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神代の魔導具士 豊穣の女神  作者: 黒猫ミー助
ボガーダンの獣
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◆3-23 魔石の件と『獣』の正体

第三者視点




 クラウディアが、忘れるところだったわ、と言って、レクトスに尋ねた。


 「フィクス・ベネナータが巻き付かない木があると、ニグレドから聞いたのだけれど…?」

 『ああ…あの嫌な臭いのする木の事か…』

 そう言って、鼻先でその木を指し示した。


 クラウディア達から遠く離れた場所に、黒い蔦に巻き付かれていない木が立っていた。

 その木の周囲はポッカリと円形に、草も生えない剥き出しの土壌だけがあり、そこだけ空間ごと切り取られた様になっていた。


 「あれは…何?」

 『名前は知らぬ。ただ、生き物にとって凄まじい毒を持つ事だけは分かる。

 強過ぎる毒で、どの生き物も近寄らん。いつ生えたのかも分からん。

 我が主様の苗木には効かぬが、あれが生えるとその周囲には雑草も生えなくなる。

 近寄るな。目が潰れるらしいぞ』

 「結局、毒か…」

 『貴様が、魔人化か魔獣化でもしていれば、持ち帰れたろうがな。生身の人間なら近寄らないのが良かろう』

 「でも…フィクス・ベネナータが避ける毒なら、枯死剤に使えるかも?」

 『成程…毒も使いようか…。必要なら取るか?』

 「枯死剤を作る場所が用意出来たら、受け取れるように準備してからお願いするわ。

 今すぐ渡されても、保管が出来ないし保持するのも怖いわ」

 『分かった。その時になったら協力しよう』




 「魔木の枯死剤研究の施設は『笛』が用意してくれるとして、本来の目的である、私がデーメーテール様にお会いする最重要事項の件なのだけれど…。

 『笛』の仕事が終わらないと会ってくれない…とかは言わないわよね?」

 クラウディアは顎に指を当てながら、レクトスを上目遣いで見る。


 『我が主様がそんな狭量な訳があるまい。

 …待て。本来の目的はそこのクソガキ妖精が我がお嬢様に会う事…では無かったかの?

 そもそも、魔木を処理しないとニンゲンにはデーメーテール様の下まで行けまい?』

 「実は…私だけなら、すぐにでも黒の森を越えられる…かも知れない方法があるのよ」


 レクトスは怪訝な感情を言葉に乗せて尋ねた。

 『それは高濃度の魔素の中を何日も歩いて越える事が出来る…という意味か?お主一人で?』

 「そこは…ね。レクトス様のお背中をお借りして…」

 『断る!』

 「えー…ジェシカは背中に乗せて、私は駄目なの?」

 『仔リスの一匹程度、戯れに我の背に登るぐらいなら我慢も出来よう。

 だが、我が背中は主様の物。

 いくら似ていても、貴様を乗せて走る気はない!』


 「そうよ!駄目よ!

 そんな面白そうな所に一人で行こうなんて!」

 「抜け駆けは許さないわよ?…ん…仔リス?」

 ルーナとジェシカが揃って文句を言い出した。


 「それにパックは、私が一緒じゃないと行かないわよね?」

 話を聞いていたパックが、ルーナの服から飛び出した。

 「そーだ、そーだ、ボクはルーナと一緒じゃなきゃ行かないよ!」


 「この前はルーナ抜きで仕事したじゃないの…」

 「あれはルーナがどうしてもって頼んだからだ!ルーナが頼まないなら、離れないもん!

 僕が居ないと『お嬢様』とやらの魔素を覚えられないでしょ!

