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邪水神様に不味そうと言われた生け贄です【電子書籍化】

作者: 関谷 れい

「そんなっ……!お姉様が私の身代わりだなんて、私、そんなつもりは……!!」

目頭を真っ赤な上衣の袖で押さえる妹の頭を、姉はそっと撫でる。



「……いいえ、これが私達にとって最善だと、お父様もお母様もおっしゃていたではありませんか。貴女が気に病む必要はないのですよ、语汐(ユーシー)

聖母のような笑みを浮かべて妹を安心させようとする姉の若汐(ルォシー)は、何の曇りもない視線を嘆き悲しむ妹に向けていた。




村民が集まる中、姉妹は最期の別れを惜しんでいる。




水神様、と呼ばれる村の水源を司る神様は、一ヶ月程前に语汐(ユーシー)を生け贄として所望した。


何十年かに一度、水神様は生け贄を指名する。

水神様を祀っている滝の傍の祠の中に、名前の書いた紙がある日置かれるのだ。


生け贄として選ばれると、滝の上から滝壺に向けて、村人達が見守る中、飛び込まなければならない。


村の有力者の娘である语汐(ユーシー)も、水神様の指名を受けたからには避けて通ることは出来ない筈であったが、贄の儀式が行われる前に家族内で話し合いが行われ、妹の语汐(ユーシー)ではなく姉の若汐(ルォシー)がその身代わりとなるという結論に至ったのだ。



元々姉である若汐(ルォシー)は村一番の器量よしで、村一番の金持ちの一人息子であり美丈夫な若者である、浩然(ハオラン)と結婚する予定だった。


──三年前まで。


結婚する直前にたまたま台所で油を被ってしまい、顔の半分が焼け爛れる程の酷い大火傷を負ったのだ。

浩然(ハオラン)は最初、若汐(ルォシー)の状態が良くなるまで結婚式を延期する、と言っていた。


けれどもその後、若汐(ルォシー)の火傷痕がそのまま残りそうだということが判明するや否や、婚約相手を若汐(ルォシー)ではなく、三歳歳下の语汐(ユーシー)にしてもらえないかという申し出があったのだ。


両親が二人を呼んでその旨を告げると、语汐(ユーシー)は一瞬にして顔を赤らめ喜んだ。

そしてそれを見た若汐(ルォシー)は、これで良かった、と思った。



浩然(ハオラン)とは両家が決めただけの政略結婚であり、恋をしていた訳ではない。

妹の恋心に気付かず、自分が結婚しないで良かったと。

そして、妹が政略結婚の道具にされずにその恋が叶うならば、それに越したことはないと。



浩然(ハオラン)语汐(ユーシー)が婚約を結び直し、順調にその関係を築いていく中、結局若汐(ルォシー)に求婚する者は現れなかった。


父親は村の有力者であり、実家はそれなりに裕福な方で弟が継ぐことになっていたが、若汐(ルォシー)は食い扶持ばかりを減らす行く宛もない厄介者のお荷物だということを十分に理解していた為、语汐(ユーシー)から「お姉様、よければ女中としてだけれども……浩然(ハオラン)様と結婚したら、うちに来ない?」と誘われたことに感謝していた。



もう少しで浩然(ハオラン)と結婚、という幸せの絶頂だった语汐(ユーシー)を絶望させたのが、今回の水神様による生け贄の指名だった。



絶望したのは、语汐(ユーシー)だけではない。

同じ家と結んだ婚約が二度も白紙になるという浩然(ハオラン)も、大事に育ててきた娘達を二人して有力な家門に嫁がせることが出来ない両親も、頭を抱えていた。



だから若汐(ルォシー)は、皆が幸せになるのならばと自分が身代わりになることを提案し、両親は素晴らしい自己犠牲の精神だと若汐(ルォシー)の考えに涙を流して喜んだ。


妹の语汐(ユーシー)は、若汐(ルォシー)と両親の話に、「私が選ばれたことこそが何かの間違いだと思っていたの。きっと、祠にあった紙は村人の誰かがやったに違いないわ。私よりも生け贄に相応しい女なんて沢山いると思うけれども、それがお姉様だなんて……考えてもいなかったわ」と表情を曇らせたが、「でも浩然(ハオラン)様のことを考えると、やはりそれが一番良い結論なのかもしれません」と、直ぐに賛成した。



祠の管理者だけは「水神様のご指名は絶対じゃ!」と生け贄の変更に最後まで渋ったが、結局村民達による多数決で、若汐(ルォシー)が生け贄として捧げられることが決まった。

生け贄に選ばれた娘達が村から逃げ出した過去がある為、自分達の娘が代わりになるよりはずっとマシだという結論だ。




若汐(ルォシー)は、当然逃げ出すこともなく、一ヶ月穏やかに村での生活を送った。


その一方で妹の语汐(ユーシー)は、以前は生け贄に指名されて「どうせ死ぬんだから!」と我が儘放題になっていたが、若汐(ルォシー)が身代わりになることが決まってからは浩然(ハオラン)との逢瀬を楽しんだり、婚礼の儀に着る花嫁衣装を選んだりとご機嫌に過ごしていた。

