◆3-14 調査開始!…と意気込んでみたけど…
クラウディア視点
「おはようございます!お嬢様!」
寝ているところを、いきなりマリアンヌに布団を剥がされた…
「いったい何事…?お嬢様…?」
「御主人様の方が良かったですか?」
可愛らしく首を傾げながら聞いてくる。
「貴女…侍女も奴隷もいらないってば…」
「じゃあ、お姉様で!」
か…可愛い妹…いやいやいや!
私にはデミちゃんが居るの!
私の様子を見たマリアンヌは、ニヤリと笑った。
「お姉様…だーい好き…」
ぶっ!ゴホッ!ゴホッ!咽た…
「お姉様、可愛い!」
「アンタねー!」
私が枕を投げつけると、マリアンヌは笑いながら部屋の外へ逃げていった。
◆◆◆
「朝から賑やかね」
朝日の差し込む井戸部屋で、井戸から水を汲んで顔を洗いながら、ジェシカが笑っている。
「良いじゃない、妹なんて。手懐ければ裏切らないんじゃない?」
「他人事だと思って…」
「そうですわ。手懐けて下さいませ。私はお姉様を裏切りませんわ」
「ずっと付いてくるのよ…」
ジェシカは笑いながら、貴女は小さい子に弱いからね〜、と言って調理場へ行ってしまった。
「そう言えば、お姉様が我が家を救って下さった理由がルナメリア様だったそうですわね。
ルナメリア様に取り入れば、お姉様は逆らえない…?」
「それをするとサリーに殺されるわよ」
マリアンヌはサリーの目を思い出して、身体を震わせた。
「あれが庇護者の目、ですの?」
「いいえ、狂信者の目よ…あ…」
「お嬢様に手を出したら…すこぉし痛いかもよ…?」
いつの間にかマリアンヌの後ろに立っていたサリーが、左手でマリアンヌの顎を抑え、右手の鉄串を彼女の目の前に掲げた。
「ルナメリア 様ハ サリー 様ノ モノデスワ…」
マリアンヌが冷や汗をかきながら、言葉を絞り出した。
「…分かれば良いのよ。横取りは駄目よ」
サリーはマリアンヌの耳元に口を近づけて囁いた。
サリーが部屋を出ていった後も、マリアンヌは固まったままだった。
「ルーナの名前を出すと、どこに居ても飛んでくるわよ。気を付けなさいね」
マリアンヌは無言でコクコクと頷いた。
◆◆◆
「何?このパン…フワフワ!」
ルーナがびっくりして、パンを揉んでいた。
「びっくりでしょ?」と言って、ジェシカが朝の出来事を話し始めた。
昨夜捏ねて、ワイン酵母を加えておいた生地を持ってパン窯へ行ったら、こんな生地じゃ駄目だ!これを食え!って言って渡されたそうだ。
「ワイン酵母使っても、ここまでフワフワにはならないわよね…?」と、私が聞くと、
「以前発酵させておいた生地の一部を取っておいて加えるとかなんとか…言ってたわ。具体的な方法は企業秘密だって」と答えた。
成る程、そういう方法もあるのか…黴そうで怖いけど…。氷室でもあるのかしら?
…冷蔵庫だっけ?作ろうかしら…売れるかな?
お金を支払おうとしたら、お前はオマリーの娘だろう?なら、俺達の娘だ。金なんて取れるか。と、言われた。
なので、代わりに塩の小袋を置いてきた。
パン作りに使うから喜ばれたそうだ。
「おかげで得したわ。流石お父ちゃん!」
ふわふわパンと、首都から送ってもらったワインで軽く朝食を済ませて、今後の方針を話し合った。
ヴァネッサもマリアンヌも『笛』の事を隠さずに話せるので楽になった。
「必要な情報が足りないわ。獣に襲われた人の特徴と、何故オマリー様は襲われないのか、この2つに絞って情報を集めましょうか」
私がそう言うと、ジェシカがすぐに手を挙げて、
「私、父ちゃん担当!久しぶりに父ちゃんとデートするんだ!」
皆は呆れて、ジェシカに任せる。と言った。
「じゃあ、残りは二手に別れて情報収集しましょうか…」
私がそう言うと、今度はマリアンヌが手を挙げて、
「私がお姉様と組みますわ。お姉様のお世話はお任せ下さいませ!」
ルーナとヴァネッサは苦笑いして、マリアンヌに任せる。と言った。
おい、こら!
私の意見は無しか?