 魔石も探せないじゃん!」


 「うわぁ…面倒くさい妖精…」

 クラウディアは深く溜息をついた。

 「せっかく一番簡単な方法で行けると思ったのに…」


 『言い合いしている処悪いが、その件なのだがな…』

 レクトスが言い辛そうに口を開いた。

 『…お嬢様の件は半分解決してしまったのだ』


 「え…?…まさか…?」

 クラウディアは嫌な予感を感じながら聞いた。


 『察しの通り…お嬢様が部屋から出た…。

 そして、部屋に閉じ籠もっていた理由もお聞かせ下さった』


 クラウディアは絶望して、膝を付き顔を手で覆った。

 「せっかく…お嬢様を理由(だし)にして、デーメーテール様に近づく計画が…!」

 『…不遜な発言があった事は見逃そう…』


 「恩を売り付けて懐に入り込む作戦が!!」

 クラウディアが地面を叩く。

 『少しはオブラートに包んで話さんか…!』

 レクトスは溜息をついた。


 「クラウが本気で絶望してる…初めて見たかも…」

 「人を絶望させる事は多々あったけれど、あの娘が絶望させられる事は無かったからねぇ…」

 絶望して膝を着いているクラウディアを囲んで、ルーナとジェシカが好き勝手話している。


 「もういちど…」『うん…?何だ?』


 「もう一度チャンスを!!」

 いきなりクラウディアは立ち上がり、レクトスの首に絡みついた。


 『何をする!やめんか!』

 レクトスが首を振って暴れる。

 クラウディアは旗のように振り回されるが、全く手を離さない。


 「チャンスを下さい!お願いします。何でもしますから!」

 『分かったから離せ!』

 「チャンスをくれるの!?」

 『チャンスも何も…フィクス・ベネナータを枯らせば、主様も貴様に感謝するだろう。

 それに、そうすれば仲間達も一緒に主様の下まで来れるだろう?

 一石二鳥ではないか?』

 「クソゥ…やっぱりそれしか無いか…」


 『似ているのは顔と魔素だけだな…。

 貴様が暴れると主様のイメージに傷が付く…。

 もう少し…淑女然とした行動はとれんかの…?』

 レクトスは疲れ切った様に呟いた。



 二人の様子を呆れた目で見ていたジェシカが口を開いた。

 「ところで、引き籠もりお嬢様は何故引き籠もってたの?魔石の件は片付いたの?」

 『引き籠もり…貴様らは本当に無礼だな』

 「まぁ…散々皆を心配させた訳だし。嫌味くらいは許容してもらわないと」

 『………まぁ良い…。詳しくは話せないのだがな、アリスお嬢様は魔石を取り戻せない…取り戻さない理由があったのだ』


 アリスは、清廉魔石の行方を知っていた。

 デーメーテールにとっても貴重な品だとも知っていた。

 魔石の行方を言うと、デーメーテールは納得するかも知れないが、レクトス達が納得せずに取りに行ってしまうかも知れない。

 それがとても困る。

 今回、魔石を探せると公言したクラウディア達が森に入る予定だと聞いて、すぐ近くまで来ていると勘違いした。

 観念して部屋から出て来て、デーメーテールやレクトス達に事情を説明して謝罪したそうだ。

 そして、魔石を探さない様にお願いをした。


 「…全然解らないわ」

 『すまんが、理由を説明する権限を与えられておらん』

 「兎に角、魔石は取り戻さない事がお嬢様の希望って事?」

 『そういう事だ…結局、代替品を送り納品を待ってもらう事で話がついたので、魔石捜索は一旦中止だ。

 お嬢様の許可が出たら捜索を再開する予定ではあるがな』

 「となると、現在はフィクス・ベネナータを枯らす研究一本に絞るしかないわね」

 ジェシカが真っ黒な魔木を眺めながら話す。


 「枯死剤の研究なんて時間がかかるわ…本当は今すぐお会いしたいのに…」

 クラウディアが、ブツブツと文句を垂れていると、レクトスはため息をついて口を開いた。


 『…もし、貴様が自力で来て主様にお会いするなら、我々も歓迎するし、誰も止めんよ…。

 主様も、たとえフィクス・ベネナータを枯らす研究が道半ばでも、貴様に会う事は断るまい。

 何故か、貴様の事を気にしておった様子だったからな…』

 「私は魔女様と相思相愛なのね!」

 クラウディアは喜色満面にあふれ、飛び上がって喜んだ。


 「クラウが本気で喜んでいる…初めて見たかも…」

 「人を恐怖させる笑みを浮かべた事は多々あったけれど、あの娘が心底喜ぶ事は、あまり無かったからねぇ…。

 あそこまで喜ぶ姿は、アタシも初めて見たわ…」

 「あれが、本来のお姉様なの…?

