三
結局、新歓係の押しに負けて、このテニスサークルに入ってしまった。僕みたいのが、テニスサークルに入ると思わなかったけど、サークルの風紀は乱れておらず、僕みたいのも受け入れてくれるサークルだった。でも、やっぱりキラキラした奴らとはすぐに馴染めず、最初は同じような暗めやつと一緒にいた。それはそれで良かった。
その内、既にサークルに馴染み切っていた桐生に「いじられキャラ」として開拓された。それを契機に、サークルのイベントに参加しやすくなった。みんなで合宿、海、試験前の徹夜勉強、キャンプ、旅行、この一年、本当に期待以上だった。高校の時、僕が夢想した大学生活そのものだった。最近、そのゴールデンルートを満喫しつつも、なんの変哲もない輝かしい大学生活に、ちょっとだけ飽き飽きもしていた。よくきく「なんか面白いことないかな」ってやつかも。
しばらくすると、男子数人を連れて桐生が戻ってきた。連れてきた新入生は、既にもう小洒落た感じで、スーツを着こないしているような人達だった。
「みんなテニサー志望やで。」
「はい!!そうっす!!」結構食い気味で、一番髪色が明るいやつが桐生に乗っかる。
「おう!じゃあ、とりあえず体験につないどいてや。」
ふっと、桐生がこっちを見て、やたらニコニコしている似たような顔が一斉にこっちを向く。その流れに僕の番なのに、少し怖気る。
「えっ、えっと、じゃあ今日の体験来る?夕方にこの近くのテニスコートでやるけど、、」
「参加させてください!」
一番近く、背が高い新入生が、元気よく返事した。それに続いて後ろ奴らもチラチラと反応する。
「じゃ、山下詳細説明よろしく!!」
ポンとか肩を押され、僕に新入生の視線がまた集まる。桐生はまた人込みの方に向かっていった。その背中はやはり逞しく、こっちなんて振り返らないだろう。新入生としても、明らかに、「キラキラ大学生」じゃない方に案内されて、なんかテンションがすこーしだけ下がっていた。それでも、僕は緊張しながらも、これで今日のノルマを達成できると意気込み、チラシをしっかり説明する。
しっかりとした説明が終わった。ちゃんと愛想良く聞いてくれる人もいたが、途中から明らかに適当な奴もいた。そして、最後にライン交換をしたが、二人くらいは交換を断られた。なんとかチラシは全員に渡すことができたが、絶対引きつった笑顔を新入生に見られたに違いない。
紹介できた新入生たちが、すぐに他のサークルに捕まり、話しかけられている。その様を目で追いながらも、僕は達成感に満ち溢れていた。
結局その後も、誰にも話しかけられなかった。一番新歓を頑張らないけない日に、この成果はまずい。でも、自分にしてはよくやった方だと思う。僕は少し早めに撤収し、夕方の体験会の準備に向かった。