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8-3:約束の時計台

 でも、ミーシェとならいいかもな。

 彼女と時計台に行くのが、一番事態が丸く収まるだろう。

 家族の永遠の絆を願う。

 ……いや、二人だけじゃない。


「それならミーシェ。ルナとアスカノフともいっしょに行こう」

「へ?」


 ぽかんとするミーシェ。

 少しの沈黙のあと、彼女は思い切りうなずいた。


「そうだねっ。みんなずっといっしょにいられるのをお願いしよっ」




 翌日、俺たちは王都をじっくり観光した。

 フィンさんおすすめのお店や観光名所をめぐった。


 料理店で食べた料理はムーンバレイではお目にかかれないようなごちそうがたくさんあり、まんぷくになるまで数々の料理を平らげた。

 衣装屋も装飾品店も同じく、おしゃれなものがたくさんあり、ミーシェはおおはしゃぎだった。

 一方、身なりにはとんと無頓着なアスカノフは退屈そうにしていたが、ミーシェに着せ替え人形みたいにいろいろな衣装を着せられて、最後のほうはだいぶ疲れていた。


 そして最後に――時計台へとやってきた。

 時計台のある広場は美しい噴水があり、花壇には色とりどりの花が咲き乱れている。

 芸術家が彫ったらしいオブジェもそこかしこに。


 広場では大勢の人々が憩いの時間を過ごしていた。

 繁華街や大通りは目まぐるしいほど喧騒で溢れかえっていたが、ここだけは時間の流れが緩やかで落ち着くことができた。


 時計台は広場の中心にあり、塔のごとく高くそびえ立っていた。

 長針と短針が静かに時を刻んでいる。

 時計台を前にして、急にミーシェたちがそわそわしだした。


「だ、誰が最初にお兄ちゃんとお話しする……?」

「わ、わたくしは最後でかまいません」

「それズルい! 最後が一番おいしいし!」

「ですが、最初にエリオさまを射止めた方がいらしたら、手遅れになるのでは……?」

「たっ、確かに!」

「じれったいな。我が先にエリオと話すぞ」


 というわけで、まずはアスカノフから。

 こほん、と彼女は咳ばらいする。

 もしかして、意外とアスカノフも緊張しているのか。


「勇者セフェ――いや、エリオよ。お前との永遠の絆を我は求める。いいな?」

「ああ。俺たちはずっと家族だ」

「それは夫婦という意味でか?」

「どちらかといえば、兄妹じゃないか?」

「……」


 黙り込むアスカノフ。

 それから彼女は「まあ、今はそれで我慢してやろう」とつぶやいた。


「我に人間の女性としての魅力が欠けているのは認めてやろう。人間とは心底面倒なものだ」


 呆れたふうに肩をすくめた。

 アスカフはじゅうぶんかわいいぞ――と心の中で俺は言った。

 アスカノフはこう続ける。


「我を孤独から救ってくれたこと、決して忘れはしない」


 自嘲気味な笑みをこぼす。


「貴様と会うまで、我は群れなければ生きていけぬ人間を見下していた」


 集団で社会を形成しなければ生きていけない人間より、個で完結している竜のほうが生物として優れているとアスカノフは思っていた。前も言っていたっけな。

 だが、その考えは間違っていたのだと彼女は気づいた。

 俺たちと出会って。


「馴れ合うのも存外悪くない」


 くるりと反転して背を向ける。


「ルナ。貴様の番だ」

「承知しました」


 なりゆきをハラハラと見守っていたルナが俺に近づいてきた。

 アスカノフに代わって俺の前に立つ。

 スカートの上で、落ち着きなく手をもじもじとさせている。


「結婚は……してくださらないのですね。ミーシェさまから聞きました。結婚を誓えないのは残念ですが、わたくしはまだ幼いですから仕方ありませんね」

「すまない、ルナ」

「いえ、これからはエリオさまを振り向かせるためにがんばりますので、いつでも心変わりなさってください」


 にこり、とルナはけなげに微笑む。


「ルナは本当に俺に恋しているのか」

「……わかりません。ただ、エリオさまとずっといっしょにいられることをわたくしは願っています。わたくしはまだ子供です。これが恋なのかまだわかる年齢ではありません」


 ルナは祈るように手を握り合わせる。


「しかし、わたくしたちの絆が未来永劫、続くことを神にお祈りいたします」


 最後にミーシェ。


「てへへ……。なんだか照れちゃうね」


 頬を染めてはにかんでいる。

 俺も妹であるミーシェとこんなふうに会話をするのは初めてだから、どこか気恥ずかしかった。

 上目づかいで尋ねてくるミーシェ。


「ホントに結婚しないの? 恋人でも可!」

「しない」

「えー。わたし、うぬぼれてるわけじゃないけど、ムーンバレイでは結構かわいいほうだと思うんだけどなー。早くしないと誰かに取られちゃうよー?」


 それはもったいないかもしれないな。

 なんて、冗談めかそうとしたがやめておいた。

 ミーシェに言質を与えるようなものだ。


「ルナちゃん、アスカノフちゃん、こっちきて」


 二人が呼ばれてこちらに寄ってくる。

 俺たちは輪になるように手をつなぎ合った。

 時計台に祈る。


「わたしたちの絆が永遠でありますように」


 その瞬間、時計の長針がちょうど頂点を指した。

 時計板の下の扉が開き、からくりが作動して人形の楽団が出てきて音楽を演奏しだした。

 まるで、俺たちを祝福するかのように。

第二部完結です!

いったんここで完結とさせていだきます!

続きはまた後日、連載する予定です!


「面白そう」「続きが気になる」と感じましたら、『ブックマーク』と広告下の【☆☆☆☆☆】を【★★★★★】にしていただけますと嬉しいです!


皆様の応援が作者のモチベーションとなりますので、是非協力よろしくお願いいたします!

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