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神代の魔導具士 豊穣の女神  作者: 黒猫ミー助
第一章 女神に捧ぐ祭り
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◆1-8 ほ〜ら、ワシ、怖くないよ(ニッコリ)

オマリー視点




 「さて…どうするかな」

 お嬢様はあの様に言ったが、教皇猊下の御尊名を出すのは最後の手段だな。


 今の私は真っ黒な服を着て、東方の島国に伝わる『鬼』と呼ばれる魔人の仮面を付けている。

 この格好でヘルメス枢機卿に会いに行けば、問答無用で襲われそうだ。


 教皇猊下の名も、トゥーバアポストロの名も一切出さず、鬼の格好で、巨大なボウガンと短槍を背負っている大男が、最高指揮官に会えって…どんな罰ゲームだ。


 大体、こんな鬼の仮面を何処から手に入れてきたんだか…

お嬢様は完全に愉しんでいるな…


「う〜ん、う〜ん」と唸りながら歩いているうちに、ヘルメス枢機卿の軍の近くまで来てしまっていた。



「ギャー!」

 突然の叫び声を聞いて、何事かと思って見渡せば、立哨の兵士達がこちらを見て腰を抜かしていた。


 自分の恰好を棚に上げて、思わず「情けない!」と言ってしまった。相手は口も利けなくなり涙目になっていた。


 口をパクパクさせて、抜けた腰を引き摺りながら、少しでも距離を取ろうとする兵士達に向けて、

「待て!待て!私は味方だ!」と、自分の『声』の魔術を乗せて話し掛けた。



 私は魔術が上手くない。


 圧縮魔術式も物質化魔術式も使えない。それなのに魔力は人一倍多い。私の使えるのは波形魔術式のみ。

 『声』に波形魔術式を乗せて話すことで、喋った言葉を『強く』意識させる事と、自身の発した魔素を周囲にぶつけることで、隠れている者を見つけ出す事くらいだ。これは相手にも感じ取れてしまうので隠密行動中は使えない。


 …逃げ回るジェシカを見つける為ぐらいにしか使ってないな。


 『声』の魔術で「安心しなさい」と言えば、相手は落ち着きやすくなり、「止まれ!」と叫べば、相手はビクッとして一瞬動けなくなる。…格闘戦で強い力ではあるが。昔、ジェシカに怯えられてからは、あまり使ってない。


 …教会の説教で時々、密かに使ってるのはヒミツだ。

 『女神降臨と方舟伝説』の話等は、皆が真剣に聴いてくれるのが嬉しくて…この魔術を使うと泣いて感動してくれる者も居る…



 私の『声』の魔術が効いたのか、腰を引きずって逃げ出そうとした兵士の一人が止まって、こちらをじっと見た。涙目だけどな。


 「…私はヘルメス枢機卿の依頼で来た。落ち着け」

再び『声』を乗せて、ゆっくり話し掛けた。


 叫び声を聞いて集まって来た兵士達も、私を見て足が竦み遠巻きに見ていたが、枢機卿の名前が出た事で落ち着いてきた様子だった。


 「すまんが、誰か枢機卿猊下に『笛の者』と伝えてきてくれ。分かる筈だ」と、落ち着かせるように言った。

 遠巻きに見ていた兵士の一人が、物凄い速さで何度も頷いた後、すぐに走って行ってしまった。…まるで逃げ出すように…


 色々釈然とはせんが…戦闘にならずに目的は達したか…?

 …ワシ…そんなに怖いのか…?

 なんか、泣きたくなってきた…


 とりあえず、私はその場に腰を下ろした。


 腰を抜かしていた兵士達も多少落ち着いたのか、抜けた腰のまま、その場から動かず騒がず、じっとしていた。武器も抜かずに。


 せめて武器を抜け…ワシの仲間達なら、そんなに情けない姿は晒さんぞ。


 仲間達なら…と考えて、逆にすぐに飛び掛かってくるだろうなと思い、思わずクックッと含み笑いをしてしまった。

 周りの兵士達が、私の笑い声を聞いて死を覚悟したような顔をしていた。


 暫くすると、遠くの方から息を切らしながらヘルメス枢機卿が走ってくる。

 枢機卿も私を見た途端にビクッと怯え足が止まったが、気を取り直して、息を整えてから毅然と歩いて来た。


 私はゆっくりと立ち上がる。

 すると枢機卿の護衛騎士達が慌てて武器を抜いた。それを枢機卿が「待て!」と言って止めた。


 …この感覚は、枢機卿も『声』の波形魔術式を使うのか?

 クラウディアならすぐに解析するのだろうが…


 私は教会式の最敬礼をしようとして、途中で止めた。


 …そういえば、教会の者とバレるのもマズイのか?


 胸の前で最敬礼の形で交差させようとしていた腕をそのまま組んで、背筋を伸ばした。


 …かなり偉そうに見えるが、しょうが無い。



 ヘルメス枢機卿は、

「貴殿が笛の一員か?」と聞いてきたので頷いた。


 声でバレない様に、いつもより低い声で…

「猊下の依頼で参った。計画は把握しておられるか?」

と、尋ねる。


 枢機卿は少し微妙な表情をした後で、

「あ…ああ……。必要な物はあるか?すぐに用意させる」と言った。


「いや、大丈夫だ。最前線の場所を使わせて貰いたい。兵士達に連絡して欲しい」


 ヘルメス枢機卿は了承したと言って、護衛騎士の一人に伝令を命じた。


 私は礼を言い、

「では、花火が上がり門が開くまで、私の周囲に誰一人も近づけないでくれ。死んでも責任は取れん」と言うと、周りの兵士は一斉に、物凄く速く何度も頷いた。


 ふと、思い出して、

「もう一つ、門が開いても暫くは突入しないでくれ。…そうだな、10分くらいは様子を見てくれ。『花火』が全て吹き飛ばしてくれると思うが、体調が悪くなったらすぐに避難してくれ」

と言うと、枢機卿は了承した。



 …枢機卿相手に偉そうな言い方をしてしまったな。

 でも、この場合仕方ないよな…


 ワシの正体バレたかな?

