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神代の魔導具士 豊穣の女神  作者: 黒猫ミー助
ボガーダンの獣
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◆3-24 人生を捧げる価値のある仕事とは?

第三者視点




 村に帰り着いた後、オマリーが獲物を届けるついでにパンを貰ってくると言うので、皆はその間に井戸水で軽く身体を拭いた。

 竈に火を入れ、湯冷ましも作りながら今後の事を話し合う。


 「香水と硫黄と薬品と…何か武器を送るように要請したのよね?

 頼んだ物はいつ届くかしら?」


 アルドレダは指折り数える。

 「少なくとも、早くて2日は掛かるかしらね。そもそも、硫黄が持ち出せるか判らないけれどね」


 「硫黄が持ち出せなかったら、持ってくる人が襲われるんじゃ無いの?」

 ルーナがふと、呟く。


 「あっ…」しまった…と呟いた後で、

 「だ…大丈夫よ!硫黄を見て、『獣』が嫌いな物だと気付くだろうから!きっと!」


 「要請した品名だけで、理由は書かなかったのね…」

 「書ける量は少ないのよ…鳩が運ぶから…」

 「一応、追加情報を送っておけば…?」

 「はい…そうします…」


 そう言って、アルドレダは小さなメモを持って、外のハシゴを上っていった。



 トントントン、扉が叩かれた。

 扉が開き、オマリーが村長達を引き連れて入って来た。

 大量の焼き立てパンを持って。


 「ハンナ姉ちゃんから、狼の肉の御礼が届いたぞ!」

 「さっき焼いてもらったばかりだから、美味いよ!」

 「たった半日であれだけの肉を持って帰った英雄はこの子達かい?」

 「凄いわね。猟師達でも半日であの量は無いわよ!」


 ハンナ村長だけじゃなく、息子のサムエルと嫁のララムも一緒に入って来た。

 サムエルは切った野菜と肉、乾燥出汁に調味料と、スープの材料が入った鍋を運んでいる。

 鍋をテーブルに置くと、竈に置いてある鉄桶(てっとう)を外して、持って来た鍋を竈に置いて中にお湯を注いだ。


 「調理の仕方はこの村方式で構わないわよね?」

 そう言って、ララムがオタマで鍋をかき回していく。


 「この村方式?」

 「都会だと、野菜なんかはクタクタに茹でちゃうとか、スープを一度捨てるとか、よく分からない調理をするんでしょ?

 面倒くさいから、うちはそんな事しないの。

 初めに全部洗って、スープの材料全部入れて茹でるだけ。

 この村では、野菜も新鮮採れたて、調味料も豊富だから、味は悪くないわよ。多分」


 「私、その方が好きー。

 都会式とか貴族式とかって、面倒臭いのに塩辛いだけで美味しくなくて、キライ」

 「ジェシカちゃんは良く解ってるわね。うちの子にならない?」

 「ダメー、私、父ちゃんの娘だから」

 ジェシカとララム、二人で笑い合った。



 外から戻って来たアルドレダが、豪華な食事ねー、と言いながら、パンをつまみ食いした。


 皆で大きな食卓を囲み食事を摂る。


 「あら…このスープ、サリーのより美味しい…」

 「ララム様、このスープの作り方を教えて下さいませ!」

 「サリーさん…でしたか…?

