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#48 議題「極星の道化師《ポーラ・ジェスター》」

 グレタは手元のポットで茶を注ぎ、四天王と俺に配る。エリスは後ろの棚から茶菓子を皿に出して運ぶ。

 ……俺も、何かお土産買ってくるべきだったかもな。


「……ほら、エリスも椅子を出すから座りなさい」


「えっ……それは……」


 皿に盛られたクッキーをテーブルの中央に置いたエリスに、グレタは椅子を指して言った。


「……戦略会議室では、君はカイトと同じ『人間勢力の代表』の客人として扱うから。魔王城の侍女としての役割は横に置きなさい」


 促されるまま、エリスは俺の隣の椅子に腰かけ、グレタはうんうんと頷いた。


 ……結構、仲良くなってるなぁ。




「じゃあ、カイト、みんな、修行完了お疲れ様」


 グレタは、ティーカップで乾杯の音頭を取る。

 魔王の命を忠実に遂行した故か、四天王もどこか自慢げだ。


「これで、当初の予定通り、カイトは魔族領域の技術を学び、人間領域で闘っていた頃以上の実力を身につけた。やれることの幅も、だいぶん広がるね」


 ……改めて考えると、四天王という豪華講師陣の手ほどきは「失った力を取り戻す」と言うより「新たな力の獲得」だったな。

 ガンミトラスでの決闘では大分無理してアンナに一撃を入れただけだけど、今なら一定の駆け引きは成立する程度には成長したわけだし。




「……そういや、修行中は意識してなかったけど、不可解な点があるんだよな」


「……?」


「俺の魔力について。【無銘の王笏(アノニマス・セプター)】による『侮り』がバフの要件だろ?奴隷監禁施設を襲撃した時とか、ある程度仕上がってたんだから、弱体化してないとおかしくない?」


 俺はリナとアンナを見る。

 あの施設の攻略任務の時点では、二人の修行は完了していた。


 あの時、俺は英雄技能(チートスキル)を解放し協同で任務にあたったわけだけど、特に弱体化は感じなかった。

 俺の成長を喜んでくれたリナやアンナが、本心では「そうはいっても子供のお遊びでしょ(笑)」みたいなことを考えていたとは、どうにも考えづらい。


 ……考えてないよね?

 マジでショックだから、考えてないことを祈りたい。



「……そこは【禁環封呪(エンゲージ)】の効果によるところだね」


 グレタは、俺の手首の金色の環に視線を送り、そう言った。


「その輪は、キミの魔力を根から封じてるわけだけど……本来自然発散する魔力は、行き場が無くなるでしょ?その魔力を、手首の環が蓄積(ストック)してるの」


蓄積(ストック)……?」


「そう。キミの……『勇者カイト』の『悪い風評』は、魔都で何度か聞いたでしょ?」


 ……「四天王に無様に敗北し、魔王に情けなく助命を請い、いまや監視下で享楽にふける自堕落な日々を送っている」ね。

 事前に共有されてたけど、行きつけの肉屋の店主がこの話で笑ってたのは、普通に凹んだよ……。


「それで、君が『侮られた』ことで発生した魔力が蓄積され、技能解放時に放出されるの。だから、キミが敵や仲間から認められても、勇者の風評さえ悪ければ、大きく魔力を落とすことはないよ」


 ……なるほど。

 グレタの封印は単純に俺への警戒ってだけじゃなく、チート喪失に対するリスクヘッジにもなってた、ってことか。持続可能性への意識高いな。


「【禁環封呪(エンゲージ)】の意図は、他にもあるんだけど、今は伏せておくよ。情報は慎重に取り扱わないとだからね」


 ……いや、漏らしたりしないよ。


「……信用してないわけじゃないよ?ただ、拷問までは耐えられても、審問魔法(インクイジション)を持つ敵がいたら、流出リスクは出てくるでしょ?」


 あっ……そうか。

 エミリアの自動審問魔法オート・インクイジションよろしく、相手の黙秘を破る強制的な暴露魔法を使われたら、俺個人が気をつけるとか、そういうレベルじゃなくなるんだな。

 機密の取り扱いとして「持つ必要がない情報は、そもそも与えない方がいい」わけだ。


 ……「情報の」コンプラ意識は、近代的なんだな。



   * * *



「カイトの身体は十分仕上がったし、素の実力でも森羅万世流フォレスティアン・アーツの初段は問題なく使えるようになってますよ」


「そうですね、上位技能や奥義は難しいですが、英雄技能(チートスキル)を喪失しても、飛燕(ひえん)陽炎(かげろう)は行使できますので、弩杖(マジック・ライフル)と対峙しても十分戦えるはずです」


