2-3:少女たちの試験
試験が終わると同時に、祭りの準備がはじまった。
本当に今月はあわただしい。
祭りの名前は『セフェウス祭』らしい。
ミーシェは大人の人たちの差し入れのサンドイッチを作っていた。
ルナは大人たちが祭りの準備で不在の間、子供たちの相手をしている。
俺はというと……。
「お兄ちゃんは祭りの主役なんだからおとなしくしてて」
というわけで、暇を持て余していた。
みんなが忙しそうにしている中で、一人だけ退屈なのは居心地が悪い。
しかし、祭りの飾りつけをしている大人に声をかけても「勇者さまに手伝わせるわけにはいかない」と断られてしまうのである。
「エリオ。暇なの?」
ルルム学園。教室。
そのことをアリアに話すと、そう言われた。
「暇だな。また勉強を見てやるか?」
「ええっ!? もう勉強は嫌よ!」
つい数日前まで俺はアリアの放課後の勉強に付き合った。
成績不振者の追試のためだ。
そのおかげで彼女はどうにか追試に合格したのだ。
「勉強よりも運動しない?」
「ふむ」
「わたしの部活に寄っていってよ」
運動か。
気晴らしにはいいかもしれない。
というわけでアリアの部活にお邪魔させてもらうことになった。
放課後。
学園敷地内、運動場。
広い運動場では多くの生徒が部活動をしている。
「『グリップスフィア』のルールは知ってるわよね」
「投げてくるボールを打ち返せばいいんだろ?」
「ざっくりした言いかたね……。合ってるけど」
俺は打撃棒を持って打者の位置に立つ。
アリアはボールを手にして少し離れた投手の位置に。
彼女の所属している部活はグリップスフィア部。
彼女は投手として活躍しているのだ。
「投げるわよー」
アリアが振りかぶる。
そして力をためたあと、腕を思いっきり振ってきた。
すさまじい速度でボールが投げられる。
一瞬にしてボールは俺の横を通過し、背後にいた捕手のグローブに収まった。
は、速い……。
俺の呆然とした顔を見てアリアはドヤ顔をしている。
「今のはまだ本気の半分しか出してないのよ」
さすが、運動神経抜群を自慢するだけはある。
だが、俺だって元勇者だ。
「次は本気でこい」
「へ?」
俺の発言にぽかんとするアリア。
「この棒でボールを打てば俺の勝ちだろ。やってやるさ」
「……へえ」
アリアの闘志に火がついた。
「なら、お望みどおり、全力全開で相手してあげるわ! 勇者さまに手加減なんて失礼だもんね」
ボールを手に、振りかぶるアリア。
俺を身体をひねり、迎えうつ態勢をとる。
たっぷり力をためたあと、アリアがボールを投げた。
先ほどとは比べ物にならない、すさまじい速度。
だが、俺には『見える』。
ボールがアリアの手から離れ、こちらに向かってくるのがゆっくりと。
最高のタイミングを見計らう。
ボールが徐々に近づいてきて、俺の少し手前までくる。
その瞬間、俺は力の限り棒を振るった。
棒が思い切りボールを叩く。
カキン! と気持ちのいい音が出る。
棒で叩かれたボールはアリアの頭上を通過し、空高く飛翔した。
学園の敷地内を余裕で通過し、その先の森に落っこちた。
「うそ……」
後ろを見て呆然としているアリア。
見物していた他の部員も同様。
「すげえ。エリオのやつアリアの投球を打ち返した」
「さすがは勇者だ!」
「うちの部活に勧誘したほうがいいんじゃないか」
口々にほめたたえていた。
アリアが俺に向かって走ってくる。
ま、まさか逆上して格闘戦!?
なんて身構えていると、アリアは俺に飛びついて、力いっぱい抱きしめてきたのだった。
「すごいよエリオ! わたしの投球を打ち返すなんて!」
はしゃいでいる。
きつい抱擁。
ポニーテールがくすぐったい。
やわらかいアリアの身体が密着してくる。
それにいいにおいもする。
「エリオがここまで運動できるなんて知らなかったわ」
「いや、たまたま運よく打てたんだ」
「謙遜しなくていいわよ」
「あ、あと、離れてもらっていいか?」
「苦しかった? ごめんごめん。ついはしゃいじゃった」
ようやくアリアの抱擁から解放される。
胸がドキドキする。
「エリオ。グリップスフィア部に入らない。エリオならきっと活躍できるわ」
「いや、俺は遠慮しておくよ」
部活で帰宅が遅くなるとミーシェをさみしがらせてしまう。
彼女が家事で忙しいのに俺だけ部活はさすがにできない。
「あー、ミーシェちゃんね。なら仕方ないわ」
アリアが苦笑する。
「ミーシェちゃんがうらやましいわ。毎日エリオといっしょなんて」
その言葉に俺はどきりとする。
「アリアは俺ともっといっしょにいたいのか?」
「うん。てへへ」
はにかむアリア。
めったに見ない乙女っぽいしぐさに驚いてしまう。
そんなかわいらしい表情ができるなんて。
「エ、エリオって恋人とかいる……?」
おずおずと尋ねてくる。
「いや、いないが」
「ほっ。よかっ――って、なんでもない!」
ぶんぶん首を横に振る。
それからまたはにかみ笑顔でこう言った。
「エリオともっといっしょにいられる方法、見つかっちゃった」
その方法は俺の想像しているのと一致しているのだろう。
先ほどの反応から容易に推測できた。
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