4-6:フリーマーケット
そうして俺たちは洞窟に入った。
中は真っ暗かと思いきや、魔法の仕掛けが施されているのか、前に進むたびに壁にかかったたいまつに火が灯り、周囲を照らしてくれた。
湿った空気。
俺たちは慎重な足取りで洞窟を進んでいく。
先頭は俺で、その後ろに彼女たちがついてくる。
「あわわわ……。お兄ちゃん」
ミーシェはさっきからずっと俺の腕にすがりついている。
アリアも身体を縮めてびくびくしながら歩いている。
アスカノフはともかく、最年少のルナは以外も平然としていた。
「ルナちゃん、怖くないの?」
「神はどこであろうと見守ってくださっています。たとえ暗闇であろうと」
えらいな。
二人には見習ってもらいたいものだ。
パシャッ。
「うわっ」
「お兄ちゃん!?」
暗くてよく見えなかったので、思い切り水たまりを踏んでしまった。
右足の靴がずぶぬれだ。
「水たまりを踏んだらしい」
「おどろかさないでよー」
聖剣『ルーグ』があるとはいえ、こんなところで魔物と出くわしたら危険極まりない。
俺とアスカノフだけでミーシェたちを守れるだろうか。
「アスカノフ。魔物と戦うことになったら頼りにするからな」
「任せるがよい」
頼もしい返事だ。
俺たちは先へと進んでいく。
反応する聖剣。
まぼろしの壁。
自然と灯っていくたいまつ。
それらふしぎな現象の数々は、俺たちを招いているようにしか思えない。
聖剣が反応するということは勇者セフェウスにまつわる財宝の可能性が高い。
しばらく歩くと、分かれ道にさしかかる。
右と左、二手に分かれている。
「こういうときは左に進むべきだ、って冒険小説に書いてあったわ」
アリアがそう言う。
「お兄ちゃん。剣は反応してる?」
ミーシェに言われて聖剣を確かめる。
右のほうへ近づくが、赤い宝石は反応しない。
左のほうへ近づくと、宝石が光りだした。
「やはり聖剣が導いていますね」
「左へ行こう」
左の道へと進む。
「わー、すごい!」
左の道へ進むと、開けた空間に出た。
天井がかなり高い。
そして道沿いに広い湖が広がっていた。
「地底湖ですね」
自然と灯るたいまつの赤い明かりが湖に反射して幻想的だ。
「深そうね。魚は泳いでいるかしら」
アリアが湖を覗き込んでいる。
「わっ、すっごい冷たい」
ミーシェが湖に手首まで浸けていた。
「これぞ冒険って感じ!」
「わたくしも胸が高鳴っています」
なんだかんだでみんな、未知なる世界の冒険を楽しんでいた。
俺はそうではないのかと問われれば……うそになる。
この先にはなにがあるのか、興奮と好奇心を抑えきれなかった。
湖沿いの道を歩き、さらに先へと進む。
細くて狭い洞窟を歩き続けていると、再び広い空間に出た。
だだっ広い空間。
その中央に巨大な物体があった。
人の形をした物体。
それは見たところ岩でできていて、複数の岩が組み合わさって手足と胴体、頭部を作っていた。
本で読んだことがある。これはゴーレムだ。
「財宝に触れようとする無謀なる者たちよ」
「しゃべった!」
ゴーレムがおぞましい声を出して空間に響かせた。
ミーシェが俺にぴたりと抱きついてくる。
「財宝が欲しくば我を倒してみるがよい」
財宝の番人か。
戦わなくてはならないのなら、やるしかない。
さいわいにも俺は勇者セフェスの生まれ変わり。
「ほう、石人形ごときが」
それに、俺たちには偉大なる竜、アスカノフもいる。
「かかってくるがいい、石人形」
「グオオオオッ!」
ゴーレムが振りかざした巨大な腕を振り下ろしてきた。
それをたやすく受け止めるアスカノフ。
彼女が少し力を込めると、ゴーレムの腕は粉々に砕け散った。
「エリオよ。とどめは貴様に譲ってやろう」
俺は驚異的な跳躍でゴーレムの頭上まで飛び上がる。
そして落下するとともに、その勢いを生かして聖剣『ルーグ』をゴーレムの頭部に叩きつけた。
ゴーレムの頭部はその一撃で木っ端みじんに砕け散った。
頭部が弱点だったのだろう。
ゴーレムはバラバラになってただの岩のかたまりになってしまった。
「お兄ちゃんすごーいっ」
「神よ、この守護者にどうか安息を与えたまえ」
これで先へと進める。
俺たちは奥へと踏み入った。
「階段だ」
洞窟の先に、いきなり文明的なものが現れた。
明らかに人間によって作れた階段があったのだ。
階段は傾斜が急で、はるか暗闇の向こうまで続いている。
俺たちは階段を上っていく。
急勾配だからかなり疲れる。
ミーシェたちの体調に気をつけながら俺はみんなを先導する。
「少し休むか」
「さんせーい」
途中、その場に座り込んで休憩する。
身体を休ませたら、考えまいとしていたことを考えてしまった。
これ、帰るときには来た道を引き返すんだよな……。
上るのも大変だが、下りるのも相当苦労するだろう。
考えるだけでうんざりする。
今は先へ進むことだけを考えよう。
俺はぶんぶんと首を振って考えを投げ捨て、現実逃避した。
長い長い階段。
永遠に続くのかと疑ってしまう。
「あっ、光が見えたよ」
ミーシェが声を上げる。
足元ばかり見ていた視線を上げると、確かに階段の先に小さな光が見えた。
疲れ切っていたはずの俺たちだったが、自然と早足になって急ぎだした。
そしてついに階段を登りきった。




