◆1-7 至高の宝石か?悪魔の爆弾か?
ようやくデミちゃん出番
キャラ設定のせいで出番が少ないったら…
でもエレノア視点…
「何とか成功したみたいね」
私は胸をなで下ろした。
向こうから帰ってくる二人が笑い合っている様子を見て、今回の作戦で一番難しい所は無事に終わったと確信した。
「お姉ちゃんは凄いから…失敗しません」
「確かにそうね…」と言って、ふと、
『私が心配しているのはどれだろう?今作戦の失敗?二人を失う事で、これからの計画の支障?二人の命?』
と、考え込んでしまった。
二人が帰ってきて報告が済むと、早速クラウディアはデミトリクスと狙撃の準備を始めた。
デミトリクスの身長程もある長い魔導銃を取り出し、地面にあらかじめ打ち込んであった支持棒に据付ける。
銃と支持棒の間には、水平器付きの巨大な円形分度器が挟まっていた。
普通の分度器と違って目盛りが細いのよね…これ。
普通の円形分度器は360個の目盛のついた小さい金属板だが、クラウディア特製分度器はその十数倍の目盛りが付いている。そして、分度器の上には銃を固定して目盛り通りに動かせる金具が取り付けてある。長距離を正確に射撃する為に。
普通の銃では全く必要のない物だ。
何故なら、火薬銃や魔道銃は真っ直ぐ飛ばない。
腕の良い者でも50メートルも離れれば全く当たらなくなる。むしろ、猟師の弓の方が遠くまで飛ぶし、的にも当たる。
クラウディアは魔導銃を創り出した。今迄の魔道銃とは全く違う機構だった。
今迄の魔道銃は弾を込めて、その手前の爆発室に圧縮魔術により密度を増した魔素を溜め、それを一気に解放する事で鉛の弾を発射する。
火薬銃も基本は同じだ。火薬を詰める速度と魔素を詰める速度、どちらが早いかの違い程度だ。魔道具の延長でしかない。
クラウディアから魔導銃の説明を聞いた時は戦慄したのを覚えているわ…
空気抵抗を減らす為に円錐形の弾を創り出した。
真っ直ぐ飛ぶように銃身の内側に螺旋状の溝を彫った。
そこまでは、まだ工夫の範囲内だっただろう。
魔導具とは呼べない。
だが彼女は圧縮魔術を使えない彼女自身の力で魔道銃を撃ちたかったらしい。
彼女は人類初、圧縮魔術式を発動する為の魔導回路を創ってしまった。密閉する容器と魔石は必要だが、圧縮魔術を使える者より高密度で高性能だった。
試作品のクラウディア用の小型魔導銃で、300メートル以上離れた的を正確に撃ち抜いた。
彼女は更に改造してデミトリクス用の魔導銃を創り上げた。理論上2000メートル迄飛ぶそうだ。何処まで行く気だ?この怪物姉弟…
クラウディアが国家魔導具士の資格を取った後、最初の頃は私の考えたトゥーバアポストロ用の仕事道具を造らせていたけれど…
2年…たった2年で、私も思いつかないような新しい武器をどんどん創り出す様になった。
手綱をしっかり握らないと…この爆弾娘は、いつか世界を崩壊させる様な武器を創り出しそう…
普通の娘に戻す様な再教育を考えた方がいいのかな…
◆◆◆
「ギャウ」
崖の上の方から獣の鳴き声がした。ノーラが向かった方からだ…嫌な予想をしてしまう。
暫く凝視していると声の聞こえた辺りから、小さく微かな光がグルグルと回るのが見えた。
良かった…
私は、デミトリクス達の準備を確認してから、
「全員!防毒装備!もし、体が痺れたり気持ち悪くなったらすぐに報告して!」と言った。
皆が一斉に肌を覆いマスクで顔を隠し、密閉眼鏡を装着した。
その様子を確認した後、ノーラに合図を返した。
暫く砦の様子を見ていたら、城壁の上の連中が酔っ払うように倒れていった。
