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8-2:約束の時計台

 謁見が終わったあと、フィンさんの屋敷に夕食に招かれた。

 ルナのエルリオーネ家と同じく、上流階級区にある立派なお屋敷だった。


「ところでフィンさん。グランカリバーって」

「サラ王女が駄々をこねて鍛冶師に作らせたただの剣だよ」


 やはり……。

 サラ王女は子供のころからそういう『ごっこ遊び』が好きだったらしい。

 幼い子供がそういうごっこ遊びに興じるのはよくあることだ。


 ムーンバレイの子供たちもよく勇者ごっこをしてあそんでいる。

 ただ、あの年齢になるまでごっこ遊びに興じる子は見ない。

 サラ王女、たぶん俺かミーシェと同じくらいの年齢だよな。


 王族にも面白い人がいるものだ。

 聞くところによると城の中でもサラ王女は『そういう子』として有名らしい。

 国王陛下も苦労しているのが容易に想像できた。


「アレさえなければすなおでいい子なんだよ。まあ、おもしろいみやげ話ができてよかったね」


 メイドがメインディッシュを運んでくる。


「わーっ、おいしそうっ」


 ステーキがみんなの前に並べられる。

 俺たちはさっそく食事に手をつけた。


 すごくおいしい。

 歯ごたえと味からして鶏肉だろうか。

 ミーシェもアスカノフも夢中で食べている。


「フィンさん、これなんのお肉なんですか?」


 ミーシェが尋ねる。

 フィンさんはにこにこしながらこう答えた。


「カエルだよ」


 ぶほっ!

 俺とミーシェとルナは同時にせき込んだ。


「カエル!?」

「うん。養殖ものの巨大ガエルの肉さ。食用のね」


 俺たちは顔を青ざめさせ、フォークとナイフを持つ手をぴたりと止めてしまっていた。

 アスカノフだけだ。カエルの肉と知っても平然と食らっているのは。


「ふふふ。驚いたようだね」

「驚くに決まってるじゃないですか……」


 俺たちの反応を見てフィンさんは楽しんでいた。

 おいしいのは確かだが、正体がカエルと知ってしまった今はとても手を付ける気にならない。


「いらぬのなら我がもらうぞ」


 残してしまった分はアスカノフが平らげてくれた。




 食事が済むと再びメイドたちがやってて食器を下げた。


「どうだい? 王都に来た感想は」

「まだ見て回ってはいませんが、すごいですね」

「大都会ですっ」

「王都より大きな都市はこの大陸にはないだろうね。ぜひ観光を楽しむといいよ」


 そしてフィンさんはこう提案した。

 王都は数日で回れるような小ささではないから、僕のお勧めする場所を教えようか、と。

 俺たちは教えてほしいとお願いした。


 有名な料理店、カフェ、衣装屋やアクセサリー店などをフィンさんは教えてくれた。

 いずれも王都に観光に来た旅行客が必ず立ち寄る場所らしい。


「それと最後に、時計台だね」


 王都の中心部の広場には大きな時計台があり、これも観光名物の一つだとのこと。

 ルナがぴくりと背筋を伸ばして驚く。


「あ、ルナちゃんは王都出身だから知ってるんだね」


 時計台にはこんな言い伝えがあるという。

 時計台で愛の告白をして、両想いになった男女は、未来永劫結ばれる。


 視線を感じる。

 ミーシェとルナとアスカノフが俺を見つめていた。

 じーっと。


「エリオくんも行ってみたらどうだい?」

「だ、誰とですかっ!?」

「そりゃあもちろん、想い人とだよ」


 三人の視線が気になってしかたがない。

 いずれも獲物を虎視眈々と狙う獣のまなざしだ。



 その夜。ルナの屋敷。

 自分の部屋に戻って寝ようと思ったらアスカノフが尋ねてきた。

 部屋に入ってくるなり、いきなりこう命令してきた。


「エリオよ。明日、我と時計台に行くぞ」


 俺はあんぐりと口を開けていた。

 きっと間抜けな顔だろう。


「よろこべ。貴様は偉大なる竜であるこのアスカノフに見初められたのだ」


 フッとほくそ笑むアスカノフ。

 今ここで断ったらどうだろう。

 プライドを傷つけられた彼女が暴れださないか……。


「恥じらうとはかわいいやつめ」


 俺が言葉に悩んでいる間にアスカノフは部屋を出ていった。

 入れ違いで現れたのはルナ。

 もしかして……。


「エリオさま。明日、わたくしと時計台に行きませんか……?」


 やっぱりか。


「わたくしにとってエリオさまは、兄も同然。いえ、それ以上です。エリオさまと末永く結ばれるのなら、これほどうれしいことはありません」


 その気持ちはうれしい。

 俺を家族に等しい存在だと思ってくれているなんて。


「これはきっと、わたくしの唯一のわがままです。その唯一のわがままをどうか聞いてください」


 そう言い残してルナは部屋を後にした。

 それから続けざまにミーシェが現れた。


「お兄ちゃんっ。時計台に行こうっ」

「行かない」


 ガーンといった表情をするミーシェ。

 それからむっとほっぺたを膨らませた不満げな顔で俺に詰め寄ってくる。


「即答なんてひどいよ!」

「俺たちは兄妹だぞ」

「兄弟が結婚しちゃダメな法律でもあるんですかー? 何時何分何秒に制定された法律ですかー?」


 おそらく有史以前よりある決まりごとだろう……。


「それにさ、結婚とかじゃなくてさ、わたしたちは家族なんだから永遠にいっしょになれるならそれでいいでしょ?」


 ぎゅっと俺に抱きついてくる。


「わたし、ずっとお兄ちゃんといっしょにいたい。だから時計台に行きたいの」

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