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神代の魔導具士 豊穣の女神  作者: 黒猫ミー助
ボガーダンの獣
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◆3-13 マリアンヌの覚悟?

第三者視点




 コンコン…誰かが扉を叩いた。


 クラウディアが能力で外を探査した後に、扉の鍵を外した。


 扉の外には、アルドレダとマリアンヌが立っていた。


 「どうかしたの?」

 クラウディアがアルドレダに尋ねた。


 「マリアンヌに聞いて…」と言って、疲れた顔をした。


 どういう意味だろう、とマリアンヌを見ると、目をキラキラさせながら、「やっぱり、貴女達は特別だったのね!」と言って、部屋に入って来た。


 アルドレダ曰く、

 ヴァネッサと同じ様に、クラウディア達やアルドレダに秘密があると思った彼女は、ジェシカやルーナを質問攻めにしていた。

 アルドレダはどうなる事かと、扉の外で観察していたらしい。

 そこにクラウディアの笑い声が聞こえたので、ジェシカ達は、これ幸いとマリアンヌから逃げ出して、アルドレダに押し付けて行った。


 アルドレダは、クラウディア達は偉い人の部下で、聖教国の為に他の生徒達には秘密で働いている…と話した。


 嘘ではない。


 それを聞いたマリアンヌは、自分もクラウディア達の役に立ちたい!、と言って、言う事を聞かなくなったらしい…


 ヴァネッサが、私の時とは随分と対応が違くない?、と呟いた。


 アルドレダも『笛』については、どこまで話せば良いか決めかねているらしく、クラウディアに丸投げしに来た…そうだ。


 「アビー…アンタいい大人なんだから、年下に意見を求めるの、止めなさいよ…」


 「フレイの方が頭良いし、マリアンヌとは友達でしょ。

 使えるものは年下年上、身分も関係なく利用するのが私の信条よ。

 ヴァネッサに関してはヘルメスが関係している以上、どちらに転ぶかが私達にとっての重要問題だったけれど、マリアンヌに関しては…扱いに困ってるの。王国の娘だしね…」


 王国の娘と聞いて、マリアンヌは「クラウディアも私と同じ王国のヨーク家の娘でしょ?」と尋ねた。


 「ヨーク家は事情を知っているから…、ブラウ家は…ねぇ…」

 クラウディアが言葉を濁す。


 アルドレダが、名案を思いついた、と言いながら手を合わせた。

 「私達の『仲間』にする訳にはいかないけれど、貴女の部下にすれば良いんじゃないの?」

 そう言って、クラウディアを見た。


 「丸投げ!?酷い!」

 クラウディアが珍しく慌てた声で応えた。


 「貴女は生まれも育ちも王国だし、身分も上。

 先日の恩をネタにすればブラウ家には口止めも可能でしょ。

 国王だって貴女には文句つけられないし。

 適任じゃない?」


 教皇猊下もクラウディアを信頼しているし、貴女も『私達』を裏切らないし。と続けた。


 クラウディアは呆れた顔でため息をついた。


 「仮に私の部下にしたとしても、秘密はどうやって守らせるの?

 もし、マリアンヌやヴァネッサが口を滑らせたらセルペンスが出てくるわよ。

 ヴァネッサは不審死や行方不明で片付けるでしょうけれど…。

 マリアンヌは始末すると国際問題になるじゃないの…」


 「セルペンス…?処刑人まで居るの…?」

 ヴァネッサの青い顔が白くなり、気持ち悪そうにベッドに倒れ込んだ。

 ルーナがヨシヨシと、頭を撫でている。


 「そこは以前の様に、エレノアの部下のサラメイアと同じ様な立場を与えて…かな?

 重要な情報は一切知らせないで、任務だけ与える…とかどう?」


 「提案がフワフワなんだけど?」

 「そこら辺は頭の良い人が考える方が良いじゃない?」

 「アンタ、教師でしょうが…。

 大体、マクスウェルはどうするのよ?