2つ目の作戦が上手く行ったのを確認してから、すぐにデミトリクスに指示をした。ここからは時間との戦いだから。
デミトリクスが腹這いになりながら銃を構える。
クラウディアがその横に立ち、双眼鏡で目標を確認。
クラウディアの指示で、デミトリクスが銃の調整をしていく。
私は耳栓をしながら双眼鏡で目標を見る。
顔の特徴からハダルとサジ本人だと確認した。予定通りだ。
全員が耳栓を装着し、クラウディアから準備が整ったと手で合図があり、私が射殺許可の合図を返した。
『ドゴン!!!』
地の底から発した雷鳴が空に拡がっていく。
空気に円形の膜が見えた。
双眼鏡を覗くと、部屋の窓は全て吹き飛び、ハダルの居た場所の向こうの壁が崩れて、赤い染料が飛び散っていた。
サジが衝撃で吹き飛ばされたらしく、部屋の隅に倒れていた。
クラウディアとデミトリクスは耳栓を外して、再調整をしていた。私も外して、
「30秒以内に2発目!行けるか!?」と聞くと、
「問題ありません…」と、デミトリクスが魔石に自分の魔素を充填しながら答えた。
その間に、クラウディアが弾道計算をやり直していた。
「デミ!右に5ミル修整!」と、指示を出してから耳栓をする。
「了解」と言いながら、角度調整と再装填を済ませて耳栓をはめ直す。
私も耳栓をし直し、手で射撃合図を出す。
『ドゴン!!!』
先程と同じ重低音が響き、空気の膜を突き破った。
すぐに双眼鏡を覗き込む。
先程サジが倒れていた場所は赤一色となり、部屋が崩壊していた。
…肉片は瓦礫の下か…
あまりの威力に私は、少しの恐怖と強い興奮を感じた。
◆◆◆
装備を外して、銃を冷ましているデミトリクスを横目に、クラウディアに次の指示を出す。
クラウディアは頷き、次の魔導具を袋から取り出した。
それは、複数のスイッチとツマミが付いている、縦横20センチくらいの大きさの金属製の箱と、設置する土台だった。
まず、土台の脚を地面に挿して、垂直になる様に設置した。
そして、箱を土台の上に固定した後、箱の上の穴に細長い金属棒を突き刺した。その棒の上に僅かに細い棒を繋げて、更に上に高く延ばした。
その作業が終ると、箱に付いたツマミを慎重に回して、何かを調整していた。
以前、彼女がこの道具は、「特定の魔素の波に合わせて云々…」と説明していた。簡単に要約してもらったら、波形魔術式を魔導具で再現してみたと言った。自分の魔力で出せない出力の波形魔術を使いたかったからだそうだ。
…圧縮魔術式だけでなく波形魔術式も魔導具で再現したと聞いた時は、目の前が真っ暗になったわ…
彼女は、四角い箱の上に取り付けられた棒から出る魔素の波を、自身の『能力』で確認しながらツマミを回す。そして、スイッチを入れると…
「「「ドーン!!!」」」
凄まじい地響きがして地面が揺れた。
砦から5つの大きな火柱が上がり、砦の瓦礫が空高く舞った。
双眼鏡を覗くと、中庭から高く伸びていた中央棟の尖塔が崩れ落ちており、建物内にいた兵士達の悲鳴と怒号が響いた。
ジェシカが横で、小さくガッツポーズをしている…
その花火を合図に、今度は南門の方から大きな爆発音が響いた。
オマリーも上手くやってるわね。
その後、続けて2回目、3回目と爆発が起こり、南門の破片が中庭側に飛び込んできた。格子戸の太い丸太や、門の補強用金具が空高く飛んでいく。
ヘルメスの軍隊から歓声が聞こえた。
軍隊はしばらくその場に留まってから、徐ろに数人の歩兵が様子を見に行く。
その歩兵達からの報告を聞いてから、騎馬隊と重装隊が南門へ向けて進軍を開始した。
そこ迄を見て、ようやく仕事の終わりを確信した。
…ふぅ……やっとお酒が呑める!
