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#45 「ヒーロースーツ」を作ろう!

「……とまあ、魔法の杖(スタッフ)の応用ですね。カインさんの習得した影編魔法(シャドウ・マジック)で一からアーマーの構築を行うのと比べ、短期間での発動が可能になります」


 赤魔族(レッドデーモン)の魔導技師のクリムさんが、テーブルの上に出した魔導器。

 魔石を加工した宝玉をあしらった、ベルトのバックルだ。


「カイトさんの場合、武器や肉弾での戦闘を想定していますので、武器や防具ではなく衣服に当該機構を仕込むのが最適という結論になりました。簡単な起動詠唱(トリガー・チャント)で発動可能になるので、極めて短時間で装備を構築可能になり、緊急事態にも対応できるようになるでしょう」


「…………」


 ベルト、かぁ……。

 バックルには、さながら電源を落とした液晶画面の様な、黒い円盤状の魔石がはめこまれ、魔法陣の彫刻があしらわれている。

 軽く手を近づけてみると、俺の魔力に反応し、紫の魔法陣がぼんやりと浮かび上がった。


 クリムさんの背後から、興味深そうに細身で長身の青魔族(ブルーデーモン)の男性が、こちらを覗き込んでいた。

 たしか、研究開発に協力してくれた、魔法の家電開発に関わる方だったかな。


 ……なんだろう、やっぱり、このガジェット、ものすごい既視感というか。元日本人としてはやはり、「アレ」をイメージしてしまう。

 子供たちのために、お父さんが家電量販店の玩具コーナーで行列を作って買うような、アレに……。


「……というわけで、これからアーマー構築のための起動詠唱(トリガー・チャント)を仕込もうと思うのですが、何か希望はありますか?」


「希望……ですか」


「ええ、なるべく短めで、普段使いしないような単語ですかね。意図せぬ誤作動は無いとは思いますが、やはり気持ちの入る単語の方が、カインさんの魔法発動も迅速になると思います。直感(フィーリング)でいいですよ」


「…………」


 クリムさんに促されるように、アレコレと考えるが、やはりこう、一度浮かんでしまうと、それ以外のイメージがわかなくなるものだ。


 ……まあ、変にこだわるとかえって中二っぽくなってしまうかもしれない。どうせ、異世界には「そういう文化」はないんだし、特に恥をかくことも……無いだろう。多分。







「……じゃあ、『変身(へんしん)』で」


「ふむ、『姿を変える』ですか……魔人種族の形体変化のモチーフにも近いですし、直感的ですね。とてもいいと思います」


「…………」


 ……あっ、いかん、決めてから恥ずかしくなってしまった。

 俺、アーマー装備するたびに、ベルトに手を当てて「変身っ!」っていうの?……バッタ人間のヒーローみたいに?


 ……自分の軽率な決定に、沸々と沸き上がる羞恥心。

 そんな俺の気持ちを知ってか知らずか、クリムさんを見送る俺の後ろで、青魔族(ブルーデーモン)の男性は、何やらうんうんと頷き、声をかけた。


「……『変身(へんしん)』、ですか。なんて事の無いフレーズのようで、いざ言われてみると『これしかない!』と思わせるような、心惹かれる部分がありますね。なにか、出展があるのですか?」