そうして、若汐(ルォシー)が生け贄として滝壺に飛び込む日がやってきたのである。




「お前がそんなに泣いてばかりいては、若汐(ルォシー)だって不安になってしまうよ、语汐(ユーシー)

妹に寄り添っていた一人の男が、そう言って窘める。


若汐(ルォシー)はその言葉に柔らかく頷いて、自分の婚約者であった男に話し掛けた。

「どうか、妹をよろしくお願い致します、浩然(ハオラン)様」

「ああ、確かに引き受けたよ、若汐(ルォシー)。こちらのことは、気にしないでおくれ」

「そうよ、お姉様が一番大変なのに……、私達だけが幸せになるなんて!」

语汐(ユーシー)が大袈裟に地面に突っ伏し、浩然(ハオラン)はそれを宥めた。


一ヶ月前には納得してくれた筈なのに、何故今になって押し問答を繰り広げるのだろう、と不思議に思いながらも、村人達を待たせている為、これ以上のやり取りは不要と若汐(ルォシー)は結論付けた。


「では、もう私は行きますね」

若汐(ルォシー)が踵を返して滝の上に向かう為の道に向かおうとすると、语汐(ユーシー)がぱっと顔を上げる。

「お姉様、私が最後まで付き従いますわ」

「でも、语汐(ユーシー)……滝の上は、危ないですから」

「いいえ。お姉様の最期を、見届けたいのです」

「そうですか……」


若汐(ルォシー)は妹を危険な目にあわせたくない為に躊躇したが、結局両親が「そうしなさい」と言って语汐(ユーシー)を付き添わせることにした。



滝の上まではいくつか滑る箇所があるが、それさえ気を付ければ女性でもさほど危なくはない。

「お姉様、早くなさって?」

「きゃ……!」

「ほら、そんなんじゃ、上に着くまでにボロボロになってしまいますよ?」

妹に急かされながら、それでも怪我をすれば滝の上まで辿り着けなくなってしまう、と若汐(ルォシー)は慎重に歩みを進める。



「お姉様、着きましたわ」

滝の上まで着くと、ドドドドド……という先程まで響いていた轟音が逆に、どことなく耳から遠くなった気がした。


風が優しく若汐(ルォシー)の髪を撫でていく。

空は快晴で、ピーチュチュチュ、と鳥の囀りが聞こえた。

これから身を投げるのに、美しい自然の風景が眼下に想像出来て、若汐(ルォシー)の気分を和らげる。


「ありがとう、语汐(ユーシー)浩然(ハオラン)様と幸せな家庭を築いてね」

若汐(ルォシー)が御礼を言うと、语汐(ユーシー)はクスクスと笑い出した。

「ええ。……お姉様ってば、本当に……単純で馬鹿で、お人好しで助かるわ。こちらこそ、ありがとう」


ドン、と若汐(ルォシー)の背中に衝撃が走る。

悲鳴をあげる間もなく、彼女の身体は滝壺に向かって真っ逆さまに落ちていった。

「さようなら、お姉様……♪」

语汐(ユーシー)は、涙の出ない目元を再び押さえながら、自分が火傷をさせた姉の、元婚約者のところへ足取り軽く戻って行った。




***




「……う、ん……」

『気付いたか』

「……?」

若汐(ルォシー)は、目を開けた。


目を開けても光が射してこない為、恐らく夜なのだと考える。寝かされている背中側が少しボコボコしていて、床板の上ではないようだと判断した。


ゆっくり上体を起こして、目をしばたく。

身体に痛みは……ない。

「……あの、私……滝壺へ落ちた筈なのですが……」

確かに聞こえた声に、問い掛けた。

下へ下へと落ちていく感覚を思い出して、若汐(ルォシー)は自らの身体を抱き締める。


手に触れる上衣の感触は、今まで触ったことのないツルツルとした不思議な触り心地で、確かに水が全身にまとわりついたことを覚えているのに身体は濡れていなかった。


『ああ、落ちてきたな』

「私を滝壺から、助けて下さったのでしょうか……?」

若汐(ルォシー)は、右からか左からか、何処から聞こえてくるのかわからない低く心地良い声に、問いかける。


声の低さから男性かと思うが、村人にこんな美しい声をする男性はいなかった筈だ、と首を傾げた。


『ああ。お前は、何故あんなところにいた?』

滝壺に身を投げた理由を聞かれて、若汐(ルォシー)はやはり、相手は村人ではない、と理解した。


きっと、滝壺から川へと流れ、下流にある他村の人が自分を拾い上げてくれたのだろうと。



「失礼致しました。私は、ジンチョン村の娘で若汐(ルォシー)と申します。水神様への貢ぎ物として滝壺へ……飛び込んだのですが……」

水神様が元々ご所望なさったのは语汐(ユーシー)だから受け入れて頂けなかったのだろうか、と若汐(ルォシー)は内心頭を抱える。


そうであるならば、何度でも飛び込んでみなければならないかもしれない。水神様は村の水源を司る為、自分が生け贄として機能しなければ、どんな災いが降りかかるかわからないのだ。

