6-4:放浪の騎士
そして週末。
フィンさんとの対決の日となった。
よく晴れた決闘日和だ。
場所は広場。
俺とフィンさんは剣を持って対峙している。
周囲には人だかり。
町の人全員を集めたのかと思うくらいの賑わいだ。
「お兄ちゃーん、がんばってー」
「ぜったいに勝ちなさいよね」
ミーシェにアリア、ルナとアスカノフもその中に混じっていた。
「すごい盛り上がりだね。正直驚いたよ」
「みんな刺激に飢えてるんですよ」
「なるほどね」
苦笑いするフィンさん。
伝説の勇者と放浪の騎士の決闘。
これに興奮しない人間などいるだろうか。
ウワサによると、俺とフィンさんの決闘で賭けをしている大人もいるとか。
賭博は町の法律で違法だから、おおっぴらにはしていないようだが。
自分たちが賭けの対象にされてるなんて複雑な気分だ。
気持ちはよくない。
「あ、そういえばフィンさん。大事なことを忘れていました」
「え?」
首をかしげるフィンさん。
「俺が勝った場合はパーティーに招待してもらうことになっていますが、フィンさんが勝った場合の褒賞を決めていませんでした」
「ああ、そんなことか」
フィンさんは笑う。
「僕にご褒美はいらないよ。前にも言ったけど、勇者セフェウスと一戦交えることそのものが騎士としての最大の名誉なんだ」
「いえ、それでは俺が『負けてもいいや』と無意識に思ってしまいます。フィンさんにも勝利の褒美が必要です」
「なるほど、一理あるね」
うーん、と考え込むフィンさん。
しばらく考えたあと、彼はこう言った。
「わかった、こうしよう。僕が勝ったらエリオくんもイモリの丸焼きを食べてもらう」
「……あはは、わかりました」
これはいよいよ負けられなくなった。
というかやっぱりアレ、罰ゲームに使う代物だったんじゃないか……。
「では、各々、風船を頭に」
戦いを仕切る町長が支持する。
俺とフィンさんは自分の頭に紙風船をくくりつける。
今回の決闘では、この紙風船を割った者が勝者となる。
ちなみに俺たちが持っている剣は竹を円筒形に組み合わせた、比較的柔らかい模擬剣だ。
これなら全力で頭を叩かれても大けがをする心配はない。
たぶん、それでもかなり痛いだろうが。
「僕としては聖剣『ルーグ』を使ってほしかっただけどね。そうしてくれたら一生仲間に自慢できたんだけど」
「そ、それはさすがに勘弁してください……」
本物の剣を使って人間と戦う度胸は俺にはない。
「さあ、剣を構えたまえ」
俺とフィンさんは間合いを空けて剣を構える。
じっとにらみ合う。
フィンさんからは静かな闘志が伝わってくる。
観衆たちも静まり返る。
訪れる静寂。緊張。
たっぷり時間を置いたあと、町長が声を張り上げた。
「はじめっ」
戦いが始まった。
観衆たちがふたたび沸いた。
互いにすり足でにじり寄る。
そして切っ先が触れ合うくらいの距離まで近づくと、そこで止まる。
勝敗が決する間合い。
だが、うかつに動けば反撃をくらう。
俺もフィンさんも相手の出方をうかがっている。
「お兄ちゃん、負けないでー!」
「騎士さん勝てよー! お前に賭けたんだからなー!」
「エリオさまーっ」
熱狂する観衆たちとは裏腹に、俺とフィンさんは静かに対峙していた。
真剣な面持ちのフィンさん。
俺の心を見透かそうとするかのように見つめている。
俺は目をそらさぬよう、見つめ返している。
目をそらした瞬間、敗北するような気がしたから。
にらみ合いは続く。
俺は日が暮れるまでそうするのも上等だった。
先に動いたほうが負ける。
そう思っていたら、フィンさんのほうに動きがあった。
数歩、後ずさる。
「てやーっ!」
そして掛け声とともに攻撃を仕掛けてきた。
俺もそれに合わせて飛び掛かる。
二人が交差し、位置が入れ替わった。
「……」
「……」
入れ替わった位置のまま、背を向けあっている。
頭に手を伸ばす。
俺の紙風船は無事。
振り返る。
フィンさんの頭にある紙風船は――ぺしゃんこにつぶれていた。
「勝者――エリオ!」
今日一番の歓声が沸いた。
「やったねお兄ちゃん!」
観衆をかき分けて俺の元まで駆けつけてきたミーシェに抱きつかれる。
「エリオさま、お怪我はありませんか?」
「ああ。俺は平気だ」
「やったじゃない、エリオ」
「勝って当然だ。貴様は我を負かしたのだからな」
ルナもアリアもアスカノフも俺を称えてくれた。
「ははっ。さすがは勇者セフェウスだ」
フィンさんが手を差し伸べてくる。
俺はそれに応じて握手した。
最後は後腐れなくさわやかに、だ。
「あの、勝たせてくれてありがとうございます。フィンさん」
「どういう意味だい?」
フィンさんはとぼけているが、彼が俺に勝利を譲ってくれたことくらいわかっていた。
彼が大げさに攻撃をしてこなければ俺が負けていただろう。
「買い被りだよ。僕はつい熱くなって捨て身の攻撃に出てしまった。それだけさ」
勝負には勝ったものの、人間としてはフィンさんのほうがはるかに上だった。
フィンさんだって本当は勇者セフェウスと全力で戦いたかったろうに。
「フィンさん。お兄ちゃんが勝ったときの約束、おぼえてますよね?」
「もちろん。キミたちをお城のパーティーに招待するよ」
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