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神代の魔導具士 豊穣の女神  作者: 黒猫ミー助
ソルガ原書
98/287

◆4-4 茶会室にて・占領者の苦悩

クラウディア視点




 私は、自身の感じている不機嫌さを抑えながら、冷めた笑顔でヘレナ=コルヌアルヴァの勧めた席に座る。


 侍女を退室させてしまったので、ヘレナは自らの手で茶を準備した。

 「熱っ!」

 不器用で、そして慣れない手つき。


 「それで…?何の用かしら?」

 ヘレナの淹れた茶には手を付けずに、私は尋ねた。

 少し悲しそうな顔をしながら、彼女は口を開いた。


 「リオネリウス王子と繋ぎを作って欲しいの…」

 「王子と…?」


 私は意味が解らないと言って、首を傾げる。


 「何故ハダシュト人の私が、貴女達帝国の仲介役を?

 同じテイルベリ人同士で話せば良いじゃない…」

 「じつは…父が王族と連絡を取る方法を探していて…」


 数年前に占領した旧ホーエンハイム領の統治に関して、現在、多数の問題が発生しているとの事。


 …エレノアを通じて知ってるけどね。知らないふり。


 その問題に対処すべく、ヘレナの父親は王帝ベルンカルトルに何度か伺いを立てているらしいのだが、何故か梨の(つぶて)だそうだ。

 領地を勝手に離れる訳にもいかず、代理でヘレナの兄が登城したが、王の側近達に阻まれて面会も出来ずに帰ってきた。


 「リオネリウスに兄が二人居ると聞いてるけれど?

 コルヌアルヴァは辺境伯でしょう。

 侯爵位の権力があるのだから、兄達に直接言えば?」


 「長兄のファルクカルトル様は、地方の遠征や高位貴族との会合で、いつもいらっしゃらなくて…

 次兄のゼーレべカルトル様は、議員達との付き合いで遠方の領や外国へ行っていて、いらっしゃらなくて…

 連絡を頼んだのですがお返事が遅れているとか、手紙が配達途中で野盗に襲われて紛失したとか…言われて…」


 「露骨に避けられているわね」

 「うっ…」

 苦い顔をするヘレナ。



 何としても王族と連絡が取りたい父親が、サンクタム・レリジオに居る第三王子を思い出し、娘に『繋ぎ』を作るように命令してきた…との事。


 しかしヘレナ自身も、王子の側近達が邪魔をしてリオネリウスと話す事が出来ないらしい。

 側近達は、物凄くコルヌアルヴァを警戒している。


 「以前、リオネリウスが貴女の家族にも謝罪したいとか言ってなかった?」

 「それも、結局実現しなくって…」


 彼自身は、コルヌアルヴァ辺境伯に茶会室での非礼の謝罪に関して、手紙を送ろうとはしたらしい。

 しかし側近が言い包めたらしく、結局手紙は出されなかったそうだ。

 侍女伝いに聞いたとのこと。


 ヘレナからリオネリウスに宛てた手紙も、途中で検閲され彼に届かなかった。

 侍女同士の伝手を使い連絡を取ろうとした処、ヘレナの侍女達と仲の良かった王子の侍女達は、突然国に戻された。

 替わりの侍女達はとても強く言い含められているらしく、同じ帝国人なのに無視をされていて、ヘレナの侍女達は肩身の狭い思いをしているそうだ。



 「それで何故私に?」

 「貴女達、王子と仲が良いみたいだから…」

 「いや、そうではなくて…

 仲介役頼むなら帝国貴族のジェシカとか、聖教国貴族のルーナとかに頼むのが先じゃないの?

 帝国と敵対しているハダシュト王国貴族に頼む意味が分からないのだけれど?」

 「既に会ったわ…」


 すっかり帝国人を信じられなくなったヘレナは、初めに聖教国人であるルナメリアに頼もうとしたそうだ。

 しかし、侍女のサリーに凄く怖い目で睨まれて、話し掛けられなかった。


 仕方無く帝国貴族のジェシカに話をしようと近付いたら、「何か用ならクラウディアを通して」と、にべもなくあしらわれた。

 口を開く暇さえ無かった。


 そうして私を探している内に、私のカードが置いてある席を見つけた。

 だから、そこで帰ってくるのを待っていたそうだ。

 しかし、公衆の面前で断られた。


 「貴女に断わられた時、私…もう、どうすれば良いか判らなくなって…」

 泣き出したらしい。


 「ジェシカの奴…面倒臭くなったから押し付けたな…」

 「私が面倒臭いのは…解ってます。初日も貴女達に絡んでしまって……」


 コルヌアルヴァ家は、帝国の指示でホーエンハイム領を占領したのに帝国から梯子を外された。

 聖教国の教皇や枢機卿達からは、怒濤の抗議文が送られてくる。

 王国からは領土の返還をしないのなら戦争だと宣言される。

 帝国は全てをコルヌアルヴァに押し付けて責任逃れ。

 八方塞がりの状態。


 そんな中、敵対中のハダシュト王国、その高位貴族である伯爵家の兄弟が来る事を知って警戒していた。


 ハダシュト王国が高位貴族を派遣して、ヘレナを通じてコルヌアルヴァを探ろうとしているのかと邪推した。

 しかし魔力量の試験を見て、二人共大した魔力も無かったので関わる事も無いだろうと安心した。

 それなのに、何故か同じクラス。

 学校ぐるみでコルヌアルヴァを貶めようとしているのではないかと、焦ってアルドレダに抗議した。

 疑心暗鬼になっていたそうだ。


 それなのに初日で卒業してしまい、結局杞憂だと分かった。

 失礼をした事を謝罪したくて、寄宿舎で皆の集まる所を探していたらリオネリウスに会った。

 そして側近達と諍いが起きた時に、突然私が介入してきた。


 高位貴族が大食堂を使うとは思わなくて、居る事に気付かなかったそうだ。



 「…それで、アイツに何を頼みたくて繋ぎを?」

 「…それは…」

 「理由が分からないと繋ぎは無理よ?