落ちていく感覚を再び思い出して、ゾッとする。


『私への贄は、お前ではなかった筈だが?』

「……え?」

耳に心地良い声でそう言われ、若汐(ルォシー)はきょとんとした後、直ぐに慌ててその場で額づいた。


やはり床は、ツルツルとした素材だったが、何故か凸凹していて膝や脛に当たって地味に痛い。

「す、水神様でございましたか!大変失礼致しました……!」

『よい。面を上げよ』


水神にそう言われて、若汐(ルォシー)はおずおずと顔を上げる。けれども、何も見えない為に視線は宙をさ迷った。


「……水神様。恐れながら、申し上げます。水神様が贄に選んだ娘の语汐(ユーシー)は、私の妹なのです。どうか、妹の代わりに私を食べて頂けないでしょうか?」

『ふむ。お前は妹の代わりに、私に食べられにきたのか』

「……はい」

水神様の生け贄にはなれないと言われたらどうしよう、と若汐(ルォシー)は震える。


厄介者と思われながら生きていくより、誰かの……村の役に立って死にたかったのに。


「どうか、私をお食べ下さい」

若汐(ルォシー)は再び頭を床につけて水神に請う。しかし、その返事はやけにあっさりと早いものだった。

『断る』

「……!」

不機嫌そうに言い放った水神の様子に、若汐(ルォシー)は涙ぐむ。



祠の管理者が言ったことがあっていたのだ。やはり、水神様の指名を無視してはならなかったのだ。



それでも、若汐(ルォシー)は後に引けなかった。


村に戻って合わせる顔がないというよりも、妹にはこれから結婚と幸せな新婚生活が控えており、再びその夢を取り上げるようなことなんて出来る訳がない。


何とかして突破口を開こうと、続けて水神に聞いた。

「……あの、差し支えなければ理由を伺ってもよろしいでしょうか?」

若汐ルォシーがおずおずと聞くと、水神はあっさり答えてくれた。


『お前は不味そうだ』


「……左様でございますか……」

若汐ルォシーは、自分の顔が醜く焼き爛れているのが不味かったのか、と考えた。


「あの、顔が醜くて、食欲が湧かないのでございますか?」

ならば先に頭だけ取って貰えないかと若汐(ルォシー)が提案する前に、ズズズ……と何か引き摺る音がして、少し冷たい空気が顔を撫でた。


『……醜い?お前が?』


空間に響いていた声が、耳元から聞こえた。

ちろ、と若汐ルォシーの頬を、ヌメヌメしたものが這う。

食べる前に味見をしているのだろうか、と若汐(ルォシー)は少し緊張したが、顔を舐めるということは、顔が原因ではないのだ、と悟った。


同時に自分の身体が痩せているのがいけなかったのか、と反省する。


けれども、程よい肉付きで男受けすると语汐(ユーシー)に言われていたことを思えば、若汐(ルォシー)は、ガリガリに痩せている语汐(ユーシー)に比べれば幾分肉がついているのに、と少し不満を感じた。


そして、虚空をじっと見つめ、水神に提案する。


「……では、あの……私が美味しくなれば、食べて頂けますか?私が美味しくなるまで、傍に置いて頂けないでしょうか?」

『……』

水神は無言だ。


若汐(ルォシー)は知らないが、今度は水神の方が、頭を抱えていた。




***




結局水神が『全く腹の足しにならぬ者を置いても、こちらには何の利点もないのだがなぁ』とチクチク言いながらも折れて、ひとまず一緒に住まわせて貰えることになった。

水神的には、若汐が諦めるまでの予定だ。



そんな思いも知らず、若汐は長居する気満々で言った。

「水神様のお世話は、出来る限り何でも致しますので……」

炊事や洗濯などは、どのみち妹の嫁ぎ先でやる筈だったのだ。

妹の為に頭を下げながら、精一杯水神様の生け贄になれるよう頑張ってみよう、と気持ちを前に向ける。


ところが、水神から言われたことは一つだった。


『では、この実を毎日十粒、確実に食べることがお前の仕事だ』


掌にぽとりぽとりと落とされた実を、間違えて落とさないよう、若汐は大事そうに包み込む。一度足元に落としてしまっては、この暗い中で探すのは難儀だと感じる程に小さな実。


