4-5:フリーマーケット
売れたのか。
驚いた。
店のにぎやかしにする程度の気持ちで出品したから、売れるとは思わなかった。
「アスカノフのブローチも完売したんだな」
「まったく、人間というのははなはだ度し難い」
と言いつつも、アスカノフはよろこびを隠しきれていなかった。
俺たちのフリーマーケットは大成功だ。
「商品が完売したからもう店じまいだね」
売上金を入れていた箱を覗き込む。
これだけあれば、今夜の夕食におかずが一品足されるだろう。
デザートを買うのもいいかもしれない。
「エリオー!」
そんなときだった。俺を呼ぶ声がしたのは。
声がしたほうを向くと、アリアとルナがこちらに歩いてきていた。
「エリオ! よかった。戻ってきてたのね」
「俺に用事か?」
「うん。大事な用事」
大声で俺を呼ぶのだから、よほどのことだろう。
しかし、フリーマーケットでそんな用事があるのだろうか。
「ついてきて」
アリアとルナに案内されて、一軒の店の前に行く。
「いらっしゃい」
その店は白髪の老人が出店していた。
彼の前には丸められた古い紙がぽつんと置いてある。
アリアはそれを指さした。
「これ、みんなでお金を出し合って買いましょう」
「なんだ? これ」
「ほっほっほっ。これは宝の地図じゃよ」
老人がそう言う。
宝の地図……。
そんな胡散臭いものまで売っているのか。
「えっと、いくらですか?」
俺が値段を尋ねると、老人は答える。
その金額を聞いて俺とミーシェは驚いた。
フリーマーケットの商品とは思えない高額だったのだ。
こんなもの、買う人がいるのだろうか。
いや、目の前に一人いるんだったな。
「宝の地図よ! 宝の地図! わくわくしない!?」
目をきらきらと輝かせているアリア。
ルナが「あはは……」と苦笑いしている。
俺もミーシェもアスカノフも呆れていた。
「ちなみにおじいさん。宝って具体的にはなんですか?」
「それは探し当ててからのお楽しみじゃよ」
「きっと金銀財宝だわ!」
アリアはさっきからずっとはしゃいでいる。
とんでもない掘り出し物を発見したと思っているのだろう。
「お宝を見つけたら、ルナちゃんの教会にもたくさん寄付するからね」
「あはは……。ありがとうございます」
「で、地図を買おうにもアタシとルナちゃんのおこづかいじゃ足りないから、三人にも出してほしいの」
「どうする? お兄ちゃん」
俺は知っている。
こういう状態になったアリアは止められないと。
彼女の好奇心は誰にも止められないのだ。
「……とりあえず、あるだけ出すぞ」
俺はしぶしぶポケットに手を入れた。
そういうわけで、今夜のデザートはなくなったのだった。
老人の提示した金額を支払い、地図を買う。
「買ってくれてありがとう。宝物が見つかるのを祈っておるよ」
受け取った地図をさっそく開く。
描いてあったのはムーンバレイ全体の地図だった。
相当古いらしく、地図は茶色に変色し、虫食いがところどころにある。
「ここが宝の場所ね」
地図の西のほうに赤い印がつけられていた。
山の中だな。
魔物が出るかもしれない。
「ここに行くのは危険だ。魔物が出るぞ」
「危険を冒さないと宝物は手に入らないわ」
すっかり冒険物語の主人公になりきっている。
「それに、アタシたちにはエリオとアスカノフがいるわ」
勇者さまと偉大なる竜がいれば怖いものなしとでに言いたげだ。
「うむ。行こうではないか」
意外にもアスカノフが賛成した。
「我は偉大なる竜。魔物ごときに恐れはしない」
「だよねーっ」
「エリオよ。貴様も勇者ならば行くのだ」
「せっかく高いお金で買ったんだから、行かないと損だよね」
ミーシェもアリアに味方した。
公平なる多数決により、俺たちは宝探しをすることにしたのであった。
そうして俺とミーシェ、アスカノフ、アリア、ルナの五人で地図が示した場所へと訪れた。
「なにもないわね」
俺たちがいるのは崖下。
山肌の露出した高い断崖が目の前に立ちはだかっている。
俺たちはきょろきょろと周囲を見回している。
「地図だと確かにこのあたりなんだけどなー」
「地面に埋まってるんじゃない?」
ミーシェがそう言う。
このあたりを片っ端から掘り返すとなると非現実的な労力を要する。
目印のようなものを見つけられれば話は別なのだが。
老人が意味深に売っていたのだ。買った者が途方に暮れるようなことはしないはず。
そんなときだった。ルナが声を上げたのは。
「エリオさま、聖剣が光っています!」
魔物と戦うために持ってきた聖剣『ルーグ』。
よく見てみると、剣の装飾である赤い宝石が光っていた。
「宝物に反応しているんだわ!」
アリアの言うとおりらしい。
聖剣の宝石に注視しながらあたりをうろつくと、光が強くなるときと弱くなるときがあった。
宝物に近づくと光が強くなるのかもしれない。
光が強くなるほうに向かって歩くと、崖につきあたった。
垂直に立ちはだかる自然の絶壁。
絶壁に手を触れてみる。
すると、霧が晴れるようにすっと絶壁の一部が消えて洞窟の入り口が現れた。
まぼろしの壁だったのだ。
「すごい! すごいわ!」
アリアが興奮している。
ミーシェとルナは驚いてぽかんとしている。
アスカノフだけが動じていないようすだった。




