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1-1:転生した勇者

「勇者セフェウスよ。あなたは次の人生でなにを望みますか?」


 白い世界で俺はそう問われた。

 広いのか狭いのかもわからない真っ白な世界。

 そこには俺しかいない。


 他に誰もいないはずなのに、語りかけてくる声だけがあった。


「俺は……死んだのか」

「あなたは己に定められた生をまっとうしました。勇者として戦い、魔王ロッシュローブを倒し、世界に平和をもたらしました。そして小さな町で余生を過ごし、今、寿命を迎えました。我ら神々もあなたを称えています」


 そういえばそうだった気もするし、そうではなかった気もする。

 魔王ロッシュローブを倒したのがついこの間のような気がするし、はるか昔の出来事だったような気もする。


 ふしぎな感覚だ。

 気持ちがとても穏やかだ。


「勇者セフェウスよ。あなたは次の人生でなにを望みますか?」


 声の主が再びそう問いかけてきた。

 俺は考える。

 少し考えてからこう答えた。


「戦いに明け暮れた人生だったから、次はのんびりと過ごしたいな」

「……それでよいのですか?」


 声の主が尋ねてくる。

 その声色から困惑が読み取れる。

 戸惑うのも仕方ないか。


「巨万の富も、比類なき力も、絶え間なき名声も望まないのですか?」

「家族と毎日平凡な日常を過ごせればそれでじゅうぶんだ」


 むしろ、そんな平凡な日々を送りたい。

 あえて欲張るなら――


「そうだな。せっかくだから妹がほしい」

「妹、ですか」

「かわいい妹と二人で暮らしたいな」

「わかりました。あなたが望むなら叶えましょう」


 意識が遠のいていく。

 ゆっくりとゆっくりと眠りにつく間隔だ。

 俺の、勇者セフェウスとしての人生に幕が下ろされていく。




「お兄ちゃん、起きてー!」

「おわっ!」


 いきなり大声がした。


「お兄ちゃん! 寝坊だよ!」


 俺は勢いよくベッドから身体を起こす。

 ここは――俺の部屋。

 カーテンが開かれた窓からは朝の陽ざしが降り注いでいる。


 そして俺の目の前には妹の――妹のミーシェがいた。

 妹……。

 ミーシェがにこりと笑う。


「おはよ、エリオお兄ちゃん」


 そして俺の名前はセフェウス――ではなく、エリオ。

 どこにでもいる普通の青年のエリオだ。


「てへへー」


 ぎゅーっとミーシェが抱きついてくる


「お兄ちゃん、大好きだよ」


 ときどきこんなふうに甘えてくるのだ。

 甘えんぼうな妹だ。


「朝ごはんの時間だから着替えて食卓にきてね」


 ミーシェが部屋を出たあと、俺は黙々とパジャマを着替えた。

 そして食卓へ。

 食卓は食欲をそそるいいにおいで満たされている。


 キッチンではミーシェがフライパンを手に、朝食を作っていた。

 そして朝食が出来上がり、テーブルに並べられる。

 俺とミーシェは向かい合って食卓に着く。


「いっただきまーすっ」

「いただきます」


 パンとベーコンエッグ。それと眠気覚ましのコーヒー。

 なんてことはない、ありふれた朝食。

 俺とミーシェは朝食に手をつける。


 おいしい。

 パンはふっくらしているし、ベーコンエッグはベーコンのカリカリ具合がたまらない。

 さすがミーシェ。家事万能の自慢の妹だ。


「おいしい? お兄ちゃん」

「ああ。ミーシェは料理が得意だな」

「てへへー」


 はにかくしぐさもかわいい。

 俺のなによりも大切なもの、それがミーシェ。


「あーあ、そろそろ期末試験だね。憂鬱だよー」

「……」

「放課後はルナちゃんと試験勉強しなくっちゃ。お兄ちゃんもいっしょに勉強しようね」

「……」

「お兄ちゃん?」


 俺がずっと黙ったままだったので、ミーシェがいぶかしげに顔を覗き込んできた。


「今日は口数少ないけど、具合でも悪いの?」

「……ミーシェ」

「なに?」

「俺、もしかしたら勇者セフェウスの生まれ変わりかもしれない」


 大真面目に俺はそう言った。

 ミーシェが目をまんまるにする。

 そして何度かまばたきしたあと、


「お兄ちゃんてば、まだ寝ぼけてるし」


 呆れたふうにため息をついた。


「仮に、仮にだよ。お兄ちゃんみたいなどこにでもいる平凡なお兄ちゃんが勇者だとしたら、この世界はとっくに魔王ロッシュローブに滅ぼされてるよ」


 かもしれない。

 我ながら突拍子もないことを口にしてしまった。


 でも、なぜか確信があるのだ。

 俺は前世では勇者セフェウスだった。

 仲間たちと力を合わせ、魔王ロッシュローブを倒して世界を救ったのだ。


「勇者なら『剣』を抜いてみたら?」

「試してみるか」

「もー、冗談だって。17歳にもなって『剣』を抜こうとしたら笑われるよ。初等部の子じゃあるまいし。恥ずかしいからやっちゃダメだからね」

「いや、でも本当に俺、前世は勇者セフェウスだった気がするんだ」

「試験前だからって現実逃避しないで。お兄ちゃんはどこにでもいる普通のお兄ちゃんなの」


 そんな他愛のない雑談を交わしながら朝食を食べたのだった。

 登校の時間になる。

 教科書を入れたカバンを手に、俺とミーシェは『ルルム学園』に登校するため家を出たのだった。



 盆地に広がる小さな町、ムーンバレイ。

 周囲を山に囲まれているせいか、外の世界と接触する機会が少なく、この町ひとつで社会が完結している。

 一応、鉄道はあるのだが……。


 俺とミーシェは学園までの道のりを歩く。

 他に通学している生徒の姿は見えない。

 途中、教会に寄る。

 教会の前では金髪の小さな少女がホウキを手に掃除をしていた。


「おはよう、ルナちゃん」

「あ、おはようございます、ミーシェさま。それにエリオさま」

ここまで読んでいただきありがとうございます!


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― 新着の感想 ―
[良い点] 平穏な来世を望むのは前世があまりに濃密だったからでしょうが、その来世が前世を過去にした未来だと…良い意味(?)でその願いは叶わないでしょうね。 それを自覚した時に主人公がどう振る舞うのか気…
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