「はい、畏まりました」

単なる木の実に思えるが、これを食べれば人間が肥えるような栄養でも入っているのだろうか、と思いながら素直に頷き、それを一粒口に含んだ。

「……うっ……」

その実は、何とも言えない程に不味い。


毒の実を食べているような苦味を感じながらも、水神に言われた通りに一生懸命その実を飲み込む。

『飲みにくければ……こちらに湧水があるから、ついておいで』


そう言われて、若汐は自分の手の甲に触れてきたものにおずおずと掴まった。それは普通の人の掌のようだったが、とても冷たく、そしてプニプニとした何とも言えない触感だった。


その掌とズズズ……という重たい物を引き摺るような音に導かれ、ピチョン、ピチョンとした水の跳ねる音のする場所までやってくる。


『そこにしゃがんで、手を伸ばせばよい』

「ありがとうございます」

手を離されるのかと思ったが、冷たい掌は若汐がしゃがみこむのを手伝った後、ゆっくりとその手を引っ張って水源となる泉に指先が触れるまで付き合ってくれた。


優しい方なのだな、と若汐は感じる。


「……頂きます」

片手に小さな木の実を9つ握りしめていた為、もう片方の手で水を掬って口元まで持っていく。

水はタラタラと掌や口元から幾分溢れて若汐の胸元まで濡らしたが、そんなことが気にならない程にその水は美味しかった。


「何て、美味しいのでしょう……!」

若汐は思わず、子供のように何度もその水を啜る。

水神は、若汐に早くしろと急くこともなく、残りの木の実をしっかりと食べ終えるまで、じっと見守っていた。


やがて若汐は、その場に立ち上がって後ろを振り向いた。

前を探るように手を伸ばせば、そっと優しくその手を握られ、水場から離すようにゆっくり引き寄せられる。



『かなり苦かった筈だが……偉いな、よく頑張った』

「……んっ……」

濡れた胸元をちろちろ、と舐められながらそう言われて、若汐は頬を染める。


三年前まで、容姿やスタイルを誉められることはあっても、こんな些細なことで誉められるなんてことは、まず経験がなかった。



『後は、好きに寛いでいるがよい』

そう言われて、若汐は戸惑った。

「はい……あの、では、いらない雑巾などはございますでしょうか?床掃除でしたら、出来ると思います」

『そんなことは……』

必要ない、と言い掛けて、水神はやめた。


人間がこの何も存在しない場所に一人でポツンといても、暇だろうと思ったからだ。

『……これで良いか』

ズルズル、と音がした。

そしてその後、フサリ、と足元に何かが落とされた感触がして、若汐はそれを手探りで拾い上げる。


「……ありがとうございます」

今、自分が着させられているものと同じ生地で出来ているのか、ツルツルとした感触の布。

胸元まで引き寄せて、ふと、自分の着替えは誰がしたのだろう、と疑問に思った。


眉を顰めて、手を……上衣の裾を目の前に持ってくる。何となく、白の中に黄色が混じっているようにぼやけて見えたが、やはり綿で出来た衣の手触りでないことだけしかわからない。



