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無邪気  作者: いしまめ
第一章
1/4

 意を決した心のままに、ベランダに出る。見慣れた風景がより優しく見え、少しだけ世界がマシになったように感じた。その心地よさがじわじわと薄まり始めてきた。もう踏み出すしかない。その目は、どんな恐怖に勝るほどの勇気に満ち溢れている。

彼は、解放されるように、忌々しい絆しを解くように、綺麗に飛んだ。満開の桜が彩る地上なんかは見ていなかった。彼の意識は澄んで美しい空に吸い込まれていく。鮮血は見事に舞い、ゆっくりゆっくり地面を染める。


2018年4月

大学キャンパスの葉桜になり、新緑が見え隠れする。そんな時期になっても、早朝からその葉桜周りの芝生にブルーシートが敷き詰められており、大学生はその若さを煌めかせ続ける。彼らは、少しヨレた看板や、色とりどりのチラシを持ち寄り、今か今かと新入生を待っている。

いわゆる、新入生歓迎会の期間は、今週から始まった。この時期になると、サークルや部活に属している大学生は、新入生を狙い、ほとんど闇雲に話しかける。少しでも学生を入れるため、割と強引にご飯やイベントに連れて行き、早期から囲い込む。

この新歓期間なるものは、4月から5月にかけてある。特に賑やかで一番激しい新歓は、各学科のオリエンテーションの後であり、今日がその運命の日だ。


オリエンテーションをしている建物から、スーツをきた新入生がじりじりと溢れ出てきた。それを見たサークル生、部員は餌に群がる魚のように集まる。

その流れを感じた他の学生たちも群がり一斉に話しかけ、ビラを渡す。大量のビラと大声が飛び交う。新入生はその狂気じみた歓迎ムードに懐疑の目を向ける。ある学生はその明るく激しい雰囲気にうっ血しそうになり、一目散と波を外れる。しかし、新入生の中でも、明るく対応する人もいる。そういう人は、一瞬で捕まる。勿論かわいい子は、問答無用で引く手あまたな状況になっている。逃げ道はない。その様子は、若く率直な欲望が垣間見えている気がして、嫌悪感が湧く。でも、そんなことを悠長に構えていられる状況ではない。

四方八方から声が、新入生にぶつけられる。

「今週末時間ある!?」

「えっ、かわいいじゃんあの子。」

「高校で何やってた?」

「フットボール興味あるー?」

「どこの学部?」

「え、同じ学部!履修とか聞きたいこととかなんでも教えるよ!」

 全てが散臭く見えるが、この圧力はごくごく一般的である。みんながやっているから全く浮いては見えないだけ。そんな勧誘にあれよあれよとついて行く人もいれば、全くの無視を決め込む人も当然いる。しかし、実状としてこの1ヶ月間は、ただめし喰らい放題の夢のような期間である。この新歓最初の時期に、怯えて逃げた学生は、その事実を後々に知る。そして、ちょっと後悔する。

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