 私にもあの表情を向けて下さらないかしら…」

 「クラウディアの表情と感情がピタリと合ってる。

 彼女が、こんなに本当の感情を表現したのは初めてだわ」



 「レクトス様、お待ち下さいませ。

 ご依頼をお受けする前に、ご相談がございます」

 突然、アルドレダが声を掛けた。


 「デーメーテール様のご依頼をお引き受けしたいのは山々なのですが…。

 まず先に、この近辺で問題となっている『獣』を何とかしないといけません。

 そうしないと、苗木や魔木の搬送に支障が出ますので。

 もし、レクトス様が……」


 そう言ってアルドレダは、『手伝ってくれないと、私達、魔女様の仕事に取り掛かれないよ? もし、獣に話がつけられるか、処理が出来るなら、私達の代わりに何とかしてくれないかな?』と、遠回しに頼んだ。


 クラウディアは、流石アビー、何でも利用する。と、褒めると、アルドレダはクラウディアのほっぺを抓った。


 『問題の獣?なんの事だ?』


 レクトスは知らなかった様なので、アルドレダが説明した。


 『ふむ…そう言えば、街へ行く時に時々見かけたな。

 ドゥーム・フェンリルの夫婦の事か』

 「知ってるの?」

 『遠くから見かけただけだ。

 ニンゲンを酷く憎んでいる様だったな。

 遠目でも、奴等が人間の集団を見た時の目の光が、酷く濁っていたのが判ったからな…。

 そうか、ニンゲンを襲っていたか…』


 クラウディアが理由は分かるかと聞いたが、知らない。話した事は無い。と答えた。


 「そういう訳で、もし、レクトス様やデーメーテール様に処理して貰えれば、デーメーテール様のご依頼をすぐにお引き受け出来るのですが…」


 『申し訳無いのだがな…、我らデーメーテール様の下僕(しもべ)と森の一員は、ドゥーム・フェンリルと敵対する訳にはいかんのだ。

 …そ奴等が我等の仲間に手を出さない限りはな』


 「…そうなのですか…」

 アルドレダは肩を落とした。

 『スマンな、昔からの掟なのだ』

 レクトスも、手助け出来ずに悪いなと、頭を下げた。


 「じゃあ、もし、私達がドゥーム・フェンリルの夫婦を殺したら、私達はデーメーテール様の敵になるの?」

 ジェシカが、疑問を口にすると、

 『…いや。お主等が彼等に襲われるから彼等を殺した…、なら、そ奴等が我等の仲間だったとしても憎んだりはせん。

 襲った以上、報復を覚悟するのは当然の事。自然の摂理だ』


 「森の一員であっても人間を襲ったなら、襲われた人間自身が報復する事は許可する…という姿勢なのね」

 『そうだな。…しかし、もしドゥーム・フェンリルの夫婦が人間を憎むに足る理由があって、殺しているならば…。

 理由がある以上、報復をするのも自然の摂理だ』


 …理由がある以上、報復するのも自然の摂理。

 その言葉を聞いた時に、クラウディアの目が暗く濁った。

 「そうよね…」

 クラウディアが低く呟いた。

 ヴァネッサはその声を聞いて、 以前クラウディアから感じたものと同じ、深い怒りと憎しみを感じ取り、震えた。



 『我々は、その夫婦に敵対する訳には行かぬが、主様の依頼が滞るのも困る。

 もし何か、我の手助けが必要なら出来るだけ協力しよう。

