◆4-5 いざ、大学へ!
クラウディア視点
ヘレナの話を聞いた次の朝の目覚めは最悪だった。
久しぶりに嫌な夢を見た…
「うなされてたみたいね。大丈夫?」
「ん…」
「まだ、体調が悪いなら休んでなさい。どうせ、今日は学校もお休みだし。私はいつもの運動に行ってくるね」
「行ってらっしゃい」
手を振って、窓から飛び出すジェシカを見送った。
相変わらず、扉の存在意義を疑う様な部屋の出入り方。
…はぁ…リオネリウスに会わないといけないのか…?
そのうちひょっこり生えてきそうだし、その時に伝えれば良いかな…?
なんかアレ、デミちゃんに執着しているっぽいし…
デミちゃん、ほとんど喋らないのに皆に好かれるなぁ…。
可愛いからしょうがないけど…
弟の事を考えていたら元気が出てきた。
嫌な事は後回しにして、取り敢えずやりたい事を考えよう。
部屋の隅に目をやると豪華な木箱が置かれていた。
簡易遠征訓練に出掛けている間に届いたらしい。
箱を開けると、レースをふんだんにあしらった豪華な女生徒用の制服が綺麗に折り畳まれて入っていた。
学校に入学する前に注文していた服だ。
…袖口が広い…動き難くて嫌いなのよね…
取り敢えず、試着してみるか。
一人でも着られるように出来てるのは良いね。
以前ノーラが着ていたドレスの様に繋目が隠れる。
侍女の居ない生徒も居るから、こういう所は気を遣ってるのね。
上下に分かれてるのも良い良い。
血で汚れたらそこだけ着替えれば良いしね。
…考え方が物騒かな?口に出さない様に気を付けよう。
スカートも踝丈にピッタリ。
高い素材を使っているだけあって、肩も腰回りも、いくら動いても突っ張らない。
ナイフを振る動きをしても繋目が破れるようなカンジは無いね。良し。
暑さ対策に首周りと二の腕は薄い生地になっていて涼しい。
スカートも薄手の素材で風通しが良いけれど、腕の生地と違い透けては見えない。
くるりと回ると軽い生地がフワリと浮き上がるが、膝が見える程ではない。
靴下を履けば問題無い。
ショートパンツを穿けば、格闘もイケる。
少し格式張った、軍服っぽいアフタヌーンドレスのような感じ。
学校来てから着ている人を見かけなかったから、着辛い服なのかと思ったけれど、意外と良いカンジ。
しかし、袖が長くて引っ掛かりやすい。
手の甲よりも先にレース飾りが飛び出ている。
これは…、食事も気を遣う…
いざという時の為に、袖を捲って固定するピンを用意しておいた方がいいかな?
普段使いは出来なさそうね。疲れそうだし。
侍女が常に付き添っている様な高位貴族の先輩達なら、着てる人も居るのかな?
他の生徒と付き合いないから、わからないな…。
そもそもジェシカ達以外の知り合いは、ほとんど居ないけれど。
あれ…?私の友達少な過ぎ…?
…いいんだ…数より質さ…
…この2ヶ月でサイズが変わって無くて良かった…
一応コルセットもついているけれど。
暑いし苦しいし気持ち悪くなるし…
なんで女だけこんな苦しい物を着けなきゃいけないの?
男も着ろよ…!
心の中で悪態をつきつつ、汚す前に制服を脱いだ。
デミちゃんなら、まだ女性の服も似合いそうだなぁ…
ヴァネッサが男装でデミちゃんが女装したら…可愛いだろうなぁ…クスクス。
などと下らない妄想をしつつ、制服を元通りに仕舞った。
◆◆◆
「アビー!大学部はどう行くの?」
私は教員棟にあるアルドレダの自室に突撃した。
「いきなり何?大学部?アンタの年齢だと、まだ入学出来ないわよ?」
「入学出来るならしたいけれど、今回はいいわ。
カーティ教授に会いたいのよ」
「教授に…?紹介状が無いと会えないわよ?」
「紹介状書いてくれるの?ありがとう!」
「まだ、書くとは言ってないけれど…。
はぁ…アンタは言っても止まらないわよね…」
不法侵入で捕まる前に書いてやるか…と言って、羊皮紙を取り出した。
サラサラと書き上げて、封筒に仕舞い封緘を押した。
「ハイ、割引価格で…金銀貨2枚で良いわよ」
「お金取るの?私が可愛く無いの!?」
「可愛かろうがなんだろうが関係無い。金銀貨2枚」
「…割引価格じゃなかったら、いくらだったの?」
「金銀貨2枚ね」
「どケチ…」
私は金銀貨を2枚置いて、紹介状を受け取った。
そして、大学部までの道を教えてもらった。
「休みの日に何しに行くのやら…」
「そう言えば休みだったわね。教授居るかしら?」
「あの変人は、休日なら自室か研究室に籠もってるわよ。
…外出したのは見た事ないわね…」
「知り合いなの?」
「親しい仲じゃないけれど…有名人だからね。彼女」
「いきなり押しかけて大丈夫かな…?」
「私にも、その気遣いをしてくれないかしら?」
「私とお姉ちゃんの間柄じゃない」
「親しき仲にも…って…そんな魂じゃないわね…」
アルドレダはわざとらしくため息をついた。
「彼女は自分に興味の無い事は一切無視するわよ」
「そうね…そういうタイプよね。餌はあるけど…」
「餌…って…酷い言い方」
「この餌をいきなり見せるのはマズイ?」
「アンタが作った魔素マスクじゃない」
「これの欠点を相談したくて会いたいのだけれど?」
「…アンタが魔導具士ってバレるのは止めてよね」
「これ、アビーが拾った事にしてくれない?遠征中に、黒の森の中で。何に使うか解らないから聞きに行くという体で」
「…まぁ、それが一番無難か…?
