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4-3:フリーマーケット

「アスカノフは勉強ついてこれてる?」

「他愛もない」


 アリアが心配するまでもなく、アスカノフは勉強にしっかりついてこれていた。

 むしろ、優等生と言っていいくらいだ。

 数学はおろか、外国語さえも少しの勉強で身につけてしまった。


 竜は人間より知能のが高いのか。

 あるいはアスカノフの個性なのか。

 いずれにせよ、勉強に関しては問題なかった。


 人間関係もおおむね良好。

 俺は最初「我は人間ごとき下等な生物と慣れあうつもりはない」とでも言い出したらどうしようかと思ったが、余計な心配だった。

 積極的に他者に絡みにいくことはないが、来るものを拒みもしない。


「それにしてもアリア。貴様、なかなかいい根性をしているな。教師が授業をしているのに平然と寝るなど」

「うぐっ」


 剣でも突き立てられたかのように、苦しげに胸を押さえるアリア。

 首をかしげるアスカノフ。

 まさか今の、ほめたつもりだったのか。


「べ、勉強の話はここまでにしてさ、週末のこと話しましょ」

「フリーマーケットのことか」


 週末、ムーンバレイの町でフリーマーケットが開催されるのだ。

 個人個人が持ち寄った品を広場で販売する。

 使わなくなったものや骨董品を売る人もいれば、この日のために手作りしたアクセサリーや小物、お菓子などを売る人もいる。


 俺は前者でミーシェとアスカノフは後者。

 この日のためにミーシェはアスカノフといっしょに、毎日せっせと小物作りにいそんしんでいるのだ。

 ミーシェに手取り足取り教わっているものの、アスカノフは苦戦しているようだったが、果たしてどうなるか。


 アリアが右足のつま先を軸に、くるりと回る。


「アタシも出品するんだー。エリオ、アスカノフ、ぜったい来てよね。最低一つは買うように」

「買ってほしいなら、買いたくなるようなものを用意しておけよ」

「まっかせなさいっ」


 フリーマーケットに出される品物は多種多様。

 見て回るだけでも楽しいし、これが意外と掘り出し物が見つかったりする。

 そして小さな町だから、町の人の大半が広場に集まるのでとても盛り上がるのだ。


 次の授業の始まりを知らせる鐘が鳴る。

 教室で思い思いに過ごしていた生徒たちがいっせいに自分の席へと戻っていく。

 廊下で雑談していた者たちも戻ってくる。


「次は数学か」

「昨日出された宿題、結構難しかったな」

「へ? 宿題……?」


 アリアがぽかんとする。

 おいおい……。


「宿題なんてあったの!?」

「忘れてたのか」

「ど、どどどどうしようーっ!」


 居眠りしてしまうくらい夜更かしして勉強したのに、肝心の宿題を忘れるとは……。

 ほんとうに空回りする子だな。


「俺のノート見せてやるから、急いで写せ」


 俺はカバンからノートを出して差し出す。

 ところがアリアはそれを拒んだ。


「そ、それはダメよっ。ズルはいけないわ」

「そんなこと言ってる場合か」

「ズルするくらいならアタシ、忘れたって正直に言うわ」


 む、無駄に潔い……。


「ふむ。やはり貴様はただ者ではないな」


 そんな彼女をアスカノフがまたほめたのだった。

 それから数学の授業がはじまると、アリアは真っ先に挙手して。


「アタシ、宿題忘れました!」


 と堂々と言ったのだった。

 そこは別に堂々としなくてもいいぞ……。



 その夜。

 夕食を食べ終えて後片付けも済んだあと、ミーシェとアスカノフはテーブルで小物作りをはじめていた。

 ミーシェは楽しそう。

 アスカノフは真剣な面持ちだ。


「できたぞ!」

「やったね、アスカノフちゃんっ」


 どうやら完成したらしい。

 どれどれ……。


「ばっ、見るな!」


 アスカノフは慌てて身体で覆い隠す。


「あ、すまない……」

「まったく。貴様というやつは……」

「お兄ちゃんってばもう」


 アスカノフはおずおずと身体をどける。


「まあ、どうせ見られるのだからな」


 彼女が作ったのはブローチだった。

 雑貨屋で買ってきた色付きの小石をつなぎ合わせて作ったものだ。


「かわいい。よくできてるな」

「うそをつくな。不格好だと正直に言え」


 しょぼんとうなだれるアスカノフ。

 自信がないらしい。


「それ、試作品だろ。よかった俺にくれないか?」

「こんなのが欲しいのか……?」

「『これだから』欲しいんだ」

「……ん、わかった」


 アスカノフは俺にブローチをくれた。

 大切にしよう。

 彼女は頬を染めてぷいと顔をそらした。


「じゃーん。わたしのはこれでーすっ」


 ミーシェが作ったのはハンカチだった。

 真ん中の鳥の刺繍が自作なのだという。

 すごい出来だ。まさに玄人の技術。すなおに称賛する。


「わたしもお兄ちゃんにこれあげるね」

「ありがとう。部屋に飾っておくよ」

「それはそれでうれしいけど、せっかくだから使ってあげて」


 就寝の時間になって俺たちはそれぞれの部屋に入った。

 俺も自室に入る。

 机にハンカチとブローチを置く。


 宝物が二つも増えたな。

 自然と笑みを浮かべてしまう。

 ミーシェもアスカノフも、俺にとって大切な家族だ。


 ……。

 ……。

 ……前世ではどうだったのだろう。


 勇者セフェウスだったころの俺にも大切な家族がいたのだろうか。

 きっといたのだろうな。

 俺が台座から引き抜いた聖剣『ルーグ』にも語られざる伝説があるに違いない。

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