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7-2:列車で王都へ

 そして出発の日になった。

 俺とミーシェ、アスカノフとルナは駅のプラットホームにいた。


「おみやげ、忘れないでよね」


 見送るのはアリア。

 彼女だけ置いていくのはかわいそうだ……。


「アリアちゃん。今からでも遅くないよ。こっそり一緒に行かない?」


 ミーシェが割と本気で提案する。

 アリアは苦笑しながら首を横に振った。


「アタシはムーンバレイに残るわ。ミーシェちゃんの提案は魅力的だけど、目の前の困難から逃げたらアタシ、心からパーティーを楽しめないと思うから」

「アリアちゃん……」


 アリアは愚直なのだ。すがすがしいほどに。

 もちろん、ほめている。

 ここで俺たちに混じって列車に飛び乗ったところで、あとで親や教師にしかられるだけで済むだろうに。

 そういうズルを許さないのが彼女のいいところなのだ。


「貴様、頭は悪いくせに、その心意気は立派だな」

「『頭は悪い』は余計よっ」


 列車の到着のベルがけたたましく鳴る。

 みんな一斉に右手側に注目する。

 視界の果てまで伸びる線路。

 その果てから小さな物体が現れた。


「列車が来たよ、お兄ちゃんっ」


 はしゃぐミーシェ。

 汽笛が遠くから聞こえてくる。

 小さな粒だった列車が線路を走って近づいてくるにつれてみるみる大きくなっていく。

 そしていよいよ巨大な黒い鉄のかたまりとなったそれは、甲高い金属音を鳴らしながら俺たちの目の前に滑り込んできた。


 列車の扉が開く。

 さすがに田舎の町だけあって誰も降りてこない。

 乗り込もうとしている乗客も俺たちだけだ。


「まもなく発車しますのでご乗車ください」


 車掌に促される。


「あーあ、ドレスを着れないのは残念だわ」

「……なあ、みんな。やっぱり王都に行くのはやめにしないか」


 俺が土壇場で提案する。

 アリアがびっくりして目をぱちぱちさせる。


「なに言ってるのよエリオ!」

「お前ひとりをのけ者にするなんてかわいそうだろ」

「うん。やっぱりそうだよね。お兄ちゃんの言うとおりだよ」

「エリオさまの意見に賛成いたします」

「我は別にどっちでもいいぞ」

「ダメに決まってるでしょ!」


 アリアは力ずくで俺たちを車両に押し込む。


「アタシのせいでみんなを後悔させたくないの。めいっぱい楽しんできて」

「アリア……」


 うしろに下がるアリア。

 列車の扉が閉まる。

 そして再び汽笛がなると、列車がゆっくりと動き出した。


 アリアが俺たちに手を振っている。

 彼女には似合わない、少し寂しげな笑みで。

 俺たちも彼女に手を振り返した。


 それからしばらく経って……。


「あわわわわ……」

「はわわわわ……」


 ミーシェとルナは、走り出した列車を怖がっている。

 アスカノフは平然と座席でふんぞり返っていた。

 駅を出た列車はみるみる加速していき、ついに驚くべき速度になった。

 馬車なんて相手にならないくらい速い。


「お、お兄ちゃん……。これ、壊れたりしないよね……」


 となりの座席のミーシェが俺にすがりついている。


「神よ、どうかご加護を……」


 ルナは神に祈っていた。

 彼女は王都から引っ越してくるときに列車に乗ったと思うのだが……。

 列車が少し揺れるたびに彼女たちは「ひゃっ」と声を上げて驚いていた。


「情けない連中だ」


 アスカノフは平気のようだ。

 彼女は竜の姿のとき、こんな速度で空を飛んでいたからだろうな。


「ほら、ミーシェもルナも窓の外を見てみろよ。いい景色だぞ」


 下ばかり向いて震えていた彼女たちが顔を上げる。

 そして車窓からの景色を見ると目を輝かせた。


 青空の下、見渡す限りに広がる草原。

 草木が風になびいてる。

 そんな景色がうしろへと流れていくさまは爽快だった。

 がたんごとんと揺れるのも、俺からすれば心地いい。


「きれいな景色……」

「まるで一枚の絵画のようですね」


 怖がるのをやめた二人はすっかり美しい景色に見入っていた。


「あ、そうだ。お弁当食べようよ」


 ミーシェがひざの上にランチボックスを置いた。

 中にはサンドイッチが敷き詰められていた。


「紅茶もありますよ」


 ルナが水筒を取り出した。

 美しい風景を眺めながらの早めのランチ。

 なんてぜいたくなんだ。


「それにしても列車ってすごいよね。どうやってこんなに早く走ってるんだろ」

「たしか、蒸気の力で走ってるらしいぞ」


 学校で習ったことがある。

 蒸気機関がどうのこうのと。


「蒸気って、お湯を沸かしたときに出る湯気のこと? もー、そんなウソにはだまされないよ。わたしだってもう子供じゃないんだから」

「いや、本当なんだが」


 とはいえ、俺自身も半信半疑。

 湯気でどうやってこの鉄のかたまりを走らせているのだろう。


 それから俺たちは車窓からの景色を楽しみながら旅行を堪能した。

 草原が終わると海が見えた。


「海って初めて見た! すっごい広い!」


 一面に広がる青い水面。

 太陽の光を乱反射せてきらめいている。


「海ってしょっぱいらしいよ。知ってた? お兄ちゃん」

「どうやらそうらしいな」

「泳いでみたいなー」


 こんな広い海で泳げばさぞ気持ちいいだろう。

 しかも海ではあらゆる物体が浮くらしい。

 なんだかおもしろそうだ。


 それからも俺たちは列車に揺られていた。

 ひとしきり楽しんだミーシェとルナは、今は寝息を立てている。


 ミーシェが俺の肩に寄りかかっている。

 彼女のやわらかい髪が触れてくすぐったい。

 愛らしい寝顔。

 ほっぺたを指でつつく。

ここまで読んでいただきありがとうございます!


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