「あっ……えっと、自分の出身の異世界で流行っていた子供向けの映像……演劇作品がありまして……」


「ほほう」




 そんな流れで、昼休み、目を輝かせる青魔族(ブルーデーモン)の男性、アオーニさんに、俺は特撮ヒーローの講釈を垂れることとなった。


 かくして、王立魔導研究所のバックアップの元、俺の「変身ヒーロー」への道は、着実に舗装され始めたのであった――



   * * *



「おう、やってるなぁ」


 郊外の岩場で、アーマーを装備した俺と、「黒い獣」の戦闘形態をとったノアの組み手を見に来たのは、アンナだった。

 どうやら、カイローンにジャンヴォルンを送り、魔都に帰参したようだ。


 俺がアンナの登場に気を取られた瞬間、ノアは黒い毛に覆われた、太くたくましい腕を振るい、その大きな肉球を、俺の頭にスタンプを押すように殴りかかる。

 それを察した俺は、アーマーの背面の「黒い筋繊維」を縮めて、のけぞるように回避し、脚を覆う筋繊維を急速に伸縮させて、バク転を繰り返して距離を取る。


 若干よろめきつつ、俺は再びノアに向かい合うように構えを取った。

 最初の頃は、筋繊維の伸縮の力加減が掴めず、歩行も一苦労だったが、なんだかんだ使っていくうちに慣れるもんだな。自転車の練習みたいな。


「おおー、獣形遁法(ビーストアーツ)も、結構サマになって来たなぁ」


「ある程度動けるようにはなったけど、『鬼ごっこ』でノアを捕まえるのは、全然ムリだけどね」


 ノアは、その姿を普段の猫耳少女のそれに戻し、頭を掻きながらこちらに近づいてくる。


「……そりゃあ、ね。ひと月程度で皆伝されたら、【獣王】の……『人狼衆』の頭目の面目だって立たないよ」


「【無銘の王笏(アノニマス・セプター)】を使っても、まだ無理なのか?」


「あくまで身体操作の技術だからね。魔法で構築した人工筋肉でこれを再現するなら、自分の四肢とまったく同じ感覚で動かせなきゃさ。即実用とは行かないよ」


「ふーむ……」


 アンナは、俺のアーマーを見る。

 しなやかな流線形の人工筋肉の上には、金色のラインが走る、紫がかった黒く艶やかな鎧の様な外装アーマー。


 甲冑と言えば甲冑だが、意識すると変身ヒーローっぽさもある。

 ……意識し過ぎか?


「これだけ筋量があれば、私とも打ち合い稽古できそうだな……」


 ……それが目当てか。戦闘狂(バトルジャンキー)は健在だ。


「……今の精度だと、筋肉操作をミスって直撃喰らいかねないんで、勘弁して」


「ちぇっ」


 子供か。




「しかし、明るい時間帯だと黒いアーマーは目立つなぁ。敵の視認を惑わせるために、マントとかでシルエットを見づらくしても良さそう」


 ふむ、背中側に影で編むぐらいなら簡単に出来そうだ。

 なんだかんだ、金の意匠や光沢で夜間も完全な隠密は難しいし。


 ……噂だと、前に話した青魔族(ブルーデーモン)の男性、アオーニさんが、設計部門に色々デザインの要望を出しているらしい。

 特撮の話に興味惹かれてたから、象徴的なヒーローを意識してるのかもしれない。


 ……ヒーロー番組作るって話じゃないんだけどなぁ。




「あえて目立つ色のワンポイントをつけることで、視線誘導に使うってのもアリかも。獣形遁法(ビーストアーツ)は、急速な姿勢変化で動きを誤認させるテクニックもあるし。『人狼衆』は結構、マフラーやスカーフ巻いてる子も多いんだよね」


 ……そういえば、魔都に来た頃にサフィから白いマフラーを貰ってたな。

 修行中は、汚したら悪いからって中々つける機会なかったけど、あの子にとっての「魔族も助ける勇者」の期待に応えるって決意表明にはこの上ないものかもしれない。


 ……けど、マフラーか。

 なんか、やっぱりどんどん、変身ヒーローの装いに近づいていくな。


「あ、そう言えば、フルフェイスのメットについても、デザインが完了したって。今日あたり、魔導研究所で完成品見れるんじゃないかな」


 …………


 ……そうか、そう言えば正体隠すためにフルフェイスヘルメットをつけるって話だ。


 まあ、最終的な印象を決めるのはメットのデザインだ。

 ここが「西洋甲冑っぽい」デザインに収まるなら、変身ヒーロー「っぽさ」はそこまでにはなるまい。

 基本的には、多分格子状のバイザーとか、この世界の美意識に準拠したデザインを用意してくれるだろうし、そこまで奇抜な物にはならないはずだ。

 

 変に心配性になっても仕方無い。野となれ、山となれだ。



   * * *



「如何でしょう、このデザイン!」


 アオーニさんとエミリアが、机に置かれたメットを俺に見せた。


「…………」


「顎までを覆うフルフェイス!金のラインを活かし、半透明の水晶構造のバイザーには視認性を上げるための網状の穴を開け可視性を向上!中央の金の意匠で左右を分割することで、昆虫の複眼を彷彿とさせる『異形』の威圧感を演出しました!」