「王立魔導研究所で、彼の蓄積魔力の測定もしましたが、しばらく悪評が途絶えても、節約すれば習得技能を使うのには問題ないですね」


獣形遁法(ビーストアーツ)は、魔導アーマーの補助ありきだから、燃費は若干悪いかも?まあ、それでも魔力の充填ペースの方が早いから何とかなりそうかなぁ~」




 金環の四天王(テトラクラウン)の口から、次々と現状報告とその考察が伝えられる。

 人間領域に居た頃は、自分の英雄技能(チートスキル)を恥じてひた隠しにしていたことが不和の原因になっていたわけだけど、特性を活かすために仲間と話し合いをしていくのは、やっぱり大切だな。




 ……「仲間」、か。

 思えば、ジーンやメル、カトレアはアルフィードに残り、人間勢力として魔王勢力と対峙するのは今後も変わらない。


 ……今回の修行で得た力で、彼女たちと戦うことになったりするのだろうか。


 彼女たちと殺し合いはしたくない。

 だが、いくら組織壊滅への協力のための「同盟」と言っても、その途上で人間領域国家との戦端が開けば、完全に無視もできないだろう。

 そうなった時、俺は猪妖魔(オーク)の軍勢と同じように、人間を殺すことになる。……その中に、戦士である彼女たちが含まれている可能性は、決して低くはない。


 …………




「……ちょっと、聞いてるの?カイト」


 グレタの声で、俺は思考の堂々巡りから抜けた。


「あ……すまない。少し考え事しちゃって……どこまで話してたっけ?」


「まったく、……キミの今後の任務の割り当てや、魔王城での役職についてだよ」


 グレタは、ふうっとため息を漏らして続けた。


「基本的には魔王城を拠点に、四天王やその部下が携わっている『貴種選民独立自治同盟(M.A.F.I.A)』の調査、壊滅作戦に君を派遣する形を取ろうと思ってる。対外的には、私直属の『遊撃戦士』って名目になるかな」


「遊撃戦士……」


「そうだね、『金環の四天王(テトラクラウン)』に並ぶ、第五の魔族領域の守護者……『第五金環騎士ナイト・オブ・フィフスクラウン』ってところかな。魔族領域でも活動しやすいように、アーマー姿は版画とかを使って連邦の各領民たちにも周知するよ」


 ……ポスターでも貼って回るってことか。

 時代的には人相書きとかの御触れに近いかもしれない。


「基本的にはキミには『魔王の最終兵器』として振舞ってもらう感じになるね。キミはあくまで人間の盟友として、私の目的に力を貸してもらっている立場だ。人間領域の組織拠点への潜入や壊滅の任務に君を派遣することはあっても、国との軍事衝突に駆り出すつもりはない」


「…………」


「加えて、アルフィードは勇者を失った失意の中にあって、事を起こす様子もない。……無論、我々からもね。当面、かつての仲間とキミが殺し合いをする心配はない」


「……そうか」


 ……俺程度の心配事なんて、グレタにはお見通しか。

 俺の隣では、エリスも胸をなでおろしていた。


 組織とやり合うだけが王の仕事ではない。

 人間領域の国々との関係は種族間対立もあり険悪だ。


 戦争となれば、綺麗ごとでは済まないし、人間との殺し合いを躊躇する俺を前線に出すわけにはいかない、という事だろう。


 ……それでも、やはり俺の心の底には、少なからず安堵が生まれていた。



   * * *



「ともあれ、『第五金環(フィフスクラウン)』を称するにしても、王城に出入りするたびにアーマーを着込んでってのも面倒だろうし、王宮に出入りする身分として、もう一つ考えてるキミの役職がある」


 ……近衛兵の兵士とかだろうか?

 あるいは、城の雑務を行う召使いとかかな。


 城内の者にも、俺と『第五金環(フィフスクラウン)』が同一人物でないと見せるなら、後者の方が現実的かもしれないな。




「キミには、これから王宮道化師(ジェスター)になってもらおうと考えてる」


 ……「じぇすたー」?