 教えますので、顔を離して頂けませんか?近すぎます…」

 「凄い…このスープ、塩だけじゃなくて、高い胡椒や味わったことのない調味料がふんだんに…美味しい…」

 「豆や魚を発酵させて作る物とか、海産物を一度煮出してから乾燥させて取り出した粉とか、色々と、魔女様や教皇猊下が送って下さるんだよ」

 「ちょっと!マリアンヌ!一人でパンを取りすぎよ!」

 「首都でもこのパンが食べたいですわ…」

 「結局、パン焼きの兄ちゃん、秘密のレシピ教えてくれなかった…。

 自分で試行錯誤してみろって…」

 「この狼の肉も美味しい…。獣臭くない。何で?」

 「一度煮出してから、特別なタレに漬け込んでおくんだ。

 氷室で数日漬け込むと、柔らかくて甘い肉になる」

 「きゃぁ!スープに虫が…!」

 「葉物に混じってたのね。気になるなら除いておいて。

 食べても害はないけどね」

 「味は良いのに…うぅ…」

 「虫が食べる葉は美味い葉だって言葉もあるのよ?マリアンヌ。

 それに仕事中だとキャンプに帰れず、仕方無く虫を食べる事もあるから、今の内に慣れておけば?」

 「う…お姉様が言うなら…。…やっぱり明日から頑張ります…」

 「虫も、慣れれば美味しいのだけれどね」

 「デミトリクスは、ちゃんと食事を摂っているのかしら…」

 「デミちゃんに手料理作ってあげるの? ここで習っていけば?」

 「賑やかな食卓だねぇ!」

 「かぁちゃん!ご馳走なんだから、少しは遠慮しろよ…」

 「ジェシカはいっぱい食べて肉を付けなさい!細すぎよ!」

 「姉ちゃん、ジェシカは今のサイズが丁度いいんだ。あまり肉を付け過ぎると仕事に支障をきたす」

 「父ちゃんは、少しダイエットしようか」

 「うぐ……明日から頑張る…」


 食卓に、騒がしく、けど賑やかな話し声が飛び交う。



 「ここは楽しいわ…私、父ちゃんと一緒に、ここでずっと暮らしたい…」

 騒がしい食卓の中、ジェシカは静かに食事の手を止め、オマリーの顔をじっと見た。


 オマリーは少し困った顔をして、首を振った。

 「そういうわけにもいかん。

 お嬢様の護衛と教皇猊下のお役に立つ事が、ワシの大切な仕事だからな。

 これが終わったら、エレノア様の所に帰らねばならん」


 ジェシカは、それは解ってるけど…と呟き、

 「…私にとっての『大切な仕事』ってなんだろう?」

 と、独り言ちた。


 すぐ横で話を聞いていたハンナが、不思議そうな顔で聞いた。

 「教皇の役に立つ事じゃないのかい?この村のモンは皆そうだよ?」

 「う〜ん…私、教皇って人に会った事無いのよ。

 会った事無い人の為って言われてもねぇ…」

 「でも、『笛』の仕事はしているのだろう?」


 ハンナの言葉を聞いてジェシカは、なんで私、『笛』の為に働いているのだろうと、考えこんだ。


 「教皇の為というより、父ちゃんとエレノア様と友達の為かしらね」

 「なら、友達の為に人生を捧げると良い。

 友の為に生きる…ワシがしたくても出来なかった事だ」

 オマリーが食事の手を止め、何かを思い出すかの様に天井を見つめながら話した。


 「父ちゃんの友達?」

 「ガーラント…お前の貴族の叔父だ。今のバルト家当主。

 ワシが引き取られた後、面倒を見てくれた義兄(にい)さんだ」

 「ああ…あの、ヒョロい子だね。

 アンタより弱っちいのに、アンタのお兄ちゃんをしようと頑張っていたっけね…」

 「姉ちゃんから見れば、皆ヒョロいだろう…」


 オマリーが幼い頃、バルト家に引き取られる前に、この村に来たバルト家当主と一緒にガーラントという名の息子がやって来たそうだ。

 初めて出来る弟に、兄らしいところを見せようと頑張っている姿が可愛らしかった、とハンナ村長は話した。


 「貴族の世界に放り込まれて、右も左も分からない事だらけだったワシを、一生懸命支えて助けてくれたんだ。

 義父(ちち)としては、義兄(あに)を助ける事を期待したのだろうけどな…。

 エレノア様の父上と教皇猊下からの頼みで、エレノア様に仕える事になったのだ」

 結局、ガーラント義兄上(あにうえ)には、何も恩返し出来ていないのだ…、と言って、両手を見つめた。


 オマリーの話を聞きながら考え込んだジェシカは、騒がしく食事を続ける皆を見回した。

 「そうね…クラウディアやルナメリア達の為…いえ…皆の為、人生を捧げるのも良いわよね」

 ジェシカが小声で呟く。


 それを、オマリーと反対側のジェシカの隣で聞いていたクラウディアが、ジェシカの方から目を逸らしたまま、

