでしょう?」

「…………」

「この子を生かして、魔族の村に道案内をさせるか、奴隷商に売り飛ばすか、子飼いの慰み者にでもするつもりか……あなたの思惑など、知ったことではない。私は、その子の『王』として、果たすべき責務を全うするだけ」


 私は、その男への「恐怖」を噛み殺すように、こぶしを握り、啖呵を切った。


「私は、誇り高き魔族領域の守護者……『金環の四天王(テトラクラウン)』!魔の民(アスラ)の王の名にかけて、その子は私が――」


「……それを聞けて良かったよ」



 勇者は、構えを解き……剣を鞘に納めた――――




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