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6-2:放浪の騎士

 俺が質問すると、フィンさんはこう答えた。


「実はエリオくんにお願いがあるんだ」

「俺にできることなら」

「ある意味、かんたんだよ」


 にこりと笑って彼はこう続けた。


「エリオくん。僕と一戦交えてほしい」


 ……?

 最初は言っている意味がわからなかった。

 頭の中で先ほどの言葉を繰り返すと、それが決闘のお願いだと理解できた。


 思いもよらないお願いに戸惑ってしまう。

 ミーシェたちも驚いていた。


「魔王を討伐したという伝説の勇者セフェウス。そんな彼の生まれ変わりと戦うことができるなんて騎士の誉だ。ぜひ僕と戦ってもらいたい」


 フィンさんは目を輝かせている。

 本当に勇者セフェウスと戦いたいのがその目でわかる。

 新しいおもちゃを前に興奮する子供みたいな、むじゃきな目だ。


 俺は答えに悩む。

 フィンさんは騎士だから、他の騎士たちと幾度も腕試しをしているのだろう。

 大きな都市には闘技場があるから、そこで戦ったりもしたのかもしれない。


 だが、俺はどこにでもいる普通の学生。

 これまで戦いとは無縁の生活を送ってきた。

 剣を持って戦ったのはすべて、やむを得ない事態のときだった。


 腕試しで剣の腕を競う――という経験がそもそもないのだ。

 人間同士で切っ先を向け合って戦うなんて怖いに決まっている。


「迷う必要などあるまい。身の程を思い知らせてやればいいではないか」


 アスカノフが平然と言う。


「お兄ちゃんなら騎士さまにも勝てるよっ」

「応援してるわ」


 ミーシェとアリアも乗り気だ。

 みんな他人事だ。


「ですが、フィンさん。人間同士で戦うのは気が引けます」

「キミたちはカードゲームやボードゲームで対戦するだろう? それと同じだよ。なに、本気で殺し合うわけじゃないんだ。互いの実力を確かめ合うために手合わせをするんだよ。戦いで生まれる絆や友情もある」


 それでも俺は悩む。


「それならこうしよう」


 ぽんと手を合わせてるフィンさん。


「僕に勝てたらエリオくんたちにご褒美をあげるよ」

「ご褒美ですか」

「えっ、なになになになになにっ?」


 ご褒美という言葉を聞くや、興味津々で身を乗り出してくるアリア。

 フィンさんは「あはは」と苦笑いする。

 天井向いて考えるフィンさん。


「そうだね……。よし、今度開かれる王城でのパーティーに招待するよ」

「パーティー!」

「すごいっ。お城に招かれるなんて!」

「ドレスもオーダーメイドで仕立ててあげるから安心してほしい」

「ドレス!」


 ミーシェとアリアは大興奮だ。

 興奮のあまり、よろこびの声を上げて抱きしめ合う。

 それから二人は俺に詰め寄ってくる。


「お兄ちゃん、フィンさんとの決闘、受けて立つよね!?」

「ぜーったいに勝ちなさいね!」


 鼻息がこちらにまで届く。

 もはや断れない状況だった。



 そういうわけで俺はフィンさんと一騎打ちをすることになったのだった。


「お城でパーティーかぁ」


 家に帰ってからというもの、ミーシェはうわのそら。

 ドレスを着てパーティーを楽しんでいるのを夢想している。

 なんとも間の抜けたニヤケ面だ。


「早く着たいなぁ、きれいなドレス」

「ドレスもパーティーも俺が勝てたらの話だぞ」

「お兄ちゃんなら楽勝だよ。まあ、フィンさんも強そうだけどね」


 ウィンクするミーシェ。


「我を負かした貴様が我以外に敗北するなど許さんぞ」


 アスカノフまでそんなことを言ってくる。

 責任重大で憂鬱だ。

 人間同士、武器を持って対峙するなんて足が竦むに決まっている。

 彼女たちには悪いが、期待には応えられそうにない。



 翌日。放課後。

 学園からの帰り道、俺とミーシェとルナはフィンさんに偶然出会った。


 真剣な面持ちで露店を見ている。

 彼の視線の先にあるのは――イモリの丸焼き。


「あ、エリオくん」


 フィンさんが俺たちに気付いた。


「ムーンバレイの住人はこういう食べ物を好むのかい?」

「いえ、かなりの物好きしか食べないかと」

「ちょっと勇者さん、それはあんまりじゃないかね」


 露店の店主が憤慨する。

 だが、実際のところ、この店でイモリの丸焼きが売れているのを見たことはない。

 ミーシェもルナも顔をしかめている。


「見てくれは悪いが、味は保証しますぜ騎士さま」

「ふむ」

「ちょっとフィンさん、それ食べるんですか!?」

「興味深いのだよ」


 フィンさんは依然としてイモリの丸焼きを敵のようににらみつけている。

 そしてついにそれを手に取った。

 対価を受け取った店主がごきげんな顔になる。


「まいどあり」


 フィンさんはイモリの丸焼きを手にしてしまった。

 しげしげといろいろな角度からそれを眺めている。


「臓物は抜いてあるようだね」


 ぱくりと口に含む。

 一口で丸ごと食べてしまった。

 もぐもぐと咀嚼する。


 俺たちはそのようすをじっと見守っていた。

 そしてついに飲み込む。

 さて、味の感想は……。


「意外と普通の味だね」


 涼しげな顔をしてそう言った。


「小腹が減ったときに食べたくなるね。エリオくんたちも食べてみたらどうだい」

「え、遠慮しておきます……」

「フィンさまはこのようなふしぎな食べ物を好むのですか?」

「珍しいものに興味を引かれるんだ。食べ物に限らずね」

ここまで読んでいただきありがとうございます!


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