ズズズズ、と引き摺るような音がして若汐は慌てて視線を上げた。水神の気配が動くのを空気で感じる。

「水神様……」


唯一の話し相手が去っていくからか、若汐の声色は少し寂しさを含んだものに聞こえた。

『少し出掛けてくる。足元に気をつけなさい』

水神はそう言ってその場を離れた。

出掛けてくる、なんて初めて口にしたなと思いながら。




***




「お帰りなさいませ」

水神が戻ると、若汐は嬉しそうに声を掛けた。


ズズズ、と引き摺るような音が一度ピタリと止まる。

「……水神様?どうなさいましたか……?」

若汐が手を前に出しながらゆっくり音のした方に向かうと、

『いや、何でもない。手の平を上に向けなさい』

と水神は差し出された若汐の手にそっと何かを乗せた。ずしりとした重みに、若汐は驚く。

「……これは」

『人間は食事をしなければ死ぬだろう?先程捕まえてきた』

「わざわざ、ありがとうございます」

若汐は頭を垂れる。


手には、雉と思われる獲物が乗っていた。村では滅多にお目にかかることの出来ない、豪華な肉だ。


「……水神様、お手数をお掛け致しますが、包丁や火などを使わせて頂くことは出来ますか?」

若汐がそう尋ねると、水神は『そう言えば、そうだったな』と呟いた。


それは、顔を火傷した若汐に、村人が面倒そうに言う棘のある言い方ではなく、少し肩を落としたような言い方だった。


まるで、自分の配慮不足を恥じるかのような言い方に、若汐の胸は温かくなる。

何となくそんな気はしていたけれども、若汐は水神をやはり優しい神様なのだと理解した。


『残念ながら、ここには何もない。場所を移動しよう』

水神はそう言って、若汐の手から雉を一度預り、『抱き上げるぞ』と言うなり、若汐のお尻の下に自分の身体を回して、ひょいと持ち上げた。


「きゃ……!」

急に宙に浮いて驚いた若汐は、思わず悲鳴をあげる。

『しっかり掴まっていなさい』

「は、はい」


水神は、ズズズと音をたてながら、ゆっくり移動する。

自分が落ちないように、落ちても痛くないように、という配慮なのだろうと若汐の胸は温かくなった。


大火傷を負ってから、掌を返したような人の態度しかみていなかった若汐には、火傷痕を知っていても変わらない態度の水神は、やはり神なのだろうとぼんやり思う。

そしてそんな水神を、若汐も見てみたくなった。


「あの……こちらのお住まいは、とても暗くはないですか?ご不便はないのでしょうか?」

『……そうだったな、人間は光の元で物を見るのだったな。失念していた、配慮が足りずに申し訳ない』


水神がそう言うと、まるで回廊を照らすかのように、ポポポ、と左右に行灯が並んだ。


なんとなく若汐が想像していた通り、巨大な大蛇のような巨体が若汐の身体を運んでいた。


『お前は悲鳴をあげないんだな』

「え?」

水神が、ポツリと呟く。

『ここに来た者は皆一様に、私の姿を見れば叫ぶものだ』

「ああ、それは……皆、水神様に食べられるものだと思っていますから」

水神と話し、若汐はもしかして、と思う。


もしかして、やって来た生け贄を怖がらせないように、真っ暗にしていたのだろうかと。


「……綺麗ですね」

若汐は、水神の鱗を撫でながら呟く。

洞窟のような空間に、ぽぅと灯るオレンジ色の連なる光も。

光を反射し、銀色に輝く鱗も。

とても綺麗だと、若汐は心から思った。



『今日からここに住め』

「はい、ありがとうございます」

水神に案内されたのは、まるで龍宮城のような、綺羅びやかな内装の屋敷だった。

まるで自分が貴族の屋敷の使用人になった気がして、どきどきとした。



その日から、若汐は多くの時間を水神と過ごした。

若汐の仕事は、自分が生きる為の食事と掃除、不思議な空間で作って貰った庭と畑の手入れ。

それ以外には、水神に本を読むことや水浴びの好きな水神の身体を洗い、古い鱗を剥ぐことなんかもした。

 

水神との時間は今まで生きてきた中で、とても穏やかで心地よい。

水神は睡眠も食事も必要としないらしいが、人間である若汐に何だかんだ言いながら付き添い、気付けばそれこそ、厠と風呂の時間以外を一緒に過ごすようになっており、若汐が調理をしている時間は水神は興味深げに傍で見物し、水神が狩りをしている時間は若汐が見学した。

