表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

107/108

#50 転移より一年半、第五金環騎士に就任す

 ――魔都の中央に位置する大広場(スクエア)


 そこは、かつてベルゼアルやグレタが戴冠を行う際に、その威信を市民に示す際に使われた場所でもあり、それ以前も魔王の成婚を祝うパレードなどの後に演説(スピーチ)を行うことにも利用されたらしい。


 鮮やかなタイルの敷き詰められ、大きな時計塔に見下ろされた下で露店の並ぶ小洒落たその広場は、今の若者にとっては「魔都プシュリオールの繁栄」を象徴するモダンな空間だ。


 ……しかし、かつてのベルゼアル統治下では、数多くの反逆者が首を刎ねられた公開処刑の場であり、年配の魔族にとっては「血塗られた広場」という印象を持つ者も少なくないという。



 そんな広場を貸し切るように、数週間をかけて建設された木造の仮設舞台。そこに集まる魔都の市民たちは、壇上の道化(クラウン)が、ジャグリングなどの大道芸や、おどけた芝居を見せる様子に、笑いを漏らしていた。

 これは、これから行う「式典」に向けた、市民の耳目を引くための余興(パフォーマンス)である。「パンとサーカス」という言葉もあるが、現代日本の様なインドア遊戯の発展していないこの世界において、大衆は娯楽に飢えているのが常である。


 そんなわけで、検問で武器の非携帯を確認した市民たちには、堅パンと「マグナミート」に発注した干し肉が配られた。


 魔都近郊で絶大な人気を博す、小さな「版画」と共に。




 ――第五金環騎士ナイト・オブ・フィフスクラウン「オブシディアン」。


 金の意匠の施された黒紫のアーマーに、歪曲した角の生えた双眼のフルフェイスの兜を着用した、白いマフラーの正体不明の謎多き戦士。

 主に魔都やその近郊の「魔の民(アスラ)」領内で活動し、市中の犯罪の摘発を行った実績を持つ彼は、当初は市民からも怪訝な目で見られていた。


 だが、魔王の命で魔族領域全域に掲示された版画により、その存在が市民に知られてからは、「四天王に次ぐ魔族領域の剣」の誕生に、人々は安堵と期待を寄せた。


 もっとも、圧政を経験した老人たちは「武力による抑圧」を懸念した。ベルゼアルも、当初は民衆の中から立ち上がった「頼れるリーダー」であったため、そうした存在の台頭は、決して好意的には見られなかった。


 ……しかしながら、その威圧的な「黒い騎士」の行いが、決して派手な武力行使だけではなく、スリやひったくりの摘発、学問所近辺のパトロール、道案内や荷物持ち、地域のごみ拾い運動など、いささか卑近な「人助け」に傾倒していることで、毒気を抜かれて行った。


 勿論、警戒する者はゼロになったわけでは無い。

 だが、今や彼の姿は「やさしくて身近なヒーロー」というイメージを確立しつつあり、いくつかの同業者組合(ギルド)は、これを商機と見て小版画(トレカ)を製造して、商品のおまけとして販促に使用している。

 先に述べた「マグナミート」なども、それにより躍進した店である。


 つまりは「パンとサーカス」の抱き合わせ、ということだ。

 ……プロパガンダとは、官民の共犯で進められるものなのだろう。



   * * *



「いやぁ~、シュリンプさん。人気者ですねぇ『フィフスクラウン』は……」


 隣で、道化の格好をした、壮年の獣人男性が語り掛けた。

 ……彼は、王宮に勤める王宮道化師(ジェスター)の一人、俺の同僚だ。


 壇上には、寡黙な黒い騎士が立ち、ポーズを決める。

 そこに飛び掛かっていく道化たちは、「剣」の小道具で斬られた演技をして、コミカルに宙返りをしながら倒れ伏せる。


 魔王のスピーチの前座がヒーローショー、しまらないなぁ……。


 壇上の黒い鎧。

 あれは俺じゃなくて、俺の作った影人形だ。「ネコちゃん人形」と同じ要領だな。


 日本で過ごした年代的に、グレタも特撮なんてものは知らないようで、エミリアからの企画提案に「市民も喜ぶだろうし、良いんじゃない?」と、笑って承認してしまった。

 ……裏では絶対、アオーニさんが暗躍してると思う。




「私ら道化は笑われることが仕事ですがね、それでもやっぱり子供の頃は、魔王陛下のために格好良く戦える戦士になりたいって思ったもんですよ……正直、憧れますね」


「……格好いい、ですかね?あれ」


 俺は、口をもごもごとさせながら答えた。

 ……道化の男性は、俺の返答に一瞬困惑したようだが、苦笑いを浮かべた。


 ……オブシディアンに嫉妬する、憐れなピエロに映ったか?

