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神代の魔導具士 豊穣の女神  作者: 黒猫ミー助
ボガーダンの獣
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◆3-33 後日譚 新しい魔導具の試用実験

クラウディア視点




 「良し!出来たわ!」

 『取り敢えず、あり合わせだけどね。

 これで、どれだけ効果があるかは分からないわよ?』

 「お姉ちゃんの知識を、この世界の物で再現する事が難しいのは分かってるわ。

 だからこそトライ&エラー…だっけ?をやらないとね」


 私はガラティアの知識を元に、パエストゥム村にある材料で『魔素マスク』を作った。

 理論的にはいける筈。


 遠征訓練の成績に反映する為の必要な討伐も完了した。

 他にやる事も無いし、黒の森の直ぐ側に在るこの村に居る間に試してみたかった。

 私は村の雑貨屋と近隣の植物から採れる素材をかき集め、簡単ではあるけれど『魔素マスク』を製作した。


 余計な魔素を配線に流す機構が難しかった…。

 村の素材だけだと、緻密な魔素絶縁は厳しいわ。

 魔素導体は、私の『糸』でどうとでもなるけれど。


 私のベッドでは、マリアンヌが死んだように眠っている。

 私の『実存の糸(エッセ)』を物質化してもらい、マスクの試作品を作る為に、徹夜で付き合ってもらった。

 後数日で学校に戻らなくてはならないから、眠たがるマリアンヌを無理矢理引っ張って、夜中に魔素マスク作りを手伝わせた。

 複数作った試作品の内、一番出来の良い物を腰袋に仕舞う。

 現在は…太陽の位置からすると、2の鐘と3の鐘の間くらいかな?


 私が集会所に行くと、アルドレダが朝食の用意をしていた。


 「出来たの?」

 「何とかね。これから試用してくる」

 「その前に、朝食を食べて行きなさい。

 徹夜した後で黒の森に入るなんて、ただでさえ危険なんだから。

 せめて、ご飯はちゃんと摂りなさい」

 「はーい」


 私は、早く試用してみたい興奮を抑えつつ、ふわふわパンにかぶりついた。


 …この美味しいパンを食べられるのも後数日か…

 結局、正しい作り方を教えて貰えなかった。

 知識は財産だから、しょうが無いけれど…

 寄宿舎でも、このパンを食べられないものだろうか…


 朝食を終えた後、森に入る為の服に着替えた。


 「ちょっと、行ってくるね〜」

 「あまり深くまで行くんじゃないわよ。

 グレンデルより危険な奴が居るかもしれないから。

 それと、魔素の薄い場所で引き返しなさいよ」

 「あ〜い」


 姉ちゃんは心配症だなぁ…


 私は集会所を出て、『彼等』を探した。


 村の中心部辺りに居そうな気がする。

 さてさて…2匹は何処かな…?