 ホーエンハイム領の詳しい現状と、リオネリウスに頼みたい内容を具体的に()()()()()()聞かせて」


 何度か逡巡した後、ヘレナは重い口を開いた。


 詳しい理由や原因は父兄から聞かされていないが、旧ホーエンハイム領内で異常気象と魔獣の大量発生が頻発している。


 もうすぐ初夏だというのに、未だに雪が溶け切らない。

 おかげで作物も育たない。

 この数年、どんどん気候が悪くなっていっている。


 現在はコルヌアルヴァ領からの食料輸送で凌いでいる。

 しかし、たった一つの領土の生産食料で二つ分の領民を食べさせないといけない。

 帝国は援助をしてくれない。なので、コルヌアルヴァ領の収益で何とかしないといけない。

 その為に自領の税を大幅に引き上げたせいで、領民からの反発は酷い。

 旧ホーエンハイム領民も、未だにコルヌアルヴァを敵対視していて、いつ反乱が起きるか分からない。


 領内の空気も重苦しく感じられ、領民の間だけでなく、コルヌアルヴァ騎士団の間でも、多数の諍いが起こる始末。


 現在は領内の魔獣討伐の功績との差し引きで、旧ホーエンハイムの領民達も矛を収めているが、コルヌアルヴァ騎士団を見る領民達の目には常に憎悪が宿っている。

 石を投げつけられるのはしょっちゅうだ。

 毎年増え続ける魔獣にコルヌアルヴァの騎士団も手が回らなくなっている為、領民達の取り締まりや巡回に人は割けない。


 短い夏に短期間で育つ作物を作付けしても上手く育たない。

 奇妙な色の果実が実ったり、何故か腐ったまま花や実をつけたりして、とても食べられない。

 水は煮沸しても腐臭がするので、飲み込むのも苦労する。

 体調は崩さないが、精神的に住む事が辛い環境。


 全ては、コルヌアルヴァに皆殺しにされたホーエンハイム辺境伯家の呪いだ…自分達はとばっちりを受けたのだ…と領民達の憎悪は膨れ上がる。


 去年は、地方徴税官が護衛と共に街道の途中で殺された。

 馬は逃げた様だが、馬車は燃やされていて炭となっていた。

 引きずり出され殺された徴税官は、人の形になっていなかったらしい。

 人通りの多い道なので目撃者は多かった筈なのに、目撃情報は一つも出なかった。


 遺体を調べたら多数の農具で滅多打ちにされた事が分かったが、近隣の農家の農具は綺麗に洗われていて証拠は一切出なかった。

 適当な罪状で逮捕する事も出来たが、反乱の引き金になりかねないと考えて、諦めた。


 いつ、自分が次の犠牲者になるか判らない。

 いくら報酬を積み上げても、徴税官に名乗りを上げる者は居なかった。

 だから次の徴税官が決められない。


 …私の知っている話より、かなり酷いわね。

 「騎士団が護衛すれば?」


 騎士団は魔獣の討伐で不眠不休。

 辺境伯の護衛を除けば、完全に人手不足らしい。

 ホーエンハイム領民の中から、叙爵を条件に騎士団を募集したが全く集まらなかった。


 …戦力は足りない…と。

 本当かどうかは分からないけれど。


 「応募したら裏切り者扱いになるからね。

 ホーエンハイムの領民は、横の繋がりを重視するから。

 …裏切り者は殺されるわ」


 「詳しいのね…」 


 「聖教国の北方教会区にはホーエンハイム領出身者も多く居るからね…」


 「そう言えば、教会に勤めているのでしたわね…。

 将来的に聖教国との外交官に成る予定なのですか?」


 「私の事は関係無くないかしら?」


 「そ、そうね…ごめんなさい…」


 「それで…リオネリウスに何を頼みたいの?」


 ヘレナの父親は重要な事は教えてくれなかったそうだ。


 「お父様達は、『再起動が…』とか『一つに…』とかおっしゃってましたが…内容が難しくて意味が解らなかったのです。

 …この事はリオネリウス様以外には秘密にして下さい。

 『神代の魔導具』に関して王族の許可が要るそうなのです」

 だから兎に角、王族の誰かと連絡を取りたいらしい。


 …再起動…神代の魔導具…成程…。

 今のところ、私の知っている事と齟齬は無い…。

 『一つ』というのは意味が分からないけれど。


 「お父様は、早くしないと領民の反乱で殺されるか、王国に攻め込まれて殺されるか、魔獣や異常気象に殺される…と怯えているの…」


 「ホーエンハイム辺境伯一家を皆殺しにしたのだから、罪を償うのは仕方無いのではなくて?」

 冷たく突き放したら、再び声を殺して泣き始めた。


 「王国貴族の貴女からすれば…当然の反応だとは思う…」

 彼女は、泣きじゃくりながら言葉を絞り出す。

 「ごめん…なさい…。もう…頼れる人が居なくて…」


 「ハァ…わかったわよ…貴女の話を伝える事だけはしてあげる。けど、それ以上は期待しないで」


 私が虐めている様に見られて外聞が悪い。

 さっきから旅の疲れのせいか気分が悪いし、頭も痛い。

 早く話を切り上げたかった。


 「あ…ありがとう…ございます…」

 彼女は、涙と鼻水をハンカチで拭きながら礼をした。



 …それに…貴女達がどうなろうと構わないけれど、領民達は可哀想だからね…


 私は心の中で呟いた。



 

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