「…………」


「頭頂部をツルツルの丸坊主にするのは、少し見栄えが悪かったから、陛下の臣下と分かりやすいように、歪曲した(ホーン)をモチーフに取り入れた形ね。ちゃんと許可もとってるから問題ないわ」


「ふふふ、魔族領域の新たな武威の象徴とあらば、その威厳はしっかりと演出しなくてはなりませんからね!そこらの甲冑とは、一味違いますよ!これこそが、老若男女に愛される、新時代の英雄(ヒーロー)のスタンダード形態(フォーム)となるのです!」


 …………


 ……いや、「一味」は、違わなくてよかったんだよなぁ。


 ……このデザイン、完璧に「それ」じゃん。




 日本人ってさ、子供はヒーローに憧れるもんだけど、大人になると「周囲に馴染む」ことを重視するようになって、奇抜な自己表現は避けるようになるもんなんだよ。それが落ち着きってもんでさ。


 ……元日本人としては、やっぱり、良い大人が「変身ヒーロー」になろうなんて思うのは、恥ずかしいもんだ。




「それでは、カインさん!早速、魔導ベルトを……『変身ベルト』を装着し、アーマーを装備した姿を!見せて頂きたく!私ども開発班一同は、この日を待ち焦がれていたのです!」


「…………」


 ――俺は、助けを求める視線をエミリアに送る。


「……ええ、サイズ感や可動性のチェックも必要だからね。動作検証を始めましょう」


 ――届かなかった。




 今から「デザイン変えて」ってのは……無理だよなぁ……。

 研究員の人たち、めっちゃ目を輝かせてるし。


 この路線はアオーニさん一人の暴走じゃなく、チームの総意なんだろうなぁ。巻き込み力のすごい人だ。

 ……後先考えず、彼に特撮の話なんてしたのが全ての元凶。口は災いの元、ってことだな。


 俺は覚悟を決め、ベルトを装着し、バックルにそっと右手を当て、魔力を流した。




「――変身(へんしん)




 バックルに浮かび上がった魔法陣が、空中に投影され、俺の全身を覆う大きさに拡大した。

 壁の様に広がった、輝く紫の魔法陣を潜り抜けると同時に、俺の全身に黒い人工筋肉のアンダースーツが、黒紫の輝く硬質アーマーが、輝く金のラインが構築されていく――。


 かくして、俺の全身は「変身ヒーロー」のそれに姿を変えた。




 若干視界は暗いが、成果を前にした喜びの声が、感嘆のため息が聞こえてくる。


 ……あれ?

 アオーニさん、袖で目元を拭って……感涙してない?

 クリムさんも、ちょっと引いてるっぽい……。




 俺は、若干の後ろめたさを感じながら、簡単なポーズをとってみせた。

 それを見て、アオーニさんを筆頭に、数人の研究員が「うおおおおおっ!」と、声を上げる。


 ……なんだろう。

 彼らには、なにかしらの業を背負わせてしまったのかもしれない。




 ……いや、まあね。

 正直なこと言うとね、変身ヒーローに憧れるのは男子の通過儀礼なわけで。


 そりゃ、良い大人がヒーローごっこするのは、クソほど恥ずかしいけど、現代日本でだってヒーローのコスプレをする成人男性はたくさんいたわけで。

 大人にも、そういう遊びをしたい心が残ってるのは、本心だよね。




 ……まあ、その、なんだ。

 正直ちょっと楽しんじゃってるよね、俺も。


 ……まあ、あんまり斜に構えても仕方ないよな。

 現状を受け入れて、周囲の期待に応えていくとしよう。

 魔族領域の勇者(ヒーロー)として、さ。







「ねぇ、アンナ……あのピチピチ甲冑見て、カッコいいと思う?」


「うーん、エミリアやアオーニ室長たちのセンスは、私にはよくわかんないかなぁ……」


「だよねぇ……本人たちが納得してるなら、それでいいと思うけど……」




 ――やっぱり、恥ずかしいかもしれない。




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