4-4:フリーマーケット
フリーマーケット開催日。
場所は町の中央広場。
晴れ空の下、広場には多くの住人たちがお店を出している。
俺とミーシェ、アスカノフも自分たちの場所でシートを敷き、商品を並べてお客さんが来るのを待っていた。
たくさんの人たちが俺たちの前を通り過ぎていく。
中には俺たちの商品に興味を示して見てくれたり、さらには購入してくれる人もいた。
ミーシェとアスカノフは手作りの小物を出品している。
いちおう俺も読み終えた本を出していた。
「ドキドキするねー」
「さ、さっそく我のブローチを買う者がいた……」
「よかったな」
ミーシェの刺繍が入ったハンカチも好評だ。
目に留まって手に取ってくれる人が多く、そのまま気に入って買ってくれる人もいた。
今のところミーシェの品が一番人気だ。
「た、たくさん人がいるな……」
アスカノフはさっきからずっとそわそわしている。
立ち止まる人がいると、びくりと身をすくませる。
そしておずおずと「み、見ていってくれ……」と言うのだった。
「い、いらっしゃいませ……」
また一人、立ち止まる人が。
その人はアスカノフのブローチを手に取った。
そしてしげしげと眺めたあと「いくらですか?」と尋ねてきた。
「また売れたね、アスカノフちゃん」
売上金を入れる箱の中にまた一枚、銅貨が入る。
アスカノフが微笑む。
「けっこう楽しいな、これ」
「でしょー」
彼女が楽しそうでなによりだ。
これならすぐに人間の生活になじめそうだ。
「ところでお兄ちゃん」
ミーシェが耳元でささやく。
「わたしたち、他の人たちからどう見えるかな?」
質問の意味がわからず首をかしげる。
ミーシェははにかみながらこう続けた。
「恋人同士だと思われちゃってたりして」
「いや、兄妹だろ」
勇者セフェウスの後継者とその妹として町の人たちには知られているし。
「もーっ、お兄ちゃんてばーっ」
俺の返事が不満だったらしく、ミーシェがぽかぽか俺の肩を叩いてきた。
それから俺は店番を二人に任せ、他の店を見て回ることにした。
そのあと、俺は店番でミーシェとアスカノフが自由時間だ。
フリーマーケットの会場ではさまざまな品物が売られている。
多くが不要になった品物で、その次に多いのは手作りの小物。
食べ物を出品している人もときどきいる。
いずれも手ごろな値段だ。
利益のためというよりも、お店を開くという楽しみをみんな重視しているのだ。
あるいは、不要なものを引き取ってもらえればそれでいいと考えているのだろう。
「さて、と」
あいつの店はこのあたりだったな。
「あ、エリオ! 来てくれたのね!」
アリアの店だ。
アリアが俺に手を振ってくる。
彼女の店の前に立つ。
「いらっしゃい。掘り出し物がいっぱいあるわよ。買っていってちょうだい」
彼女が出品しているのは……。
ガ、ガイコツ……。
動物だか魔物だか知らないが、頭蓋骨が並べられていた。
「こんな気味悪いもの売ってたのか……」
「それパパが趣味で集めてるものなの。いらないから売るんだって」
アリアの背後には彼女の両親が座っていた。
会釈すると手を振ってくれた。
人目は引くだろうが、おそらく買い手はつかないだろう……。
「アリア自身はなにを出品しているんだ?」
「これ」
かわいい絵が描かれた本だ。
絵本か。
「さすがにこの歳で絵本は読まないからね」
「買ってくれる人がいるといいな」
「エリオが買ってよ」
「いや、俺もアリアと同い年だろ……」
と思ったが、一冊の絵本が目に入った。
剣を持った人が描かれた表紙。
勇者セフェウス伝説の絵本だ。
「これ、売ってくれるか?」」
「いいの!? まいどありーっ」
前世の俺はどんなふうに語られているのだろうか。
興味がわいて買うことにしたのだった。
絵本を開いてみると――絵本はクレヨンで盛大に落書きされていた……。
「あ、あはは……。中身見てなかった。ごめんね」
苦笑いでごまかすアリアだった。
さて、次は。
「あ、エリオさま。ごきげんよう」
ルナの店を訪れた。
教会として出店しているのだろう。他にもシスターや孤児たちがいる。
出品されているのも燭台や聖書といった、教会にまつわるものが多い。
そのほかには、おしゃれな袋に包まれてリボンで結ばれているものが。
「これは?」
「クッキーでございます」
「へー。いくらだ?」
「それは寄付していただいた方へのお礼ですので、値段は決まっておりません」
なるほど。代金を払って商品を買うのではなく、寄付の見返りとして渡すのか。
教会としての建前があるからそうなっているのかもしれない。
俺はポケットから銅貨を三枚出して寄付箱に入れた。
「ありがとうございます。はい、どうぞ」
ルナからクッキーをもらった。
「お口に合えばよろしいのですが」
「子供たちが作ったのか?」
「はい。わたくしも手伝っております」
それならじゅうぶん期待できる。
追加で六枚銅貨を寄付し、ミーシェとアスカノフの分のクッキーももらった。
会場をだいたい一回りして自分の店に戻ってくると、ミーシェが立ち上がって俺に手を振ってきた。
「お兄ちゃーん。すごいよー」
戻ってみると、出品してあった商品が一つ残らずなくなっていた。
「完売!」
「俺の本も売れたのか?」
「うん。売れたよ」
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