そよぐ風や何処までも澄んだ空、満天の星空にキラキラと光る水面、木々に射し込む光や美しい夕焼け。

そんな自然の景色が大好きな若汐を、水神は住処からわざわざ連れ出して見せてくれた。


真っ暗な洞窟のような空間も、いつしか若汐にとって安心出来る場所となり、そして何より水神のいる場所が一番の居場所となっていた。




『きちんと実は食べているようだな、偉いぞ』

「はい」

水神が渡す実を食べ続けても、何の効果があるのか全くわからなかった。


しかしある日、顔を洗っている時に、指先がボコボコとした感覚を掴まないことに疑問を感じて水面を見た若汐は理解した。

若汐の顔は、すっかり元通りに治っていたからだ。



『さあ、これで村へ帰れるだろう。いい加減私はお腹が空いたんだ、さっさと生け贄を食べたい』

水神にそう言われ、若汐はポロポロと綺麗な涙を音もなく流した。

水神がギョッとする気配を感じて、心配させてしまう、今すぐ泣くのをやめなければ、と思うのに、それは止まらない。


顔に大火傷を負っても、婚約破棄されても、生け贄になっても泣かなかった若汐だったが、何故か水神に要らない、と言われてしまったのが悲しくて仕方なかったのだ。



『……お前は、生け贄としては不味すぎて無理だが。花嫁でも良ければ、傍に置いてやろう』

慌てた水神が、苦悩しつつも若汐にそう提案し、若汐は涙に濡れた顔を上げる。


「……花嫁、ですか?」

『そうだ。こんな蛇に、妻として嫁ぐのだ。嫌だろう?』

「ありがとうございますっ!」

『……もっとよく考えなさい。夜の営みだって付き合わされるし、私は神なのだから、お前も気が狂う程の悠久の時を……』

「是非これからよろしくお願い致します、旦那様っ!!」

『……人の話を聞いていたか?』


すっかり涙を引っ込め、前のめりで喜ぶ若汐に水神はドン引きしながら尋ねたが、若汐はしっかり頷き、意見を変えることはなかった。




***




「どんな姿でも良いのです、私は水神様を……お慕いしているのです」

『……』

「始めは義務でした。けれども今は……私が、水神様のお側にいたいのです」

『……』


沈黙が、水神が困った時の反応だと、今では理解している若汐だったが、それでも水神の前言撤回だけは許さなかった。


若汐が断ると思って、花嫁などという提案をしたのだ。水神の優しさに毎日触れて、好きにならないなんて無理だ、と若汐は思う。


けれども沈黙したままの水神が少し可哀想で、若汐は他の話題に話を振った。


「ところで、私はどうして不味そうなのでしょうか?」

『……お前は、心が綺麗過ぎるのだ』

「……はい?」

水神は言いにくそうに話し始める。

『私は、水神ではなく邪水神だ。人間の邪な……闇の部分を食らって、我が糧とする』

「そうだったのですね」

若汐は相槌を打ちながら頷いた。


『村の連中の中で、三十年に一度位、とんでもなく汚くて美味しそうな心を抱えた人間が、必ず一人は生まれるんだ』

「……もしかして」

『そう。私はそれを食って、間引いてやっている。私の力にもなるし、村は平穏になるのだ。お互いにとって、良いからな』

「まさか、妹もそうだと仰るのですか!?」


口元を覆う若汐に、水神は頷く。

「そんな……けれども、妹は好きな人と結婚して、幸せな生活を送っているのでは……」


妹が、村全体を不穏にさせることなど考えられない、と若汐は水神に言う。


『では、確かめておいで』

「……え?」

『一度、地上に戻してやろう。』

「水神様っ!お待ち下さい……っ!!」


慌てて若汐は水神に手を伸ばした。

しかし、指先が触れる直前、ぷくん、と自分の身体を球体の水に覆われる。


水神様と、離れたくないのに……っっ!!


まるで、自分を追い出すかのような……村に行けば、自分の気も変わるだろうと思っているに違いないその行為に、若汐の心は傷付く。



「……若汐?まさか、若汐かっ!?」

若汐が気付けば、少し焦燥したような、浩然(ハオラン)の顔が目の前にあった。




***




「お姉様っ!!……その顔は!?あんなに醜い火傷痕が、何故、治ってますの?」

「语汐……」

「村はまだ、水不足が続いてますのよ?お姉様が、死ななかったせいではなくて!?」

何故だろう、と若汐は思った。


あんなに可愛かった语汐の顔が、真っ黒に見えるからだ。ついでに、容姿は良いと思っていた筈の浩然も、そんなに格好良くは見えない。


もしかして、これが水神様の目から見た人間なのかしら?と若汐は考える。


「语汐、せっかく若汐が無事に戻って来たんだ。少し家で休ませてあげたらどうだ?」

「……ええ、貴方が良いと言うのなら」

「では、君の着物を……」

「は?あんな高価な着物、何故お姉様に貸さなくてはなりませんのっ!?」

「あんなにあるのだから、一着位良いだろう?」

「良い訳ありませんわ!あれは……ちょっと、お姉様。……何ですの、この着物……最高級の生地じゃ……」


语汐は若汐の濡れた着物をガシッと掴み、眉を顰めて生地をじっと見た。


着物にしか興味のない妹に説明したくはなくて、首を振る。

水神が用意してくれた着物は随分と手触りが良いと思っていたが、高価なものだったのか、と妹に教えて貰えて助かった。


早く、水神様のところに戻って……御礼が言いたい。


そんなことを考えながら、今の自分なら、心も汚れていて水神様の生け贄になれるかもしれないな、と思った。


着物に興味を示した妹が水神に会いたいと言ったらどうしようとか、先程からじろじろと自分を舐めるように見ている浩然の視線が気持ち悪いとか、かなり身勝手で先入観に塗れた気持ちしか湧いてこないからだ。


色々浩然や妹からの質問攻めにあい、丁寧にひとつひとつ答えていく。

気付けば、傾いていた日はとっくに沈んでいた。

「とにかく、今日は泊まっていけば良い。明日、籠を用意するから、一緒にご両親の元へ行こう」

「何で、そんなに親切にするのよ!」

「君のお姉さんだからだろ!?」

「すみません……頭が痛いので、少し一人にさせて下さい……」


若汐がそう言って、やっと騒がしい二人が部屋から出て言った。


真っ黒な顔をした妹がどんな表情をしているのか、全くわからなかった。

幸せな筈じゃなかったのか。



水神を愛しく思いながら布団で寝た若汐は、物音で目が覚めた。

まだ辺りは真っ暗で、真夜中のようだった。


「……浩然様?」

しー、と口元に人差し指を当てながら部屋に入ってきたのは、この屋敷の主人、浩然だった。

慌ててはだけた寝間着の合わせ目をしっかり押さえながら、「こんな夜更けに如何致しましたか?」と問う。


「……戻って来てくれないか、若汐」

「え……?」

両手をガシッと掴まれ、そう言われた若汐は戸惑い不安に駆られる。

それと同時に、ここは自分が戻る(・・)と言える場所でないことを改めて感じた。


「あの、妹が何か……」

「仕方なく语汐と結婚したが、私は貴女を妻に望んでいたんだ!あんな、思いやりも思慮深さもない、強欲で散財が好きな女だとは思わなかった……!!最近では男漁りまで始めて、私は陰で嘲笑われる始末だ!」

