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1-4:転生した勇者

「解けたよ、お兄ちゃん」

「どれどれ」


 ミーシェのノートを見てみる。

 数学の問題がいくつも解かれている。

 見たところ全問正解のようだ。


「ああ。全問正解だ」

「わーいっ」


 ミーシェが子供みたいに両手を挙げて喜んだ。


「お兄ちゃんって勉強得意だよね」

「そうか?」


 学年での成績はぴったりまんなか。

 苦手ではないが、得意だとも威張れない位置にいる。


「勉強が得意っていうか、教えるのが上手なのかも」

「ミーシェの飲み込みが早いだけだ」

「てへへ。それほどでも」


 ミーシェの成績はかなりいい。

 上から数えたほうが早いくらいだ。

 家事も料理も勉強もできるミーシェ。

 こんな妹をくれた神さまにお礼をしないとな。


「ルナはわからないところあるか?」


 肩越しにルナの手元を覗き込む。

 上手な字だ。

 彼女の生真面目で敬虔なところが字に表れている。


「今のところはどこも――」


 と言いかけたところで、ルナは慌てて首をぶんぶん横に振って言い直した。


「こっ、ここを教えてもらえますか?」

「どれどれ」


 彼女が指さした問題に目をやる。

 よかった。これなら俺でも解ける。

 初等部の問題だから解けなかったらそれはそれで問題なのだが……。


「これはだな――」

「あ、あの、エリオさま」

「うん?」

「もっと顔を近づけたほうが見やすいのでは……」

「あ、ああ」


 ルナにもうちょっと近づいて教える。


「……なるほど、そうなのですね!」

「本当にこの問題がわからなかったのか?」

「ふえっ!?」


 変な声を出して驚くルナ。

 ルナも成績優秀な生徒だ。

 この程度の問題、軽々と解けると思うのだが……。


「ルーナーちゃーん」


 怨霊のささやきのような声がして振り向く。

 ミーシェがジト目で俺たちを見ていた。


「ルナちゃーん。今の、お兄ちゃんに密着するための言い分けでしょー」

「い、いえ! そんなはしたない真似、するわけありません……」

「ぜったいそうだよ。もー、いくら親友でも、お兄ちゃんは渡さないからね」


 ミーシェが俺の腕に自分の腕を回してきた。

 しょんぼりするルナ。



 それから日が暮れる前に俺たちは下校した。

 俺とミーシェ、ルナの三人で道を歩く。

 ミーシェが立ち止まって露店を指さす。


「ねえ、キャンディ買っていかない?」


 露店には色とりどりのキャンディが宝石のように並べられていた。

 きれいだ。


「いいぞ。買ってやる」


 ところが。


「い、いけません。買い食いは校則で禁止されています」


 さすがルナ。まじめだ。

 ルナは祈るように手を握り合わせて言う。


「神は我々の行いを常日頃見ておられます」


 だから俺はこう言った。


「だいじょうぶさ、ルナ。今日はがんばって居残って勉強したんだ。神さまもこれくらいのごほうびは許してくれる」

「そ、そうでしょうか……?」

「俺はルナに買ってあげたいな。キャンディ」

「エ、エリオさまがそうおっしゃるのなら」

「決まりだねっ」


 俺たちは露店の前に行った。

 いろんな色のキャンディが並べられている。

 ミーシェもルナも目を輝かせてその宝石に見とれていた。


「わたし、イチゴ味!」

「では、わたくしはレモン味をいただきます」

「俺はメロンかな」


 そうして三人でキャンディをなめながら再び帰路についた。

 しばらく歩くと教会に到着する。


「では、ミーシェさま、エリオさま。ごきげんよう」


 ぺこりとおじぎするルナ。


「また明日ね、ルナちゃん」

「はいっ」


 ルナは教会の扉を開けて中に入っていった。

 彼女がいなくなってからミーシェがつぶやく。


「ルナちゃん、えらいよね。まだ12歳なのに親と離れて教会で暮らしてるなんて」


 しかも、ルナは貴族のお嬢さま。

 王都に豪邸があると聞いている。

 都会でぜいたくな暮らしができるはずなのに、彼女はこの田舎町で静かに暮らしているのだ。


「ミーシェもえらいよ」

「えっ、わたし?」


 ぽかんと口を開けて自分を指さすミーシェ。


「父さんも母さんもいないのに家事をこなしてくれてる。ミーシェのおかげで俺はこの町で暮らせていると言っても過言じゃない」

「な、なんか照れちゃうな」


 ミーシェは顔を赤らめる。


「ミーシェはさみしくならないか? 親がいなくて」

「ならない、って言えばウソになるけど、わたしには――」


 いったん間を置いてから、笑顔で続ける。


「エリオお兄ちゃんがいるもんっ」


 今度は俺が照れくさくなった。


「俺なんかでいいのか?」

「『なんか』じゃないよ。エリオお兄ちゃんじゃないとダメなの」


 俺の手を握って甘えてくる。


「わたしとお兄ちゃんはずっといっしょだからね。約束だよ」

「約束する。俺たちはずっといっしょだ」


 勇者セフェウスの生まれ変わりだとしても、それ以前に俺はミーシェの『お兄ちゃん』なのだ。



 帰宅するころにはすっかり日が暮れていた。

 ミーシェがさっそくエプロンを身にまとう。


「すぐにごはんつくるからね」

「少し休んでからでいいんじゃないか?」

「気持ちはうれしいけど、お兄ちゃん、おなか空いてるでしょ?」

「まあ、な」

「腕によりをかけて作るから、楽しみにしててね」


 ウィンクするミーシェ。

 ミーシェの料理の腕前は一級品。

 その気になれば王都でレストランを開くことだってできるだろう。

ここまで読んでいただきありがとうございます!


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