 「止めておきなさい。私にはついて来ない方がいいわ。

 貴女には明るい未来があるのだから」

 と、周りに聞こえない様に、小声で呟いた。


 「なら、私の明りでアンタの周りを明るくしてあげるわよ」

 そう言って、ジェシカはニカッと笑った。

 「ずるーい!私も一緒よ!」

 正面でこっそり聞いていたルーナも、一緒に笑った。


 クラウディアはため息をつきながら、

 「…バカなんだから」と呟いた。

 そっぽを向いていたが、少し嬉しそうだった。


 マリアンヌとアルドレダ、サムエル夫妻は、突然笑い出した二人を、キョトンとした顔で、見つめていた。

 話を聞いて、クラウディアの心情を視ていたヴァネッサは、一人で黙って考え込んでいた。




◆◆◆




 「それで、ドゥーム・フェンリルだったらしいね?」

 食事を片付けた後、ハンナ村長達も含めての対策会議となった。


 「ドゥーム・フェンリルかぁ…、問題だよなぁ…」

 サムエルが、ワインの注がれた厚手の硝子コップを揺らしながら、困ったな…、という顔をした。


 「グレンデルを素手で捻り潰す貴方達でも、厄介な相手なの?」

 アルドレダが尋ねる。

 「グレンデル程度とは比べ物にならない位に厄介なんだよ。

 色々な意味でな…」

 サムエルが愚痴った。


 サムエルが腕を組みながら説明した。

 オマリーが説明した様に、ドゥーム・フェンリルは力が強く、身体が硬く、頭が良い。

 人の手の入った場所は匂いで感知するから、設置式の罠には掛からない。

 人の言葉を、ある程度理解するから作戦も筒抜けになる。

 軍隊が『ドゥーム・フェンリル』を追い詰められない理由は、指揮官が誰かを見抜き、その者の会話を理解するから。

 軍隊の次の行動を予測して行動するから、作戦も効かない。

 それどころか複数体居ると、お互いに連携して相手を罠に嵌めたりする事もある。


 「うわぁ…1人…1匹軍隊じゃないの…それが2匹も…レクトスが見たものが全部ならだけど…下手すればそれ以上?」


 「そこも厄介なのだけれど…」と言って続けた。


 ドゥーム・フェンリルは、この村の『友好種族』なのだそうだ。


 「友好種族?」

 「豊穣の森に住む森の民や、デーメーテール様の魔獣達、そしてドゥーム・フェンリル…」

 サムエルは指折り数える。


 この村には敵対を禁じられている相手がいる。

 知能の高い種族同士、力の強い種族同士、敵対すると被害が大きくなり過ぎる。

 その為、お互いに手を出さない決まりがある。


 「そういえば、レクトスも同じような事を言ってたわね…。

 だからドゥーム・フェンリル達は、この村の人が巻き込まれないように、村の境界には入って来なかったのね…」


 「たとえ教皇猊下の命令でも、村人はドゥーム・フェンリルに手が出せない。つまり、…言い難いが、協力は出来ない」


 「構わん。元よりワシ1人に任された仕事だ。帝国出身の貴族のな」

 「父ちゃん1人ではやらせないって言ったじゃん!私もやるわよ!」

 「駄目だ!危険過ぎる!」「止めても行くからね!」

 二人の言い争いが始まった。


 ガタン!


 二人の争いを聞いていたハンナは突然立ち上がり、宣言した。


 「サムエル! お前が明日から村長やりな!」

 「は…?」


 サムエルは何事かと、目を丸くした。


 「アタシは村を出る。…取り敢えず、オマリーの所で世話になろうかね」


 「姉ちゃん、それは駄目だ!アンタはこの村の支えだ。

 サムエル坊やには荷が重い」

 ハンナの真意を理解したオマリーは慌てて止める。


 「でも、アンタら父娘だけじゃ戦力が足らんだろう?

 相手は最低2匹。アタシとアンタで1匹ずつ押さえて、その間にとどめを刺して貰わないと倒せない。

 アンタ1人だと、確実に死ぬよ」


 「それは…ワシの力をなめ過ぎだ! 腕は2本ある!」


 「アンタは…昔から馬鹿さ加減は変わらないね…」

 ハンナは呆れながらため息をついた。

 「どの道アンタ、ドゥーム・フェンリルを殺せないだろう?

 …誰かに止めを刺して貰わないと」

 オマリーは、ぐっ…、と唸って黙ってしまった。


 パン!と手を叩き、クラウディアが立ち上がった。


 「オマリー様が何と言おうと、勝率を上げるためにハンナさんの手伝いは必要です。

 取り敢えず、私達とオマリー様、ハンナさんを加えて退治する作戦を練りましょうか」

 クラウディアが宣言をした。



 

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