一息にそう言う浩然の顔にも、じわじわと黒い墨のような色が広がっていく。


これが、语汐の闇の影響力だ、と水神の声が何処からか聞こえてきた気がした。


「妹のことを、頼んだではありませんか……」

浩然は、確かに引き受けた、と言ってくれたのだ。

好きな人と結ばれた语汐が、そんなことをする訳がない、と縋りたい気持ちがまだあった。


「ああ、普通の女なら、私だってそうしたさ!!だが、あの女はとんでもない性悪だ!!」

浩然はそう言って、若汐をギュッと抱き締めた。


「……若汐……」

浩然に顎を持ち上げられ、若汐は固まる。

その顔が近付いた時、若汐はドン、とその胸を思い切り突き飛ばした。


「わ、私は水神様の、花嫁です……!!」

震える声で、そう言った時。

障子の向こう側に、雲で覆われていた月が現れたようで、大きな人の影を照らした。

『おいで、若汐』

「……水神、様?」

そう呼ばれ、人型であるのにそれを水神だと確信した若汐は、そちらに向かって走る。


障子を躊躇なく空けると、裸足のまま外に……その人の元に、飛び出した。


『これでわかっただろう?若汐』

「水神様、水神様……っ」

水神は駆け寄ってきた若汐を何なく抱き上げ、そのまま片腕の上に若汐を置いて抱っこする。

若汐は安堵で涙が溢れ、その涙は水神の着物に吸い込まれていった。



その時、「こちらです!妖となった姉が現れて……!!」と、妹が庭から村人を沢山引き連れ現れる。


そして、水神を見て立ち止まった。

「……だ、誰……?」

以前、浩然を前にした時のような態度……しおらしく、頬を染める態度に嫌な予感を覚えた若汐は、自分を抱き上げる水神を見下ろした。


そこには、大層造作の整った美しい男性が口角を少しだけ上げ、薄く笑っていた。


「水神様……」

若汐が水神の着物をギュッと握ると、水神は安心させるようにその手に自分の手を重ねる。


「水神様……水神様でいらっしゃいますか!?」

声を上げたのは、语汐に連れて来られたらしい村民の一人、祠の管理者だった。


「水神ですって……?あれ、いえ、あの方が?」

语汐はまさか、というような表情で水神と若汐を交互に見る。


祠の管理者がガバっと頭を下げると、水神の只ならない雰囲気に圧倒された村民も、次々とその場にひれ伏した。

「水神様!生け贄を捧げたのに、雨が降らないのは何故ですか!」

「お恵みを与えて下さいませ!!」

『……私は腹が減っている。当初の予定通り、その娘を寄越せ。そうでなくば、村ごと滅びよ』


「はぁっ!?」

名指しされた语汐は眉を上げたが、そんな语汐は直ぐに村人に取り押さえられた。

「ちょっと!!触らないで!!」

「语汐ですね、どうぞ!!」

『行こう、若汐』

「水神様!」

「水神様!」


唖然とする语汐と村人を残して、水神と水神に抱き抱えられた若汐は、その場からかき消えた。




***




「──ほら、さっさと飛べ!!」

滝の上で、村人と语汐は押し問答を繰り返していた。

「五月蝿いっ!!タイミングがあるんだから、少し待ちなさいよ!!」

语汐はそう言いながら、滝の高さに足を震わせる。


けど、と语汐は思った。


けど、水神のところに行けば、今よりずっと良い暮らしが約束されている。


死んだとばかり思っていた若汐は、醜い顔の火傷を治されたばかりか、輝くばかりの美しさを取り戻していた。

それに、まるで貴族のようなきめ細やかな肌をして、最高級の着物に身を包んでいた。



まるで天女のようだ、と自分の旦那がうっとり蕩けた瞳で見つめていたことに気付かない程、私は愚鈍ではない、と语汐は歯ぎしりをする。

けれど、あの美しい男性を見てから、それすらもどうでも良くなった。


……あちら(・・・)に行ったら、若汐を追い出せば良い。あの腕に抱かれてみたい。

元々、姉の場所は私のものだったのだから。



瞳に狂気にも似た情熱を燃やして、语汐は飛び降りた。




『やぁ、いらっしゃい』

语汐が目を覚ました時、そこは真っ暗な闇の中だった。


「水神様……何処にいらっしゃいますの……?」

か弱い声で、语汐は辺りを見回しながら手を伸ばす。


ズズズ、という重たい何かを引きずるような音が耳に入り、眉を顰めた。


『お前の目の前にいる』

「そのお姿を、見せて下さいませ……!」

ここは暗くて怖いです、と语汐が肩を震わせると、ポポポ、と语汐を取り囲むように行灯が並んだ。


「ひっ……」

『やぁ、目の前で見ると……本当にお前は美味そうだ。その闇、私の力とさせておくれ』


一度目にした眉目秀麗な男性を想像して瞳を輝かせていた语汐は、目の前に現れた大蛇に驚愕して腰を抜かし、そのまま後退りする。

そして、こつん、と手に当たった丸い大きな石を、思い切り投げつけた。

それは大蛇の額に当たり、血が流れる。

けれども大蛇は、その大きな口をニイと開いて、嬉しそうに笑った。

「ば、化け物……ッッ!!私から離れなさい!!」

『そうそう、この反応だ。大丈夫だ、直ぐには殺さないから。いつもは丸呑みで恐怖を感じる前に頂くのだが、お前は私の花嫁に、とても痛い思いをさせただろう?ゆっくりじっくり食ってやるから、喜びなさい』