 その時はニグレドを呼ぶと良い』

 そう言って、レクトスは来た道を振り返った。


 「もう帰っちゃうの?」

 ルーナが寂しそうに言うと、

 「もう帰っていいよ〜」とパックが言う。

 ルーナがパックを捕まえて、再び服の中に仕舞った。


 『取り敢えずニグレドの頭では伝え切れない事は伝えた。

 魔木や我が主様の苗木、毒の木の受け渡しについては、そちらの問題が片付き、植物の薬剤を試せる研究施設が用意出来てからの話になるだろう。では、またな』


 そう言って、レクトスは風の様に去って行った。


 レクトスの後ろ姿を見ながら、獣の正体はドゥーム・フェンリルだったのか…とオマリーが呟いていた。




◆◆◆




 グレンデルの首元から魔石を取り出した後、一行は帰途についた。

 まだ昼前だったので、今から急いで村に戻ればパン焼き竈にパンが残っているかもしれない。

 皆、早く帰って美味しいパンに有り付きたいと、少し早足で進んだ。

 ジェシカだけ、オマリーの背中にくっついたままだったが、皆何も言わなかった。


 「父ちゃん、ドゥーム・フェンリルって、どういう獣か分かる?」

 急ぎ足で帰るオマリーの背中から、ジェシカの声が聞こえた。


 「うむ…村の者なら皆知ってるぞ…」と言って、顎髭を撫でながら説明した。


 この近隣だけに稀に出没する巨狼。

 力は熊より強く、速さは狼より速い。

 その上、知能も高く、簡単な人の言葉を理解する事も出来る。


 「そんな強い獣が出る地域で、村は大丈夫なのですか?」

 オマリーの通った足跡を辿りながら、ヴァネッサが疑問を口にする。

 「ドゥーム・フェンリルは頭が良いからな」


 ドゥーム・フェンリルは無駄な争いは好まない。

 知能が高く、人間の行動を理解出来るから、なおさら人間を襲わない。

 襲った際の報復の規模も理解出来るから。


 「それが、人間だけを襲う様になった…?」

 「らしいな…理由は分からんが…貴族の匂いがする者を襲う事から、貴族に酷い事をされたのかもしれん…」

 「やっぱり貴族はクソだわ」

 ジェシカがオマリーの背中でふんぞり返って言うと、

 「この場に貴族でない者が居ないのですけれど…」

 マリアンヌがボソッと呟いた。


 「父ちゃんは、『ボガーダンの獣』がドゥーム・フェンリルだと気付かなかったの?」

 「ああ…そもそも、ドゥーム・フェンリルは全身の毛が白か赤色なんだ。

 別名で、暁の神の使者と呼ばれている」


 今迄、報告にあった目撃情報は、『全身が真っ黒で、大きな熊の様な狼』というものだった。


 「ワシは奴等を直接見た事が無かったし、黒いドゥーム・フェンリルなんて、聞いた事も無かったからな」

 「変異種かしら?…出来れば生かして捕まえたいわね」

 アルドレダの知識欲が溢れ出ている様だ。


 「あれを生かして…って、殺すのさえ難しいのに…」

 マリアンヌが、馬車での事を思い出して震えた。


 「殺すにしろ捕まえるにしろ、問題は『どうやって』よね」

 クラウディアが呟くと、

 「銃が効かなかったからね…」

 と、ヴァネッサは銃弾が獣の毛に弾かれたのを思い出した。


 「そう言えば、クラウの銃は何故効いたの?

 そもそも何故魔道銃を使えるの?