 …あ…居た。


 村の広場で、ジェシカがアゴラとスカリを散歩させていた。

 手綱は勿論無い。

 首都と違って、魔獣に手綱を装着する義務もないし。

 村人がアゴラ達に群がって、撫でていた。


 …流石、この村の住人は物怖じしないなぁ。

 自分より身体の大きい半魔獣でも、『家族』と見做すと怖がらない。


 先日、村長に復帰したハンナから事情を聞かされた村人達は、アゴラとスカリの事を誰一人として怖がらず、『俺達の兄ちゃんと姉ちゃんが帰って来た!』と喜んで迎え入れた。

 アゴラ達も、村人達の言っていることを理解し、彼等を家族だと思っているので、威嚇したり噛み付いたりする事は無かった。


 「ジェシカ! アゴラ、スカリ!」


 私が声を掛けると、1人と2匹はこちらを向いた。

 スカリが走って来て、私にいきなり頭突きをした。


 訂正…じゃれてきた。


 ハンナとオマリーが、ジェシカと私、そして他の娘達を、アゴラとスカリの子供達として護ってやってくれ、と言い聞かせたので、私は2匹の子供となっているらしい。

 本当の子供達の代償かもしれないけれど…


 親愛の頭突きで、私は吹っ飛んだ。

 徹夜だったせいもあって対応が遅れた。

 地面に倒れ込んだ私を、慌てたアゴラが治癒魔術式で治療しようとした。


 「イタタタ! 痛い痛い!」


 私は飛び起きて、治療を止めさせた。


 魔術式を使用しての怪我の治癒は、筋繊維や皮膚組織に大量の魔素を一度に流し込んで、切断面を無理矢理繋げ直す魔術なので、結構痛い。

 魔力で筋肉を無理矢理動かされるのは、なかなかに辛い。

 大怪我して麻痺していれば感じ難いのだけれど、軽傷だと余計に痛い。


 スカリは『ごめんなさい』と項垂れていたので、私は「大丈夫。気にしてないよ」と言って、スカリの頬を撫でた。


 「クラウ〜大丈夫〜?」

 大した怪我ではないと分かっていたジェシカが、ニヤニヤしながら聞いてきた。


 あのニヤニヤ顔のほっぺたを引っ張ったら、気持ちいいだろうな…。


 アゴラとスカリが、『他に怪我はないか?』と確かめるために、私の顔をベロベロと舐め回す。

 私の顔くらいの大きさの舌が2枚…交互に私の顔を殴る。


 …痛い、痛い!舌が痛い!私のほっぺたが引っ張られる!!


 私は「大丈夫!だから止めて!」と叫んで止めさせた。

 顔が、よだれでべちょべちょ…

 近所のおば…おねえさんが濡らした手拭いを持って来てくれた。


 アゴラとスカリはやり過ぎた事を理解して、しょぼんと項垂れた。

 私は、アゴラとスカリに「怒ってないよ」と言いながら撫でると尻尾を振り回して喜んだ。


 子供の頃に遊んでいた基準が、ハンナさんやオマリー様だったからか、力の加減が難しいのね…

 ハンナさんは、ハンドサインと尻尾の振り方で会話していたけれど…。

 私じゃ、力の加減の伝え方が分からないや。

 ニグレドやレクトスみたいに喋れれば良いのに…。



 私は、魔導具の実験の為に黒の森へ行きたいと、アゴラ達に伝えた。

 2匹は了承して、私を背中に乗せてくれた。


 …レクトスは嫌がったけれど、アゴラとスカリを使う分には文句はないわよね…

 『己の力で来い』だっけ?

 2匹は私の『父ちゃん』と『母ちゃん』。

 二人が協力してくれるなら、しょうがないわよね〜?


 アゴラとスカリ自身は、黒の森を拠点にして外周を移動しながら生活していたらしく、半魔獣化した。

 でも、そのおかげで魔素には物凄く強くなった。

 普通の馬を使うと、森の木と魔素のせいでまともに走れなくなる。

 恐らく魔素の薄い場所でも、魔素中毒で倒れるだろう。

 でも森に慣れている2匹なら、中毒にならないし移動も早い。


 私はスカリの背に乗り、アゴラの先導についていった。


 途中、こちらの様子を伺う狼や小型の魔獣が居るが、2匹の姿を見るとすぐに身を隠す。

 普通でも強いドゥーム・フェンリル。

 それの半魔獣となると、熊どころかグレンデルすら兎の様に簡単に喰い殺す。

 それが解っているから、森の魔獣達は私達の前に出て来ない。


 黒の森の入口からしばらくは魔素も薄く、呼吸も問題無かった。

 魔素マスクは着けなくとも深呼吸出来る。

 しかし、グレンデルが居た沼を越えて半刻の半分くらい疾走った辺りで、何かがおかしい。


 段々と目が回る様になってきた。

 視界が滑る。ふわふわする…?


 …そういえば、前にグレンデルの沼の近くに来た時、サリーの様子が変だった。

 いつも変だから気にしなかったけど。


 もしかして、魔素酔いしてたのかしら?

 本当は、あの時にはフラフラだったの?

 これが魔素酔いの症状なのかな?


 『そろそろ着けないと、貴女でも危ないわよ』

 「了解、お姉ちゃん。」


 私はアゴラとスカリに声を掛けた。

 「アゴラ、スカリ。ちょっと停まって」


 停まってくれたので、一度降りて腰袋から魔素マスクを取り出した。

 その際に周囲の様子を探知して、驚いた。


 …濃度が濃過ぎて魔素の探知が出来ない…!?