一応、後で聞かれた時の為に、何を話したかを報告しなさいよ」
「あい、あい、さー」
「何それ?」
「了承しました、って意味よ」
また、ワケのわからない事を…と言いながら、退室を促した。
これから遠征中の事をホウエン校長に報告に行くそうだ。
成果や成績評価の書類も作成しないといけないし、休みなのにやる事が多いのよ…と、ブツブツと独り言で文句を垂れる。
私は面倒臭い仕事を押し付けられる前に部屋を出た。
◆◆◆
「どちらにしようかな…キミに決めた!」
ビシッと、イルルカを指差す。
「何々?何なの?」
「イルルカ、今日時間ある?ちょっとデートしない?」
「「「デート!?」」」
皆の驚く声が朝の食堂に響き渡った。
「おめでとう、イルルカ。楽しんでらっしゃい」
「…お姉ちゃん…?」
「クラウ…まさかイルルカのこと…?」
「お姉様…デートなら私と!」
「マリアンヌ!?」
「ちょ…ちょ…ちょっと待って?何、何?」
皆がわちゃわちゃしている。
「あ〜ごめんね。そういう事じゃないの。
ちょっと、生贄が欲しくてね」
「「「生贄!?」」」
更に驚く声が廊下まで響き渡った。
「さようなら、イルルカ。貴方の事は忘れないわ。3日位」
「…お姉ちゃん…?」
「クラウ…まさかイルルカを…?」
「お姉様…生贄なら私を!」
「マリアンヌ!!」
「えっ…えっ…?何、何?」
イルルカが涙目になった。
周りの騒ぎを無視して話を進める。
「今日、カーティ教授に会いに行きたいの。
手土産にルーナを差し出そうかと思ったのだけれど…」
サリーが私の後ろに回り込み、どこからか取り出した鉄串を首に突き付ける。
「こうなるから、代わりにイルルカ、一緒に来て」
「僕に拒否権はありますか?」
「変わってるわね…強制の方が好みなの?」
「…行かせて頂きます…」
「素直な男の子は好きよ」
「お姉ちゃん、護衛は必要?」
「デミちゃんは、ヴァネッサとデートしてきなさい」
「うん」
デミちゃんがヴァネッサを見つめると、ヴァネッサは恥ずかしそうに俯いた。
…あ、そうだ…
「デミちゃん、デートは女装して行かない?」
「「「女装!?」」」
今度は周りの女生徒達が騒ぎ出した。
「デミの女装ねぇ…お金になりそうね…」
「…お姉ちゃん…?」
「クラウ…病気の発作?」
「デミトリクスお兄様の女装…!何やら甘美的で背徳的な…」
「マリアンヌ???」
(今度は僕じゃない…良かった…)
「クラウ…私はデートでは男装しないから、貴女の期待する形にはならないと思うわよ?」
私の思考を読み切ったヴァネッサが釘を刺した。
「「「チッ!」」」
私を含めた周りの女生徒達が、一斉に舌打ちをした。
「…女性…怖い…」
「イルルカ…お姉ちゃんを宜しく」
「拒否権が欲しい…」
◆◆◆
私は、少し鬱状態になったイルルカを引きずって、学校で用意してもらった馬車に乗り込む。
そして、大学部への道を指示して走らせた。
「大きい家ばかりだね…」
「貴族街の真ん中にあるからね。というか、貴方の家が一番大きいのだけれど…」
「イリアス様は仮のお父様だから…」
「だからといって家に行く事を禁じられている訳では無いでしょ?」
「そうなんだけど…。いつでも来て良いとは言われているけれど…」
「それなら、今度招待されようかしら?」
「ぼ…僕の一存では…」
「学校の皆を招待してお茶会を開きたい、とか言えば断らないと思うわよ?
将来の優秀な生徒達と交流を持つ事は悪い事ではないわ」
「自分で優秀とか言うし…」
「おや?何か文句でも?」
「ひっ…イイエ、ゴザイマセン…」
…何故か怯えた声に聞こえた気がした。
きっと気の所為。
そんな事を話している内に、サンクタム・レリジオ大学部の巨大な門が見えてきた。
さーて、愛しの教授。
餌を用意してきたわよ。
この頃重い話ばかりだったので息抜き
(*´ω`*)
金銀貨2枚で約20万円位だと考えて下さい。
教師の週給位。
事務職員の月収位。
平民の年収位…
一律ではありませんけど。
平民でも稼ぐ商人は教師より稼ぐ。