 聞き覚えの無い仕事だ。


「王宮で働く道化師さ。いくらかの芸も出来るように、【逆吊巧者(ハングド・マスター)】向けに、国家資格の創設も考えてるよ」


「……えぇ?……どういう流れで、道化師(ピエロ)を?」


「宮廷道化師ってのはね、『愚者』って建前で、学識ある者がつく職でもあるの。王に対して無礼な進言が許される立場。人間領域の視点で私に意見することもある君には丁度いいでしょ?」


 ……そう言えば、アルフィードの王宮でも、何度か道化師を見たけど、貴族官僚には彼らに腰を低く接してる人もいた気がする。

 なるほど、おどけてみせて、実態としては建前に隠された国政上の重要人物……まさに愚者(ジョーカー)ってわけだ。


 ……それはそれで、俺に務まるのか心配になるな。

 賢し気に政治に口出しとか、一介の戦士でしかない俺には無理だろ。


「キミの任命に合わせて、いくらか宮中に道化師を抱えるつもりでね、その中には知識人と芸人をないまぜにして、キミの重要性を掴みづらくするつもり。道化としては『ネコチャン人形を躍らせて見せる』程度でも十分さ」


「……なるほど」


「あと、正式な宮廷道化師への就任前に、王宮の依頼で各地でちょっとした興行をしたいんだ。しばらくは猪妖魔オーク領や四天王領で、在野の道化師(クラウン)として、紙芝居やお芝居をして回ってもらおうと思う」


 見たところ、アンナとリナは知っていたようだが、エミリアとノアは初耳といった面持ちだ。カイローンに出向いた時に決めたのだろうか?


「芸名は……『シュリンプ』とか、どうかな?」


「……海老じゃん?どうして?」


「後ろ向きで腰が引けてるから」


 ひどい。




「講演の目的は、魔王の権威の正統性の誇示と、勇者の『醜聞』の流布。キミを宮中で雇うための活動実績にもなるね」


「醜聞……」


 複雑な表情のエリスを見て、グレタは気まずげに目を細めた。


「そこはまあ、当初の計画通り、魔族領域でもカイトが十全に力を発揮できるようにって環境作りだから……彼の安全にも関わるし、ね?」


「……はい」


 ……やっぱりエリスは、俺の尊厳を大切にしてくれているようで、心に沁みるな。


 グレタは、しばし腕を組んでうーんと考え込み、やがて決心するように口を開いた。


「……わかったよ、エリス。魔王命令。カイトが心配なら、彼の道化としての興行について回って、庶務としてサポートしてあげなさい。キミなら、連絡魔法(テレパス)の中継役も務まるしちょうどいい」


「!」


 俺とエリスは、顔を見合わせ、グレタを見る。

 彼女は、ばつが悪そうにクッキーを手に取り、ぽりぽりと噛み砕く。


「……もとより、こっちの都合で勝手に魔族領域に連れて来て、カイトと引き離したんだ。いつまでも会わせない意地悪をしたいわけでもない。二人協力して任務を遂行しなさい」


「あっ……ありがとうございます!」


 エリスは、グレタに深々と頭を下げる。


 ……半年ぶりにエリスと旅をできる。

 俺も、正直かなり嬉しかった。

 



「ま、魔王様……」


 そんな浮ついた俺を横目に、リナが口を開く。


「……みなまで言わせないで。私だってね、王としてはズルいことをするけどさ、『友人に意地悪をしたい』わけじゃないの」


「…………」


 グレタは、エミリアとノアに視線を送った。


「板挟みは御免だしね。私は『友達には不幸になって欲しくない』から、仲良くなることを応援はする。けど、邪魔をしたりすることは、もうしないよ」


「…………」




 ……どうやら、グレタはエリスを「友」だと思ってくれているようで、俺と彼女を引き離すことに罪悪感を感じていたらしい。

 常に「魔王」って重責ある立場を演じてるから、立場上引き締めるべき所では気を抜かないけど、やっぱり根っこがいいヤツなんだよな、彼女も。


「……ありがとな、グレタ」


「……まったく、お礼なんていらないんだよ。この朴念仁め」



   * * *



「……じゃあ、会議はお開きかな。もう今日は遅いし、みんな客間で休んでいってね」


 グレタの言葉を受けて、四天王は立ち上がり、エリスは使用済みの食器を盆にのせ、扉に向かっていく。


 今後の方針も決まった。

 いよいよ俺も、ヤツらとの戦いに向け、動き出す。







「……?」




 ――だが、俺はその前にひとつ、グレタに確認したいことがあり、その場に残っていた。




「……どうしたの、カイト?まだ何か用事?」


「……少し、気になってたことがあって」


「……四天王やエリスの居ない場で?」


「ああ、情報管理の面で扱いに悩んだから、念のため、な」




 ――それは、必ず聞かなければならないことではない。

 あるいは、俺の好奇心に過ぎないのかもしれない。


 それでも、俺は、知りたかった――




「……ふむ、じゃあ聞こうか」


「じゃあ、聞かせて欲しい。……グレタ。君は、さ」







 ――もしかして、「転生者」なのか?




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