 妹が危険な仕事に手を出したら、怒って反対するでしょうよ?」


 言い争っていると、マリアンヌが、待って!と、言って割り込んで来た。

 「私だけ仲間外れは嫌よ。お兄様に知られたくないなら、知られない様にする自信はあるわ。

 クラウディアの部下でも侍女でも奴隷でも構わないの。

 家が大変な時に何も出来ない上、知らない間に助けて貰った恩を返したい!

 お願い!私も役に立ちたいの!」

 そう言いながら、クラウディアの両手を握って懇願してきた。


 「うっ…部下も侍女も奴隷も要らない…」

 クラウディアは、どういう顔をしたら良いのか分からなくて、しどろもどろになりながら顔を背けた。


 「そこまで言うなら裏切らないでしょ。諦めて部下にでも愛人にでもしなさいな」

 アルドレダは、助かった、という感じで押し付けた。


 「情報を漏らしたら殺されるわよ?」

 「構わないわ」

 「裏切ったら、家族もろとも消されるわよ…」

 「構わないわ。お兄様の命も捧げますわ!」

 「おい、こら…」


 クラウディアは諦めてため息をついた。


 「マリアンヌの立場はサラメイアと同じになるとして…許可は下りるの…?」

 クラウディアはアルドレダを見ながら聞いた。


 「大丈夫じゃないかしら?

 許可の可否に関係なく、情報を漏らせば始末するだけだし。

 とりあえずは重要な情報を与えずに、今回の依頼を達成してから上に判断を仰ぎましょうか」


 「私!貴女の役に立ってみせるわ!そして、クラウディアの愛人になるの!」

 「そんなもの要らん!」

 「冗談よ」


 クラウディアが疲れた様に膝をついた。


 「この娘を手玉にとるなんて…貴女、見込みがあるわよ」

 ジェシカが褒めると、マリアンヌは嬉しそうに笑った。




◆◆◆




 「それで、依頼は?今日見たアレよね」

 クラウディアがアルドレダに尋ねた。


 アルドレダは頷きながら解説した。


 数年前からこの村を中心に、巨大な黒犬の様なものが現れて人を襲う。

 この地方の名前をとって『ボガーダンの獣』と呼ばれている。


 襲われたのは主に、軍の演習兵、貴族の遣い、馬車の護衛役等の『馬に乗った者』ばかりで、『馬車に乗った者』は、ほとんど襲われていなかった。

 泥炭の輸送馬車や旅商人の馬車は勿論無事。

 オマリーも馬車に乗ってここまで来たそうだ。


 ボガーダンの獣はおかしな特徴があって、普通の野犬や狼と違い、馬を襲わない。

 人間のみを噛み殺す。

 そして、この村には近づかず、この村の住人も襲わない。


 湿地が苦手なのか、泥炭の臭いが嫌いなのか…。



 何度か訴えが届き、故ミハウ=アントン東方区枢機卿も、騎士団や私設軍を派遣した事があった。

 しかし帰ってきたのは、死体を乗せた数頭の軍馬だけだった。


 追加の派兵を検討している時に、『ベヘモト襲撃事件』が起こり、東方教会区自体が無くなり、この件は有耶無耶(うやむや)になってしまっていた。


 一時は、ボガーダンの獣とベヘモトは同じ魔獣なんだ…とか、ボガーダンの獣に手を出すとベヘモトが襲ってくる…なんて噂も囁かれた。

 ボガーダンの獣には手を出すな…。どこに被害が飛んでくるか分からない…と言われて、周辺の領主も、被害地域には近付かない様にしていた。


 どうしても東の帝国の荷物を輸送しなければならない時は、数週間余分に時間をかけて南側の国を経由して、遠回りで荷運びをした。

 若しくは、黒の森の北周りで運ぶ街道もあったが、届け先が帝国の南方の都市だった場合は、下手をすると南国経由より時間がかかった。


 『馬車は襲われない』とは言われていても、貴重品を運ぶ馬車に護衛役をつけない訳にはいかない。

 馬車の外に居た護衛役は襲われたし、護衛役が死ねば遺族に支払う保証額で商会が潰れる事もある。

 護衛役が騎士ではなく兵士なら保証額は安く済むが、評判が広まれば結局は商会の名が傷付き、立ち行かなくなる。


 仕方無く、万が一の事態を避けたい商会は、利益を食い潰してでも遠回りで品を届けた。

 届けなければ今迄の信用と取引先を失うから。


 この道が赤字街道となっていた商会や、通行料を取れない地方領主が、「流石に何とかしてくれないと、家が保たない」と、議会と教皇に泣きついた。

 