 まあ、実際のところ、道化(ピエロ)だしな……。


「……私は、カッコいいと思いますねぇ。魔都の住民たちは、最初は彼を怪訝な目で見てましたけど、なんだかんだ彼に好意的な目を送るようになってますよ?」


 ……アレを、そんなまっすぐに褒められるのも、なかなか恥ずかしい。

 居心地の悪さを誤魔化すように……あるいは「アリバイ」を作るように、俺は嫉妬ピエロを演じることにした。


「……言っても、顔を隠して活動って、やっぱり不審者っぽくないですかねぇ。先代魔王の件もありますし、あんまり公の武力を『カッコいいから』と信用し過ぎるのも良くないですよ」


「はは。私らも宮仕えでしょ」


「…………」


 そりゃそうだ。

 ツッコミの鋭さは流石はコメディアンか。


「……まあ、それでも、やっぱり悪い人じゃないと思いますよ、私は」


「……どうしてそう思うんです?」


「それは、ほら……」


 道化の一人が、黒い鎧を羽交い絞めする。

 俺は、事前の殺陣の打ち合わせに合わせて、拘束された足をばたつかせて、二人の道化をあしらって見せた。

 拘束から脱出した黒い鎧は、バック宙で羽交い絞めしていた道化を膝カックンで跪かせる。聴衆から、笑いが漏れた。




「ふふ……。私らの道化芝居に、あんな真面目に付き合ってくれる人が、ベルゼアルの同類とは、やっぱり思えませんね」


「…………」


「きっと、他人から笑われることより、周囲に喜んでもらうことが大事って、根っこが真面目な人なんでしょう。なんなら、騎士じゃなく道化でも成功できるかもしれませんよ、彼は」


「…………」


 ……わかってて言ってるんじゃないかって、怖くなるな。

 まあ、彼の視線は「俺」より「オブシディアン」に向けられている。素直な気持ちで、「アレ」に好感を持ってくれているんだろう。

 それはまあ、決して悪いことでもあるまい。



 ……道化の厚化粧しててよかったな。

 多分、俺の顔、紅くなってるよ……。



「……じゃあ、そろそろ出番ですし、行きましょうか。シュリンプさん」

 

