表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

35/39

7-4:列車で王都へ

 列車は揺れる。

 がたんごとんと。


 荒れ地や農地を割って進み、森を横切る。

 そうやって走っていくうちに、やがて遠くに建築群が見えてきた。


「お兄ちゃん、王都だよ!」


 ミーシェが俺の服をぐいぐいと引っ張りながら窓を指さす。

 窓からは王都の姿が遠くから見えた。


 ムーンバレイではお目にかかれないような背の高い建物が乱立している。

 それらはぐるりと王都を囲む高い防壁から競うように頭を出していた。

 その中で一番目立っていたのは白亜の王城だった。


「すっごーい! ついに王都だねっ」


 大陸の文明の中心地である王都。

 ついにやってきたのだと実感する。


「王都は久しぶりです」


 ルナが言う。


「両親に会えるのが楽しみか?」

「はい」

「いっぱい甘えればいいさ」

「い、いえ、もうそんな歳ではありませんので」


 はにかむルナ。

 本人は『そんな歳』とは言うが、まだ12歳だ。

 親の元を離れて暮らすにはぜんぜん早い。

 甘えたって誰も笑わないだろう。


「ルナちゃん、アスカノフちゃん。王都に着いたらショッピングしようね」

「なにを買われるのですか?」

「もちろん、かわいい服やアクセサリーだよ。ムーンバレイでは買えないようなおしゃれな、ね」

「我は心底どうでもいいが、付き合ってやるもやぶさかではない」

「もー、アスカフちゃんってば。アスカフちゃんに似合う服、いっぱい買うから覚悟してね」

「う、うむ……」

「おいしいスイーツもいっぱい食べようねっ」


 アスカノフは竜の威厳などとっくに失って気おされていた。

 ミーシェ、ずいぶんとはしゃいでいるな。

 微笑ましい。


 車掌が通路を歩いていく。


「まもなく駅に到着します」


 遠くの風景だった王都がだんだんと大きくなっていく。

 そしていよいよ列車は防壁の内側に入った。

 王都の内部に入った。


 駅に到着した。

 ぞろぞろと降りていく人の群れに俺たちも混ざって下車する。


「とうちゃーくっ」


 大きな駅だ。

 天井は高いし、プラットホームも驚くほど広い。

 線路はいくつもあって、俺たちが乗ってきたもののほかにもいくつもの列車が出入りしていた。


 プラットホームでは多くの人々が行き交っている。

 肩と肩がぶつかりそうなのをかろうじてかわしながら俺たちは駅を出た。

 駅を出ると、王都のまぶしい街並みが広がっていた。


 白い石畳で舗装された地面。

 立ち並ぶ大小さまざまな、近代的な意匠の建物。

 ムーンバレイの町も市場や大通りは賑わっていると思っていたが、目の前に広がるものはそんなものとは比類にならなかった。


 絶え間ない人の流れ。

 喧噪。

 行き交う馬車。


 まぎれもなくここは都会だった。


「すっごーいっ」


 ミーシェは目をきらきらと輝かせている。

 ルナはすました表情。

 アスカノフは「ほう」と感心していた。


「どれくらいの人が住んでるんだろう。1000人くらい?」

「あはは……」


 苦笑いするルナ。

 ケタが二つほど足りないだろう。

 他人からすれば俺たち、田舎からやってきたのぼりさんにしか見えないだろうな。



 まずは宿泊先であるルナの実家へと赴く。

 部屋単位で住居を貸している集合住宅がいくつもあったが、そこではないらしい。

 彼女の家は王都の中心部から少し離れた、比較的静かな場所にあった。


 大きな一軒家が立ち並ぶ住宅街。

 上流階級の人々が住む居住区だった。

 その中でひときわ大きくな豪邸の前に俺たちはいた。


「ルナちゃんちって、お金持ちだったの!?」

「いえ、そんなことはありません」


 ルナは謙遜するが、どう考えても上流中の上流の貴族なのはその住まいで明らかだった。

 アリアの家も豪族だが、ルナの一族はそれをも上回るだろう。


「いらっしゃい。キミがエリオくんでそっちがミーシェちゃんだね。そちらの子がアスカノフちゃんかな」

「ステキなお友達がいるとルナの手紙で存じております。うちのルナがお世話になっています」


 ルナの両親はとても娘想いの理想的な親だった。

 ルナの両親は俺たち三人にそれぞれ部屋をあてがってくれた。

 そのうえメイドと執事つきだ。


 ルナがこんな大貴族の娘だったなんてな。

 彼女が貴族の令嬢だとは知っていたが、これほどとは。

 おそらくだが、王族にも匹敵する財産の持ち主なのだろう。この一族は。


 ふるまわれた夕食もごちそうだった。

 テーブルマナーを心得ていない俺とミーシェはごちそうを前にしてまごついていたが、アスカノフは無造作にフォークとナイフを取って、前菜やスープには目もくれずステーキに食らいついていた。


「ん? どうした貴様ら。食べないのか?」

「ア、アスカノフちゃん……」


 口のまわりについていたソースの汚れをぺろりと舐めるアスカノフ。


「ミーシェさまとエリオさまもどうぞごえんりょなさらず。作法は気にせず結構ですので」

「じゃ、じゃあ、いただくとするか……」

「わっ、このお魚おいしいよ!」

「食べながらしゃべるな……」

「いやー、家族が増えたみたいで楽しいね」

「そうね。ふふふっ」


 ルナの両親はほほえましげに俺たちを眺めていた。

 い、田舎丸出しで恥ずかしい……。


「王城でのパーティーは三日後だっけ。それまでどうしよう?」

「とりあえず、明日はまずフィンさんに会いに行こう。俺たちが王都に来たのを知らせにな」

「フィンさんてどこにいるんだろう」

「おそらく王城かと。フィンさまは騎士ですので」

「パーティーの前にお城に入れるんだねっ。わくわくするなぁ」

「国王陛下にも一度謁見すべきですね。エリオさまは勇者セフェウスの生まれ変わりですので」

ここまで読んでいただきありがとうございます!


「面白そう」「続きが気になる」と感じましたら、『ブックマーク』と広告下の【☆☆☆☆☆】を【★★★★★】にしていただけますと嬉しいです!


皆様の応援が作者のモチベーションとなりますので、是非協力よろしくお願いいたします!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