 実は、オマリーはひと月程前に依頼を受けて、この村に来ていた。


 「なんか、オマリー英雄化計画です…とか、変な事言ってたわね」


 しかし、討伐が出来なかった。

 相手が強かったからという訳では無い。


 オマリーの怪力なら大抵の獣は殺せる。

 過去には、巨大熊の頭を素手で捻って殺した事がある。

 筋肉も非常に硬く、牛の突撃を身体で弾いた事がある。牛は首の骨を折って死んだらしい。

 本人の能力も対人・対獣に強く、一対一なら勝てる相手は居ないだろう。


 「父ちゃんは凄いんだぞ!」

 ジェシカのボキャブラリーが退化した。


 もし戦えば、噂のボガーダンの獣でも、簡単に退治するだろう。と、思われていた。


 「オマリー様でも勝てなかったの?」

 ルーナが心配そうに見つめる。


 「それがね…現れなかったらしいの」

 「現れない?」


 現れたと噂を聞いて、オマリーが駆けつけると、獣は必ず姿を消していた。


 「餌や罠を仕掛けても無駄だったらしいわ」


 わざと目立つ様に馬に乗って、被害地域周辺を走り回った事もあった。

 過去にボガーダンの獣に襲われて、這々(ほうほう)(てい)で逃げ帰り助かった旅人を説得し、一緒に彼が襲われた地域を馬で走った事もあった。


 何故か、オマリーが同行していると姿を現さない。


 その噂が広まって、この頃は地域の護衛役として、通り抜けたい人達に付き添って移動する事ばかりしていた。と、言っていたそうだ。


 通る人は襲われなくなったが、元々の依頼が全く達成出来なかった。

 オマリーは、いつまで経っても帰れなくて困り果てていた。


 「それで、ホウエン様は私の案を逆に利用して、私達を此処に派遣したのね」

 クラウディアがため息をついた。


 「凄い、凄いわ!

 貴女達はこんな危険な事を解決していたのね!

 皆を陰ながら助けていたのね!」

 マリアンヌが興奮しだした。


 クラウディアがマリアンヌを睨め付ける。

 「分かってると思うけれど、この事吹聴したら消されるからね」と注意した。


 「私なんて、元から逃れる選択肢すらないのに…。

 デミ…助けて…」

 ヴァネッサはベッドにうつ伏せになりながら嘆いた。


 「デミトリクスも仲間よ?…分かってると思うけれど」

 ルーナがヴァネッサの頭を撫でながら、彼女にとどめを刺した。


 「どうせ死ぬならデミに抱き締められながら死にたい…」

 ヴァネッサは、とうとう啜り泣き出した。


 「死ぬだの、消されるだの、あまりヴァネッサを怖がらせないでくれないかしら?

 私達は無差別殺人鬼集団じゃないのよ?」

 アルドレダが呆れた様に、クラウディア達を見る。


 「確かに『無差別』ではないけどね…。

 でも、今回みたいな荒事ばかり回されるから、私達の評判はどんどん悪くなるのよね〜」

 ジェシカが、私は本当はお淑やかな令嬢なのに〜と、心にも無い事を言う。


 「ああ…そうそう、今回の依頼は荒事じゃないわ。一応ね」

 アルドレダは、依頼は獣退治じゃないから。と言う。

 「依頼は『どうにかしてボガーダンの獣を誘い出せ』よ。

 知恵を出して貰う事なの。」

 そう言って、クラウディアを見た。



 

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