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「ちょっと不自然すぎたよね」
「まあね、だからついつい『染谷の声とか冗談抜きで初めて聞いたよ』なんて言ってしまった自分がいますからね」
「でも、松苗さんが気にしているとは思わなかった」
そういう大事な情報はお互いに吐かず、ただ学校に行ったら少し話す程度で終わるかと思っていた。
「綾のことは大切だけど、いま綾の話はいいよ」
いま話し始めたばかりだけど彼女がそう言うなら聞いておこう。
あれは嘘ではないから、例え他の女の子から嫌われることになっても彼女にだけは嫌われたくないのだ。
「小夏、後悔してない?」
「してないよ、でも、ちょっと物足りない自分もいるんだ」
「あ、ごめん、やっぱり僕じゃ――」
「だって触れてきてくれないし、好きでいてくれているんじゃないの?」
彼女はこちらの肩に手を置いてから「やっぱり椿じゃないから?」と。
珍しく不安そうな顔をしている、それこそおじさんから僕がやらかしたことを聞いたときの顔と似ている。
違う、僕なりに考えて行動しているのだ。
この子は椿ではなく六反小夏という女の子、あのときと同じようにやったらあっという間に終わることは容易に想像できる。
ただ、べたべた触れ過ぎればいいというわけではない、そして僕はその絶妙なラインを見極めるのに苦労していた。
「椿は関係ない、あのときと同じ感じにはしたくなくて僕なりに……さ」
「付き合い始めたとき、触れていたのはどっちからだった?」
「そ、それは椿だけど、今回は同じようにしたくないんだ。だけどあんまり触れられても嫌でしょ?」
「求めている……けど?」
これは保険をかけていただけだ、本人がいいと言ってくれているのだから実行をするだけだろう。
「あっ」
「本当にありがとう、小夏がいてくれているから学校も楽しいよ」
別れることもなく高校に入学していたら、なんて考えるときはある。
そうしたら全く違った結果になっていただろうな、小夏及び松苗ペアと関わることもなかったかもしれない。
それでも気にせずに放課後になったらあっちの高校に行って椿を待っていそうだ。
「ま、まあ、私もちょっとは力になれているよね」
「ちょっとなわけがないよ、いっぱいだよ」
「ふぅ、それならよかった、だって友達が楽しそうなら嬉しいから」
でも、そんなことはなかった、僕は幼馴染ではない子と仲良くなった。
なにがあるのかなんて分からないものだ。
「いま他の女の子のことを考えていたでしょ」
「いや、いま正に小夏のことを考えていたけど」
「ふーん、どうだか」
「信じてよ」
「ま、このまま続けてくれたら信じるよ」
あと五分ぐらいなら可能だ。
それでもいいなら精一杯頑張ろうと決めたのだった。




