#12 【鬼王】エミリア=ターコイズ
私の名は「エミリア=ターコイズ」。
魔族領域の守護者、『金環の四天王』の一角にして、魔族最強の魔力を持った種族……魔の民を統べる【鬼王】。
その中でも、幾千の魔の術を極めた、魔界の大賢者が、私だ。
青い肌と金の瞳、大きな角を持った、私たち青魔族は、その絶大な魔力をもってして、魔界のインフラ開発や整備に従事する、知識階級の者が多い。
そんな中で私は、影を操る戦闘魔法を極め、魔王……グレタ様を支える参謀として、彼女の決起に際して、魔術師部隊を編成し、その脇を固めた。
革命の成立後は、荒廃した魔都の復興に尽力し、先代魔王の頃とは比較にならない繁栄を築き上げた。自慢にはなってしまうが、戦闘以外においても魔王様がもっとも信頼する将は、私だろう。
――情報を制する者が、戦いを制す。
私のもとには、魔界全土の、そして人間界の国境付近の情報が集う。
それは偏に、私の開発した【悪魔の瞳】と呼ばれるゴーレムによる所だ。
目玉を模した、極小の軟質ゴーレム。翼や触手を備えた自立的に動くこのゴーレムは、視覚情報を魔都に送信し、魔導術式を刻み込んだ硝子板に映像として投影する。
これにより、私の配下である観測魔術師団が情報を処理、不平部族の反乱を未然に察知し、魔王軍の巡幸と称して示威を行うことで、反乱の抑止なども行っていた。
この高度な魔術的監視網こそが、私の最大の武器であり、戦乱を望まぬグレタ様の意向を汲む「予防の力」と言えるだろう。
さて、オメガルド大陸全土に放った【悪魔の瞳】……特に、アルフィード領の無法者の隠れ家などに潜ませたこれらは、勇者に接触するその時を待ち続けていた。偏に、魔王様に仇なす、勇者『カイト』の情報を暴くために。
さあ、教えてもらおうかしら、あなたの全てを――
* * *
……って言っても、さっきからこの子、メイドの子と一緒に死体を運び出して、穴に埋めてるだけじゃない。
私たち魔族なら、死体が放つ瘴気を抑えるためにってことで、無法者も行き倒れも穴に埋める風習もあるけど……人間界でわざわざ山賊を埋めて葬るなんて、奇特な男よね。博愛思想でも持ってるのかしら。
ノアは、無邪気というか、お子様というか、こういう甘い人間に絆されやすい所は、確かにあるかなって思う。けど、それは世間知らずだからこそって感じよね。
まあ、当然私は同じ轍は踏まないけど。私にそんな甘さはないし、不用意に彼と接触するつもりも、慣れ合うつもりもないからね。このまま距離を取って観察を続けていくつもりよ。今回の任務は、戦闘でも暗殺でもない。彼の弱点を暴き出すことなんだから。
――情報戦は私の舞台。覚悟なさい、勇者『カイト』くん?
あなたは、私に恐怖することさえ出来ないままに、全てをさらけ出すことになるのよ。
「あれ、何か落ちましたよ?」
「本当だ……鍵?」
物陰に隠れ、彼らを見つめる【悪魔の瞳】。
その瞳に映る映像が、私の装備した眼鏡に投影される。おおよその会話は、読唇術で推測可能だ。
彼らが両手両足を掴んで運ぶ死体――おそらく山賊の首領のそれと思われる――から、鍵が落ちたようだ。
「奴隷商の契約書は、俺が解錠魔法で開けたけど、鍵穴の形状が違うな……」
「牢獄の鍵ではないですか?」
「いや、あれ木の杭を組み合わせたものだし、多分違うと思うな」
「となると……別に何か開けられるものが、この洞窟の中にあるのかも、ですね……」
「………………」
「………………」
「もしかしたら、まださらわれた子がいるのかもしれない。念のため、もう一度中を確認するか」
「……はい」
……ふむ、じゃあ、こちらも悪魔の瞳を追跡させようかしら。
暗視機能持ちの個体を向かわせて正解だったわね。
* * *
「隠し部屋……ですか?」
「……ああ。扉は木箱で隠して、周りに馴染むように砂を塗り付けてあるけど、この先から空気の流れを感じる」
「本当ですね……」
「……この先、山賊の残党がいる可能性もある。俺から離れないように、着いてきてくれ」
「はい……」
照明魔法を手元に浮かべながら、勇者とメイドは寄り添うように歩みを進める。
この男、勇者の特性なのかもしれないけど、大分幅広い魔法使うわね……。これ、大母聖教会の簡易神聖呪文じゃない……女神の加護?
古文書を漁って、真面目に魔法修めた身からすると、本当に腹立つわね……。
「!」
「鉄格子……の奥に、誰かいる!?」
「子供……ですか?」
「ああ……」
「……っ!?」
「ゆ、勇者様……どうされたんですか?」
「………………」
「…………っ!!」
勇者とメイドの驚愕。照らす光の先に佇む小柄な人影。
それは、私にとっても、とても馴染み深い「子供」だった。
だからこそ、私も、彼らと同じように、その事実に驚愕するしかなかった。
――青い肌に金の瞳、可愛らしい小さな角。
そこに囚われていたのは、年端もいかない青魔族の少年だった。




