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Beep!鳴り響いた検査アラームその原因はこれ、だった 旅の想い出in 香港  

作者: 池畑瑠七

 ずーっと昔。香港に行ったことがある。中国に返還される前だ。

 それは観光旅行って訳じゃなくって。

 学生時代の友人が香港出身の人と結婚することになり、その挙式披露宴に招待されたためだ。

 幼子を家族に預けての単身渡航だったから、ギリギリの2泊3日。けっこう強行軍だった。


 市街地のど真ん中に国際空港があって、ギューッと空間を握りしめたみたいに限られたエリアに、竹林みたいに高いビルが「生えてる」。

 そんなビルの間をホントにすれすれで縫うように。旅客機がひっきりなし離着陸を繰り返してて、実に忙しない。

 どこを見ても人、店、新旧雑多な建物で埋め尽くされてる空間。そして聴こえてくる絶え間のない喧噪。

 なんていうか、近代と古の歴史と異文化が不思議に混じり合ってるエネルギーの塊?

 初めての香港はそんな印象だった。


 到着した翌日。空港からほど近い海に面したホテルでの挙式に参列した。披露宴はすぐ傍の港をクルーズする貸し切り遊覧船で行われた。

 

 結婚式も披露宴も極めてざっくばらん。さすがに新郎はタキシード新婦は美しいチャイナドレスの正装だったけど、親族も友人、一般参列者もみな普段着で構わないらしかった。

 「どこの誰?」っていう知り合いの知り合いの知り合い…いや誰も知らないぞ?みたいな人たちも気軽にわいわい参加している。幸せにあやかり(便乗?)たまたま居合わせた人達でもみんなちゃっかりタダで飲み食いしてるという、なんとも天晴れなおおらかさだった。


 当時の日本では、結婚式や披露宴っていったら人生のイベントの中で最もフォーマルで盛大に執り行うのが主流だったから、そういう慣習にとても驚いた記憶がある。

 短期間の駆け足滞在だったけど、それでもビックリするような異文化体験、所謂カルチャーショックは数え上げたらキリがないくらいあって、とても新鮮で刺激的だった。

 まあそれはまた、別の機会に綴るとして。


 ここでは、空港での忘れられないある出来事を書きたい。


 披露宴の翌日にはもう帰りの便に乗らねばならない慌ただしいスケジュール。観光している時間は無い。帰路につく前、ほんの数時間だけが自由時間だった。

 でも、ふつうなかなかできない香港での結婚式に出席させて貰って二人の門出をお祝い出来たし、異文化に触れ、十分楽しい充実の滞在だった。


 さあ残る時間で、留守を守ってくれてる家族や友人、親族へのお土産を買わないと!


 観光客目当ての店よりもずっと価格が安いし、ぼったくりのリスクも低いからと香港住まいの友人にアドバイスを貰い、地元の人たちが普段の買い物をしているョッピングセンターに立ち寄った。

 ビーズや刺繍が豪華に施されたシルク製品とか衣料品、日本に無い加工食品や披露宴で食べて美味しかったスイーツとか。為替の違いで確かにかなり手ごろな価格に思え、いろいろ買い求めた。


 そして実家に預けてきた小さな我が子には。う~~ん、やっぱオモチャかなあ~。

 どうしようかなあ・・・・悩んでウロウロしているうちにタイムリミットが近づく。ちょっと焦り気味で「これでいいか!」と選んだのはA4くらいの黒いビニール製カバンに納められた、おもちゃのツールセット。

 テレビの特撮戦隊ものとかに興味を持ちだしてるからきっと喜ぶだろう。もし日本で買ったらこのセット、大分値が張るっぽいしな。

 なあんて考えて、ひとつだけ購入した。


 着いた時より大分カサがふえてしまった荷物を携えて、タクシーで急ぎ空港へと向かった。


 コンパクトな空港。チェックインカウンターでの搭乗手続きは特に申告するようなものもなく、スムーズに終了。

 スーツケースに入りきらなかったお土産は梱包バンドでハンドルに括りつけ、貨物室行きの荷物預けも問題なく通過した。


 で、事が起こったのは次の、機内持ち込み荷物と手回り品チェックの「保安検査」ってブースでのことだった。

 検査員さんが注視してるゲートで貴重品とかの入ったバッグをコンベアに載せて、危険物がないかエックス線でチェックしてもらうわけだ。


 なんの不安も持たずぽんと荷物を載せて、先へと流れゆくバッグを見守りつつ。少し遅れて自分もゲートをくぐり、さっさと荷物も受け取るつもりで前に進んだ。


 ところが。


「Beep!!」



「え?」


 何か、鳴った?(。´・ω・)?


