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神代の魔導具士 豊穣の女神  作者: 黒猫ミー助
ソルガ原書
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◆4-2 過去を探る者。未来を目指す者。

各々の視点




 アルドレダ先生に膝枕されながら眠っているクラウディアの呼吸を感じる。


 普段、完璧に感情を制御して、私に心の中を読まれない様に気をつけている彼女とは全然違う。

 まるで赤子の様に安心し切っている。


 それ程、先生を信頼しているのね。

 …私とは違って…


 『笛』について知らされて驚いたけれど…納得した。

 彼女達の異常さが腑に落ちた。


 ただ…いったいどんな人生を歩めば、大人でも心を壊しそうなこの組織に、違和感なく溶け込める様になるのだろう。


 ルーナは二人の過去を知らないと言っていた。

 お互いに聞かない、気にしないのが暗黙のルール。


 私は、この障碍のせいで誰よりも不幸だと思っていた。

 私は、この能力を呪いだと思っていた。


 クラウディアやジェシカの心の闇に比べると……

 私は…ずっと誰かに護られていた。

 明るい場所を歩いていたのだと理解した。


 お父様にも、身分にも、お金にも、従者にも…護られてた…


 そのお父様が……

 既に私のお父様は居ない…と聞かされた。

 お父様の皮を被った別人だと…。


 私の…私の呪われた能力が無ければ、絶対に私自身も信じられなかった事。

 この能力のせいで、別人だと解る…。

 この能力(ちから)のおかげで理解(わか)ってしまう。


 人格の乗っ取りについては、メンダクス(ノーラ様曰く、変態?)と、セルペンス(クラウディア曰く、変態…)、そして、魔女デーメーテールが詳しいらしい。

 なんだろう…魔女のデーメーテールが1番まともに思える…。

 魔女なんだよね?人間じゃないんだよね?


 解決する為には、魔女様に遭わないといけないのかな?

 少し…いえ、結構怖い…。


 人智を超えた知識と能力を持ち、多数の魔獣を従える者。


 下僕のレクトス一頭でさえ…

 騎士団を全滅させたアゴラとスカリが怯えてしまう強者。

 もし彼が私達に敵対したら…絶対に勝てる気がしない。

 ましてやベヘモト…

 一頭で東方教会区の中心地を瓦礫に変える化け物…。

 デーメーテール一人で国を滅ぼす事が出来ると言う意味。

 彼女の機嫌次第で、私の命など一瞬で消える。


 そもそも、解決法が無かったら…?

 あったとしても、私には不可能な方法だったら…?

 助けられない…


 今はお父様の人格を乗っ取った奴を見つけ出す為、お父様は泳がされている…。

 ただ…もし、見つかったら?

 お父様は用済みになる…

 操られているとはいえ、たとえ枢機卿であるとはいえ…

 獅子身中の虫であるお父様を、彼女達は躊躇なく殺すだろう…。


 『私も笛も、助ける気はないわ』

 クラウディアが冷たく言い放った言葉。

 今思うと、冷たい言葉の中に深い怒りが含まれていた気がする。

 彼女が上手く隠していたから、はっきりとは読み取れなかったけど。


 お父様はクラウディアに何をしたの?


 ジェシカもルーナも、彼女の過去を知らない。

 オマリー様は…他人の詮索を嫌う。

 それに、そもそも知らないだろう…。

 デミの小さい頃の事は、教会に来た後の事しか知らなかった。

 それも、表面的な事ばかり。

 デミが当時、心情的にどうだったかとか、内面的な事は探らない、立ち入らないタイプの人。


 アルドレダ先生は知っている。

 でも、教てくれないだろう。

 簡単に口を滑らせるくせに、大切な事は絶対に言わない人だから。

 私の質問に対して口を噤むだけで、私が心を探れない事を知ってるし…。


 先生以外で彼女達の過去を知っていそうな人は…誰?


 『クラウディアは優しいから教えない…』

 先生はそう言った。


 そう言えば、以前にクラウディアが凄く強い殺気を出した事があった…一瞬だったけれど…。

 あの時、何を話していたんだっけ…?

 お父様に関する話…だった様な気がする。


 クラウディアの過去が分かれば、お父様との確執も分かるかしら…?


 『フレイスティナ!』


 先生が呼んだ名前、クラウディアの本名だろう。

 クラウディアも先生をアビーと呼ぶ。

 あだ名がアビーなら、本名はアビゲイル…かしらね。

 一般的な女性名。

 ここから素性を辿るのは無理だと解っているから、クラウディアは平気で呼ぶのかしら?


 でもフレイスティナは聞いた事がないわ。

 少なくとも聖教国では一般的ではない。

 ハダシュト王国では、よくある名前なの?


 辿るならこちらから?

 でも、友達の過去を探る…?

 ジェシカやルーナが敢えてしない事を、私が?


 『クラウディアは優しいから教えない…』

 アルドレダ先生の言った科白(セリフ)が繰り返される…

 『優しいから、私には教えない』って…?

