2-1:少女たちの試験
ルルム学園、期末試験の週間に入った。
全学園生徒が全教科の試験を三日間かけて行う。
「あー、いよいよかー。わたし憂鬱だよー」
「ご安心ください、ミーシェさま。わたくしたちがよい結果を出せるよう、神に祈ってきましたから」
俺とミーシェとルナは学園までの道のりを歩く。
ミーシェはあからさまに嫌そうな態度をしているが、なんだかんだで結果はちゃんと出すはずだ。
彼女の成績はもともと優秀なのだから。
とはいえやはり、嫌なものは嫌なのだろう。
「一週間、しっかり勉強してきたんだ。不安になる必要はないさ」
「お兄ちゃんは嫌じゃないの?」
「嫌かと言われればそうだが、やるべきことはやってきたんだから恐れはしない」
「さすが勇者さま」
「がんばりましょうね。ミーシェさま、エリオさま」
それから話題が変わる。
「試験のあとはお祭りだね」
今月はなかなかあわただしく、期末試験の次の週にはムーンバレイの町で祭りが催されるのだ。
毎年恒例ではない、突発的で例外的な祭り。
勇者セフェウスの後継者が現れたのを称える祭りだ。
つまり、俺が祭りの主役なのである。
俺は「そこまでする必要ないですよ」と遠慮したのだが、町長はどうしても祭りを行いたいと言ってきたのだ。
それも当然だ。伝説の聖剣『ルーグ』の継承者がついに現れたのだから。
どちらかといえば、俺はこっちのほうが気が重くなる。
祭りには参加したことはあるが、その主役になったことなんて一度もない。当たり前だが。
一体なにをやらされるのやら。
「夜店とかいっぱい出るかな? みんなでお祭り回ろうね」
「俺はもしかしたらみんなと出れないかもな」
「そうですね。エリオさまはお祭りの主役ですからね」
「そっかー。ちょっとがっかり」
「ミーシェさまはわたくしといっしょにお祭りを楽しみましょう」
「うんっ。約束だよ、ルナちゃんっ」
校門前。
学園の生徒たちが次々と校門をくぐっていく。
校門の前では生活指導の先生がそのようすを見ていた。
「あ、セレンディア先生だ」
校門にいたのはセレンディア先生だった。
「おはようございます、セレンディア先生」
「あら、おはよう。ミーシェちゃん、ルナちゃん、それにエリオくん」
セレンディア先生は俺のクラスの担任で、歴史の先生。
ほんわりふわふわとした雰囲気のやさしい女性だ。
その包容力ときれいな外見で、主に男子生徒に人気がある。
「期末試験、がんばってね」
「はーいっ」
「エリオくん、歴史の教科で赤点は取っちゃイヤよ」
「わかってます」
「ルナちゃんは全科目満点を目指してね」
「神に誓って全力を尽くします」
校門をくぐるとそれぞれの校舎に分かれた。
教室は雑談でにぎわう普段と違い、真剣な雰囲気で満たされている。
みんな必死に最後の確認をしている。
友達同士で問題を出し合う生徒、一人で黙々とノートを見る生徒、などなど。
「エリオ。試験勉強はばっちりできた?」
机に向かってノートを読んでいると声をかけられた。
となりにはポニーテールの女子生徒がいた。
クラスメイトのアリアだ。
「あんた、勇者セフェウスの再来だなんて祭り上げられて勉強どころじゃなかったでしょ」
アリアはおせっかいで活発な少女。俺の友達だ。
運動は大の得意だが、勉強に関してはとんと苦手なのである。
一言で言い表すなら――おてんば娘。
「他人のことより自分の心配したほうがいいぞ、アリア」
「へっへーん。アタシはもうばっちりだもん。毎日4時間も勉強したんだか……、ふあぁ」
眠たげにあくびをして、眠たそうに目をこするアリア。
毎日4時間勉強は本当らしい。
だが、試験前日は早寝を心がけたほうがいいような……。
「赤点取ってもアタシに泣きついてきちゃダメなんだからね」
「あ、ああ……」
「そうだわ。これから二人で問題を出し合わない? 一時間目の試験は数学でしょ」
ホームルームまでまだ余裕がある。
「そうするか」
まずはアリアが問題を出してくる。
基礎的な計算問題で、かんたんに答えられた。
「さすがね、エリオ」
これを間違えるようでは試験は悲惨な結果となるだろう。
それから何問かアリアは問題出すが俺はそれらすべてに正解した。
アリアはくやしそうな顔をしている。
「や、やるわね……」
「次は俺だな」
俺は教科書を適当にめくって問題を出す。
それに対してアリアは……。
「え、ええっと、ちょっと待ちなさい……」
ノートに必死に計算を書いている。
おいおい、だいじょうぶか……。これ、基礎中の基礎だぞ。
「最初から難しい問題出さないでよ」
まさか初歩の問題でてこずるとは。
アリアが悪戦苦闘している間にホームルームのチャイムが鳴ってしまった。
セレンディア先生が教室に入ってくる。
「みなさーん、席についてねー」
「うわーん! どうするのよー! エリオのせいで不安になっちゃったじゃなーい!」
アリアが泣き叫んだ。
不安になったのは俺もだよ、アリア。
おそらく彼女は無残で無慈悲で悲惨な結末を迎えるだろう。
俺は彼女に同情を抱かずにはいられなかった。
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