 目では周囲の景色が見えているのに、魔素の動きを探知しようとして感覚で視ると、一面(もや)がかかったように何も視えない。

 手を伸ばすと、私の手の魔素も視えない。


 …これがフィクス・ベネナータが放出した魔素…

 少し息苦しいのも納得だわ…


 『普通の人間なら即死の濃度よ。

 貴女の魔力器が大きいから、この程度で済んでいるけれど。

 高濃度魔素に慣れていない貴女の身体には…危ないわよ』


 私は自分で作った『魔素マスク』を着け、再びスカリの背中に飛び乗って先を促した。


 …中々、良い感じに出来たかも?

 流石、私!

 息が苦しくないわ。


 しかし、アゴラもスカリも速いわね…

 周りの景色が飛ぶように流れていく。

 顔にあたる風のせいで、肌がピリピリと痛いわ。

 あ…髪を縛っていた紐が切れた。

 風に引っ張られて、私の髪が翼の様に広がる。


 大きく拡がった私の漆黒の髪の毛が、スカリの黒い毛と混ざり合う。

 …まるでドゥーム・フェンリルの一部になったみたい…

 気持ちいいわ…


 アゴラとスカリ…本当のお父さんとお母さんみたい…

 私を優しく包み込んでくれている…

 スカリの身体と一体化したみたいで、とても楽だわ。

 さっき迄顔にあたっていた風も、今は痛くない。

 このままヒトツになりたいナ…


 『………、!………!!』


 何処からか声が聞こえた。

 聞き覚えのある声。

 懐かしい…

 大切な人達の声が………

 ぱぱ…まま…おねえちゃ…




◆◆◆




 「クラウディア!

 クラウディア!!

 起きて!」

 ………


 ………


 「起きなさい!フレイスティナ!!!」


 ハッと目が覚めた。

 瞼は開いたけれど、身体が痺れて動かない。

 木の天井が見える。


 「こ…、…こ…は…?」


 「この馬鹿娘!!」

 アルドレダが、泣きながら私に抱き着いた。


 アルドレダだけでなく、オマリーやノーラ、ジェシカ達とアゴラとスカリにハンナさんまで私の周りに集まって、私を見下ろしていた。


 ヴァネッサやルーナ、マリアンヌは目に涙を浮かべていた。


 「意識が戻ったか…良かった。

 アゴラ兄ちゃん達、ありがとうよ」


 オマリーがアゴラとスカリを撫でている。


 「アンタ、魔素中毒をおこしてスカリから転げ落ちたんだよ。

 身体中、傷だらけだったのはアゴラが治療してくれたけれど、魔素中毒は治癒魔術では治せないからね…」

 ハンナさんは、意識が戻ったなら大丈夫だよ。と言って、ルーナ達を慰めた。


 「この…!馬鹿!

 何処まで行く気だったのよ!

 兄ちゃん達が連れ戻してくれなかったら死んでたわよ!」

 ジェシカに本気で怒られた。


 「…魔導…具………失敗…しちゃっ…?」


 「アンタが着けてた、このマスクの事?

 落ちた拍子でか知らないけれど、破けてるわよ」


 「失敗…しちゃ………っぱり…フィル……かな?

 …それ……の『糸』が…流…切れ…なか…?

 流…配…機構…壊れ………な…?

 そうら……魔素……貯蔵…魔石は…無事…?」


 『「「この馬鹿!!大人しく休みなさい!」」』


 ジェシカとアルドレダ、そして、ガラティアの声までシンクロした。



 私がまともに動ける様になる迄、3日かかった。

 おかげで、学校に着いたのは1番最後だった。



 

第三章終わりです。

第四章は9月8日から。

今後は週に4回更新となります。


投稿予定文書の校正と続きの話制作で半日潰れる…。

誤字チェックだけじゃなくて、読み直すと納得出来なくて、ついつい書き直す…

キツイ…(´・ω・`)


4章は製作が遅れてるので、更新が予定通りにいかない可能性があります。

定期更新出来なかったらゴメンナサイm(_ _)m


( ´ー`)フゥー...校正が無い内に書き溜めないと…

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