「Beep!!!」



「え?」「え?なに?」


「鳴ってる?」 誤作動?


 事態が呑み込めずオタオタする私に、ブースで荷物に目を光らせてた検査員さんが声を掛けてきた。


「Let me check inside of your bag, please.(カバンの中、見せてもらえますか?)」



「え?( ̄▽ ̄;)」

「なんで?」


 思い当たるものは、何もない。

 余裕かましていた出国手続き、思わぬ事態にちょっとドギマギ。


 シャープペンとかが反応しちゃったのかな?カメラかな?

 貴金属で思い当たるのはそれくらいだ・・・。何かの間違いだろうな。

 不思議には思いつつも、とりあえず素直に隣の検査場所に同行してカウンターにバッグを載せた。


 バッグを点検してもらうがカメラもシャーペンもOK、特に不審なものは無し。あとはお店で貰った白いビニールのショッピング袋。

 最後に慌てて買ったため貨物室行きの預け荷物に梱包しきれず、仕方なく機内持ち込みした土産物たちだった。買ったもの数点まとめて放りこんであったので、そこから一つずつ取り出し並べていくと。

 ガタイのいい強面な検査員さんが何かを察したらしく、突然、笑い出した。


「Aaaaa~~~!」

「What's this?(笑)」

 彼が指さしたのは、おもちゃ屋さんで息子のために買ったツールセットだった。


「あ~~~~ This is a suvenir for my son!(息子へのお土産です!)」

 

 実物大写真が上面にプリントされた包装箱から取り出し、黒いビニール製の四角いアタッシュ風ケースのふたをパカッと開けると、整然と並べられてたのは。

 オレンジ色のプラスチック製ミニ機関銃(一応キュンキュン音が出て、先端が赤くピカピカ光るやつ)、おもちゃの手錠、塩化ビニール製の護身ナイフ。あと、確かトランシーバーだったかなあ。


「スパイセット」ってやつだ。


 現物は、世界中の誰が見たって本物と間違うような代物じゃなかったんだけど。

 エックス線で超危険アイテムの形状だけが みごと複数浮き上がったもんで(笑)、警報を響かせてしまったのだった!


 うわあ~~ごめんなさあーい!(;´Д`A ```


「OK ok, understand!」

 検査員さんは笑いながら続けた。


「Please be careful, next time. (次は気を付けてくださいよ 笑)」

「You can go. Have a good flight!(良い空旅を)」

「Take care of your son!(息子さんによろしくね)」



「I’m so sorry・・・, I will !!」(はい、すみませんでした!気を付けます!)

「Thank you!」(;´∀`)


 人騒がせな不注意を笑って済ませてくれた検査員さん。カタコト英語がどうにか通じた安堵感も手伝って、思いっきり感謝のサンキューサンキューだった。


 てなことで最後の検査を無事お咎めなく通過。どうにか予定通りの便で、日本へと戻ってくることができたのだった。


 数少ない海外旅行での、我ながら情けないというか笑っちゃうハプニング。

 検査ゲートの向こうに見えていた空港の明るい空と、吹き出した検査員さんの笑い顔。

 きっとずっと忘れないだろう。



 あの時はお騒がせしてホント、すいやせんした!!<m(__)m>


 このエピソードは大人には大ウケな土産話となったが、香港製スパイセット自体はすぐさま息子のお気に入りオモチャの仲間入りを果たした。


 その後はビニールのアタッシュケースが破れアイテムがバラバラになり戦隊ヒーローを卒業するまで、兄弟二代に渡って遊び倒したって事も一応、書き足しておくとしよう。

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― 新着の感想 ―
[一言] すごいほっこりエピソード(´ω`*) とても癒されました。 おもちゃがお気に入りに入ったというのもいいですし、よりによってアイテムのチョイス……!笑。 面白かったです。 池畑さん、ありがとう…
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