「そうですね。道化の意地ってもんを、あの黒鎧に見せてやりましょう。『アルフィード国王陛下』」


「はは、台本を無視して彼に殴りかかったりしないでくださいよ?『勇者カイト=イセ』さん」




 王冠をつけた同僚は、ちゃちな勇者装束の俺と共に、ステージに躍り出た。


 アルフィード王の命を受けた「勇者カイト」。

 第五金環騎士「オブシディアン」。


 ――ここに、人魔領域の勇者たちの、一騎打ちが始まる。




 ……絶対に実現しない夢の対戦カードだからさ。

 キッズのみんなは、存分に楽しんでくれよな。




   * * *




 余興も終わり、道化の退場と共に、荘厳な音楽が流れる。

 俺は舞台から降り、民衆と同じ高さで、黒い鎧を操る。 


 やがて、舞台からさらに高い場所に設置された階段の上に、魔法陣が出現する。

 そして、移送魔法(ワープポータル)を通り、彼女は現れた。




 ――黒蝕の魔王ロード・オブ・イクリプス「グレタ=イーヴリット」。




 彼女は、高台から民を睥睨する。

 一瞬、俺と目が合った時、彼女は密かに微笑んだように見えた。


 ……いや、アイドルのファンサじゃねぇぞ。自意識過剰か。


 ……まあ、初対面の最悪の印象は、お互い払拭できたってとこかな。

 民の前に出るに際して、遠目にも(プレッシャー)を伴うほどの魔力を解放し、背後の景色を揺らがせるグレタ。

 そんな彼女に、今の俺は特に不快感を感じることも無かった。


 ――今の俺は知っている。

 彼女が、民を愛し、国を護る使命を負った者であることを。

 同じ故郷を旅立ち、この世界で成すべきことをやり遂げようと、闘い続けている同志であることを。


 俺は、重厚感を演出するように、黒い鎧を一歩、また一歩と、階段を登らせて、彼女の元に導いていく。


 やがて、同じ高台に上った「オブシディアン」は、彼女の前で、滑らかな所作で膝をついた。

 グレタは、その手に儀礼用の剣を持ち、その鎧の両肩を軽く叩き、鎧に差し出した。


 俺は、影人形が剣を受け取るのに合わせ、メットの構築を解除する。民衆からは後ろ姿しか見えていない。

 黒い繊維の(ウィッグ)を風でなびかせながら、その人形は彼女の手を取り、その甲に接吻(キス)をし、忠誠を誓った。


 やがて、演奏が鳴りやむと同時に、俺は再びメットを構築し、「オブシディアン」を聴衆に向かって振り返らせた。


 グレタもまた、一歩前に出る形で、黒鎧と横並びになり、民衆に視線を送る。


 魔族(ひとびと)は、魔王グレタに、オブシディアンに、じっと視線を送る。

 やがて、静寂を破るように、魔王グレタは大きな声を張り上げた。




 ――全ての魔族領域に住まう、親愛なる同胞に告ぐ!




 ――本日、この時をもって、この男「オブシディアン」を、


 ――金環の四天王(テトラクラウン)に並ぶ、第五金環騎士ナイト・オブ・フィフスクラウンに任じ、


 ――正式に余の軍門に迎え入れることを、ここに宣言する!




 ――汝は、魔族領域の「(ぎょく)」である!


 ――あまねく民を愛し、濁り無き意志を体現せよ!



 ――汝は、魔族領域の「(かがみ)」である!


 ――たゆまぬ省察をもって、正義と真実を照らし出せ!



 ――汝は、魔族領域の「(つるぎ)」である!


 ――その武威をもって、悪しき怨敵を打倒せよ!




 ――黒曜の守護者「オブシディアン」よ!


 ――万民を護る、比類なき勇を持つ戦士として!


 ――万民を愛す、慈悲と信念の体現者として!


 ――恒久なる安寧を、(つい)の大地に敷設(ふせつ)せよ!




 黒い鎧が剣を掲げると同時に、聴衆は湧き立った。

 広場に響く歓声。終わり無く続くような万歳三唱。

 

「魔王陛下万歳!」

第五金環騎士(フィフスクラウン)万歳!」

「魔族連邦に栄光あれ!」


 気付けば、隣の同僚も万歳三唱に加わっていた。

 ……正直、自作自演だから恥ずかしいけど、意地はっても違和感出るから、俺も空気読んで加わるべきか。



 ……こういう任命式って、フィクションだと盛り上がるべき所なんだろうけど、やっぱりいささか全体主義的だ。

 戦後産まれの元日本人としては、目の前でこの手の光景を見ると、ゾワゾワするのが本心ではある。


 ……まあ、だからこそ、だ。

 俺はこの光景を「外から」見ることが出来て良かったと、そう思う。


「玉のような信念」「鏡のような自省」を持って「正しき力」であれというグレタの言葉。それは、女神が語った「俺を見出した理由」にも通ずる。


 グレタに力を貸そうと決めたあの日。

 俺の中にあった「人々を護りたい」という信念。


 これを濁らせて、欲や不満の解消のために、自身の悪行を正当化する醜い暴力の行使者にならないために。

西城(さいじょう) 諌実(いさみ)」や「ベルゼアル=イーブリット」の二の舞を演じないために。


 護るべき人々の苦境から目を逸らすことなく、報われずとも腐ることなく、「正義の執行者」であり続けること。

 これが、きっと俺のあるべき姿であり、民衆の真に求める「ヒーロー」の姿なんだろう。




 ――グレタは聴衆に背を向け、再び高台に移送魔法(ワープポータル)を開いた。

 俺は影人形を操作し、彼女の背中を追うように、影人形をポータルへ進ませた。その体が広場から消えたのを確認し、俺は影人形の実体化を解除する。




 ――広場には、万歳三唱が響く。

 俺は、俺の力で救うべき人たちの熱狂を横目に、その声がやむまでの間、日和見的な己への万歳三唱を唱え続けていた。







――――――――――――――――――――――


【第二部】魔の都プシュリオール滞在記、完


――――――――――――――――――――――





【第三部について】

 魔族領域の剣「第五金環騎士(フィフスクラウン)」となったカイトと、巨悪である「貴種選民独立自治同盟(M.A.F.I.A)」の戦い。

 いよいよ、その幕が開く……のですが、今後の展開や構成を整理するためにも、しばらくの間、準備期間を頂きたく思います。


 読者の皆様におかれましては、お待たせする形となってしまいますが、連載再開の通知が入るようフォローの上、しばしお待ちいただけますと幸いです。

(また、第二部で登場したキャラクターの背景設定や制作の裏話についても、活動報告にて、おまけとして公開したいと思います)


 もし楽しんで頂けましたら、☆評価を頂けますと励みになります!




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