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1-6:転生した勇者

 ミーシェが風呂に入った。

 その間、俺は食事の後片付けをする。

 テーブルを拭き、食器を洗う。

 せめてこれくらいはしないとな。


 後片付けが終わった後は、再びリビングで本を読む。

 勇者セフェウスにまつわる本。

 他にも何冊か借りてきたのだ。


 魔王ロッシュローブを倒したセフェウス。

 彼には三人の仲間がいたという。

 四人は固い絆で力を合わせて戦った。


 絆、か。

 残念ながらロッシュローブとの戦いの記憶はもちろん、仲間との思い出も思い出せない。

 田舎町の青年エリオという人間に転生したことしか俺は知らない。


 セフェウスだったことろの記憶を取り戻したいか?

 と問われれば、素直に首を縦には振れない。

 なんだか記憶を取り戻した瞬間、俺はエリオではなくなってしまいそうだから。


 なによりも大事な妹、ミーシェ。

 もう一人、妹同然の後輩、ルナ。

 俺がセフェウスになってしまったら、彼女たちはたぶん、悲しむと思う。


 セフェウスだったころの仲間はロッシュローブを倒したあと、どうしたのだろうか。

 もしかすると、俺のように転生した可能性がある。


「お兄ちゃーん!」


 物思いにふけっていると、扉の向こうからミーシェの呼ぶ声がした。

 風呂場に行ってみると、扉が半開きになってミーシェが頭だけを出していた。

 どうやら裸のようだ。


「ううう……。着替え持ってくるの忘れちゃった」

「ドジだな」

「わたしの部屋から着替え持ってきて」

「わかっ――」


 言いかけたところで思いとどまる。

 着替え、ってもしかして……。


「し、下着もか……?」

「あたりまえじゃない」

「そ、そだよな……」

「今回だけは特別に見てもいいから、持ってきて」

「……わかった」


 本当にいいのだろうか……。

 困惑しながらも俺はミーシェの部屋に入った。

 ぬいぐるみが置かれた、パステルカラーで彩られたかわいらしい部屋。


 なんだか踏み入ること自体が禁忌のような気がしてくる。

 すまないミーシェ。

 別に悪いことをしているわけではないのに、俺は心の中で謝りながら部屋に入った。


 胸がドキドキする。

 一人の少女のプライベートな空間入ったという禁忌。あるいは背徳。

 なに考えてるんだ俺。相手は妹だぞ。

 そう言い聞かせながら、おそるおそるチェストを開く。


「おわっ」


 思わず声を上げてしまった。

 とっさに目をそらす。

 一瞬だけ見えたが、チェストの中には下着が入っていた。当たり前だが。


 なるべく直視しないよう、目を細めながらそっと下着を手に取る。

 シルクのつやつやした手触り。

 胸の鼓動が異様に早くなっているのを感じる。


 それから下の段を開けてパジャマも手に取ると、足早に風呂場まで持っていった。


「てへへ。ありがとー」


 扉の隙間から頭を出していたミーシェが手を伸ばし、着替えを手に取った。


「どさくざに紛れてパンツ盗ったりしてない?」

「するわけないだろ……」

「だよねー」

「は、早く着替えてくれ……」


 扉一枚向こうのミーシェは裸。

 それを否応にも意識してしまう。


 ミーシェが頭を引っ込めて扉を閉める。

 それからしばらくすると、パジャマに着替えた彼女が出てきた。


「お兄ちゃん。ホントにパンツ盗んでない?」

「しつこい」

「だって、わたしもこれでも一人の女の子だし、お兄ちゃんは男の子でしょ? そういう衝動に駆られたりしなかったのかなー、って」

「まあ、意識はしたさ」

「ええっ!?」


 驚くミーシェ。


「やっぱり盗んだんじゃん! パンツ返して!」

「だから盗んでないって!」


 ミーシェは恥ずかしそうに頬を染めて、上目づかいになる。


「わ、わたしのこと、一人の女の子として見てくれたの……?」

「……すまない」

「あ、怒ってるんじゃないの。逆にうれしいっていうか」


 ミーシェははにかむ。


「ねえ、今夜はいっしょに寝ない?」


 どきりとする。

 この会話の流れでその提案は、言葉の裏に隠れた意味をどうしても探ってしまう。

 受け入れていいのだろうか。


「お願い、お兄ちゃん」


 服の裾を握ってねだってくる。

 そんないじらしいしぐさをされて断れる人間がいるだろうか。


「……たまにはいいかもな」

「えへへ。やった」


 そうして今、俺とミーシェは同じベッドに入っている。


「二人で入るとせまいねー」


 俺の目の前にはミーシェがいる。

 鼻と鼻が触れ合いかねない至近距離。


「小さい頃はいつもこうやって二人で寝てたよね」


 どうやらミーシェは言葉の裏に別の言葉は隠していなかったらしい。

 兄妹仲良く同じベッドで寝たい。それだけ。

 安心する。


「二人でベッドに入るとあったかい」


 ミーシェが心地よさそうに目を細める。

 その大人っぽい表情にどきりとしてしまう。


「お兄ちゃん。聖剣を抜いて勇者になったけど、お兄ちゃんはお兄ちゃんだよね」


 不安げに尋ねてくる。


「勇者になったからって、悪者をやっつけに遠くに旅立ったりしないようね」


 もしかして、それが心配で甘えてきたのか。

 俺はこう返事をする。


「俺はどこにもいかない。行くとしても、そのときはミーシェもいっしょだ」

「よかったっ」


 密着してくる。

 背かに手をまわし、抱きついてくる。


「お兄ちゃん、大好きっ」

ここまで読んでいただきありがとうございます!


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