 私が知る事で、私が苦しむ事になるとクラウディアは考えている?


 お父様がした事は、そんなに酷い事なの?

 私が知らない方が良いと思う程?


 お父様を助けるためには、私の知らないお父様を知らなければならないと思うけれど…。

 お父様の過去も、クラウディアの過去も。

 知る事が怖い。


 クラウディアに酷い事をしたのなら、デミ…デミトリクスも本当は私を恨んでいるの?

 この関係は手放したくない…

 けれど…ちゃんと聞かないといけないと思う…。

 本気で一緒に生きて行きたいなら。



 でも…怖い……




◆◆◆




 あのお姉様が、まるで子供の様に丸くなって…

 可愛らしいですわ。


 『笛』…教皇直属の秘密組織。

 あの寝姿を見ていると、とてもそんな怖い…凄い組織の一員には見えませんわ。

 だからこそ擬態になるのかしら?


 史上最年少の魔道具士…。

 …でも、秘密なのよね…ハァ…

 お姉様の凄さを喧伝したい…!

 でも言えない…もどかしいですわ…!


 そうそう…お兄様にも気付かれないようにしないと…。

 どう話したら良いのかしら?


 そもそも、グレンデルをどの様に倒したのか聞かれたらどう答えましょう?

 オマリー様が倒した分は成績に加算されませんけれど。

 2体分をどの様に倒したかを、話し合っておきませんと…。


 罠か毒を使ったと言えば誤魔化せますか…?

 間違ってはいませんし。

 ただ、お姉様の『糸』も私の『固定化』も秘密ですし。

 ヴァネッサ様の『音攻撃』も秘密にするように言われてますから、口を滑らせないように話し合いたいですわ。


 面倒臭いですわ。

 もう、ジェシカ様が一人で倒した事にしてしまいましょうか…?

 あ…それをすると、私達の成績にならない可能性が……



 お姉様の体調が学校に帰り着いても快復しなかったら、その言い訳も考えておきませんと。


 熱病を発症して、その後遺症で…?

 変な伝染病と噂されると、お姉様がますます孤立してしまいますわ。

 本人は気にしないのでしょうけれど…。


 廊下を歩いていると、今でも公衆の面前で堂々と嫌味を放ってくる令嬢令息達も居りますし…。

 外国人だから…って。

 見た目が同じなのに王国出身者を下に見て…

 帝国派閥だの王国派閥だの、聖教国至上主義者だの…。

 敵を作らないと生きられないのですか?

 お姉様もジェシカ様も、素晴らしい人なのに!


 ジェシカ様なんて、平民出の帝国下位貴族だから余計に風当たりが強いですし。

 力や技で彼女に勝てないからって…みっともない…!

 同じ平民出でもイルルカ様には何も言わないくせに。

 今回のオマリー様の功績で少しでも帝国貴族の地位が上向けば、少しは静かになるのでしょうか…?



 耳に入ると気分が悪くなりますから、何とかしたいのですけれど。

 肝心のお姉様達が放って置く様におっしゃいますし…。

 私にオマリー様みたいな力があれば…貧弱な令嬢達なんて一捻りですのに。


 令嬢としては自慢する事の出来る、青い血管が浮き出る私の白い細腕も、『笛』の仕事をする為には貧弱な役立たずの棒ではありませんか…。

 …でも、お姉様やジェシカ様も、それ程太い訳ではありませんね…?

 何故あんなに力があるのでしょう?

 筋肉の使い方…?それとも…


 そう言えば、お姉様がグレンデルの攻撃を避けた時、

 『私はマクスウェルのやっていた事を応用しただけなんだけど』と、おっしゃいました。


 確か…筋組織に治癒魔術式を…?

 健康な組織に治癒魔術を流し込むなんて、想像するだけで鳥肌が立ちますわ。

 痛みが想像を超えるでしょうに…。


 特定の狭い範囲の組織に狙って魔素を流し込むのも、医者並の精密な魔力操作技術が必要でしょうし。

 加減を間違えれば、お姉様みたいに筋断裂を起こすでしょう。

 悪ければ神経を傷付ける事になるかも知れません。


 でも、お兄様もやっていた事なのですよね…?

 なら、私が出来ない道理はありませんわ。

 兄を護るのは妹の役目ですからね。

 強くならねば!


 私が矢面に立ってお兄様と家を護るのですわ!

 知らない人と話すのは…、まだ少し…いえ…だいぶ怖いですけれど…

 …それ以外の事で家の役に立ちますわ!


 帰ったら、お兄様から自分自身の筋肉に治癒魔術式を流し込むコツを教えてもらいましょう!


 目標が決まるとやる気が出ますわね。

 お兄様も家も、そしてお姉様も。

 今度は私が皆の英雄になるのですわ!


 お姉様達に頼られる私…

 想像すると興奮しますわ!


 オマリー様の次の英雄は私よ!



 

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