◆◆◆
村に出ると、すれ違う村人達皆に声を掛けられた。
しかし、呼ばれる名前は『オマリーの娘の友達』だった。
オマリー神父のおかげで、距離が近くて情報を得やすいのはいいけれど…。
知らない人に話し掛けられる度に、マリアンヌが腕にしがみついて来るのは何とかならないものかな…
「アンタ…人が怖いなら家に閉じ籠もって居ても良いのよ?」
「そんな訳には参りません。私はお姉様の助手として、頑張らなければ…!」
「なら、しがみついてないで情報を集めて来たら?」
「お姉様、酷いですわ…私の体質を知っていながら…」
泣き真似を始めた。
誰か、何とかして…
村人皆は、仲のいい姉妹だねぇ、と微笑んで行く。
それに気を良くしたマリアンヌは、私が村人と話す度に、お姉様、お姉様と連呼する。
五月蝿い…
デミちゃんになら、いくら呼ばれても構わないのに。
デミちゃんに腕にしがみつかれて、お姉ちゃん…と上目遣いに呼ばれるのを想像してたら、鼻血が出た。
小さい頃は愛らしかった…
今はカッコ可愛いけれど。
鼻血を出しながら下らないことを考えていたら、マリアンヌに心配されてしまった…。
上目遣いに、私の目をじっと見つめる。
やめて、綺麗な目で私を見ないで…
マリアンヌの事を直視出来なくて目を逸したら…泣かれた。
貴女のせいじゃないから!と、道の真ん中で言い訳する羽目になった。
鼻血の言い訳に嘘の持病を持ち出したら、本気で心配されてしまった。
ごめんなさい。全て汚い私が悪いのです…
謝った。心の中だけで。
子供は苦手だわ…
◆◆◆
お昼になったので、皆は一度家に集合した。
食事をしながら集めた情報を話し合う。
「と、言うわけで、父ちゃんが色々な場所を案内してくれて、楽しかったです!」
皆が頭を抱えた。
この…ポンコツ…本当に役に立たない…。
「何故オマリー様が襲われないか、心当たりを聞いて来て…と、理解出来てなかった…?」
ジェシカが舌を出して、ゴメーンと言う。
な…殴りたい…。
「そういうクラウは、何か情報を手に入れたの?」
「うっ…」
五月蝿いマリアンヌへの応対と、鼻血を出してマリアンヌに言い訳していた事と、泣き出したマリアンヌを慰めるのに時間を取られたせいで…等と、言い訳をするわけにもいかず、大した情報は無かったわ…と言葉を濁した。
何かを察したルーナとヴァネッサが、生暖かい目で私を見る。
ヴァネッサは見えてないだろうけど、視られている気がする。
「私達は、ちゃんと仕事したわよ」
ルーナが胸を張って発表した。
襲われた人達は、主に、騎馬隊、騎士団、商人の護衛役等、
逆に襲われなかった人達は、歩兵兵士や馬車に乗った旅商人等。
「商人の護衛役は、当然馬に乗ってたのよね?」
「ええ、そのようですわ」
サリーが答えた。
「逆に馬に乗ってない者は襲われなかった…でも馬車に説明がつかないわ」
「馬車を、人が乗っている物ではなく、馬が引いているただの箱だと認識している…とか?」
ジェシカがポンコツから戻ってきた。
「でもそれだと、ここに来る時に私達が襲われた説明がつかないわ。それに御者は居たのでしょう?」
ルーナが矛盾を指摘した。
「それに、旅商人の馬車は幌馬車だったそうです。外から中に人が居るのが見えたそうですわ」
サリーが補足した。
…旅商人の馬車は襲わず、私達の馬車は襲った。
騎馬隊は襲って、オマリー神父は馬に乗っても襲わない…。
ここの村人達は襲われた事がない。
襲われるのは他の地域から来た者ばかり…。
でも、歩兵兵士を襲っていない。
ただの気まぐれや、偶然の可能性も高いけれど。
「貴族と平民を区別しているとか?」
ヴァネッサが呟いた。
確かに…襲われているのは、騎士団や騎馬隊等の貴族階級の者ばかり。護衛役が貴族か平民かは分からないが。
兵士等の平民は、襲われていない…
「でも、集めた情報の中には、馬に乗って旅していた貴族には見向きもしなかった…っていう情報もあったわよ。
逆に田舎の商人が、帝国での取引の帰りに襲われて、平民の護衛役が犠牲になったという報告もあったわ」
…ますます、襲う基準がわからないわ…
…うん?気になる事が…
「襲われた商人は、帰りに襲われたのよね?行きは?」
「うん?…聞くの忘れたけど、行きに襲われなかったから商取引出来たんじゃないかしら?」
「何となくだけれど、その商人が気になるわ。
午後は、その商人の情報を集めましょう」
ルーナ達が、分かった、と言って頷いた。




