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5-2:蛍花

 そして帰宅する。

 ミーシェが夕食の支度をはじめたくらいの時間になると、遅れてアスカノフも帰ってきた。

 俺が笑顔で出迎える。


「クラスメイトとは仲良くなれたか?」

「貴様には関係ない」


 アスカノフはふてくされた表情をしている。

 やっぱり置いていったことを根に持っているらしい。


「毎日人気だな」

「竜というのが物珍しいだけだろう」

「もちろんそれもあるだろうけど、友達になりたいんだよ」

「どうだか」


 ぷいと顔をそむける。

 そして小声でつぶやく。


「……実際、我はまだ、もらっていない」

「もらっていない……?」


 なにをだ?


「なんでもない!」


 アスカノフはぷんすか怒りながら自分の部屋へと行ってしまった。

 気難しい年ごろ……。

 いや、彼女はもう何百年も生きているからそれはないか。


「うわー、やっぱりアスカノフちゃん、怒ってるのかな」


 キッチンからミーシェが出てくる。

 さっきの声が聞こえたようだ。


「アスカノフのためにプレゼントを用意してる、って話したらどうだ? ぜったいよろこんでくれるぞ」

「それはダメ」


 ゆずれないところらしい。


「アスカノフちゃんが『わっ』って驚いて、それから『わーっ』ってはしゃぐのを見てみたいの」

「そんな反応するやつじゃないだろ。あいつは」

「お兄ちゃんはなにもわかってないねー」


 ミーシェはチッチッチッと指を振るのだった。


「うーん、とりあえず、アスカノフちゃんのごきげんをとるために、今夜はハンバーグをおかずに追加かな」



 夜中。

 暗い部屋で俺はベッドの中で目を開けていた。

 めいっぱいコーヒーを飲んだので眠くはない。

 夜がふけるのを待つのはだいぶ退屈だった。


 それにしても妖精の森へ行くことになるとはな。

 危険がなければいいが。

 なにかあったら俺がミーシェとルナを守らないと。


 無意識の部分に勇者セフェウスの記憶が残っているらしく、戦いに関しては問題ない。

 聖剣『ルーグ』はまるで長年連れ添ってきた相棒のように手に馴染む。

 俺を退けられるものなど、それこそ本気を出したアスカノフくらいだろう。


 俺の前世、勇者セフェウスはアスカノフと決闘し、勝利したという。

 そして彼女に人間との共存を提案した。


 お人好しだな、前世の俺は。

 もっとも、今の俺でもそうしただろう。

 実際、そうしている。


 ドアがノックされる。

 返事を待たずドアが開き、ミーシェが音もなく入ってきた。

 ようやく来たか。

 ミーシェは完全に外出の支度を整えていた。


「出発だよ」


 俺はベッドから出て聖剣『ルーグ』を手にした。


 アスカノフを起こさないよう、注意をはらいながら忍び足で外に出る。

 満月の光が静かに降り注ぐ、青白い夜。

 月明りを頼りに道を歩き、教会へ行くと、教会の前でルナが一人で俺たちを待っていた。


「こんばんは、ミーシェさま、エリオさま。ふわぁ……」


 あくびをする。

 それからすぐに「ハッ」となって頭をぶんぶん横に振る。


「はっ、はしたいところをお見せしてしまいましたっ」


 頬を赤く染めて下を向き、股の間で手をもじもじさせる。

 いじらしいしぐさだ。

 ルナはまだ夜ふかしできない年齢だものな。


「エリオさま。今のはどうか忘れてください……」


 恥じらうルナもかわいい。

 彼女にはもうしわけないが、忘れたくても忘れられないだろう。

 礼儀正しい少女の、歳相応なところが見れたのだから。


「ルナは待っていていいんだぞ。蛍花は俺とミーシェでつみにいくから」

「いえ、そういうわけにはいきません。贈り物はみんなで用意するからこそ価値があるのです」


 ルナはぐっとこぶしを握った。

 みんなでこっそり用意する、か。プレゼントひとつ贈るのも大変だ。

 そうして三人で町の外へと向かった。


「なんか、夜の町を歩くのってドキドキするよね。いけないことしてるみたいで」

「はい。冒険って感じですね」


 ミーシェはともかく、ルナまでもわくわくしているようすだった。


 夜のムーンバレイの町は完全に眠りについていた。

 しん、という音すら聞こえてきそうなほど静寂に包まれている。

 家屋の明かりはどこも消えている。酒場さえもとっくに店じまいしている。


 大都会である王都は夜でさえもにぎわっているというが、ここは盆地にある田舎の町だ。

 陽が高いうちに生活し、陽が沈むのに合わせて眠りにつく。

 自然な暮らしが続いている。


 俺とミーシェとルナは町の門をくぐって外に出る。

 街道を少し住んで脇道にそれて森に入った。


 この森は、ムーンバレイの住人たちからは『妖精の森』と呼ばれていた。

 その名のとおり妖精が住んでいるが、彼らは俺たち人間とは交流をせず、森にこもって暮らしている。


「妖精に会えるかな?」

「もしかすると会えるかもしれませんね」

「妖精は人間を嫌っているっていうぞ。会わないほうがいいんじゃないか」

「えー、会ってみたいよ、妖精」


 湿った落ち葉を踏みしめながら森を歩く。

 森は木々が好き放題枝葉を伸ばしているせいで月明りをさえぎっている。

 満月の光はぽつぽつと点となって地面に落ちていた。

 ミーシェが持つランタンの明かりがなければ真っ暗闇をさまようはめになるだろう。


 静かな森だ。

 葉の擦れ合う音がざわざわとする。

 正体不明の幽霊に対する恐れというよりも、神聖なものに対する畏敬を抱いてしまう。

ここまで読んでいただきありがとうございます!


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