◆◆◆
ノーラも無事に帰って来た。
魔獣を解体した時の返り血で、手が真っ赤になっていた。
片手に魔導具、もう片手に首の無い魔獣を持ち帰って来たときは、皆、引いていた。…ジェシカだけはお腹を鳴らしていたわね…
結構大きいけれど、血塗れになった魔石をお土産として渡されたわ…
お姉ちゃんのお土産のセンスって、相変わらずヒドイ…
皆、緊張が解けたらしく、笑いながら後片付けをしている。
デミトリクスだけは無表情のまま、淡々と作業をしている。
彼の横顔を見ながら、私は先程の射撃を思い出した。
…さっきの銃の威力…凄かったわ…
魔導銃は確かに凄いが、あれはあくまで『正確な射撃』を行う為の物で、威力は魔石に込められた魔素の質と量で決まる。
同じ魔導銃を使用しても、魔素が少ないと同じ威力は出ない。
あの時、デミトリクスは10秒ちょっとで魔石を満タンにして、あの威力の射撃をした。言い換えれば、彼は同じ時間であの爆発力を持つ圧縮魔術を使えると言うことだ。しかも、全く疲れた様子はない。
ギフテッドとは凄まじいものね…
この世には『ギフテッド』と呼ばれる人がいる。
彼ら彼女らは『何か』を引き替えに『膨大な魔力』を持っている。女神様に好かれた者達と言われ大切に扱われる。
ただ、引き替える『何か』のせいで、本人達は不便や苦痛を味わっている。
デミトリクスは『失感情症』だ。クラウディアは、
「あの子は、怒り、哀しみ、喜びが理解出来ません。だから表情に出す方法を知りません。だからといって、怒り、哀しみ、喜びを感じないわけでは無いのです。
心の中では、怒りや哀しみでストレスを感じます。表情に出ないから、理解出来ないからといって、平気なわけではありません。心は傷付いていくのです」と言っていた。
本で『無痛症』という人がいると読んだ事がある。
『痛みを感じない、理解出来ない、表情に出さない。だからといって平気なわけでは無く、血が流れれば死んでしまう』それと同じ様な感じなのだろう。
クラウディアは弟をギフテッドと言ったが、恐らく彼女もギフテッドだろう。
一般的に言われている物とは真逆の…
12歳前迄に数々の魔導具を発明し、短時間で弾道計算をこなし、他者の魔術を一度聞けば一瞬でその原理を理解する。
『感情』を引き替えに『膨大な魔力』を持つ弟
『膨大な魔力』を引き替えに『悪魔的知能』を持つ姉
このままティーバアポストロで仕事させるのはマズイ気がする。普通の生活を経験させないと危険な予感…
学校に行かせる?丁度12歳だし。王国の貴族籍も持たせてあるし。弟は11歳だったか?入学適齢だわ。
もう一人の天才娘もついでに放り込んで、少し親離れさせよう。そうしよう。
…でもそれだとルーナが面倒くさくなる…う〜ん…
そういえば、聖教学校サンクタム・レリジオなら10歳未満の貴族の子供用のプライマリーがあったっけ。籍はそこに置いたまま、権力使って同じクラスに放り込めば文句言わないだろう。知識は問題無いだろうから、勉強で困る事も無いだろうし。
クラウディアもジェシカも居ないとルーナが教会を半壊させる未来が見える。教会の為に、学校には尊い犠牲になってもらおう。
…学校が半壊したら…実父に責任を取らせればいいか。
危険なギフテッド三人を天才娘に押し付けて、私は少し楽をしたい。金と権力と暴力を使って4人共ねじ込もう。
しかし…高位貴族出の三人が超問題児で平民出の孤児が一番まともってのは皮肉ね。
ジェシカには悪いけど、私は逃げよう。
エレノア司教
デミトリクス