 『声』の魔術を使う者なら気が付きそうだ。

 何度も拝謁しているしな。


 私は、周囲の兵士達を怯えさせないよう、ゆっくりと歩いて目的地へ向かった。

 周りの兵士に見せつける為か、注意を促す為か、ヘルメス枢機卿が付いてきた。


 横を歩きながらヘルメス枢機卿が、小声で、

「貴殿はもしや…」と言ったので、私はすぐに、


「枢機卿猊下、貴方以外に私達の正体が知られた場合、知った者を全て処理する様に命令を受けています。くれぐれもご留意、他言無用をお願いします」

と、低く、地の底から響く声で伝えた。


 言葉を聞いた枢機卿は息を飲んで、横でその言葉を聞いた護衛騎士達は、身体を震わせて怯えていた。


 …騎士にすら…悲しい…

 私の正体もバレた…まぁ、バレて元々。お嬢様も構わないと言ってたしな。




◆◆◆




 途中迄来て、ヘルメス枢機卿に「ここからは…」と、手で合図をしたら、少し躊躇したものの『軍に準備をさせないと』と思ったのか、急いで引き返していった。


 私は篝火から離れ、月も隠れて真っ暗になった場所を一人静かに歩いた。

 門から200メートル位まで近付き、そこで荷物を下ろして準備した。夜目の効くものなら見えるかも知れんが、分かっていても攻撃は届かないだろう。


 仮面を外し、ノーラの毒を吸い込まない様に特殊な布で顔を覆い密閉眼鏡も着けてから、バリスタ並のボウガンを地面の岩に固定した。

 魔導具の短槍を用意して、弦引きの滑車をセットした。



 聖教国の武器工廠の一つ、『コエトス・フレンティウム』の作品。

 『携帯バリスタ』とか言ってたか?あそこは巫山戯た(ふざけた)物ばかり造る。

 本体重量50キロの物なんぞ携帯して使えるか。弦も強過ぎて、専用の弦引き滑車を使わないと全く動かない。

 クラウディアの創った魔導短槍が一本5キロ、予備含めて6本持ってきたから、これだけで80キロ。私以外では潰れてしまうだろうな。



 ボウガンの方向を調整しながら、魔導短槍は先端が重いからもっと上を狙わんといかんかな等と考えながら、合図を待っていた。

 暫くすると、南城壁上の兵士達が次々と倒れていった。

中には、転がり回った挙げ句に城壁から空堀に落ちて行く者もいた。


 相変わらず、えげつない…聖職者のやる事か…

 あの兵士達も理解できないうちに召されるのだろうな…


 などと考えていたら、いきなり雷鳴が轟いた。

 西の崖の中腹辺りから中央棟の最上階へ、雷光が一直線に飛んで行った。

 続けてすぐに、2発目の雷光が同じ部屋に突き刺さって、外に向かって壁が吹き飛び、建物の屋根が部屋を押し潰した。


 相変わらずデミトリクスの魔力は美しいな…

 …と、準備せねば…


 私は、滑車を引き魔導短槍をセットした。


 今度は中央の建物が上空に吹き飛んだ。

鉄鉱を含む重量のあるハルム鉱石。それで出来た建物の破片が城壁の外からもはっきりと見えるくらいに天高く飛んだ。


 …次は私の番だ!


 風の方向を考慮して僅かに左側、短槍の重さを考慮して、やや上側。ボウガンごと反動で飛ばされない様に力を入れて引き金を引いた。


 一射目は少し右に反れたが、城壁外側の落とし格子に上手く刺さった。

 刺さった直後、魔導短槍が強い光と共に爆発し、砕けた格子の丸太が門に突き刺さった。


 滑車を引き二射目をセット。一射目の当たりどころを見て微調整をしながら、発射。今度は門の中央に突き刺さった。

 爆発し、門が内側に吹き飛んだが、城壁内側の落とし格子に引っ掛かり止まった。


 方向はこのまま。滑車を引き三射目を発射。

先程吹き飛んだ門の隙間から見える、城壁内側の落とし格子に突き刺さる。三度目の爆発。

 城壁内側の落とし格子は、中庭側へと吹き飛んだ。


 流石の威力だな…分かっていても恐ろしい…



 仕事を終えると、後ろから物凄い歓声が聞こえた。

思わず振り向くと、攻撃の準備を整えていた兵士達と枢機卿が、遠巻きにこちらを見ていた。


 一応、注意に従い近づいては来ない様だ。

私は密閉眼鏡を外し仮面に付け替えると、後片付けを始めた。


 …帰る前に枢機卿にご挨拶するべきだろうが…トゥーバ・アポストロが枢機卿の知り合いだと他の兵士達に勘繰られるのもマズイのか?取り敢えず、手で帰還の合図だけ送っておくか。


 私は枢機卿に向けて小さく、手で帰還の合図を送り、来た時の様に武器を背負い直して立ち上がる。そしてそのまま、西方向へと歩き出した。


 枢機卿は護衛騎士に止められて、軍の指揮に戻って行った。

 何故か護衛騎士達は、こちらに向けて軍隊式の最敬礼をしていた。



 しかし、ワシ…最初から最後まで怯えられ過ぎではなかろうか。鬼の面がいけないのだろう。お嬢様のせいだな、きっと…



挿絵(By みてみん)

オマリー神父

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