「……は!?」

语汐は顔を、怒りで真っ赤にさせて叫ぶ。

脳裏に、戻って来た若汐の言葉が浮かんだ。


水神様は、とても優しいのだと。人間である自分にいつも付き合ってくれて、食べる物にも困らず、毎日穏やかで楽しい日々を送っていたのだと。

不幸にも早くに死んだ筈の姉は、頬を赤らめて幸せそうに、そう言っていた。


──私が手に入れる筈だった贅沢を、奪っておきながら!!


「騙されないわ!生け贄というのは、花嫁の別称。私は水神の花嫁なんですよね?早く、私もその、貴族のような屋敷に連れて行って下さい」


ぎり、と睨み付けながら言ったのだが、目の前の水神は花嫁という言葉を聞いて、表情を失くした。


『……お前が花嫁だと?』

それに気付かないまま、语汐は頷く。


『ははは、驚いた。生け贄の資格がある者が、花嫁になれる筈はない。その逆もまた、しかり』

「……何ですって?」

『私の……神の花嫁になる者は、次の神を宿す身だ。真っ白でなくてはならん。私は邪水神だから、腹が減れば黒を探す。だから、若汐をこの目にするまで、真っ白な人間がいるとは思ってもいなかった。他の神々の戯言だとばかり思っていたからな』

「あんな女に、何が出来ます!?……私を試して頂ければ、直ぐにご満足頂けると思いますわ」


そう言いながらも、大蛇相手に着物をはだけさせる気にはならず、语汐は「ですから、さっさと先日のお姿になって」とお願いする。


『……本当に、お前は美味しそうだ』

水神の呟きに、语汐は嫣然と微笑んだ。

浩然と結婚した後も、何人もの男をこうして落としてきたのだ。

「でしょう?」



その後、语汐がどうなったのか、知る者はいない。




***




ズズズ、と暗闇の方から水神がやって来る音を聞いて、若汐は慌てて屋敷から外に向かい、目を凝らした。


水神の二股に分かれた舌が一番始めに行灯の光に照らされ、次いでその悠然とした巨体が現れる。

最初の日以来、水神と離れることはほぼなかった為、若汐は心配で堪らなかったが、その無事を確認出来て心から安堵した。


しかし。


「……!!水神様っ!!額に怪我を……、如何されましたか!?」

水神の頭から微かに流れる血の痕を目敏く見つけた若汐は驚愕し、直ぐ様近寄った。


『大丈夫だ、若汐。既に治っている』

「そうですか……でも、痛かったですよね?清めましょう、今お水を持って来ますね」

若汐はそう言うなり踵を返して水を取りに行く。


「……他にお怪我はございませんか?」

『ああ、問題ない』

若汐の掌が自分に触れるのを心地よく感じ、水神は瞳を閉じた。



若汐と一緒に過ごして初めて、水神は自分が孤独だったことに気付いた。

そして、一度知った温もりを放り投げられる程、強くもないことを。


水神はゆっくりと閉じた瞳を開けると、縦に伸びた瞳孔でじっと若汐を見つめる。


「……どうか致しましたか?やはり、他にお怪我を?」

若汐の水神を見る眼差しに溢れるのは、慈しみ。

『いや、違うんだ。……若汐は、また村に戻りたい、とは思わなかったか?』


水神は、若汐に問うた。

そんな訳がない、と若汐が言ってくれると信じて。


若汐は笑って言う。

「貴方に不味いと言われた生け贄ですが……それでも良ければ、貰ってやってくれませんか?」



水神は、その巨体を若汐に絡み付かせた。

もう二度と離さない、と言うかのように。










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― 新着の感想 ―
[一言] こういうのほんま好き
[良い点] 水神様と主人公のその後を想像すると、とってもイイです。 大蛇に絡み付かれてイチャイチャするカップル最強! 長い間お幸せに! [気になる点] 先程の方が書かれてました「姉が村に戻った時、そこ…
[良い点] 水神様(大蛇)への乙女の生贄とか日本昔話の世界だけど、読めない文字の名前なのでアジアの水田風景が目に浮かびました(台湾でしょうか?)。雰囲気作りがお上手ですね。 心の美しい姉について、た…
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