 貴女、圧縮魔術式は使えないと言ってなかった?」

 ヴァネッサが思い出した事を次々に質問する。


 クラウディアとアルドレダは顔を見合わせ、アルドレダが説明した。


 「お姉様が…魔導具士…? 史上最年少の…」

 「魔道銃ではなくて、魔導銃…?」

 二人が驚いていると、

 「凄いでしょ!クラウは天才なんだよ」

 「何故ルーナが自慢するかな…?」


 黙って聞いていたクラウディアの耳が真っ赤になっていた。


 「珍しい、クラウが照れてる」

 後ろを振り向いたジェシカが、耳を赤くし顔を伏せて歩くクラウディアを見て、驚いた。


 「この頃、表情が出て来たよね。分かり易くなってきた」

 「魔素は相変わらず年寄りくさいけどねー」

 パックが茶々を入れる。

 「若造には分からないのよ…」

 クラウディアが呟いた。


 「勿論、クラウディアが魔導具士という事も、魔導銃の事も国家機密よ。漏らしたら消されるから、気をつけてね♪」

 アルドレダが、軽い調子で怖い事を言う。


 二人は口を両手で塞ぎ、何度も頷いた。




◆◆◆




 帰る途中で、血抜きが終わった狼達の身体をオマリーが回収した。

 狼の肉を担ぐ為、ジェシカは渋々背中から降りた。


 「父ちゃん、この肉と毛皮はどうするの?」

 「村では、獲った肉の半分は村に納める事になってる。

 代わりに野菜かパンか金を貰えるぞ」


 残りの肉は加工出来る村人に渡して、腸詰めや燻製加工をしてもらうか、料理屋に持ち込むか、自分で調理する。

 毛皮は自由。

 毛皮職人に渡せば、なめし皮加工までやってくれる。

 どれも、肉、毛皮、若しくは調味料等が代金の代わりになる。


 「面倒臭ければ、姉ちゃんに全部売る手もある。

 金に替えてくれるぞ。手数料は取られるがな」


 「あ!待って。成績の為に持ち帰らなくて良いの?

 一応、授業の一環って事だよね?」

 「成績は私の申告だけで大丈夫よ。

 肉なんて、そのまま持ち帰られたら腐っちゃうわよ」

 「そうなの?ならハンナさんに任せる。良いよね皆?」


 皆が頷いたので、村に着いた後でオマリーに持って行って貰う事にした。


 「グレンデルの討伐と魔石3個分に狼5匹だと、成績としては何位くらいなのですか?」

 ヴァネッサがアルドレダに尋ねる。

 「今回の遠征組では、間違いなく最上位だと思うわ。

 そもそも、グレンデルを倒せる子供なんて、あんた達くらいよ。

 あ…ただし、グレンデルの討伐数と魔石数は2個としてカウントしますからね。

 一体はオマリー様が倒したのだから」

 「けち!」クラウディアが悪態をついた。


 「…デミトリクスは、私達より凄いの獲ってきますか?」

 「それは無いわ。

 彼らの行く場所に熊も魔獣も出ないから。

 鹿か猪、危険なのは狼くらいよ。

 デミトリクスにも、本気を出さない様に言ってあるし」

 「…やっぱり、デミも力を隠しているんですね。クラウみたいに…」

 「あ…」


 クラウディアが、相変わらず間抜けなんだから…、と言う目でアルドレダを見る。

 「ででで…でも、ヴァネッサも『笛』の一員なら、デミトリクスの力も知っておいた方が良いじゃない?」


 クラウディアがため息をつきながら、デミトリクスの能力を説明した。


 「ギフテッド…?」

 「デミトリクス様の感情が薄いと感じたのは、それが理由だったのですね」

 「失感情症…って、まさか、私の事は何とも思ってないの…?」

 ヴァネッサが泣きそうな顔でクラウディアを見た。


 「それは大丈夫よ。私が確認したから」

 ジェシカが横から話し掛けた。


 「大丈夫…?」

 「デミに聞いたら、貴女の事が好きみたいよ。

 恋愛感情は…まだ良く解ってないみたいだけど、大切で失いたくないって言ってたわ」

 …クラウディアの事程では無かった様だけれど…とまでは言わなかった。


 それを聞いて、ヴァネッサは胸を撫で下ろした。


 「デミちゃんは失感情症だから、自分の抱いている感情がどういう物かを解ってないだけよ。

 理解していないだけ。感情を持ってないわけじゃ無いの。

 悲しければストレスも感じるし、そのせいで身体も壊すわ」


 クラウディアは、正確には『感情の難自覚症』と言うべきかしらね…、と言った。


 「私達が孤児になった時は、流石のあの子でも酷かったわ。見ているのも辛かった。

 あの子は、なんで自分の身体が変調をきたしているのかを…解ってはいなかったみたいだけれど…。

 毎日吐き戻して、どんどん痩せていって…本当に死ぬかと思ったの…」

 昔を思い出しながら、辛そうに話す。


 「あの子が『大切』だと言うなら、それは普通の人にとって『愛している』に相当する言葉よ…」

 と、少し悲しそうに呟いた。


 ヴァネッサは、クラウディアの中の複雑な気持ちを感じ取り、静かに頷くだけで何も言えなくなった。



  

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